今すぐできる社会保険料の削減方法は?削減するメリットも解説
社会保険料の削減は資金繰りの改善につながる
事業主にとって、社会保険料はコストの一つです。特に、昨今は少子高齢化に伴って社会保険料の負担が重くなっているため、削減する方法を模索している事業主もいるのではないでしょうか。
社会保険料の仕組みを理解し、実際に工夫すれば社会保険料は削減できます。計算ルールや制度を把握したうえで、コスト負担を抑えましょう。
今回は、具体的な社会保険料の削減方法や削減するメリットなどを解説します。
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社会保険料の削減方法13選
早速、社会保険料の削減方法を13種類解説します。自社ですぐに取り入れられそうな方法があれば、実践してみてください。
1.4月~6月の残業を減らす
社会保険料は等級に基づいて計算しますが、4月~6月の給与額を平均したうえで等級を決定します(定時改定)。そのため、4月~6月の残業を減らして残業手当の支給を抑えられれば、社会保険料の削減につながります。
3月から5月にかけては、多くの企業にとって年度の入れ替わりです。人の入れ替わりや業務の引き継ぎなどが発生するため、ある程度残業が発生するのはやむを得ないかもしれません。
しかし、計画的に業務を進めたり業務の引き継ぎが発生しないような体制を構築したりすれば、社会保険料の削減だけでなく労働者の労働時間を減少させることができます。
1年の中で残業時間が4月~6月に集中している場合は、体制の見直しを検討してみてください。
2.昇給を7月以降にする
昇給のタイミングを7月以降にすれば、社会保険料の等級が上がるリスクを軽減できます。4月に昇給が行われると等級が上昇しやすく、労働者本人と事業主負担分の社会保険料が高くなります。
昇給のタイミングをずらせるのであれば、7月以降にしたほうが労使双方の経済的負担を軽減できるでしょう。
3.出張手当を導入する
実費弁償の費用として支給する出張手当を導入すれば、出張が多い企業にとって社会保険料の削減につながります。
実費弁償の費用であれば、給与扱いではないため社会保険料の対象になりません。また、労働者本人の所得税にも影響を与えず、事業主にとっても経費計上できるメリットがあります。
なお、企業内に出張手当を導入するには、出張手当の金額を定めた「出張旅費規程」を作成しなければなりません。支給する出張手当は妥当な金額でなければ税務署から否認される可能性があるため、注意しましょう。
また個人事業主の場合は、出張手当や日当を必要経費にできません。
4.選択制企業型確定拠出年金を導入する
選択制企業型確定拠出年金とは、労働者自身が加入するかどうかを決められる企業型確定拠出年金です。
労働者が選択制企業型確定拠出年金に加入する場合、給料の中から企業型確定拠出年金の掛金を拠出します。具体的には、以下のようなイメージです。
- 加入前:月給20万円
- 加入後:月給20万円-掛金拠出2万円=18万円
手取りの収入は減ってしまいますが、計画的に将来へ向けた資産形成ができるメリットがあります。掛金を拠出した金額は社会保険料の算定対象外なので、企業型確定拠出年金に加入する労働者の社会保険料を削減できる可能性があります。
企業型確定拠出年金は福利厚生の一環です。導入することで、社会保険料の削減だけでなく労働者の満足度向上にもつながるメリットが期待できるでしょう。
5.賞与をなくして給料を増やす
給与がすでに社会保険料の最大等級に該当している場合、賞与をなくして給料に回すと社会保険料負担を軽減できます。
たとえば、厚生年金に関しては最大等級が「32等級」で、給料が635,000円以上の場合に該当します(健康保険の最大等級は50等級)。既に上限に達しているため、さらに給与が増えても社会保険料は増えません。
そこで、賞与をすべて給与に上乗せする形で支給すれば、賞与分の社会保険料を抑えられます。賞与額によっては、年間で10万円以上社会保険料を削減することも可能なので、給与が高い労働者がいる場合に検討してみてください。
6.給料・賞与の一部を退職金に回す
退職金には社会保険料がかからないため、給料・賞与の一部を退職金に回す手段が考えられます。
月々の収入は減りますが、減少した給与や賞与で問題なく生活できる場合は、給料・賞与の一部を退職金に回すとよいでしょう。
7.社員の入社日は月初・退職日は月末以外にする
労働者を雇い入れる際には、入社日を月初以外・退職日を月末以外にすると社会保険料の削減につながります。社会保険料は、入社した日が属する月から発生し、資格喪失日(退社日の翌日)が属する月の前月分まで納める必要があるためです。
