【2022年10月から】社会保険の適用拡大に中小企業はどう対応すべきか?
法改正により、パートを社会保険に加入させる義務が拡大!中小企業が受ける影響や適切な対策について解説
2020年5月29日に成立した「年金制度改正法」により、社会保険の適用拡大が段階的に行われます。2022年10月1日の適用拡大では、従業員数101人以上の企業が、短時間労働者を社会保険に加入させる義務を負うことになりました。
こうした社会保険の適用拡大が、中小企業に与える影響は大きいです。社会保険料の負担が増えることのほか、雇用や採用の面でも変化が必要になる可能性があります。
そこで今回は、社会保険の適用拡大に際して、中小企業が取るべき対応について詳しく解説します。法改正の概要から助成金・補助金のことまで、幅広くお伝えするので参考にしてください。
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この記事の目次
社会保険の適用拡大で何が変わる?【2022年10月より】
社会保険の適用拡大(法令改正)に伴い、2022年10月から「特定適用事業所」と「短時間労働者」の要件が変わります。特定適用事業所とは、パート・アルバイトの方を社会保険に加入させることを義務付けられた会社等のことです。短時間労働者とは、社会保険の対象となる一部のパート・アルバイトのことを指します。
2022年10月からの具体的な変更点は以下の2点です。
図:2022年10月から改正されるポイント
変更前 | 変更後 | |
---|---|---|
特定適用事業所の要件 | 従業員数が常時500人を超える事業所 | 従業員数の総数が常時100人を超える事業所 |
短期労働者の要件 | 雇用期間が1年以上見込まれること | 雇用期間が2ヶ月を超えて見込まれること |
参考:日本年金機構「令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」
2022年10月以降、パート・アルバイトを社会保険に加入させる義務を持つ企業の範囲が、「従業員数500人超え→100人超え」に拡大されます。つまり今後は、大企業だけでなく中小企業も、パート・アルバイトの方を社会保険に加入させなければならないということです。※
また短期労働者の定義も拡大され、「雇用期間1年超え→2ヶ月超え」に変更されています。「2ヶ月超え」はフルタイムの従業員等と同じ水準であり、雇用期間の点では、正社員等とパート・アルバイトの垣根がなくなった形です。
※中小企業基本法によると、中小企業とは従業員数300人以下の会社等(一部業種を除く)
2024年10月からは「従業員数51人以上」の会社も対象に
出典:厚生労働省「社会保険適用拡大 特設サイト」
2022年10月の改正にとどまらず、2024年10月にはもう1段階の改正が行われ、社会保険の適用拡大がさらに進みます。具体的には従業員数51人以上の企業から、パート・アルバイトの方を社会保険に加入させる義務が生じます。
よって、従業員数が50人を超える企業は、今から準備や対策を始めるのが良いでしょう。なお、施行期日(2024年10月1日)前に任意で適用拡大を行うと、キャリアアップ助成金が受け取れます。
【自社は適用対象?】社会保険適用拡大のチェックポイント2つ
自社がパート・アルバイトを社会保険に加入させる義務を負う「特定適用事業所」かどうかは、従業員数によって判断します。よって、従業員数のカウント方法を知っておくことが大切です。
また特定適用事業所となれば、加入対象のパート・アルバイトについて、社会保険加入の手続きを行わなければなりません。そのため、どのようなパート・アルバイトが加入対象となるかも知っておきましょう。
1. 従業員数のカウント方法
出典:厚生労働省「社会保険適用拡大 特設サイト」
従業員数は、上記A+Bの合計でカウントします。Bは、週労働時間および月労働時間が、フルタイムの3/4以上の従業員数(パート・アルバイトを含む)です。
このカウント方法により、従業員数が常時100人を超える会社は、適用対象となります。なお、2024年10月以降は、「常時50人を超える会社」に拡大されます。
直近12ヶ月で6ヶ月基準を上回れば適用対象
従業員数が基準前後の場合、直近12ヶ月のうち6ヶ月基準を上回っているかどうかで判断します。よって、例えば現在の従業員数が99名でも、2ヶ月前までずっと101名だった場合には、特定適用事業所となります。
法人番号が同じ企業は合算してカウントする
法人の場合、法人番号が同一の企業については、全企業の合計で従業員数をカウントします。そのため、1つの企業で従業員数100人以下でも、ほかの企業を足すと100人を超える場合には、特定適用事業所です。
一方、個人事業所の場合は、個々の事業所ごとに従業員数をカウントします。
2. 加入対象者となるパート・アルバイトの定義
以下4つの条件全てを満たすパート・アルバイトの方は、新たに社会保険の加入対象者となります。企業は
- 週の所定労働時間が20時間以上30時間未満
- 月額賃金が8.8万円以上
