旭酒造 酒蔵見学レポート|世界に誇る「獺祭」らしさにこだわった、常識を超える酒造り

創業手帳

日々の細かなデータを製造メンバー全員で共有して改善する。この積み重ねが「獺祭品質」の秘訣

山口県の旭酒造株式会社が手掛ける「獺祭(だっさい)」は日本有数の純米大吟醸のブランドとして知られ、現在国内だけではなく世界で高い人気を誇ります。

大規模生産を実現しながらも、杜氏を置かない斬新な酒造りを行う同社。4代目社長である桜井一宏さんは「機械化・合理化していると思われがちですが、全く違います。弊社の製造メンバーは若手を中心に約210名もいて、これは日本の酒蔵で最も多い規模です。人手によるきめ細かな調整を行うことで、高い品質につなげています」と語ります。

今回はその酒造りのこだわりを探るべく、同社製麹チームの鈴木白彬(すずき きよあき)さんにご案内いただき、創業手帳代表の大久保が本社蔵を見学しました。

旭酒造株式会社
1948年、山口県周東町(現岩国市)で創業。かつて30名程度の小さな酒蔵であったが、1989年に製造販売を開始した「獺祭」が国内・海外で高く評価され、大きな成長を遂げる。

2015年に12階建の新たな本社蔵を立ち上げ、2016年に売上高100億円を達成。2023年の売上高は174億円を誇る。平均年齢32歳というメンバーで、これまでの業界の常識にとらわれない酒造りに取り組む。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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米は産地や収穫時期によって微妙に違う。だから人の手による調整が必要


鈴木:洗って蒸し上げた酒米は、この麹室に運ばれます。ここでは麹菌を上から振りかける作業をしています。蒸し上がった米はそのままですと、おにぎりのように固まってしまっていることもあります。その状態で麹菌を振りかけても米1粒1粒に麹菌がつきません。ですから、台の上で人の手で米をほぐして平らにし、麹菌が均一につくようにしています。

大手の酒蔵さんの中には、この作業を機械で行っているケースもあります。ただ機械で米をほぐすと米がつぶれたり割れたりすることもありますし、麹菌が十分行き届かないこともありますので、弊社では人の手で行っています。

弊社では機械が得意なところは機械に任せることもありますが、人が得意なところはできるかぎり人の手で行うというやり方です。機械と人の手をうまく融合させたお酒造りを目指し、こういう形になりました。

獺祭はクリアな味と香りが特徴ですので、味や香りの違いが目立ちやすいんです。ですから、繊細な対応が求められる作業は人の手で行うことが重要だと考えています。一方で重たいものを運ぶというのは機械の得意なところですので、そういった作業では機械を使っています。

大久保:むしろ人の手でやった方が理にかなっていることもあるわけですね。

鈴木:そうですね。私たちの酒蔵では「山田錦」という銘柄の米を使っていますが、同じ山田錦でも収穫した年や産地によって、成分が微妙に違います。

麹菌によって米に含まれるデンプンが分解され糖分になることを「糖化」と呼びますが、糖化しやすいお米だと甘いお酒になりますし、逆に糖化が進みづらいお米だと辛口のお酒になります。

米もそうですし、麹菌によっても違いがあります。また気温や湿度などの影響も受けます。そこをできるかぎり人が調整して、獺祭の品質を保つよう努めています。

大久保:なるほど。麹菌を振りかけたお米は、この後どうなるのでしょうか?

鈴木:米に麹菌を振りかけ、3日間麹菌を育てて行きます。3日目の最後にファンで一晩乾燥させて、成長を止めます。そして4日目に米麹が出来上ります。

ただこちらも麹菌が増えすぎると味が変わってしまいますので、室内の湿度や温度、米麹を作る時間、米の水分を調節して作っています。

重要なのは「獺祭」らしさ。これを維持するための手間は惜しまない

鈴木:次にご案内するのが、発酵の工程を行う発酵室です。さきほどの麹菌と水と蒸した米を、タンクに入れていきます。ただ一気に水を入れてしまうとうまく発酵しません。そこで弊社では日本酒の伝統的な製造方法である、水を3回に分けて少しずつ入れるという手法をとっています。これがいわゆる「仕込み」です。

