「起業のしやすさ」4年連続で世界1位!ニュージーランドの起業事情をご紹介します
海外企業向けの起業家ビザやニュージーランド政府の支援策とは?女性起業家も活躍する理由
国内の事業経験をもとに「海外での起業」を視野に入れる場合、日本でのビジネス経験を活かせる国はどこでしょうか。
じつは、先進国や経済成長が著しい各国では「起業へのハードル」を下げており、海外企業でもビジネスを始めやすい環境を整えようとしています。
そんな国々における「起業のしやすさ」を数値化したランキングにおいて、4年連続1位を獲得しているのが、ニュージーランドです。
今回は、日本での成功の先にある「海外起業」を検討されている方向けに、ニュージーランドの起業事情についてご紹介します。
この記事の目次
総合ランキングで4年連続1位のニュージーランド
世界銀行による「ビジネス環境の現状/Doing Business」では、起業のしやすさの指針を10項目に分けて数値化し、190カ国(地域)を順位付けしています。
- <起業のしやすさの指針10項目>
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1.資金調達のしやすさ(Getting Credit)
2.起業のしやすさ(Starting a Business)
3.電力調達のしやすさ(Getting Electricity)
4.資産登記のしやすさ(Registering Property)
5.少数株主の保護(Protecting Minority Investors)
6.建設認可の取扱(Dealing with Construction Permits)
7.破産・破たん処理(Resolving Insolvency)
8.海外貿易(Trading across Borders)
9.契約履行(Enforcing Contracts)
10.納税(Paying Taxes)
ニュージーランドは4年連続で総合1位を獲得しており、実際に中小企業(個人事業主を含む)が多く、それを裏付けるかのように「中小企業担当大臣」という役職があるほどです。
なお、2位シンガポール、3位に香港と続いており、日本はなんと29位という結果でした。
どのような観点で起業しやすいと評価されているのか
最新ランキングは「ビジネス環境の現状2020」ですが、どのような観点で「起業しやすい」と評価されているのでしょうか。
じつは、起業時に必要となる資金調達や税金関連、起業手続きのしやすさなどの10項目を数値化しており、それぞれでランキング結果を発表しています。
- <10項目の内訳:ニュージーランドは総合1位>
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1.資金調達のしやすさ(Getting Credit)1位
2.起業のしやすさ(Starting a Business)1位
3.電力調達のしやすさ(Getting Electricity)48位
4.資産登記のしやすさ(Registering Property)2位
5.少数株主の保護(Protecting Minority Investors)3位
6.建設認可の取扱(Dealing with Construction Permits)7位
7.破産・破たん処理(Resolving Insolvency)36位
8.海外貿易(Trading across Borders)63位
9.契約履行(Enforcing Contracts)23位
10.納税(Paying Taxes)9位
ニュージーランドは、「起業のしやすさ」「資金調達のしやすさ」では1位、「資産登記のしやすさ」で2位、「少数株主の保護」で3位を獲得しており、総合ランキングで1位となりました。
日本は29位と改善の余地がある起業環境
では、日本のランキングはどのような結果だったのでしょうか。
起業家・経営者の方は身をもって体験されていると思いますが、日本は総合ランキング29位と残念ながらあまり芳しくない結果となっています。
- <10項目の内訳:日本は総合29位>
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1.資金調達のしやすさ(Getting Credit)94位
2.起業のしやすさ(Starting a Business)106位
3.電力調達のしやすさ(Getting Electricity)14位
4.資産登記のしやすさ(Registering Property)43位
5.少数株主の保護(Protecting Minority Investors)57位
6.建設認可の取扱(Dealing with Construction Permits)18位
7.破産・破たん処理(Resolving Insolvency)3位
8.海外貿易(Trading across Borders)57位
9.契約履行(Enforcing Contracts)50位
10.納税(Paying Taxes)51位
とくに、ニュージーランドが1位の「起業のしやすさ」は106位であり、調査した国・地域数が190であることから、半数より下のランクという結果です。
