法人と個人事業主の決算書の違いとは?青色申告との比較でわかるポイントを解説

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法人と個人事業主で決算書の目的と形式は大きく異なる


同じ決算書であっても法人と個人では違います。法人は会社としての財務状況を明確に示すため、会計基準に沿った厳格な決算書を作成しなければいけません。
一方で、個人事業主の決算書は、所得税申告を目的とした簡易的な形式で作成できます。
個人事業主であっても青色申告を選択すれば、法人に近い形式の帳簿管理が求められます。今後の法人化準備に備えて決算書の違いを知っておいてください。

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法人と個人事業主で「決算書」は何が違う?


決算書とは、一会計期間の事業の経営成績と財政書類を示す書類の総称です。決算書類は確定申告のために作成するほか、金融機関や株主への報告に使われています。
事業の形態によって、作成すべき決算書の種類や提出先、内容が大きく異なります。法人と個人事業主の決算書について、まずはそれぞれの全体像をつかんでください。

法人:会社としての「財務諸表」を作成

法人は損益計算書や貸借対照表などの財務諸表を作成し、法人税の申告書類として税務署に提出します。
財務諸表の中で貸借対照表と損益計算書、キャッシュフロー計算書を併せた呼び名が財務諸表です。
財務諸表は会社法や法人税法の会計基準に従う必要があり、形式や計上基準が厳格に定められています。

加えて株式会社などでは、決算公告の義務や株主・取締役会への報告義務が発生するので、より多くの書類が求められます。

個人事業主:税務申告のための「青色申告決算書」または「収支内訳書」を作成

個人事業主は所得税の確定申告時に、青色申告決算書または収支内訳書を税務署へ提出してください。

確定申告申告は、青色申告と白色申告から選択でき、青色申告では青色申告特別控除などの税制優遇が利用できます。
青色申告と白色申告は確定申告書は同じ用紙です。しかし、青色申告と同時に提出する書類が異なります。

青色申告を選択した場合は、青色申告決算書を提出します。貸借対照表と損益計算書で構成されていて、法人に近い財務把握が可能です。
青色申告であっても提出先は税務署のみであり、法人のように外部へ公表する義務はありません。

白色申告で確定申告する場合には収支内訳書を提出します。簡易な方法で記帳した帳簿をもとにして売上や経費を集計記載すれば記載は完了です。
青色申告よりもより各項目が少なく簡単に作成できます。

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【法人と個人事業主】決算書の主な違いを比較


法人の決算書は「損益計算書・貸借対照表・株主資本等変動計算書」などで構成され、会社の経営成績を示します。
一方で個人事業主の青色申告決算書は「損益計算書・貸借対照表」を簡略化した形式で、所得税申告が目的です。
加えて法人は会社法・法人税法、個人は所得税法に基づく点が大きく異なり、法的根拠が異なります。それぞれの主な違いを以下でまとめました。

項目 法人(決算書) 個人事業主(青色申告決算書)
目的 法人税申告・株主報告 所得税申告
書類名 損益計算書・貸借対照表など 青色申告決算書(4ページ構成)
内容 売上・費用・利益、資産・負債・純資産 売上・経費・所得、資産・負債(簡略)
会計基準 会社法・法人税法に準拠 所得税法に基づく
提出先 税務署・株主など 税務署のみ
公表義務 あり(株式会社など) なし

法人と個人事業主の決算書には、目的・構成・会計基準などが明確に違います。以下で主な違いを確認してください。

作成目的の違い

法人の決算書と個人事業主の決算書は、そもそも作成する目的が違います。
法人の決算書は法人税申告だけでなく、株主や取締役会への報告など外部利用も目的として作成されます。

個人事業主の青色申告決算書は所得税申告を目的としており、税務署への提出以外の外部利用は基本的にありません。
それぞれの目的の違いによって、項目や書式、会計処理の厳格さが法人と個人で大きく異なります。

提出書類の違い

法人の場合、会社法に基づいて決算書類の規定が置かれています。
法人は、損益計算書と貸借対照表、株主資本等変動計算書などを作成し、会計全体を包括的に報告してください。