タンクに仕込んでから、30~32日間くらい発酵させます。この発酵によって米のデンプンが麹の力で糖化して糖分となり、糖分が酵母によってアルコールになっていきます。

大久保:タンクがものすごくたくさんありますね。

鈴木:このフロアにおよそ100個のタンクがあります。他に同じようなフロアが2つありますので、全部で300くらいのタンクがあります。酒蔵というと大きなタンクを使っているイメージがあるかと思いますが、弊社ではわりと小さめのタンクをたくさん置いています。小さいと言っても、1つのタンクには約1,000キロの米が入っています。

なぜかというと、小さいタンクに分けた方が温度管理がしやすいからなんです。タンクが大きくなればなるほど温度のムラができやすいですから。

大久保:どのように温度管理されているのでしょうか?

鈴木:温度計をチェックしながら調整していきます。温度を上げるときは発酵熱を利用して温度を上げていきます。温度上がりが悪い時は、保温させます。

反対に温度を下げるときは、タンクの周りに冷水を流します。この調節も人の手で行っています。蔵長や副蔵長が一つ一つのタンクの経過簿をチェックして、それぞれのタンクをどのくらいの温度にするかをスタッフに指示しています。

こういった作業も全て機械による自動管理ではなく、人の手で管理しています。

大久保:小さなタンクがたくさんある分大変手間がかかりそうですが、それでも品質のために、人の手できめ細かく行っているわけですね。なおタンクの中をかき混ぜている方もいらっしゃいますね。

鈴木:アルコール発酵が進む時に、二酸化炭素のガスが泡となって出てきます。このガスはタンクの下に溜まってしまうので、人の手でかき混ぜています。

またこちらの部屋にはエアコンがありまして、1年中部屋の温度も管理できます。夏場はどうしても外気温が高いので室温も上がってしまいます。一方この地域は冬になると外気温はマイナスになることもあるので、やはりエアコンを調節して対応します。

大久保:夏や冬の外気温に対応するということは、御社では通年で酒造りをやっていらっしゃるのでしょうか?

鈴木:はい、1年を通じて酒造りをする四季醸造を行っています。生産性が上がるということもありますが、1年に1回まとめるやり方より、少しずつきめ細かく調整しながら造ることができます。また常にフレッシュな製品をお出しできるところもメリットですね。

味や香りを損なわないよう、クリーンな環境づくりを意識している


鈴木:次に、発酵後の「もろみ」からお酒を抽出する「搾り」の工程に入ります。先ほど見ていただいた発酵室のタンクと圧搾機が配管でつながっていて、タンクから送られたもろみを、圧力をかけて搾ります。搾った後は貯水タンクで味の調整を行います。例えば獺祭にしては味が強すぎるとか、アルコール感が強すぎる場合は、加水をして味を合わせています。

もちろん他の工程でも同様ですが、搾りの工程で特に私たちが重視しているのが衛生面です。例えば配管に以前のもろみがわずかでも残ってしまっていると、味に雑味が出てしまいます。ですので、細かい部品まで洗浄しています。

なお搾った後に圧搾機に残るものが酒粕です。酒粕は1枚ずつ人の手で剥がします。

大久保:酒粕はその後どうなるのでしょうか?

鈴木:酒粕は獺祭の焼酎の原料にしているんですよ。弊社では、獺祭の焼酎も製造しています。

簡単に作り方をお話すると、酒粕には若干のアルコールが残っていますので、酒粕を加熱・蒸留して焼酎にしています。そこからさらに残った酒粕は、地元の家畜農家さんへ家畜の餌としてお渡ししています。

大久保:御社が焼酎を作っていることも、酒粕を様々な形で活用されていることも初めて知りました。やはり現地でお話を聞くと、新しい発見がありますね。

鈴木:ありがとうございます。圧搾機を見ていただいていますが、実は他の搾り方もあるんですよ。例えば弊社では、遠心分離機を使った搾りも行っています。こちらは「もろみ」を高速回転させ、酒粕と液体の部分を遠心力で分けるというやり方です。

