「地方でのビジネスってどんなものがある?」 実際の事例から考える傾向と課題
地域密着型経営コンサルタントが解説します
(2018/06/18更新)
自分がやりたい事業が見つかったとしても、それを実現させるためには様々な課題が多いのが、スタートアップの世界。近年、東京などの大都市ではITを活用した事業で上場を目指しているスタートアップが多い印象ですが、それに対して、地方ではどのような事業を始めようとして、どのようなことに課題を感じている起業家が多いのでしょうか?
今回は、岡山県で経営コンサルタントとして活動している善木 誠氏に、実際にあった事例をもとに、岡山県での起業事情とその課題・解決策を解説していただきました。
この記事の目次
特に多いのは「地域課題解決型」と「副業から発展した事業」
私は普段、岡山県で経営コンサルタントとして活動しており、起業家の方々から創業相談を受けています。
近年、大都市圏ではITを活用したサービス・商品を展開しているスタートアップが上場を目指しているケースが増加している印象がありますが、岡山県での起業家の相談内容は、小規模で行うビジネス、いわゆる「スモールビジネス」と呼ばれるものが多いです。その中でも、特に多いのは「地域課題解決型」と「副業から発展した事業」の2種類です。
地域課題解決型事業とは
「地域課題解決型事業」とは、高齢者福祉や子育て支援、地域活性化やボランティア活動など様々な社会的課題解決を目的に行う事業のことです。「ソーシャルビジネス」とも呼ばれています。
この「地域課題解決型事業」ですが、岡山県では支援窓口が少なく、相談先がなかなか見つからないとのことで、起業家は私のところに相談に来る場合が多いです。
ケース1:地域づくりNPO法人ボランティアからの脱出で新会社設立
「NPO法人(非営利活動法人)では、利益を出したらいけないのでは?」という考えがあり、活動において個人の支出が多く限界がきていたというAさん。
そこで、地域資源(観光産業)をビジネスにした会社を起業したいと考えたのですが、NPO法人との関係をどのようにすれば良いか?という相談でした。
アドバイス:NPO法人でも利益は出してOK!
まず、AさんはNPO法人について誤解していました。よく勘違いされるのですが、NPO法人は「利益を分配してはいけない」のであって、利益は出しても構いません。つまり、活動費として使うこと限定ですが、利益は出しても良いのです。
また、NPO法人でも事業が出来ますので、営利法人を作る必要はありません。「他の法人で事業を行なったほうが利益が出る」という確証がない限りは、別の法人を作る必要はないと思います。
この場合はNPO法人の運営を見直し、必要な事業かどうかを法人内で考えてしっかり結論を出したほうが良いです。
その結果、もし会社(営利法人)にして地域資源で収益が上がると判断したなら、NPO法人を解散して資産を会社に集中すべきとアドバイスしました。
ケース2:英会話クラブの事業化
会社員をしながらボランティア団体で英会話クラブを8年ほど運営しているBさん。定年まであと数年だったのですが、思い切って退職して英会話クラブを発展させた事業を行いたい、という方でした。
主な事業としては、会社にして英語会話スクールの運営、国際交流パーティ等のイベントなどをやっていきたいのですが、どの様に事業化を進めたら良いか教えて欲しい、という相談でした。
アドバイス:事業化までの準備としてNPO法人の設立もアリ
会社を作るのは簡単ですが、課題となるのは「事業の継続」です。Bさんの場合は、以下のことに気をつけて事業計画を練るようにアドバイスしました。
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- 他の英会話スクールと差別化するため、自身の英会話スクールの特色を考える
- 対象者が英会話クラブの参加者だったら、英会話スクールにしたら料金設定が課題。自身やスタッフの人件費を鑑みると、料金は現状より上がるので、それでもニーズがあるかどうかを考える
