日本政府の目指す2025年までに現在の2倍のキャッシュレス化へ Visa安渕社長が見つめる「デジタル決済」の未来
ビザ・ワールドワイド・ジャパン 代表取締役社長 安渕 聖司インタビュー(前編)
(2019/01/07更新)
日本にキャッシュレス社会を普及させるために、世界規模の事業展開をしている、ビザ・ワールドワイド・ジャパン株式会社。その代表取締役社長である安渕聖司氏は、「日本政府の目指すキャッシュレス決済比率を2025年までに40%に増やす」という目標達成に貢献するため、国や民間などと協力し合い、様々な取り組み・支援活動をおこなっています。
今回は、これからのキャッシュレス化の見通しやテクノロジーの可能性について、創業手帳 代表の大久保が伺いました。
1979年三菱商事入社。1999年、米投資ファンド、リップルウッドの日本法人立ち上げに参画。2001年、UBS証券入社。2006年、GEコマーシャル・ファイナンス・アジアに上級副社長として入社。2007年、GEコマーシャル・ファイナンス・ジャパン社長兼CEOに就任。2009年、GEキャピタル社長兼CEOに就任。2010年、組織改編により日本GE代表取締役、GEキャピタル社長兼CEOに就任。2016年の事業売却により三井住友ファイナンス&リースの傘下に入り、SMFLキャピタル代表取締役社長兼務CEOに就任。2017年4月より、ビザ・ワールドワイド・ジャパン株式会社 代表取締役に就任。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社の母子手帳、創業手帳を考案。2014年にビズシード社(現:創業手帳)創業。ユニークなビジネスモデルを成功させ、累計100万部を超える。内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学、官公庁などでの講義も600回以上行っている。
キャッシュレス社会をつくる3つのポイント
安渕:経済産業省の「キャッシュレス・ビジョン」で2025年までにキャッシュレス決済の比率を、現在のほぼ倍である40%に増やす目標が掲げられています。
キャッシュレスが進めば、例えばレストランは閉店後に売り上げを計算して現金と照合する必要もないわけです。それに、今は大手銀行がATMを減らそうという流れになってきています。ATMを維持するにも、現金を移送するにも、コストがかかりますからね。
安渕:そうですね。安全性の問題も指摘されていますが、特に若い世代はお札や硬貨に汚いイメージをもっている人が多いですね。
安渕:消費者向けに「なぜ現金を使うのか」というアンケートを実施したことがあります。すると、アンケート結果から3つの理由がわかりました。
- 利便性:現金のほうがどこでも引き出せて便利
- 安心性:クレジットカードはセキュリティーが心配
- 透明性:クレジットカードは知らない間に使い過ぎてしまいそう
1の利便性について、現金よりもキャッシュレスが普及するためには、クレジットカードやデビットカード、プリペイドカードといった決済方法が現金以上に便利になる必要性があります。
例えば、タッチ決済。非接触カードであれば、お店のレジの機器にかざすだけでピッと決済ができます。日本にも以前からSuicaによる電子カード決済がありますが、海外の方が持っているのはSuicaとは違うグローバル基準の“非接触”のカードです。
海外から訪日する外国人は、2020年には4千万人になると予測されています。そうした訪日外国人たちの国の多くでは非接触決済が進んでいるため、日本でいまよりタッチ決済のカード及び端末を普及させることが課題です。
2の安心性については、セキュリティー面でのトラブルを解決できる“トークン”という技術があります。トークンを利用することで、既存の16桁のカード番号を別の16桁に読み替えて送信することができます。ECサイト専用に番号を持ったり、特定の店舗向けに番号を持つこともできるので、用途は様々です。
親カードから子カードを出すようなイメージで、親カードよりも支払い回数や期限を短くすることもできますし、万が一カード情報が漏えいしても、そのカードさえ解約してしまえば親カードには影響がないわけです。
安渕:そうですね。たとえばGarmin Pay(ガーミンペイ)という非接触決済サービスでは、腕時計もあるのですがこれもカード番号そのものはここには入っていないんですね。
3の透明性についてですが、Visaデビットカードでは使用後すぐにメールがきます。使った額や口座残高をすぐに確認できるので、安心かつ大変便利です。家計簿みたいに予算管理ができるため、“見える化”されていて安心です。
このように、「便利」で「安心」で「見える化」、という3つを実現すればキャッシュレス化も進んでいくと思っています。
キャッシュレス化で国のGDP(※1)も上がる?
※1
GDP:Gross Domestic Product(国内総生産)の略。一定期間(主に1年間)に生み出された付加価値の総額のこと。GDPの伸び率が経済成長率に値する。
安渕:日本の消費者支出を考えると300兆円くらい、法人支出は900兆円くらいになります。法人支出の割合が非常に大きいのに、起業したばかりだとなかなか大きなクレジットの枠がつかないことが問題です。
デビッドカードだと審査がいらないですし、複数枚作れるため、色々な仕入れも可能です。現在の法人カードの浸透率は3割ちょっとですが、今後はもっと増えていくでしょう。
安渕:現金の場合は、それぞれのレシートを保管しておかないと支出がわかりません。それに、保管の手間もかかります。デビットカードは使った場所と日時もメールで送信されるため把握しやすいですし、自分の消費パターンもわかってきます。
というのも、キャッシュレス化すれば企業も脱税が難しくなりますよね。すると、税金の徴収率が上がりますし、社会全体のコストも下がるのではないかと思うからです。
安渕:そうですね。それに、今はネットで商品を買うことも簡単にできます。高齢者の方などは特に、重いものを家に持ち帰るのは大変です。でもネットで購入すれば配達だってしてもらえる。
つまり、クレジットやデビットカードなどの支払い手段があったほうが暮らしやすいわけです。それに、キャッシュレス化によって社会全体のコストが下がれば、GDPは上がると考えています。
Visaがつくるキャッシュレスの未来
安渕:デジタル決済の普及と並行して、自分たちがイノベーションを起こしていかねばならないと思っています。そのためにも、フィンテック(金融(Finance)と情報技術(Technology)を融合して新しいサービスを創出すること)企業のみなさんと協業しようと、最近「Visa Everywhere Initiative」といったビジネスコンテストをおこない、プロジェクトを進めているところです。
アイデアを持っている人たちがイチからインフラをつくると時間や手間がかかりますが、Visaのような既にグローバルな決済のインフラを持っている企業と協業することで、それが実現しやすくなります。
安渕:いいアイデアがあると、100万人の人が集まるかもしれない。その人たちと我々がタッグを組めば、より素晴らしいビジネスやサービスを創出できますからね。
安渕:カードには、物理的なプラスチックの場合と、モバイルにカード情報が入ったデジタル・アカウントの場合があります。アカウントさえあれば、デジタルの世界ではスムーズに商品を売買できるわけですから、モバイル・デビットやモバイル・クレジットというサービスも同時にやっていこうなんて話も出ています。ですから、必ずしも物理的なカードでなくても大丈夫なのです。
現在は、他人同士が社会で結びついて暮らしていく時代です。見知らぬ人から商品を買うには、何らかの“信用補完機能”が必要になるため、その手段の一つがクレジットカードだったわけです。しかし、今後はさらに消費者の便利性だとか安全性が追求されるので、デビットカードがより普及する流れになっていきます。
(取材協力:ビザ・ワールドワイド・ジャパン株式会社 代表取締役 安渕 聖司)
(編集:創業手帳編集部)