一方で個人事業主は、青色申告であれば青色申告決算書、白色申告であれば収支内訳書を提出します。これらの書類は、所得税計算に必要な項目を中心にまとめたものです。
法人決算書では企業活動全体を可視化するのに対し、個人決算書は課税所得算出を目的としている点が大きな違いです。

会計処理・提出義務の違い

法人は会計帳簿の保存や決算公告など、法的に義務づけられた会計処理・開示義務があります。
しかし、個人事業主は帳簿保存期間が7年と定められはいるものの、税務署提出以外の公的報告義務は発生しません。

法人は会計監査を受ける場合もあるが、個人事業主は自主的な記帳・提出で完結する点が異なります。

記載項目の違い

法人の決算書と個人事業主の決算書では、記載する項目にも違いがあります。どういった違いがあるのか以下で確認してください。

売上・収益項目

法人決算書では売上高や営業外収益など複数の収益項目を詳細に記載しなければいけません
その利益が経常性がある本業から出たものなのか、そうでないのかなどもわかるように利益を5種類に分類しています。

一方で、個人事業主の青色申告決算書では、事業所得として売上を合算して簡易的に記載するのが一般的です。
利益の分類もなく所得税を納めるための利益を計算するような形式です。

法人では売上区分の詳細が経営分析や株主報告に直結します。個人事業主よりも正確な計上が求められるため、収益項目の記載方法にも違いがあります。

費用・経費項目

法人決算書では費用についても販管費・減価償却費・営業外費用など、費用の種類ごとに分けて記載しなければいけません。

一方で、個人事業主は経費項目をまとめて計上する形式で、科目数は法人より少なく簡略化されています。
法人でも個人でも、売上から費用を差し引いて収益を計算します。
しかし、費用の計上方法の違いにより、利益計算や所得税・法人税の算出方法が変わる点に注意しなければいけません。

法人では、売上高から売上原価を差し引いて売上総利益を算出し、売上総利益から販管費を差し引いて営業利益を求めるので、費用は正確に区分するように求められます。

資産・負債項目

法人決算書では流動資産・固定資産・流動負債・固定負債を分けて詳細に記載します。これは、資産の換金しやすさや保有期間が基準です。
区分して記載することによって、資金繰りの安定性や経営状態を判断しています。

一方で、個人事業主の青色申告決算書では、主要な資産や負債のみ簡略化して計上するのが一般的です。
法人は資産や負債の内訳が財務分析や融資判断に直結するため、詳細な記載が求められています。

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青色申告決算書を法人決算書に近づけるべき理由


青色申告決算書は、法人決算書と比較して求められる精度や内容に違いがあります。
青色申告決算書のほうが、法人決算書と比較した時に手間が少なくて簡便に感じるかもしれません。

しかし、青色申告決算書も法人決算書のように詳細に記載することには様々なメリットがあります。
青色申告の帳簿づけの精度を上げることで財務管理や融資対応がスムーズにできるのです。
さらに法人化を見据える人にとって、青色申告は「予行演習」ともいえます。青色申告決算書を法人決算書に近づけるべき理由をまとめました。

財務情報の信頼性が高まる

青色申告決算書を正確に作成できれば、事業の収支や資産状況を法人基準に近い形で把握できるようになります。
正確に財務情報を把握しておけば税務署からの信頼性が高まって、税務調査への対応もスムーズになります。

また、財務情報が正確な決算書は、銀行や取引先への財務説明に利用可能です。
事業成長を続けるには、資金調達や新規事業で新しい金融機関や取引先を増やしていくなど外部の力が必要になります。
さらに事業が大きくなるにつれて税理士や公認会計士といった専門家の力も借りる必要も出てくるはずです。

法人の会計基準に則した決算書のほうが専門家も分析とアドバイスがしやすくなります。外部から見た事業の信用力を向上させるために正確な財務情報が必要です。

法人への移行がスムーズになる

個人事業主として事業規模が大きくなり、一定以上の所得になれば税制面の理由で法人化が検討されます。
法人化によって節税しやすくなるほか、信頼を獲得して事業を拡大するために有利になることがあります。