- 2ヶ月を超える雇用の見込みがある
- 学生でない
このうち、「2ヶ月を超える雇用の見込みがある」は、2022年10月から改正されたポイントです。
臨時の残業時間は所定労働時間にカウントしない
「週の所定労働時間が20時間以上30時間未満」は、契約上の所定労働時間についてのものです。臨時で生じる残業時間は含まれないので注意しましょう。
ただし、契約上20時間に満たなくても、直近2ヶ月の実労働時間が週20時間以上である場合は例外です。今後も同様の状況が続くと見込まれるなら、3ヶ月目から保険加入となります。
月額賃金には残業代・賞与等を含まない
「月額賃金が8.8万円以上」は、基本給および諸手当を対象にします。残業代・賞与・臨時的な賃金等は含まれません。
具体的には、以下のような賃金は月額賃金に含まないので注意してください。
- 月を超える期間ごとに支払われる賃金 (賞与等)
- 時間外労働、休日労働及び深夜労働に対して支払われる賃金(割増賃金等)
- 最低賃金に算入しないことが定められた賃金(精皆勤手当、通勤手当及び家族手当)
出典:厚生労働省「社会保険適用拡大 特設サイト」
雇用期間が2ヶ月以内でも要件を満たす場合がある
「2ヶ月を超える雇用の見込みがある」については、一部、雇用期間が2ヶ月以内の場合も該当します。具体的には以下のような場合です。
- 就業規則や雇用契約書などに、雇用期間が「更新される旨」や「更新される場合がある旨」について書かれている
- 同じ事業所内で、契約更新等によって最初の雇用契約の期間を超えて使用された人の例がある
休学中や夜間学生は加入対象となる
「学生でない」について、休学中や夜間学生は加入対象です。また「卒業見込」の学生が卒業前に就職し、卒業後も同じ事業所で就労する場合も対象となります。
【なぜ?】社会保険が適用拡大される3つの理由
社会保険の適用拡大をする理由として、厚生労働省のQ&A集では、以下3つの事柄が挙げられています。
- 被用者にふさわしい保障の実現 – 被用者でありながら国民保険・国民健康保険に加入している者に、厚生年金保険や健康保険の保障を受けられるようにする
- 働き方や雇用の選択に関する不公平・不平等の是正 – 労働者の働き方や企業による雇用の選択が、社会保険制度によって歪められたり、さまざまな不平等が生じたりしないようにする
- 社会保障の機能の強化 – 厚生年金保険の適用を拡大し、定額の基礎年金だけでなく、報酬比例給付による保障を受けられる人数を増やす
要するに、パート・アルバイトとしてたくさん働く人たちが、より良い社会保障や働き方を享受できる社会を実現したいということです。
社会保険の適用拡大で短期労働者が得られるメリット
2022年10月より、社会保険が適用拡大されるにあたって、新しく社会保険の加入対象になるパート・アルバイトの方々が大勢います。それによって彼らが得られるメリットは以下のような事柄です。
- 将来、厚生年金保険(報酬比例)の分だけ年金額が増加する
- 病気やケガによる後遺症に対して、障害厚生年金がもらえるようになる
- 死亡した場合には、遺族が遺族厚生年金をもらえるようになる
- 健康保険から、傷病手当金や出産手当金が出るようになる
- 保険料の半分を会社が負担してくれることから、月々の保険料が安くなる場合もある
このように社会保障が手厚くなるというメリットがある一方、労働時間や賃金が変わらなければ、手取りが減ってしまうというデメリットもあります。例えば、月額賃金88,000円(年収106万円)の場合、社会保険に加入すると年間15万円ほどの社会保険料が引かれることになります。
よって、パート・アルバイトの方の中から、「保険料を引かれたくないから社会保険に加入したくない」という人も出てくるかもしれません。そのため、会社としてはパート・アルバイトの方々と話し合い、双方にとってより良い雇用の形について考えていくのが望ましいです。
社会保険の適用拡大が中小企業に与える影響
社会保険の適用拡大が中小企業に与える影響として、特筆すべきは社会保険料の負担が大きくなることです。パート・アルバイトから新たに社会保険の加入対象者が出た分だけ、会社はその人たちの社会保険料の半分を負担しなければなりません。
社会保険料の会社負担は1人あたり年24.5万円【雇用の見直しも必要】
厚生労働省の試算によると、被保険者の短時間労働者を雇用すると、1人あたり約24.5万円/年(40〜65歳の場合は+約1.5万円)の保険料負担が会社にかかります。つまり新たに社会保険に加入するパート・アルバイトの方が5人いれば約123万円、10人いれば約245万円、年間で人件費がかさむということです。※
もしそうした社会保険料が負担しきれないとなると、雇用や採用を見直す必要も出てきます。具体的には、パート・アルバイトの数を減らしたり、労働条件(賃金や雇用期間など)を改めたりすることになるでしょう。
※実際の負担額は、対象者の給与や賞与の金額などによって異なります。具体的な金額は厚生労働省の特設サイト内にある「社会保険かんたんシミュレーター」等でお確かめください。
適用拡大によって中小企業が得るメリットはある?