- 国際交流パーティ等のイベントを開催する場合、収益性が課題。単発イベントでは収益が限られるので、継続的に集客できるイベントを企画できるかどうかが重要
今回のような場合ですと、もし可能なら定年まで勤めてその間に事業化の準備として現在運営している英会話教室をNPO法人にするのが良いのではないかと思います。
先ほどもお話した通り、NPO法人でも営利事業はできます。会費収入が見込めて、会員に運営を手伝って貰えやすいし、国際交流の活動も行うことができるので、団体として地位を固めることが可能だからです。
例えば、英会話クラブ参加者を会員として会費をいただき、組織運営をしていく。国際交流パーティ等の事業も並行して行うことで、運営ノウハウを貯めていく、といった活動ができます。
そういった感じで順調に事業ができるようになったら、NPO法人から株式会社へ変更するほうがスムーズかと思います。
女性起業家の場合は「副業から発展したビジネス」が多い
近年増加傾向にある女性起業家の方からも、相談を受けることがあります。私が経営コンサルタントとして活動している岡山県では、女性の起業はエステやネイルなど、趣味や興味から始まる副業から発展したビジネスの方が多い印象です。
ケース3:ホームエステサロンの展開
在宅でエステサロンを副業として行っているCさん。本格的にホームエステサロンを開業したいので、事業の進め方と資金調達等のアドバイスが欲しい、と相談に来ました。
現在のエステサロンは、家事の合間に自宅で行うマッサージと並行して、「内側からの美容も促進できるように」と健康食品の販売も行なっているそうです。知人とその紹介者を対象にしたものでしたが、評判が良く、口コミで色々な方から予約や問い合わせがあるので、本格的なサロンとして開業したいとのことでした。
開業後は、エステの指導と化粧品(ハンドクリーム等)や健康食品卸のみを行い、子育て中や障害児・介護等、働きに出ることができない女性の副業としてのホームエステサロンの開業サポート事業を行いたい、というふうに考えていました。
アドバイス:スモールスタートを心がけて、徐々に事業を拡大していこう!
女性は美容には興味を持っている方が多いので、有望なビジネスになりそうな印象です。資金調達の分野では日本政策金融公庫から借り入れ、クラウドファンディングが考えられますが、まずは事業計画書の作成が必要です。
借り入れするには自己資金が必要ですし、クラウドファンディングでは資金が集まるかどうかわかりません。事業を始める際には少ない資金から始められるように、いわゆる「スモールスタート」を心がけるようにしましょう。
また、現在の経営状況にもよりますが、まずは個人事業主として開業をされることから始めたほうがいいと思います。
ホームエステの開業希望者がいたとしても、自身のエステの技術が他の人もできるとは限りませんし、経営も同じです。しっかりした運営システムの構築が必要です。まずは自分の店を順調に発展させてから、開業希望者がスムーズに事業を始められるような運営システム・マニュアルなどを整備する必要があります。
ご自身のホームエステサロンの事業を確定されてから、開業サポート事業に移る、という流れにしたほうがいいでしょう。
ちなみに、エステサロンを展開する際には、フランチャイズにするという展開方法もあります。今後を考えて、いろいろなビジネスモデルを勉強していく必要もありますね。
ケース4:筆跡鑑定士として独立
「現在はパートの仕事をしているが、筆跡鑑定士の資格を取ったので、筆跡鑑定を仕事として独立したい。どのようにすれば仕事が取れるでしょうか?」と相談に来られたDさん。
ちなみに、筆跡鑑定士が活躍する場面としましては、例えば、海外では社員を雇用する際や、昇進や転勤時の適正判断などです。筆跡でどの部署・仕事が向いているかを判断することができる、ということですね。
アドバイス:マーケティングする際は、ターゲットを明確に!
