開業時の困難をどのように乗り越えたか。社労士事務所に設立エピソードをインタビュー。
「何度見たか分からないほど見た」開業準備において役立った創業手帳の活用方法とは
人を雇用する際に必要な書類手続きや就業規則の制定など、「労務管理と社会保険の専門家」として企業をサポートしてくれる社労士。
社労士の業務内容や起業する際に活用するポイントについて、東京・江東区に事務所を構える栗城恵社労士にインタビュー。前編では、社労士に相談・依頼できる業務について、同社労士事務所がこれまで手がけてきた依頼内容などを例にしながらお聞きしました。後編では、同社労士自身が社労士を目指した経緯や、創業手帳を活用して開業した際のエピソード、これからの起業家へ伝えたいメッセージなどについて聞きました。
栗城社会保険労務士事務所 代表
2014年に社会保険労務士試験合格。2017年に栗城社会保険労務士事務所を開設。ベンチャー企業の社外人事部として、社会保険の手続きや人事制度の整備等を行う。留学経験を活かし、外資系企業や外国人労働者を雇う企業への対応にも積極的に取り組む。企業や大学での講師を務めるほか、社労士向け専門誌などの執筆活動も行う。プライベートでは2児の母であり、自身も仕事と育児の両立を通して現在進行形で働き方改革中。
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この記事の目次
全体像と具体的な施策を創業手帳で把握しながら、一つずつ着実に開業準備を進める
栗城:きっかけは2つあります。ひとつは、先天性の病気で足が悪い私の母にまつわることです。先天性の障害がある場合、『障害年金』を受け取れる可能性が非常に高いのですが、当時、母も未成年の私もそんなものがあるとは知りませんでした。長いあいだ申請をしておらず、申請しようかとなったときにはすでに年齢制限で申請できなかったんです。一方、母のリハビリ仲間の方は実は障害年金を受給していたということを後から知って、社会保障の知識があるかないかで生涯において何千万円という差が生まれるのかと思う経験をしました。
2つ目は、私自身の女性としての生き方を考えたときです。大学の女性の先輩から、将来のキャリアの話や悩みを聞く機会が多く、結婚して出産して子育てをして、ということを自分自身も考えるようになったことはやはり一つの大きな転機でした。
そういうきっかけの延長線で社会保険の制度について調べたり興味を深めていくうちに『社会保険労務士』という資格を知り、働きながら2014年に社労士試験に合格。先輩社労士の事務所で修業したり、年金事務所で年金相談員など実務をさまざま経験したりしたのち、2017年に事務所を開設したという経緯です。
栗城:開業時には、まさに創業手帳にお世話になりました。
インターネットでもいろいろ情報を入手することができる時代ですが、どうしても情報が断片的になります。開業の流れの全体像が一冊にまとまっている創業手帳を手元に置いておくことで、必要な準備に抜け漏れがないかを一つ一つ確認しながら、着実に開業を進めていける点が安心でした。
栗城:事務所開設時の課題は「お客様をどのように増やしていくか」ということでした。それを乗り越えるときに活躍したのも創業手帳です。6章『販路拡大』(当時)には、集客や人脈づくりのためにやるべきこと、できることが一覧表になっていると思いますが、ここは何度見たか分からないくらい特に参考にしました。
社労士の先輩方に開業時の話を聞いてみても、「私の場合はこういう制度を使ってこういうことをした」という個別の体験については教えていただけてとても参考になり実践するのですが、それが私自身の開業に合うのかどうかというのはやっぱり分からないんです。
創業手帳では、人脈を作る、ネットワークを広げるための具体的な行動が一目で分かる形になっているので助かりました。やるべきことの全体像が見えているという安心感があるからこそ、「次はこうやってみたらどうかな」と挑戦できるという点も非常にありがたかったですね。今でも、毎年の計画を見直すときに活用させてもらっています。
「社労士がいるからこそ、日本には労務管理をしっかり行い人を大切にするいい会社がある」と言われるような仕事を目指す
栗城:業務をお手伝いするだけに留まらず、労務管理に関して「安心だ」とお客様に感じてもらえたときには、すごくやりがいを感じますね。また、最近では、ある依頼主から「人を増やすために採用チームを作りたいから、キックオフミーティングに参加してくれないか」と頼まれることがありました。組織を作っていこうという場に、会社と同じ方向を向いて参加できていることがすごく嬉しかったですね。
栗城:業界全体の大きな話にもなってしまいますが、「日本企業の挑戦と活躍を支えるような存在でありたい」と考えています。
実は、海外の多くの国には社労士という資格や職業はありません。労務管理や人事のことはコンサル会社に相談するのが海外では一般的で、社労士は日本特有の職業と言えます。
同じく日本特有の職業といえば、アニメなどで活躍する声優さんも、実は日本特有の職業です。日本アニメは海外でも人気ですが、海外の人は自国語の吹き替え版ではなく日本語音声のままで見る人も少なくないと聞きます。日本の声優さんがすごく上手だから、その声で聞きたいということですね。
日本特有の職業である声優さんの功績があるからこそ日本アニメが高く評価されている。それと同じように、「日本特有である社労士がいるからこそ、日本には良い会社が多い」そう言われるような仕事がしたいと考えています。
今後の起業家に向けてメッセージ「制約のなかで今できる小さな一歩から」
栗城:事務所を開いたとき0歳の子どもがいて、手もかかるし、夜に仕事に出ることもできませんでした。おむつ替えやミルクなどは父親でもできますが、特に生まれたばかりの時期は、母親としての役割は特に大きかったです。そういう面で、時間的な制約はやっぱりすごくありましたし、子どもが4歳と2歳になった今でも、時間のやりくりには工夫を続けているところです。
栗城:父親と一緒に取り組むことですね。特に育児においては、自分がいつ仕事に出かけても子どもの面倒を見られるように、はじめから夫婦で一緒に子育てをしてきました。ミルクもおむつ替えも最初から任せていたことで、私自身も任せることに不安がないし、子どもも父親に対して安心だと思えるという感覚が持てているように思います。
最近ではオンラインで家にいながら仕事が済むことも多いですが、どうしても外出しなくてはいけないときに任せることができたというのは良かったと思います。
栗城:時間的な制約に苦労したというお話をしましたが、一方、今は働き方改革やオンライン化なども進んでますし、スキマ時間を見つけて起業するというやり方も増えてきています。まずはどんなに小さなことでもいいので、今ある制約の中でもできることから始めるという視点を持ってみるといいんじゃないかなと思います。
私自身の過去を振り返ってみると、子どもが0歳のときに事務所を開設するというのはもちろんすごく大変でしたが、かと言ってあの時やらなかったらいつやっただろうかとも思います。思い立ったが吉日とも言いますし、あのとき行動していなかったら、ただ時間が過ぎていただけかもしれません。考えていただけでは分からなかったことだってたくさんあっただろうと思います。
行動してみると出会う人や環境、景色が変わって、はじめは小さかった一歩がどんどんと大きくなっていくはずです。行動するということは、多くの壁にぶつかり大変なこともたくさんありますが、それでもやっぱり行動しないと分からない世界があるので、小さなことでもいいので、ぜひまずは一歩を踏み出してもらえればなと思います。