最低賃金制度の概要と引き上げへの対応方法

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最低賃金制度を守っていますか?最新の最低賃金一覧表と正しい対策方法


最低賃金制度は、従業員の生活を守るために大切な制度であり、企業側も真摯(しんし)に対応しなければいけません。
最低賃金は、定期的に改定されるため、最新の改定に合わせて賃金の見直しなどの対応が必要です。

最低賃金制度を守らない企業には、ペナルティが課せられることもあります。
従業員の生活を守り、モチベーションを維持するためにも、企業は改定に合わせて給料の見直しと正しい計算をしましょう。
最低賃金の最新情報と賃金引き上げの対応方法、資金繰りのサポートについて解説します。

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最低賃金制度とは


最低賃金制度とは、国が定めた労働者の賃金における最低限度額のルールです。使用者は、労働者に対して定められた最低金額以上の賃金を支払わなければいけません。
また、定められた最低賃金額よりも低い金額で契約を交わしても、無効となります。

使用者が最低賃金を支払っていないことが判明した場合には、さかのぼって不足していた金額を支払わなければなりません。
また、悪質な場合には罰金のペナルティを受けることもあります。

このように、最低賃金制度は使用者にとっては無視できないものです。
労働契約を結ぶ際にはもちろん、最低賃金の改定があった際には適宜、従業員の給料について見直しと調整が必要です。

自社で最低賃金を見直す際には、参照すべき最低賃金の種類や対象となる手当の範囲などを適切に選択し、正しい知識を持って行う必要があります。
また、企業側や経営者としては負担が大きい最低賃金制度ですが、どのような意義があるかを理解し、誠実に対応していきましょう。

最低賃金の種類

最低賃金には2つの種類があります。どちらの最低賃金を守る必要があるかは自社の事業などから判断してください。
いずれにしても、使用者は設定された最低賃金を守らなければなりません。

最低賃金のどちらにも当てはまる際には、高いほうの最低賃金を適用します。

地域別最低賃金

地域別最低賃金は、産業の種類や職種に関係なくすべての労働者と使用者に適用される賃金の下限です。
都道府県ごとに定められており、その都道府県内で働くすべての人に適用されます。

賃金を定める際には、労働者の生計費や賃金、事業の賃金支払い能力が総合的に考慮され、労働者が健康で文化的な最低限の生活を送れるように配慮されています。
そのため、都道府県の金額は一定ではありません。住居費や食費、自動車の維持費など、地域ごとの生活費の高さを加味することで公平性を保っています。

特定最低賃金

特定最低賃金は、特定の産業について定められた最低賃金であり、2021年3月末の段階で227件の特定最低賃金が定められています。
特定最低賃金は、関係労使の申し出に基づいて最低賃金審議会の調査審議が行われ、必要と認められた産業に設定されます。

特定最低賃金と認められるには、地域別最低賃金よりも金額水準の高い最低賃金が必要と判断されることが必要です。

最低賃金の適用される範囲

地域別最低賃金の適用される労働者の範囲は、雇用形態や呼称を問わずすべての労働者が対象です。
地域別最低賃金は正社員やパートアルバイト、臨時や嘱託社員まで、適用されます。

特定最低賃金は、特定地域内かつ特定の産業で働く基幹的労働者と使用者が対象です。基幹的労働者とは、主要な業務に従事している労働者のことを指します。

そのため、その産業に特有の軽易な業務に従事する方は対象外です。
また、特定地域内の特定の産業で働いていても、18歳未満または65歳以上の方や雇入れ後一定期間未満で技能習得中の方は対象とはなりません。

最低賃金を上げる理由

最低賃金は定期的に改定され、そのたびに金額は上がっています。
従業員にとってはありがたいことではあるものの、企業側や経営者としては大きな負担となる場合もあるでしょう。

しかし、最低賃金は、労働者だけでなく企業や社会全体のためでもある制度です。
最低賃金を上げる目的は、賃金の低い労働者の生活の安定はもちろん、それによって労働力の向上や事業の公正な競争の確保、経済の発展にあります。
労働者の賃金を守る企業努力は、いずれ企業の成長や社会の発展として還元されるはずです。

