差別化戦略とは?競合に埋もれないためのポイント&成功事例を解説
競争が激しい市場で生き残るための戦略

現代のビジネス環境では、同じような商品やサービスがあふれており、ただ市場に参入するだけでは顧客に選ばれるのは難しくなっています。
そこで重要となるのが「差別化戦略」です。
差別化戦略とは、他社にはない独自の強みを打ち出し、顧客に「この商品・サービスを選ぶ理由」を提供するための戦略を指します。
価格競争に巻き込まれず、長期的に安定したポジションを築くためにも、差別化は欠かせない要素です。
この記事では、差別化戦略の基本的な考え方や成功のポイントについてわかりやすく解説していきます。
新たに差別化戦略を取り入れたいと考えている人は、ぜひ参考にしてください。
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この記事の目次
差別化戦略とは?

差別化戦略とは、自社の製品・サービスを競合他社と差別化させ、独自の価値を提供し、競争優位性を高めるための戦略です。
市場にはたくさんの似た商品・サービスがあふれていますが、その中から顧客に選ばれるためには独自の強みを打ち出すことが重要です。
差別化戦略は経営学者であるマイケル・ポーター氏が1980年に提唱した「競争優位の戦略」の1つに数えられます。
競争優位の戦略には差別化戦略だけでなく、以下の戦略も含まれています。
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- コストリーダーシップ戦略:低価格を武器に、業界内で価格の主導権を握る戦略
- 集中戦略:特定の地域・ターゲットなどに経営資源を集中させ、コストリーダーシップまたは差別化を図る戦略
差別化戦略の種類

差別化戦略といっても様々な切り口から、自社の強みに合わせて他社との差別化を図ることができます。代表的な差別化戦略の種類は以下のとおりです。
商品・サービスによる差別化
競合他社の商品・サービスには見られない、オリジナリティあふれる商品をつくり出すことで差別化を図ります。
例えば商品の品質を高め、より良い製品を生み出したり、これまで見たことがないデザインの製品をつくったりするなどです。
ブランドによる差別化
自社のブランドイメージを構築し、顧客から選ばれる存在になる戦略です。
例えば似たサービスでも他のブランドと全く異なる世界観を構築することで、独自性を高めることができます。
ブランドによる差別化では、他のブランドにはない付加価値を提供し続けることで、自社ブランドの価値をさらに高めることも可能です。
顧客体験による差別化
商品やサービスそのもので差別化を図るのが難しい場合、顧客体験による差別化を図ることもできます。
例えば、顧客一人ひとりに合わせて最適なサービスを提供することで、顧客に「また利用したい」「また同じ店で買いたい」と思わせることが可能です。
技術・ノウハウによる差別化
自社独自の技術力や、これまで長年培ってきたノウハウによって差別化することも可能です。
技術やノウハウによる差別化は、競合他社から模倣されにくく、市場の中で優位性を築きやすいでしょう。
社会的価値による差別化
差別化を図る要素として、商品やサービスだけでなく、企業としての姿勢も挙げられます。
例えばSDGsや地域社会に貢献するなど、企業が実施する社会貢献活動(CSR)で差別化を図れば、顧客からの共感や支持を獲得することも可能です。
差別化戦略を実践するメリット

差別化戦略を実践することで、企業はどのようなメリットを得られるのでしょうか。ここで、差別化戦略のメリットを解説します。
価格競争を避けられる
差別化戦略を実践し、独自の強みを打ち出すことができれば、価格競争を回避できるようになります。
競合他社と似たような商品・サービスは、比較されるときに価格を重視して選ぶ人が多いです。
もし他社よりも価格面で負けていれば、いつまで経っても選ばれないことから、価格を下げざるを得ない状況に陥ってしまいます。
差別化戦略で他社と異なる価値を提供できれば、価格ではない要素で選ばれるようになり、競合他社よりも価格を抑える必要もなくなります。
利益率の向上が期待できる
差別化戦略によって価格競争を避けられるだけでなく、独自の強みにニーズがある場合、価格を上げて販売することもできます。
他社の商品・サービスより価格は高くなっても、その分利用する価値が高ければ、顧客も納得した上で購入できます。
価格を上げて販売できれば、利益率の向上も期待できるでしょう。
新規参入を抑制できる
自社が展開する市場に他の企業が新規参入してくるケースも珍しくありません。新規参入が増えてしまうと競合が増えることになるため、できれば抑制したいものです。
差別化戦略を図り、独自性の強い製品・サービスを提供できるようになると、他社の新規参入を抑制することができます。
なぜなら、新規参入を計画している企業は商品の生産コストに加え、既存商品との差別化を図るために追加で費用がかかってしまうためです。
顧客ロイヤルティの向上にもつながる
特定の企業・ブランドに対して愛着や信頼を感じることを、「顧客ロイヤルティ」といいます。
顧客ロイヤルティの向上によって、競合他社が似たような製品・サービスを販売したとしても、顧客は自社の製品・サービスを選ぶようになります。
差別化戦略では独自の価値を提供することで、顧客に大きなインパクトを与えることが可能です。
インパクトで印象を強め、さらに実際に使ってみて高い満足度を感じることができれば、ブランドに対する信頼感は大きくなります。
その結果、顧客ロイヤルティの向上につながるでしょう。
差別化戦略を実践する際のポイント