たとえば、10月31日に入社した場合は10月分から社会保険料が発生しますが、11月1日入社であれば11月分から社会保険料を納めることになります。
また、10月31日が退職日の場合は10月分も社会保険料の対象ですが、10月30日が退職日であれば、9月分までが社会保険料の対象です。
このように、入社日や退職日を1日ずらすだけで社会保険料の対象月が変わるため、中途採用で労働者を雇い入れる際には意識してみるとよいでしょう。
8.キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)を活用する
新たに社会保険に加入する労働者がいる場合は、キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)を活用しましょう。2024年10月に行われる社会保険適用拡大の影響を受ける事業主の方にとって、有用な助成制度です。
「手当等支給メニュー」と「労働時間延長メニュー」、それぞれを併用するパターンがあります。
【手当等支給メニュー】
中小企業 | ①1年目の取り組み | ②1年目の取り組み | ③1年目の取り組み |
中小企業 | 40万円(10万円×4期) | 10万円 | |
大企業 | 30万円(7.5万円×4期) | 7.5万円 |
【労働時間延長メニュー】
延長時間:4時間以上 | 延長時間:3時間以上4時間未満 賃金引き上げ率:5%以上 |
延長時間:2時間以上3時間未満 賃金引き上げ率:10%以上 |
延長時間:1時間以上2時間未満 賃金引き上げ率:15%以上 |
|
中小企業 | 30万円 | |||
大企業 | 22.5万円 |
社会保険の加入条件に該当する労働者がいる場合、新たに社会保険に加入させなければなりません。負担を理由に社会保険に加入させないのは法令違反です。
キャリアアップ助成金を活用すれば、事業主の社会保険料負担を抑えつつ、労働者の待遇改善を進められます。さらに、労働者が年収の壁を気にせず働けるようになれば、労働力を確保しやすくなるでしょう。
9.協会けんぽから組合健康保険に切り替える
協会けんぽと組合健康保険では、保険料に違いがあります。組合健康保険のほうが安い傾向にあるため、保険者の切り替えも検討するとよいでしょう。
さらに、組合健康保険の中には付加給付が充実していたり、福利厚生が充実していたりするケースがあります。
組合健康保険ごとに加入基準が設けられているため、基準を確認したうえで加入を検討しましょう。
10.事前確定届出給与の活用
高額な役員報酬を受け取っている役員がいる場合、事前確定届出給与を活用して社会保険料を削減することが可能です。事前確定届出給与とは、名称に「給与」とありますが実態としては「賞与」です。
事前確定届出給与は、年3回までの支払いであれば社会保険の計算上は「賞与」として取り扱います。社会保険料を計算するうえで、標準報酬額には以下のように上限が設けられています。
- 健康保険料:年573万円
- 厚生年金保険料:月150万円
以上の上限を超えた部分に関しては、社会保険料に影響しません。つまり役員報酬を減額し、減額した分を役員賞与として受け取れば、年収はそのままで社会保険料を抑えることが可能です。
例えば、年収800万円の役員が「①毎月約66万円の給与をもらう(800万÷12)」「②毎月5万円の給与と740万円の事前確定届出給与を受け取る」場合、社会保険料の総額は以下のようになります。
①毎月約66万円の給与を受け取る | ②毎月5万円の給与と740万円の事前確定届出給与を受け取る | |
社会保険料の総額 | 約120万円 | 約60万円 |
年収は同じ800万円でも、社会保険料総額で約60万円の差が生じます。「受け取り方を変えるだけ」で、本人負担分と事業主負担分の社会保険料を削減できるわけです。
ただし、事前確定届出給与を適用する場合、事前に届け出た内容どおりに支給しなければなりません。支給する時期や金額にずれがあると、事前確定届出給与として認められないため注意しましょう。
なお、提出期限は「事前確定届出給与を定めた株主総会などの決議をした日または職務を開始する日から1か月以内」「会計期間開始の日(事業年度開始の日)から4か月以内」のいずれか早いほうです。
11.役員報酬を報酬月額の上限に設定する
役員報酬を、報酬月額の上限ギリギリに設定することで社会保険料の削減につながります。
たとえば、標準報酬月額が30万円の場合、標準報酬は「29万円以上31万円未満」となっています。つまり、役員報酬を30万9,999円に設定すれば一つ上の等級に該当しないため、手元に多くのお金を残せます。