これは、オンラインで簡単にできる届け出が少ない点などが要因とされています。一方で、トップ10圏内の項目は「破産・破たん処理」で、3位と高評価です。
とはいえ、「起業しやすい・ビジネスしやすい」という観点から考えると、手放しで喜べる項目ではないかもしれません。ただし、「再起しやすい」とは解釈できます。
ニュージーランドよりも上位だったのは、「破産・破たん処理」と「電力調達のしやすさ」のみとなっており、日本の起業手続きには改善の余地があるといえます。
ニュージーランドの起業までのハードル
ランキングで目を引くのは、やはり項目別1位の「起業のしやすさ」です。
これは、主に起業に関する書類の手続き関連を指しており、ニュージーランドは会社の登録がオンライン申請となっています。
会社設立となると、多くの書類やステップが必要ですが、ニュージーランドでは書類準備等が完了していれば、登録自体は1日で完了します。
ただし、実際にはニュージーランドのビジネス番号の取得や、収入などで一定の基準を満たす場合は、税務局(IRD)にてGST登録(※)が必要です。
また、ニュージーランドに在住しているダイレクター(ディレクター)が最低1人は必要であるなど、申請手続きに関連したハードルがあります。
- <ニュージーランドで起業するときのハードル>
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- ビジネス番号の取得
- 税務局(IRD)のGST登録
- ダイレクターが最低1人は必要(ニュージーランド在住者)
また、10項目のうち6項目がトップ10にランクインしていますが、「電力調達のしやすさ」「破産・破たん処理」「海外貿易」はトップ30にも入っていません。
なかでも「電力調達のしやすさ」は、新しく事務所や居を構えるときの電気開通がしにくいといったこともあり、必ずしも「日本人などの外国人がニュージーランドで起業しやすい環境が整っているわけではない」と言えます。
(※)GST登録とは、日本の消費税に相当する付加価値税のこと
ニュージーランドは個人事業主・中小企業が多い
4年連続で起業しやすい国1位となっているニュージーランドですが、日本人などの外国人が起業するときは「ビザの種類」にご注意ください。
さまざまな種類のビザがあり、働き方に制限のあるビザでは起業できません。そのため、起業を奨励する「起業家ビザ」などの取得が必要です。
また、起業のしやすさの項目を詳しく見ると、「株式または有限会社の設立に伴う起業のしやすさ」が1位獲得の大きな要因となっています。
これはスタートアップ企業も対象となり、ニュージーランドの多くの中小企業は、ソロトレーダー(Sole trade)と呼ばれる個人事業主が含まれています。
日本とニュージーランドでビジネスを行う場合、中小企業だけでなく、ソロトレーダーをはじめとする個人事業主との取引も想定しておきましょう。
外国人起業家を積極的に誘致する「起業家ビザ」とは
ニュージーランドには、起業を目的とした移住を奨励する「起業家ビザ(Entrepreneur Resident Visa)」があります。
これは、「革新的でニュージーランドの輸出に貢献する可能性のあるビジネスを設立する人に、永住する機会を与える」という前提に基づきます。
起業家ビザは、ニュージーランドで2年の自営業実績、または投資・雇用を伴う6カ月の自営業経験といった要件を満たすことで、ゆくゆくは永住権獲得につながるものです。
- <起業家ビザの永住権獲得の要件(※一例)>
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- ニュージーランドで2年の自営業経験がある
- 投資や雇用を伴う6カ月の自営業経験がある
海外企業でも取得しやすい要件であることから、ニュージーランドの企業といえども、実際には現地生まれ・現地育ちではない経営者の方も多くいます。
そのため、ニュージーランドで起業するときは、世界各国の多様な国民性や、独自の慣習に対応するビジネススキルが求められることもあるでしょう。
個人事業主(Sole Trader)
個人事業主としての起業の場合は、働くことができるビザを取得していれば外国人であっても可能です。
例えば、2国間の協定に基づき、滞在するための資金調達として働くことができる「ワーキングホリデービザ」などでも、ビザの期間内であれば起業できます。
なお、ニュージーランド国内で働く人は全員、IRDナンバーと呼ばれる「納税者管理番号」を取得しなければなりません。これは、オンラインで簡単に申請できます。
株式会社(Limited Liability Company)
株式会社など「会社」の形態をとる場合は、会社登録が必要となります。会社登録の手続きの簡単さこそが、ニュージーランドが起業しやすい国1位となっている大きな要因です。
なお、海外企業の形態は「現地法人」「支店」「パートナーシップ」「ジョイントベンチャー」「個人事業主」「信託」の6つに分かれるため、詳しくは日本貿易振興機構(JETRO/ジェトロ)の公式サイトをご参照ください。
海外企業向けのニュージーランド政府の支援策
ニュージーランドは起業の手続きが簡単であるとご紹介しましたが、もうひとつ注目したいのが、「資金調達のしやすさ」が1位であることです。