マーケティングを勉強されて、自身のブランド化を図るのが良いでしょう。
例えば、筆跡鑑定の認知を広げるために、イベントに参加してPRしていく、SNSでイベント告知をするなどが挙げられると思います。
もちろん、ターゲットを明確にする必要もあります。筆跡鑑定を企業の人事施策に導入したいのであれば、企業向けにセミナーを行っている会社や人材派遣会社との提携を図るなども考えてみてください。
資格を取るだけでは、なかなかビジネスにはなりません、地道に知名度アップの施策を継続することが重要です。
番外編 地方で行う国際化ビジネス
まだまだ件数は少ないですが、海外技能実習生・留学生と海外人材交流など、国際化に関する相談もあります。地方でもビジネスの国際化が進んでいると言えるかもしれませんね。
ケース5:IT活用で外国人技能実習生制度の効率化
在日中国人で自身も外国人技能実習生として来日後、技能実習生派遣組合でマネージャーとして勤務していたEさん。その経験から「ITの力を活用すれば外国人技能実習制度の効率化ができるのでは?」と考え、その事業内容を相談しに来られました。
「外国人技能実習制度」とは、外国人の労働者を一定期間日本国内で技能実習生として雇用し、さまざまな分野の技能を修得してもらおうとする制度のことです。
システムの骨格はできているので、資金が足りないので資金調達方法を教えて欲しい、という内容でした。
アドバイス:現在の制度の中でできる仕組みを構築しよう!
このケースで最初に提案したのが、岡山県が行っているベンチャーマッチング(ベンチャー企業が投資家へ行うプレゼン会)への参加でした。
ただ、外国人技能実習生制度は、技能実習生の労働状態など様々な問題点があり、政府の規制を強化しています。制度の変更で事業が出来なくなるリスクもあるように思いますので、投資をしてくれるかはわかりません。
現在の制度の中でできる仕組みを構築して、できることが固まったら事業拡大する方向で検討することをオススメしました。
既存の外国人技能実習生受入組合の中で、スカイプなどを活用して実習希望者とのマッチングシステムを運用してみて、組合の業績をアップさせてから、他の組合にも導入していく、といった段階的に拡大していく手段もあります。
このケースに限ったことではありませんが、一度に大きな出資してもらう方法だけでなく、段階的に考えて融資計画を立てる方法も検討していくと良いこともあります。
ケース2:ネパールからの留学生紹介又は技能実習生受入事業をしたい
在日ネパール人のFさん。親族がネパールで日本語学校を経営しているので、岡山県内の大学への留学生紹介や技能実習生を紹介する仕事をしたい。どのように事業を進めていけばいいのか教えて欲しい、という相談でした。
アドバイス:まずは手続きの把握と協力者の確保から!
留学生が日本の大学で学ぶには、日本語検定2級以上の知識が必要です。現地の日本語学校で2級に合格できていなければ、日本の日本語学校に入学するか大学の別科(日本語科)に入学してから本科に進学する流れになります。
そのため、現状は日本語学校か大学が、海外の日本語学校経由で受け入れています。
ちなみに、日本と海外の学校を仲介する業者も存在するとは聞いていますが、個人の副業のようです。事業をするなら、日本語学校の設立を考えるべきです。
また、技能実習生の受け入れには、数社の企業と一緒に事業協同組合を設立する必要がありますので、組合の設立についてはかなりの時間がかかります。
そのうえ、外国人技能実習生事業を行うには、監理団体許可を受けておくことが必要です。
さらに、技能実習生ごとに技能実習計画を作成し、その技能実習計画が適当である旨の認定を受ける必要もあるなど、複数の手続きが必要になります。
技能実習生を受け入れるにあたっては、入国管理局へ技能実習生それぞれの在留資格の手続きも必要です。
海外人材を日本に入れる事は相当な時間と費用が掛かりますので、簡単に考えずに資金と協力者を準備してから実行することをオススメしました。
まとめ
今回は実際にあった事例をもとに、その課題と解決策を解説してみました。
様々な事業を紹介しましたが、ご自身がやっている事業の状況と照らし合わせてみると、フィットする解決策があるかもしれません。よかったら参考にしてみてくださいね。
(監修:株式会社スコーレメディア代表取締役 善木 誠(ゼンキ マコト))
(編集:創業手帳編集部)