法人化を予定している場合、青色申告決算書を法人決算書に近づけると移行時の会計作業を軽減可能です。
青色申告決算書では、複式簿記で記帳して貸借対照表と損益計算書を添付します。
法人になる前から複式簿記や貸借対照表の作成に慣れておくことで、法人化後の決算業務が効率的に進められます。

また、事業と途中で記帳の方式が変わると会計の連続性が保たれません。
前もって法人決算書に則した決算書を使っていれば、法人化してからも過去の記帳データをそのまま活用できます。

法人設立には、会計以外にも多くの手続きが必要です。会計や決算書類を前もって移行しておけば、法人設立初期の財務整理の手間を削減できます

経営判断の精度が高まる

法人決算書は、キャッシュフロー計算書や記帳方法など、より詳細な財務諸表を含んでいます。
個人事業主でも法人決算書に近い形式で青色申告決算書を作成すると、利益や資産状況を正確に把握可能です。

詳細な財務データがあれば、設備投資や人件費などの経営判断をより合理的におこなえます。
収益性や資金繰りの状況を把握しやすくなるので、融資申請や事業拡大の判断にも役立ちます。

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法人化を検討している人が意識すべきポイント


個人事業主が、将来的に事業の幅を広げたい、税負担の増加が不安といった悩みを持つ時には法人化が解決策として挙げられます。
しかし、法人になることによって決算書以外にもいろいろな違いがあります。

ここでは、法人化を検討している人が意識しておくべきポイントをまとめました。法人化のタイミングで悩んでいる人もぜひ参考にしてください。

決算書作成と会計ルールの厳格化

個人事業主から法人になる時に、同じ会計ルールであると考えるのはおすすめできません。
法人化すると、決算書や申告書の作成ルールが厳格になり、個人事業主よりも正確な会計処理が求められます。
また、会社法・法人税法に基づく会計基準を遵守しなければいけません。そのため、個人事業主時代より複雑な処理が増えます。

定期的な帳簿確認や試算表作成が必須となるので、人によっては事務負担が増えることに不安を感じてしまうかもしれません。
しかし、より正確で機動性が高い会計処理は経営判断の精度向上にもつながります。個人事業主から法人になる段階でどのように会計処理を運営するか見直してください。

経理ソフトや税理士の活用

より精度が高い会計を採用すると、手間と時間のコストは大きくなります。
無理に個人事業主の時の方法で、業務量を増やすよりも新しい方法を導入することを検討してください。

法人化後は経理ソフトを活用して複式簿記を効率的に管理することが重要です。
会計ソフトは、仕訳や総勘定元帳以外にも決算書を作成する機能が付いています。
財務状況や経営成績を報告するための情報処理にも使うことができ、管理会計の観点からも便利なツールです。

より専門性が高いアドバイスが必要であれば、税理士の顧問契約を結します。専門家の力を借りれば、不安な時には相談でき税務申告や会計処理の正確性と安心感が高まります。
専門家と連携して資金計画や節税対策など経営判断のサポートも受けやすくなることは、実務、事業面でも大きなメリットです。

会計情報の外部開示と信用力向上

法人になると関わる外部関係者が増加します。そのため、株主や取引先、金融機関に対して会計情報を開示する機会が増えると考えてください。

会計情報は、自分のタイミングではなく外部関係者に求められた時にいつでも提示できるようにしなければいけません。
面倒に感じるかもしれませんが、適切な決算書作成は信用力向上につながり、融資や取引条件の有利化に役立ちます。
外部開示にともなって事務負担やコストも増えるため、法人化のタイミングで会計の体制整備が不可欠です。

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まとめ:事業規模に合わせた会計管理を

法人か、個人事業主かに関係なく、決算書は経営状況を可視化する重要な「経営の成績表」です。個人事業主であっても青色申告を選択すれば、青色申告決算書を作成します。
青色申告決算書を作成して会計精度を高めれば、資金調達や法人化への準備を効率的に進めやすくなるでしょう。
自社の事業規模や将来計画に合わせて、最適な会計体制を段階的に整えます。まずはできることから会計管理の第一歩を踏み出してください。



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(編集:創業手帳編集部)

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