最新の地域別最低賃金一覧


都道府県別の最低賃金は、2021年度に改定されました。改定前の賃金と比較し、各地域でそれぞれ28~32円ほど上がっています。

都道府県名 2021年度地域別最低賃金
(円)
2020年度地域別最低賃金
(円)
発効年月日
北海道 889 861 2021年10月1日
青 森 822 793 2021年10月6日
岩 手 821 793 2021年10月2日
宮 城 853 825 2021年10月1日
秋 田 822 792 2021年10月1日
山 形 822 793 2021年10月2日
福 島 828 800 2021年10月1日
茨 城 879 851 2021年10月1日
栃 木 882 854 2021年10月1日
群 馬 865 837 2021年10月2日
埼 玉 956 928 2021年10月1日
千 葉 953 925 2021年10月1日
東 京 1,041 1,013 2021年10月1日
神奈川 1,040 1,012 2021年10月1日
新 潟 859 831 2021年10月1日
富 山 877 849 2021年10月1日
石 川 861 833 2021年10月7日
福 井 858 830 2021年10月1日
山 梨 866 838 2021年10月1日
長 野 877 849 2021年10月1日
岐 阜 880 852 2021年10月1日
静 岡 913 885 2021年10月2日
愛 知 955 927 2021年10月1日
三 重 902 874 2021年10月1日
滋 賀 896 868 2021年10月1日
京 都 937 909 2021年10月1日
大 阪 992 964 2021年10月1日
兵 庫 928 900 2021年10月1日
奈 良 866 838 2021年10月1日
和歌山 859 831 2021年10月1日
鳥 取 821 792 2021年10月6日
島 根 824 792 2021年10月2日
岡 山 862 834 2021年10月2日
広 島 899 871 2021年10月1日
山 口 857 829 2021年10月1日
徳 島 824 796 2021年10月1日
香 川 848 820 2021年10月1日
愛 媛 821 793 2021年10月1日
高 知 820 792 2021年10月2日
福 岡 870 842 2021年10月1日
佐 賀 821 792 2021年10月6日
長 崎 821 793 2021年10月2日
熊 本 821 793 2021年10月1日
大 分 822 792 2021年10月6日
宮 崎 821 793 2021年10月6日
鹿児島 821 793 2021年10月2日
沖 縄 820 792 2021年10月8日
全国加重平均額 930 902

最低賃金の確認方法


最低賃金の金額を確認するには、一覧表を見るだけで問題ありません。
しかし、実際に自社の従業員の給料が最低賃金以上になっているかを確認するためには、細かい計算も必要です。
また、計算によって自分自身の給料が最低賃金以上かを確認もできます。

新しい最低賃金をもとに、支払われている賃金が最低賃金以上かどうか計算する方法を紹介します。
最低賃金を下回っている場合には、違法性もあるため慎重に判断することが必要です。

最低賃金の計算

支払われている賃金が最低賃金以上になっているか確認するためには、その対象となる賃金を最低賃金表と比較できる形に計算し直すことが必要です。
正社員やアルバイトなど、様々な働き方の人が最低賃金の対象となるため、時間給や月給制、出来高払いなどの給料形態ごとにそれぞれ正しく計算しなければいけません。

・時間給の場合
時間給制の場合には、最低賃金の額も時間額であるため、そのまま比較ができます。契約した時間給が最低賃金額以上の場合には問題ありません。

・日給制の場合
日給制の場合には、日給を1日の所定労働時間で割り、時間額に直してから最低賃金額と比較します。
また、日額が定められている特定最低賃金の適用となる産業の場合には、そのまま日額を比較可能です。

・月給制の場合
月給制の場合には、月給を1カ月当たりの平均所定労働時間で割ったものを最低賃金と比較します。

・出来高制・その他請負制の場合
出来高払いやその他請負制などで働いている従業員の場合には、賃金総額を賃金計算期間中の総労働時間で割って時間当たりの金額を出して比較します。

・計算方法が混在している場合
基本給のみが日給制で手当が月給制のような場合には、それぞれを時間給に換算し直して最低賃金と比較することが必要です。

正社員の場合には基本給が最低賃金以下は違法

最低賃金法では、企業は従業員に最低賃金以上の給料を支払うことを義務付けており、最低賃金に満たない賃金で働かせることは違法です。
正社員の場合には、その対象となるのは基本給で、正社員では基本給が最低賃金を下回った場合には違法となるため注意が必要です。

労働契約を違法な金額で結んでも、その契約は無効となり、最低賃金で契約したものと見なされます。
また、違反した企業には、50万円以下の罰金が科せられることもあります。企業側に悪意がなかったとしても、罰金のリスクは変わりません。

対象とならない賃金を含んでいないか注意を

最低賃金制度は、すべての労働者が対象となりますが、賃金の中には対象とならないものもあります。
対象となる賃金とそうではない賃金を明確に区別できないと、正しく計算、比較できません。

最低賃金制度の対象とならない賃金には、臨時に支払われる手当や賞与などの毎月ではない賃金、時間外割増賃金や休日割増賃金などがあります。
また、通勤手当や家族手当なども対象外です。こうした手当を支払っている場合には、対象外の手当を差し引いて最低賃金を比較しなければいけません。

対象とならない手当が多く、対象となる手当が少ない人は、同じ給料額を支払っていても、対象となる手当が多い人より最低賃金を下回るリスクが高くなります。

最低賃金を下回っている場合の対応

従業員の給料が最低賃金を下回っていた場合には、賃金を見直し、最低賃金以上に変更する必要があります。
最低賃金の変更前に交わしていた雇用契約を改めて締結し直す必要はありません。
給与額を変更したことは、給与明細などに記載して従業員本人に通知する必要があります。

就業規則で賃金を定めている場合には、就業規則の変更が必要です。

最低賃金の適用対象外となるケースもある

最低賃金はすべての労働者に適用されると述べましたが、一部のケースでは最低賃金の適用対象外となることもあります。
最低賃金の減額の特例として対象外となるのは以下のような労働者です。