実際に差別化戦略を図る場合、以下のポイントを押さえることで成果につながりやすくなります。
競合他社と顧客ニーズの徹底調査
差別化戦略を実践する上で、まず取りかかりたいのが競合他社と顧客ニーズの調査です。
例えば、競合他社との差別化を図る上で、そもそも他社の商品・サービスにはどんな価値・強みがあり、どこに弱みがあるのかを把握しておく必要があります。
競合他社を調査する際には、商品・サービスそのものだけでなく、顧客体験に至るまで調査することが大切です。
さらに、顧客ニーズについても徹底的に調査・分析する必要があります。
いくら差別化を図ったとしても、その価値が顧客ニーズとかけ離れていれば、利用してもらえない可能性が高いです。
ペルソナやカスタマージャーニーを作成し、顧客の購買行動・嗜好・価値観まで深く理解することで、新しい価値を見出すことができます。
自社の強みを活かした差別化ポイントの決定
競合他社と顧客ニーズについて調査・分析ができたら、自社の強みを洗い出していきます。
差別化戦略では顧客に対して自社だけができること・魅力などをアピールしていくことになります。
強みは製品・サービス自体の特性だけでなく、例えば「短納期でも迅速に対応できる」「質の高いサポートが受けられる」「幅広い企業からの依頼を受け実績が豊富にある」なども挙げられるでしょう。
自社の強みが洗い出せたら、競合他社や顧客ニーズの調査・分析結果も踏まえて、顧客にとって付加価値を与えられる差別化ポイントを見つけます。
効果測定と改善の仕組みづくり
差別化ポイントから具体的な戦略を策定し、実行に移していきますが、そこで終わりではなく施策による効果を測定し、改善していく仕組みをつくっていく必要があります。
なぜなら顧客ニーズや市場動向は常に変動しているためです。
例えば、顧客にアンケート調査を実施し、フィードバックを収集することで、顧客が求める機能・デザインにブラッシュアップしていくことができます。
差別化戦略に活用できるフレームワーク

差別化戦略を実践する中で、フレームワークを活用することも可能です。ここで、差別化戦略に活用できるフレームワークを紹介します。
STP分析
STP分析とは、自社が市場の中でどの立ち位置にいるのかを把握するためのフレームワークです。
顧客に対して製品・サービスの訴求を図る前に実施することで、利益を出しやすい効果的な市場を特定でき、競争優位性を築くための戦略策定に役立ちます。
STP分析では、以下3つの項目について分析を行います。
・セグメンテーション
類似するニーズや特性を持った顧客セグメントに分け、それぞれのセグメントの有効性を分析します。
・ターゲティング
細分化したセグメントを評価し、自社がどの市場を狙っていくべきなのかを定めます。
・ポジショニング
市場内で競合他社との比較も踏まえながら、自社の立ち位置を決定します。
SWOT分析
SWOT分析とは、自社を取り巻く内部環境・外部環境を分析するためのフレームワークです。以下4つの要素を整理し、どう差別化していくべきか方向性を定めていきます。
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- Strength:強み
- Weakness:弱み
- Opportunities:機会
- Threat:脅威
SWOT分析では、自社の競争力強化や改善点などが見つかりやすいですが、新規事業を立ち上げた際に、潜在的なリスクを探っていくことも可能です。
3C分析
3C分析とは、環境分析を行うためのフレームワークです。以下3つの要素を分析し、市場動向や顧客ニーズ、自社と競合の強み・弱みをそれぞれ見つけ出すことができます。
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- Customer(顧客・市場):顧客ニーズ、顧客の消費行動、市場規模など
- Competitor(競合):競合のシェア率、業界内でのポジション、想定される動向など
- Company(自社):理念・ビジョン、強み、自社の現状、リソースなど
外部要因(顧客・市場と競合)と内部要因(自社)を分析することで、差別化できるポイントを知ることができます。
VRIO分析
VRIO分析は、自社の経営資源が競合に対してどれだけ優位性を持っているのかを分析するためのフレームワークです。以下4つの要素から経営資源を評価します。
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- Value(経済的価値)
- Rarity(希少性)
- Inimitability(模倣困難性)
- Organization(組織)
VRIO分析を実施することで、自社と競合の差別化を言語化・構造化がしやすくなります。
特に競合と似たリソースを持っていると感じる場合でも、VRIO分析を行ったことで活用方法や組織体制などで違いを見出すことが可能です。
差別化戦略が成功した企業事例