遠心分離機を使った搾りでは、1回で20リットルくらいしかお酒が造れません。一方で通常の圧搾機を使った搾り方よりも、味が軽やかになります。

鈴木:次に、先ほど絞ったお酒を瓶詰めして、ラベルを貼る工程をご覧いただきます。

出来上がったお酒のままでは酵母が残っているため、日持ちがしません。そこで「火入れ」という加熱処理を行います。

火入れはどの酒蔵さんでも行う工程ですが、弊社は火入れをするタイミングが他の酒蔵さんと異なります。一般的には火入れをしてから瓶詰めをしますが、弊社では瓶に詰めてから火入れを行います。

なぜかというと、火入れしてから瓶詰めするとどうしてもお酒が酸化してしまいます。酸化するとやはり味や香りが変わってしまいますので、できるだけ本来の味と香りを生かすために瓶詰してから火入れをしています。

なお、弊社ではさらに本来の味と香りを生かすため、低温殺菌で火入れを行う商品もあります。この技術は私たちだけのものなんですよ。この方法で火入れをした獺祭は「早田(はやた)」という商品になります。

データを分析して共有することが、実は「獺祭」のクオリティにつながる


鈴木:最後にご案内するのが分析室です。それぞれの段階でデータを分析して、どういった状態なのかを可視化しています。ホワイトボードに貼っているものがタンク1つ1つのデータで、これは手書きしているんですよ。

大久保:私は素人なのでこれを見てもよくわかりませんが、プロの皆さんであればこの情報を見て状況が一目瞭然というわけですね。

鈴木:そうですね。この情報を見ながら、獺祭の品質に近づけるよう調整をしています。

あえて紙に手書きというアナログの手法をとっているのは、やはり視認性の良さがあります。パソコンやタブレットも便利ですが、どうしても探すひと手間がかかります。でもこうして紙を貼っておけば、この場所に立つだけで情報をチェックすることができ、異変があればすぐわかります。

私たちの酒蔵には杜氏がいませんので、こういったデータをもとに酒造りを行っています。

また杜氏がいない分、私たちは工程ごとにチームに分かれて分業をしています。一般的にはすべての作業を同じメンバーで行うことが多いので、これも弊社の酒造りの特徴だと思います。

大久保:分業している分、情報が共有できてブラックボックス化しにくいわけですね。最終的に出来上がったものを実際に飲んでチェックされているとお聞きしました。

鈴木:そうですね。データで獺祭の基準に合わせて酒造りをし、テイスティングによって最終的なチェックを行っています。この分析室で、会長、社長、製造部長、蔵長といったメンバーがテイスティングを行い、「獺祭らしくない」というものは出さないようにしているんですよ。そうは言っても、ほとんどそのようなケースはありませんが。

獺祭の中で特に厳しい基準を設けているのが「磨き その先へ」という商品です。これは今の私たちができる全てをやりきったお酒で、この商品を造るのは月に1回だけなんです。厳しい基準なので通りづらいのですが、やはりそれだけ自信を持って世に出したいという思いがあります。

大久保:社長や会長の方々も、日々こちらにいらっしゃるわけですね。

鈴木:はい。社長も会長も、社員との距離はわりと近いですね。例えば年始にはその時に出社している社員みんなで会長のご自宅へ伺って、食事会を行っているんですよ。

またここでは社長や会長だけではなく、社員なら誰でもテイスティングができます。例えば社員が出来上がったお酒を飲んで「これはいいな」と思ったら、そのデータや経過をチェックして、どういうところが良かったのか考察できるわけです。

大久保:なるほど。社員の方がそれぞれの視点で改善していけば、結果として組織全体のレベルアップにつながりそうです。

大きな酒蔵なので機械化が進んでいると思いきや、実際は人によるところが多く、繊細な調整をしながら酒造りを行っていることがよくわかりました。これも全て「獺祭」というブランドにふさわしい品質を守るための取り組みというわけですね。

実際に見学中もたくさんの方々が働いていて、人の手によって酒造りが行われていることをあらためて理解しました。またどの部屋に行っても見学する私たちに挨拶をしてくださったのが、とても印象的でした。

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(取材協力: 旭酒造株式会社
(編集: 創業手帳編集部)

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