起業を考える場合、「どのようなビジネスにするか」という内容やユニークさなどが重要であると同時に、その事業を着実に育てて存続できるかもポイントになります。
とくに新規市場の開拓などを目指す場合は、短期間でビジネスを構築し、大きく事業を展開していくことが求められます。
そういった企業はスタートアップと呼ばれ、なかでも海外企業の急成長による「ニュージーランド国内の経済活性化」という流れが期待されているのです。
ここからは、海外企業へのニュージーランド政府の支援策についてご紹介します。
資金調達や税制などで公的にバックアップ
スタートアップ企業にとって、自分たちが掲げる新しいビジネスに興味を示してもらえるか、また投資をしてもらえる環境が整っているかは重要です。
ニュージーランドは国内市場が大きくないため、大規模な資金調達が難しかったことも影響し、政府が積極的に支援をしています。
例えば、投資家にとって所有する株式・債券の値上がりは望むところですが、日本の場合は、差分で生まれた利益(キャピタルゲイン)は課税対象です。
一方で、ニュージーランドはキャピタルゲインが通常は非課税なので、投資家が積極的に投資しやすい環境を整えています。
そのため、「エンジェル投資」と呼ばれる創業間もない企業に対する投資も盛んに行われており、「資金調達のしやすさ」でも項目別1位を獲得しているのです。
スタートアップ企業のための支援策
創業間もない企業を支えるための支援策として、ニュージーランド政府が力を入れているのが「インキュベーション組織」の運営(※)です。
インキュベーションとは、スタートアップ企業などに対して、国や地方自治体が経営技術・金銭・人材などを提供し、育成することを指します。
このような支援策が生まれた背景には、ニュージーランド国内の市場規模が決して大きくないことが関係しています。
つまり、従来は容易ではなかったスタートアップ企業などの資金調達に対して、政府がさまざまな支援策を実施した結果、「資金調達がしやすい国」となったのです。
(※)「クリエイティブHQ」というインキュベーション組織があります。
ニュージーランドの代表的なスタートアップ企業
なお、ニュージーランドの代表的なスタートアップ企業は、クラウド会計ソフトのXEROです。
2007年にニュージーランド証券取引所で上場し、1,500万NZD(ニュージーランドドル)の新規公開株式となりました。その後、オーストラリア証券取引所にも上場しています。
XEROのクラウド会計ソフトは世界各国で使用されており、現在はニュージーランドを代表する企業のひとつとなっています。
日本企業と現地スタートアップ企業の連携は消極的
ニュージーランドには多くの日本企業も進出していますが、こういった日本企業と現地スタートアップ企業との連携は進んでいるのでしょうか。
日本貿易振興機構(JETRO/ジェトロ)の「海外進出日系企業実態調査 アジア・オセアニア編」によると、
コロナ禍の影響がある中、「連携している・連携する予定がある企業」と「連携していないが、連携への意思・関心がある企業」がほぼ半数となりました。
しかし、ターゲットとする市場はニュージーランド国内が多く、次いでオーストラリアと日本がほぼ同数となっています。
この結果から、スタートアップ企業への関心は高いながらも、ニュージーランドと日本を結ぶビジネスの展開には、まだ時間がかかると言えるでしょう。
女性起業家が活躍しやすい国としても高評価
ニュージーランドの「起業のしやすさ」は、ほかの調査でも高い評価を得ています。
2020年11月に発表されたMastercardの「女性起業家のビジネス進出トップ経済国・地域ランキング」によると、58カ国・地域の中からイスラエル・アメリカ・スイスに次いで、4位にニュージーランドがランクインしています。
このランキングは「女性活躍推進活動」「知識資産・金融サービスへのアクセス」「起業家のサポート環境」をメインに、12項目と25の副項目で評価したものです。
その中で、ニュージーランドは「ビジネスのしやすさ(Ease of Doing Business of Entrepreneurs)」「ガバナンスの質(Quality of Governance)」で1位を獲得しています。
このように、ニュージーランドはジェンダーに関しての姿勢も成熟しており、女性起業家が活躍しやすいビジネス環境であると評価されています。
まとめ
同じ島国として日本と共通点があるニュージーランドは、環境対策に力を入れており、環境保全先進国としても見習いたい点が多くあります。
近年ではオーガニックの分野でも注目されており、人気のオーガニックコスメ「アンティポディース」が海外展開するなど、活発な動きを見せています。
また、日本でも関心が高まっている「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」では、2020年の達成度ランキングでニュージーランド16位、日本17位と非常に似通った状況です。
すでにスタートアップ企業として活躍しているXEROをはじめとしたIT関連企業のほか、今後はさらに環境関連のビジネス市場の拡大が期待されています。
(編集:創業手帳編集部)