標準報酬月額が30万円と32万円を比較すると、毎月の社会保険料が約5,600円低くなります(労使の合計額)。年間で約67,200円の削減につながるため、報酬月額の範囲を確認したうえで、役員報酬を設定してみてください。
12.非常勤役員の活用
非常勤役員は社会保険の対象にならないため、非常勤役員を活用して社会保険料を削減する方法があります。たとえば、出勤日数が少ない役員を非常勤役員に切り替えれば、社会保険料を削減できます。
ほかにも、家族を非常勤役員として雇うケースがよく見られますが、雇った家族の年収を130万円未満に抑えれば扶養に入れることが可能です。
なお、非常勤役員に該当するかどうかの判断は法律上明確なルールは設けられていません。役員会への出席状況や報酬などを総合的に鑑みて、最終的には年金事務所が判断します。
一般的に、毎月の報酬が10万~20万程度であれば非常勤役員として認められるケースが多いようです。
13.マイクロ法人を活用する
小規模企業の事業主は、マイクロ法人を活用する方法があります。マイクロ法人とは小さい法人を指しており、マイクロ法人の経営と個人事業で稼げば社会保険料を最適化できます。
社会保険料がかかるのは、法人から受け取る役員報酬です。つまり、「マイクロ法人+個人事業」を行えば、個人事業がいくら伸びても社会保険料が上がりません。
マイクロ法人で役員報酬を低い金額に設定すれば、社会保険料を大幅に抑えることが可能です。
社会保険料を削減することによるメリット
社会保険料を削減することで、労働者だけでなく事業主が負担する社会保険料負担を軽減できます。
その結果、コスト削減につながり事業に充てられる資金が増えるメリットが期待できます。以下で、社会保険料を削減することによるメリットを詳しく解説します。
資金繰りに余裕が生まれる
社会保険料の事業主負担分を削減し、資金繰りに余裕が生まれれば事業投資に回せるお金を増やせます。
設備投資を促進して生産性を向上させたり、採用の強化や教育・研修プログラムを充実させて人材育成を図ることもできるでしょう。
環境がめまぐるしく変わる状況に対応するためには、事業拡大を計画的に行う必要があります。新規事業への参入や多角化を目指すための事業投資を行ううえで、資金繰りに余裕があれば機動的に動けるでしょう。
事業投資は、長期的に企業価値を向上させるうえで欠かせません。社会保険料はコストの一つである以上、可能な範囲で削減して、浮いた資金を生産的な用途で活用しましょう。
財務状況が改善し信頼が増す
社会保険料を削減できれば、資金繰りに余裕が生まれるだけでなく財務状況が改善します。帳簿上の経済的な安定性や信頼性が増すため、金融機関によい印象を与えられ、資金調達しやすくなるメリットが期待できるでしょう。
お金を貸す立場である金融機関からすると、返済能力が十分にあり信頼性が高い企業であれば、有利な条件で融資しても問題ないと考えます。つまり、財務状況が改善すれば有利な条件で融資を受けられる可能性が高まるのです。
さらに、財務状況に余裕があれば経済変動や不測の事態に対する耐性が高まります。リーマンショックやコロナショックのような想定外のトラブルに見舞われても、長期的に事業を継続できるでしょう。
労働者は手取り収入を増やせる
労働者負担分の社会保険料を削減すれば、手取り収入が増えせます。自由に使えるお金が増えるため、家計にゆとりが生まれるでしょう。
自由に使えるお金が増えれば、日々の生活費に充てたり、趣味や娯楽にお金をかけて満足度を向上させることも可能です。
将来に向けた貯蓄や投資に回せるお金も増えます。NISAをはじめとした投資制度を活用すれば、各労働者が効率よく資産形成を進められるでしょう。
どのようにお金を使うにしても、自由に使えるお金が増えるのは嬉しいものです。
労働者の経済的な不安を軽減できれば、自社に対する愛着が湧いたり、働くモチベーションの向上につながる可能性があります。その結果、人材が定着し事業の運営がスムーズになるメリットが期待できるでしょう。
まとめ
社会保険料は、事業主にとってコストの一つです。事業の資金繰りを改善し、資金を有効活用するうえで、社会保険料の削減方法を知ることは有意義です。
社会保険料の仕組みを知れば、削減する方法を実践できます。「知っているだけ」で年間数十万円以上のコスト負担を軽減できるため、こちらの記事で解説した内容を実践してみてください。
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(編集:創業手帳編集部)