社会保険の適用拡大により、中小企業が得るメリットとしては「人手不足の緩和が期待できること」が挙げられます。
今回の改正により、短時間労働者も、フルタイムの従業員に準ずる社会保障が受けられるようになりました。よって、既存のパート・アルバイトの中から、社会保険に加入するために労働時間を増やそうとする人が現れる可能性があります。
また特定適用事業所となることで、雇用や働き方が中立的であると評価され、採用希望者が増加することも想定されます。以上より、社会保険の適用拡大で、従来よりも必要な人材を確保しやすくなる会社も出てくるはずです。
【100人以下の企業】任意の選択的適用拡大について
出典:厚生労働省「社会保険適用拡大 特設サイト」
社会保険の適用拡大は、2022年10月から101人以上の企業、2024年10月から51人以上の企業というように、段階的に行われます。それら施行の期日以前に、任意で適用事業所となることを「選択的適用拡大」といいます。
上記の通り、2024年9月までは100人以下の企業、2024年10月以降は50人以下の企業が、選択的適用拡大をすることが可能です。
任意で行う選択的適用拡大には、以下3つのメリットがあります。
- 「社保完備」とすることで求人の魅力が上がる
- 「キャリアアップ助成金」を受給できる
- 「中小企業生産性革命推進事業」の補助金を優先的に受給できる
求人の魅力が上がることについては、前項の「適用拡大によって中小企業が得るメリットはある?」で解説した通りです。適用事業所となることで中立的な働き方や雇用の魅力が高まり、必要な人材を集めやすくなる可能性があります。
助成金および補助金については、後述の「助成金や補助金を活用する」を参考にしてください。
社会保険の適用拡大に中小企業が取るべき対策
最後に、社会保険の適用拡大に際して、中小企業はどのような対応をすべきなのか解説します。以下を参考に、自社に合った対策を講じてください。
従業員数および加入対象者を把握する
まずは自社が特定適用事業所に該当するかを判断するために、従業員数をカウントしてみましょう。直近12ヶ月中6ヶ月で、従業員の総数が101人以上ならすでに適用事業所、51人以上なら2024年10月より適用事業所となります。
またパート・アルバイトの方との契約および彼らの労働状況を確認し、新たに社会保険の加入対象になる人が何人いるかもチェックすべきです。
パート・アルバイトの方とコミュニケーションをとる
選択的適用拡大を含め、自社が適用事業所となる可能性がある場合は、パート・アルバイトの方へその旨を周知しましょう。
同時に、加入対象になりそうなパート・アルバイトの方に対しては、社会保険への加入についての意向を確認すべきです。なかには「手取りを減らさないために加入したくない」、「配偶者控除の範囲で働きたいので労働時間を減らしたい」といった方もいるかもしれません。
雇用管理を強化することが不可欠
社会保険の適用拡大により、従業員数やパート・アルバイトの労働時間をはじめ、雇用管理をきっちり行うことの重要性が高くなりました。業務システムを含めて、雇用管理の仕組みを見直し、勤怠管理やシフト管理などを徹底していきましょう。
雇用管理が厳格にされておらず、不意に特定適用事業所になってしまうと、予定外の保険料負担に苦しむといった事態も想定されます。また事前の周知なしにパート・アルバイトの方が社会保険への加入を強制され、現場に不満が生じることにもなりかねません。
できるだけ早く対策を講じ、十分な雇用管理の体制を整えていくのがおすすめです。
会社が負担する社会保険料を概算してみる
把握した加入対象者の人数を踏まえ、適用事業所となった場合に社会保険料の負担がどれだけになるのかを概算してみることも重要です。社会保険料の負担が大きすぎる場合は、雇用や給与体系の見直しなど、適切な対応策を考えなければなりません。
なお、社会保険料の概算には、厚生労働省の特設サイト内にある「社会保険料かんたんシミュレーター」をご活用ください。以下のように、必要事項を入力すると、会社負担となる年間の社会保険料を算出できます。
出典:厚生労働省 社会保険適用拡大 特設サイト「社会保険料かんたんシミュレーター」
