グッドレスキュー24 泉良直 | アプリで店舗運営のDX化を実現。さらに事業を成長させIPOを目指す

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年09月に行われた取材時点のものです。

起業して約30年、深刻なトラブルもあったが追い込まれた時こそチャンスだった

人手不足など飲食店を取り巻く環境が変化する中、店舗運営でもDX(デジタルトランスフォーメーション:デジタルを活用した革新)が急務となっています。

こうした中、店舗設備のトラブル・修繕対応を効率化できるサービスとして注目されるのが「グッドレスキュー24」です。アプリで簡単にトラブル報告・修繕依頼ができるというコンセプトや操作性が高く評価され、2020年にグッドデザイン賞を受賞しました。

この事業を手掛けるグッドレスキュー24株式会社を創業し、現在も代表取締役を務めるのが泉良直さんです。社長業の傍らミュージシャンとしても活躍、さらに30代で大学に入学・卒業したという経歴をお持ちの泉さん。今回は起業の経緯や転機となった出来事、今後の展望などをお聞きしました。

泉 良直(いずみ よしなお)
グッドレスキュー24株式会社 代表取締役会長
1969年生まれ、静岡県浜松市出身。1987年、18歳でミュージシャンを夢見て上京。音楽活動の資金を得るため1993年に物流業で独立、わずか4年で年商1億円を達成。音楽活動と並行して、アウトソーシングやモバイルコンテンツ開発、コンサルティングなど事業を拡大する。また社長業の傍ら東洋大学法学部へ入学、2007年卒業。

現在はグッドレスキュー株式会社の代表取締役会長として、さまざまな事業に取り組む。著書は「時間とお金を生む『小さな社長』のすすめ」(幻冬舎ルネッサンス)。

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23歳で起業した本当の理由は、好きな音楽をする時間が欲しかったから


ー泉さんは23歳という若さで起業されていますね。起業する方の中にはご両親が経営者というケースが多いようですが、いかがでしたか?

:父は独立して運送業をやっていましたが、当時の私は全く関心がなかったんです。高校生の頃は格闘技が好きで、本気でプロボクサーを目指していました。ただ怪我をしてしまい、プロボクサーの道は難しいと言われて諦めました。

ーそこから、ビジネスに進んだんですか?

:実は音楽にのめり込んだんです。結局は音楽をやりたくて、高校を中退して東京へ行っちゃったんですよ。

上京してバンドを結成したら、当時人気だったテレビ番組「いかすバンド天国」からオファーが来て、賞をもらったんです。若かったので、これで完全に天狗になりましたね。バンドで食べていけると思っていました。

ただバンドって、すごくお金かかるんです。とはいえ時間が拘束される仕事では、自分のやりたい音楽は続けにくい。そこで独立しかないと思って、物流の会社を立ち上げました。起業したいというより、自分のやりたいことを続けるための時間を確保したいという想いでした。

ー意外なきっかけですね。実際に起業してみていかがでしたか?

:物流業を始めてみると、結局はサラリーマンと同じような生活と変わらなかったんです。そこで自分の時間を作るには、人を雇用するしかないと気づきました。

人を雇っていくと、社長と言われることも増えてきました。とはいえ当時の私は、社長になれるような知識も経験もまだ積んでいません。特に法律関係ではわからないことも多くて、壁にぶつかることが多かったんです。

それにお付き合いのある他社の社長さんは、立派な大学を出ている方が多くて。そういう方と普通に話せるようになるには、やはり大学を出ておいた方がいいかなと思って、33歳で大学に入りました。

ー社長業をこなしながら、大学に通われたわけですね。その後はビジネスと音楽を並行されていたのでしょうか?

:そうですね。ただ起業したばかりの頃は、音楽より仕事の方が面白くなっていました。当時は1億円稼ぐことが目標だったんですが、起業して4年で年商1億を実現できたんです。

でも目標を達成できたら、また音楽に戻りたくなって。そこからまたバンドを結成して、2010年日経新聞主催の「大人のバンド大賞」に参加したんです。そうしたら東京大会でグランプリ、全国大会では準グランプリをいただきました。それでもう一花咲かせたいと思って、45歳でプロダクションに入り音楽活動を続けました。

そんな感じで、このまま音楽と仕事の両方をやりながら生きていくのかな、と思っていました。

社長として従業員の教育に悩んだ結果、新たな関係性に行き着いた

ーその後、何か転機があったわけですね。

仕事で大きなトラブルがありまして、我々の最も大きなお客様から、解約したいという話が来てしまったんです。こちら側の対応に問題があり、クレームが積み重なって解約に行き着いたような感じでした。