  • 精神または身体の障害により著しく労働能力の低い方
  • 試みの試用期間中の方
  • 基礎的な技能などを内容とする認定職業訓練を受けている方のうち、厚生労働省令で定める方
  • 軽易な業務に従事する方
  • 断続的労働に従事する方

これらの人を雇用する企業は、最低賃金を一律に適用させることによって雇用の機会を狭める恐れがある場合に限り、都道府県労働局長の許可を得て適用対象外とすることが認められています。

ただし、上記のような人を雇用する場合でも、都道府県労働局長の許可がなければ最低賃金を下回ってはいけません。

最低賃金問題のトラブル回避のためにやっておきたいこと


最低賃金のトラブルは、事前に回避できるように企業内の制度を見直すことが大切です。
悪意の有無は関係なく、最低賃金を下回ることは罰則の対象となり、従業員にも不信感を与える重大な問題となります。
労使が円満に協力して企業を発展させていくために、最低賃金のトラブルを防ぐ対策を講じてください。

地域手当を創設する

地域手当の創設は、日本の各地に拠点を持つ企業に向いている対策です。
都道府県を超えて支店や支社を持つ場合、統一して全社を見直すと、最低賃金の低く設定されている地域の従業員と高く設定された地域の従業員の間で実質的に差が生まれます。

地域ごとに平等に最低賃金の条件をクリアするためには、地域ごとに生計費の差を考慮して柔軟に対応できる地域手当の創設が適切です。

昇給時期を変える

昇給を春先に定めている企業のうち、最低賃金の改定にうまく対応できていない企業は、最低賃金改定に昇給時期を合わせることも必要です。

昇給を何度も行うことは、関係部署の作業を増やし、従業員全体の賃金のバランスを乱します。
そのため、昇給時期を変えることで、最低賃金の改定に合わせられるシステムを作ります。

初任給も定期的に見直す

最低賃金は当然、初任給にも反映させる必要があります。しかし、正社員の初任給の見直しを長く行っていない企業は多いものです。
初任給の見直しも定期的に行っていかないと、最低賃金法にうっかり違反していたという事態も起こりえます。

また、初任給と学生時代のアルバイトの時給を比較し、やる気を損なう若者もいます。
アルバイトの賃金は上昇しているため、初任給の見直しを怠ることは若年層を失うリスクにもなりかねません。

人事評価の最適化も必要

給料額の決定では、従業員が納得できるような人事評価を行うことも必要です。
従業員の貢献度や目標達成度などを、賃金に適切に反映させられる評価制度を構築します。

最低賃金引き上げ時に活用できる支援制度


賃金引き上げの際には、元手となる資金が欠かせません。しかし、中小企業やスタートアップ企業など、資金不足によって最低賃金に対応できないことも考えられます。
最低賃金の改定によって賃金引き上げが必要となった際に、使える支援制度を紹介します。

事業再構築補助金

事業再構築補助金はこれまで5回実施され、第6回として2022年6月30日までの公募期間のものも始まっています。
この補助金には「最低賃金枠」が第3回公募から新設され、最低賃金の改定の影響を受けた企業に対して支援が行われるようになりました。

事業再構築補助金は、中小企業庁で実施している補助金制度で、新型コロナウイルスまん延に際し、ポストコロナやウィズコロナ時代に対応する中小企業などの支援を行っています。
通常枠・卒業枠・グローバルV字回復枠など複数の募集枠を持ち、そのひとつとして最低賃金枠が設けられました。

事業再構築補助金について詳しくははこちら>>>
事業再構築補助金|第3回の採択結果を分析。最低賃金枠の採択率が8割に!

キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)

キャリアアップ助成金は、いわゆる非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進する助成金制度です。
正社員化コースや障害者正社員化コースなど、多彩なコースがありますが、その中の賃金規定等改定コースが最低賃金への対応に利用できます。

同コースでは、すべてまたは一部の有期雇用労働者などの基本給の賃金規定を改定し、増額した場合が対象です。
助成金額は、対象労働者の数に応じて変わります。

キャリアアップ助成金について詳しくははこちら>>>
【専門家監修】キャリアアップ助成金 2022年4月における変更点とは

働き方改革推進支援センター

働き方改革推進支援センターは、主に中小企業や小規模事業者のための相談窓口です。働き方改革に向けて就業規則や賃金規定の見直しなどの課題に対応します。
全国47都道府県に設置されており、すべての事業者が利用できます。

賃金引き上げの対応のために活用できる支援制度や助成金の紹介などもあるため、上記補助金などにタイミングや条件が合わなかった事業者も相談してみましょう。
利用は無料で、社会保険労務士などの専門家がアドバイスを行っています。

まとめ

最低賃金の改定で、それぞれの企業でも従業員の賃金の見直しが必要です。
しかし、現実的には厳しい資金繰りの中で対応を迫られる企業も多く、賃金の引き上げが難しいケースもあるかもしれません。

最低賃金の見直しと引き上げが必要な企業は、支援制度も活用して適切に対応してください。
また、最低賃金への対応が例年うまくいっていない場合には、根本的な見直しも必要です。最低賃金を守り、労使関係に信頼と安心を与えましょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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