上記の通り、加入対象者が10人(うち5人が40〜64歳)、平均給与月額88,000円・賞与なしの場合、年間で約158万円の社会保険料を新たに会社が負担することになります。
適用拡大に関する会社の指針を決める
これまでの内容を踏まえ、社会保険の適用拡大に関する会社の指針を決定してください。具体的には、以下のような事柄について検討し、方向性を定めましょう。
- そもそも適用事業所となるか
- 選択的適用拡大をするか
- 短時間労働者の人数や雇用条件を見直すか
- 増加する社会保険料の負担をどう補うか
まずは適用事業所となることの是非について考えるのがおすすめです。
従業員数が101人以上の場合は強制ですが、現状、100人以下の企業の加入は任意となります。2024年10月に向けて、従業員数を50名以下にすれば、適用事業所にならないことも可能です。一方、選択的適用拡大を選択し、施行期日より前に適用事業所になって助成金を受け取るという手もあります。
また適用事業所となる場合は、短期労働者の雇用や採用、社会保険料の負担を補う施策についても考えるべきです。「人数を減らせば人手不足となる」「人を増やせばコストがかさむ」といったように、どの施策にも一長一短があるので、幅広く検討するのが良いでしょう。
国が推奨する無料のコンサル制度もある
厚生労働省は、社会保険の適用拡大に向けた社内準備のために、無料で使える以下2つの支援制度を紹介しています。
- 専門家活用支援事業 – 運用拡大に明るい社会保険労務士を無料で派遣してもらえる。対応方針の検討から手続きに関する助言まで、幅広い相談が可能。
- よろず支援拠点 – 売上拡大や経営改善など、経営課題の解決に向けて、専門的な提案が無料で受けられる。社会保険料の負担増を見越し、利益アップや業務効率化を目指す企業におすすめ。
指針の決定をはじめ、自社だけでは適用拡大に対応しきれないと感じる場合には、こうした無料制度を活用するのも良いでしょう。
助成金や補助金を活用する
社会保険の適用拡大に向けた社内準備には、以下の助成金・補助金を活用できます。
助成金・事業 | コース・補助金 | 支給額 |
---|---|---|
キャリアアップ助成金 | 短時間労働者労働時間延長コース | 1人あたり55,000円〜 |
選択的適用拡大導入時処遇改善コース | 1事業所あたり19万円〜 | |
正社員化コース | 1人あたり28万5,000円〜 | |
中小企業生産性革命推進事業 | ものづくり補助金 | 最大1,000万円 |
持続化補助金 | 最大50万円 | |
IT導入補助金 | 最大450万円 |
社会保険料の負担増という問題もあるため、これらの助成金・補助金で資金を増やすことも、ぜひ積極的にお考えください。
選択的適用拡大をする場合には優遇を受けられる
上述の通り、施行期日より前に選択的適用拡大をする場合には、キャリアアップ助成金から特別な支給を受けられます。具体的には以下3つと同等か、要件によってそれ以上の金額を受給可能です。
- 社会保険労務士等の専門家も活用しながら従業員と意思疎通を図り、選択的適用拡大を行う→19万円
- パート従業員の社会保険加入に際して基本給の増加も行う→+従業員1人あたり1.9万〜13.2万円
- 短時間労働者についての人事評価の仕組み、研修制度を整備する→+10万円
また中小企業生産性革命推進事業(ものづくり補助金・持続化補助金・IT導入補助金)では、審査での優遇がなされます。具体的には、応募要件の緩和や審査項目による加点などが行われ、優先的に支援が受けられるようになります。
まとめ
社会保険の適用拡大により、中小企業にはより徹底した雇用管理が求められます。従業員数やパート・アルバイトの労働時間などを、正確に把握できる体制づくりに努めましょう。
また適用拡大に伴う社会保険料の負担を概算し、短時間労働者の雇用等に関する会社の指針を決めることも重要です。自社だけでの判断が難しい場合は、専門家活用支援事業をはじめとする無料の相談制度も活用してみましょう。
さらに社内準備にかかる資金を増やしたい場合には、キャリアアップ補助金や中小企業生産性革命推進事業を受給するのもおすすめです。
以上を参考に、適用拡大について自社が取るべき対応を、一度じっくり考えてみてください。
(編集:創業手帳編集部)