原因は簡単に言うと、私の監督不行き届きです。この時、従業員を使うことの難しさを痛感しました。会社が一番大きい時で30人くらいの従業員を使っていましたが、当時の物流業はいろいろなタイプの方がいて、束ねるのがすごく大変でしたね。頭ごなしに言ってもうまくいかないし、逆に優しくするだけでもダメ。

結局、お互いに本音で話ができていなかったと思うんです。表向きは、従業員は「会社のために頑張ります」と言うし、経営者も「君たちの家族も含めて応援する」と言いますよね。でも実際には、当然ながらどちらも自分の利益がまず先にくるんです。

いろいろ考え、本音の言い合える関係になるためには、お互いが独立しているほうが対等でいいと思うようになったんです。

結果的に、従業員には独立してもらいました。1人のオーナー同士という立場なので、相手のことを考えながら自分の利益も出そうとする。こういう関係性に行きついたんです。もちろん雇用という形ではないので、不安定な要素が出てくることも意識していました。

ーお互いの利益のバランスが取れることが大事ということですね。

:そうですね。お互いの利益について、ガラス張りにしていくことが大事だと思います。やはり見えないと、疑心暗鬼になってしまいますから。

従業員を雇用する場合でも、例えばストックオプションなどを使って自分がどれだけ働いたらどれだけ自分にプラスになるか、利益を明確にしていく必要があると思います。

ー解約したいというお話のあったお客様との関係は、その後どうなったのでしょうか?

:話し合いを重ねた結果、お客様が解約を思い留まってくれました。ここでは、いかにお客様にとってメリットが出るように話せるか、ということを学びましたね。

こちらの想いだけではダメなんです。例えば「いいサービスだから、買ってください」と言うだけでは、相手に響かない。お客様が1番喜ぶことは何かを考え、提案することが必要です。自利利他(※)の精神が必要だと感じました。

※自利利他とは、元々は仏教用語で、「自分の利益(自利)だけではなく他人の利益(利他)も満たすことが理想的な経営である」という考え方。

トラブルで追い込まれたからこそ、今の事業アイデアが生まれた


ーグッドレスキュー24という事業を立ち上げた経緯を伺えますか?

:さきほど得意先から解約のお話があったとお伝えしましたが、その時、かなり追い込まれまして、新しい事業が必要だと感じたんです。そこでいろいろな事業アイデアを出して、その中のひとつが「グッドレスキュー24」です。

ーピンチの時の方が、アイデアが浮かびやすいのかもしれませんね。

:まさにそうです。これから起業する方は、追い込まれた時こそチャンスと思っていただきたいですね。

ーどんなところから事業のヒントを得たのでしょうか?

:当時は飲食店さんへ訪問する機会が多かったんですが、その中で飲食店さんが抱えている課題に気づきました。 飲食店さんって、意外と空調が壊れたままとか厨房機器が壊れたままとか、そういう中で我慢しているケースが多かったんですよね。

あとは飲食店さんの場合、トラブルの発生から解決まですごく手間がかかるんです。例えば現場のアルバイトさんがトラブル報告の電話をしても、オーナーになかなかつながらない。一方でオーナーが電話を折り返しても、店舗ではお客様の対応中で電話に出られない。それにアルバイトさんは時間で入れ替わるので、状況がわかる人がいないケースも多い。つまり、情報がなかなか伝わらないんです。

そこで修繕管理システムがあればいいのではと考え、これが「グッドレスキュー24」につながっています。

「グッドレスキュー24」では、誰でもアプリで簡単にトラブルの報告ができます。その後専門のオペレーターが業者を手配しますので、短時間でスムーズにトラブルが解決できるというサービスです。

ーアプリを開発するにあたって、特にどんな点を意識しましたか?

誰でも簡単に素早く、最短15秒で報告できるという点ですね。質問の答えをタップしていくだけで、トラブル状況を伝えられるようにしました。これは銀行のATMを参考にしているんです。銀行のATMって、誰でも使えるコンピュータの代表ですから。

あとは、トラブルに関する記録を残せるところにも注力しました。通常のトラブル対応って電話のやりとりなので、履歴が残らないんです。あと修理完了報告の書類が来ても、結局丸めて捨てられてしまうことが多いんです。

「グッドレスキュー24」ではあらゆる情報を記録して残せるので、同じトラブルを減らすことができます。例えばトラブルの多い機器は次に買うのをやめようとか。

電話でやりとりする手間を減らせるだけではなく、情報をデジタルで記録できて経営に生かせる。つまり店舗運営のDX化につながるわけです。

ーシンプルな作りかもしれませんが、画期的だったわけですね。

:そうですね。我々はシステム会社という一面もあれば、修繕作業のアウトソーシング会社という一面もあります。そのため、実際に修理などの作業をしてくれる業者さんもかなり集めました。こうした両輪を持っているところは、株主さんからも評価いただいています。

中小企業が大手と勝負するには、いち早く事業をスケールさせることが重要

ー「グッドレスキュー24」という事業において、課題はありましたか?