差別化戦略によって成功した企業では、どのような戦略を立てて実践していったのでしょうか。ここで、差別化戦略が成功した企業事例を紹介します。
株式会社モスバーガー
株式会社モスバーガーは、ファストフード業界内でも独自のポジションを獲得し、差別化に成功している企業です。
モスバーガーでは食材の品質にこだわり、地元産の新鮮な食材を積極的に取り入れています。
また、ファストフードに対して健康的なイメージを持たない人もいるでしょう。
しかし、モスバーガーでは新鮮な食材に加え、なるべく添加物を最小限に抑える取り組みも行っています。
そのため、ファストフード業界の中でも健康的なイメージを持たれる人が少なくありません。
さらに、モスバーガーは日本発のファストフード店ということもあり、日本人の味覚に合わせた独自の商品開発で差別化も図っています。
例えば日本の代表的なバーガーとして知られる「テリヤキバーガー」は、元々モスバーガーで誕生したメニューです。
1973年から現在に至るまで販売されているロングセラー商品となっています。
Apple Inc.
iPhoneやiPad、Macなどのデジタル端末を中心に手がけるAppleでは、独自のブランド戦略によって他社製品との差別化を図ってきました。
例えばiPhoneなどの製品は徹底して統一したデザインを実現しており、洗練された印象をもたらしてくれています。
また、Apple製品はAndroidに比べて価格が高めに設定されていますが、あえて高価にすることでステータスの象徴にもなり得ています。
高価格帯で製品を提供できるのも、独自のデザインやブランドロイヤルティを長年かけて築き上げてきた成果といえるでしょう。
株式会社ワークマン
現場作業服や関連用品などを手がけるワークマンは、現場作業服の機能を他に活かすことを考え、アウトドアやスポーツ市場に目を向けました。
アウトドアやスポーツ市場には、すでに多くの国内外ブランドが存在していました。
しかし、細かく市場分析を行っていった結果、どのブランドも高機能ではあるものの価格も高いことがわかったのです。
そこでワークマンは高機能かつ低価格の商品を開発・販売した結果、競争優位性が高まり、プライベートブランド(PB)商品の売上高は2025年3月時点で約1,252億円を達成しています。
株式会社キーエンス
センサーや測定器といった制御機器を取り扱うBtoBメーカーのキーエンスは、営業利益率40~50%超という驚異的な数字を持つ企業です。
この営業利益率を実現できている背景には、価格競争に頼らない戦略があるとされています。
例えば1つの革新的な製品が販売されると、競合他社も似たような製品を開発してきます。
似たような製品が増えると競争率が高まり、商品の価格競争に発展してしまいますが、キーエンスでは早い段階で該当製品の販売を終了し、付加価値の高い商品だけをラインアップに残す方針です。
価格競争で勝負せず、新たな付加価値の高い商品を開発し続けられるのは、コンサルティング営業によるものといわれています。
コンサルティング営業が製造現場で共通するニーズを探り、顧客もまだ気づいていないような潜在的課題の解決を目指しているため、付加価値の高い製品をつくり出すことができています。
まとめ・自社の強みとニーズを把握して競合との差別化を図ろう
差別化戦略は、競合にはない自社ならではの強みを打ち出し、顧客に選ばれる理由を明確にするための重要な戦略です。
価格だけで勝負するのではなく、品質・デザイン・サービス・ブランドイメージなど多様な切り口から差別化を図ることで、長期的に安定した競争力を築くことができます。
競争が激しい市場で生き残るためにも、自社らしさを活かした差別化戦略を積極的に取り入れていきましょう。
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(編集:創業手帳編集部)