:他社が似たようなサービスを作ってくるんですよね。実は「グッドレスキュー24」を始める前に別の物流関連システムを作ったことがありまして、この時も他社にそっくりなシステムを作られてしまったことがあったんです。

そういう経験があったので、「グッドレスキュー24」ではかなりの数の特許を取りました。とはいえ、特許に抵触するギリギリのところで、似たものを出してくる。

スケール(※)できていないから、マネーパワーを使われて大手の他社に追い越されてしまう。自分たちで発明したものをいち早くスケールできていない、これが大きな課題だと痛感しました。

※スケールとは、事業を大きくして、より多くの顧客を得て、市場で優位に立つこと。

ースケールするために、現在どんなことに取り組まれているのでしょうか?

:スケールするスピードが出ない1番の理由は、信用が足りないことだと思ったんです。例えばソフトバンクとか楽天がやっているとなれば、話が進みやすいですよね。でもまだ弊社の知名度は高くありません。

この課題を解決するために、VC(ベンチャーキャピタル)さんに支援していただいています。特に外食業界に強いVCさんですと、VCさんのお名前だけで話が進むこともありますから。資金を調達して、どんどんスケールしていけるよう取り組んでいます。

ー営業やマーケティングという面では、いかがですか?

:多くの営業マンを自社で抱えてローラー作戦をとる方法もありますが、弊社の規模では正直難しい。収支が取れるかどうか、未知数なんです。

そこで、販売店方式で進めています。まず外部パートナーがもともと持っている力でサポートしていただき、成功モデルを構築する。そこから内製化につなげていくやり方が現実的かなと思っています。

ただ販売店が多ければいいわけではない、ということも学びました。販売店の登録自体は無料でしたので、一時期はどんどん増えていったんです。とはいえ、当然ながら販売店さんによって向き・不向きがあります。単に物を売ろうとするところは、なかなか売れない。一方で提案型のビジネスが得意な販売店さんだと、売れやすいですね。

1つの事業をしっかり成長させ、その経験を若手起業家へつなぎたい

―今後どのように事業を展開していきたいか、展望を伺えますか?

:「グッドレスキュー24」とあわせて、2023年8月には「グッドカスタマー」というサービスをリリースしました。既存事業と「グッドレスキュー24」「グッドカスタマー」、この3つの軸で、IPOを目指していきたいと思います。といっても、IPOはまだまだ漕ぎ出したばかりですが。

―「グッドカスタマー」というのは、どのようなサービスですか?

:これは、起業家の皆様にも使っていただけるサービスなんですよ。起業された方の中には、電話対応を代行してくれる秘書サービスを使う方も多いのではないでしょうか。ただこうしたサービスを使うと、電話をかける方も受ける方も、伝言ゲームのようにやりとりする必要があります。この煩わしさを改善するためのサービスが、「グッドカスタマー」なんです。

仕組みは「グッドレスキュー24」をベースにしています。「グッドカスタマー」を使えば、問い合わせる方はアプリから問合せしたい内容をタップしていくだけでいいんです。さらに事前に設定した「折り返しまでの時間」を表示することもできるので、よりスムーズなやりとりが可能です。

これは2023年度のIT補助金の対象になりました。今後はこの「グッドカスタマー」の事業も、育てていきたいですね。

―最後に、泉さん自身がこれからやりたいことと、起業家の皆さんへ向けたアドバイスを伺えますか?

:私の場合、最初は音楽をやる時間を作りたいと思って、起業しました。ただそれから約30年会社経営してきた今は、ちゃんとスケールさせた事業を1つ作って、その成功モデルを、若手の皆さんへ教えていきたいというのが夢です。私みたいにあまり遠回りせず、できるだけスムーズに着地できるよう、アドバイスする仕事をしていければと思っています。

起業家の皆さんへお伝えしたいことは、芯をしっかり持って、大事なところはぶれずにいてほしいということですね。起業した後、自分のビジョンがぶれてしまうことって、あるじゃないですか。これをやりたかったのに、だんだんこっちの方が良くなってくるとか。私もそうでした。変わることはいいと思うんですが、完全に軸がずれてしまうのはやはり避けるべきです。

あと起業すると、交流会などで人と会う機会が増えます。本当にいろいろな人が近づいてきます。そういう中で私が唯一付き合わないようにしているのが、頭の高い人。これまでの経験でわかったことですが、頭が高い人は自分の利益だけ考えているのでトラブルになりやすいんです。一つの参考にしていただければと思います。

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(取材協力: グッドレスキュー24株式会社 代表取締役会長 泉 良直
(編集: 創業手帳編集部)



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