約270日間、23カ国「考え方を変えられた世界一周旅行」|車椅子トラベラー×創業手帳 vol.2

創業手帳
※このインタビュー内容は2020年12月に行われた取材時点のものです。

人間の可能性の極限とは。車椅子で世界一周を達成した三代達也氏に聞きました

車椅子トラベラー三代達也さんインタビュー

厚生労働省によると、障害を持っている人は「936万人」との統計結果があります。これは東京の人口に近いほどの人数です。では、体の一部が機能しないことで行動を大きく制約された人たちが、挑戦し始めたらどうなるでしょうか。

今回は、車椅子で世界一周を達成した三代達也氏と創業手帳が、人間の可能性の限界=地平線を探るシリーズ第2弾。「約270日間、23カ国を周った旅の中でもっとも印象的だったパリのエピソード」について聞きました。

前回までの記事はこちら
車椅子で世界一周を達成した人の「限界の超え方」|車椅子トラベラー×創業手帳 vol.1

三代達也(みよたつや)

1988年11月30日 日立市出身 川崎市在住。
18歳の頃バイク事故で首の骨を折り頸髄を損傷、両手両足に麻痺が 残り車椅子生活を余儀無くされる。 会社員の時に一人でハワイに旅行し、世界観が広がる。その後海外の暮らしに憧れを持ちLAやオーストラリアに短期移住。 帰国後会社員として再度働き、お金を貯めてから世界一周を決意。約9ヶ月間23カ国42都市以上を回り、世界一周達成。
現在は車椅子の旅人として全国で講演活動を行いながら、エイチ・アイ・エスユニバーサルツーリズムのスペシャルサポーターとして、国内外に赴き車椅子でも旅行しやすいツアー造成の監修などを行なっている。
2019年7月に光文社より「No Rain, No Rainbow 一度死んだ僕の、車いす世界一周」を出版。トミーヒルフィガーアダプティブオフィシャルサポーター。旅や車椅子の日常を発信する【Miyo channel】YouTubeチャンネルを運営

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僕はパリを1日で嫌いになり、そして好きになった

長い長い世界一周の旅。それはもう数え切れないほどの出会いがあって、その度にエピソードが生まれます。なかには僕の生き方や、考え方を大きく変えるほどインパクトを受けた出会いもありました。

今回は、それらの一部をご紹介したいと思います。

チュイルリー庭園チュイルリー庭園にて

花の都・パリ観光1日目、僕は心を躍らせてホテルを飛び出しました。目的地は、もっとも楽しみにしていたルーブル美術館。コンコルド広場でバスから降りて、チュイルリー庭園を突っ切るとルーブル美術館にたどり着きます。

いざ到着すると、チュイルリー庭園は砂利道だったので、車椅子にはかなり辛いものがありましたね。ここで目の前からやってきた3人組の女性に声をかけられました。

「英語を話せますか?」

真ん中に40代くらいの女性、その両脇に20歳前後の若い女性たち。少しなら話せますよとフランクに回答すると、彼女たちは自己紹介をしてきました。

「私たちは、車椅子や聴覚に障害がある方達を支援している団体です!」
「もしよろしければ、こちらに署名をお願いします。」

おぉ、これは助かる!

署名に快諾し、この砂利道を押してもらおうかと考えていると、バインダーと用紙を渡されました。署名を書き進めると、最後にDonationという枠があったので気になって聞いてみました。

「これはどういうこと?」

彼女たちは「団体のために寄付金を募っているのです」と一言。しかしながら、昨夜遅くにイギリスから来たばかりで、財布にはイギリスのお金しかない……

「今、英ポンドしか持ってないから、ごめんね」

と私が言ったら「コインでもいいんです、お願いします!」というのでコインを探すのに財布を出してみたら、とある事情により持っていた20ユーロ札が1枚。

うーん、20ユーロ(約2500円)か、ちょっときついな〜と渋っていると……

声をかけてきた女性は“なんだ20ユーロあるじゃん!”といった顔で、スッと20ユーロを自分のポケットに入れて、お礼もそこそこにどこかへ行ってしまったのです!

いや〜フランスの募金活動はいささか強引だな……なんて思いながらも、自分のお金がそういう団体に役立つなら良しとしよう!あ、でも結局、車椅子を押してもらえなかった……よし頑張ろう。

と切り替えて、ルーブルに到着。モナリザやミロのヴィーナスなどを見て回り、そろそろ帰ろうかと考えていたところ、たまたま美術館の敷地近くに両替所を見つけました。

そこで、イギリスのお金すべてと、日本から両替用に持って来た現金5万円を両替しようとしました。ところが!いくら探してもその5万円が見つからないのです。僕はすぐにあの時だと確信しました。そう、彼女たちです。

彼女たちは20ユーロを抜き取ったときに、たまたまその隣にあった5万円まで一緒に抜き取ってしまったのです。いやはや一瞬財布を出したほんのコンマ何秒、しかもこちらが気づかぬうちに、鮮やかに数枚の紙幣を奪い颯爽と去っていく。これがパリ……正直、結構ショックでした。

というのも、その5万円は日本の友人が「三代の海外旅行の力になれるなら」「何かの足しになるのなら」と餞別としてくれたお金だったからです。ただの5万円ではない……僕は自分への情けなさで、とぼとぼとホテルに戻りました。

ドミニクとの出会い

これだけで話が終われば、ただの旅の失敗エピソードですが、ここから僕の考え方が大きく変わる重要な展開が訪れます。

ホテルに戻ると、受付にチェックインの時にも会った優しそうな雰囲気のおじさんが立っていました。本名はドミニク、私はパッと見た雰囲気からピエールと命名し、勝手に心の中で呼んでいました。

ドミニクと

ホテルに入るなり、僕はこのやるせない気持ちを誰かにぶつけたくなり、気がつくと優しそうなピエールの雰囲気に甘えて、今日あったことを話していました。

ピエールは私の話をゆっくりと受け止め、少し考えたあとに、“それはパリでは詐欺の常套手段なんだ”と静かに教えてくれました。

そして、ピエールも昔パリで色々な被害に遭ったことを打ち明けてたのです。それにしても、障害者を支援する団体が「車椅子ユーザーにお金をたかる」なんて世も末だと思いましたね。

「僕は哀しい。もうパリが嫌いになりそうだ、ルーブルがトラウマになってしまったよ。」

そう訴える僕に、ピエールはずっと優しい目で頷いて30分近くも話を聞いてくれました。ピエールは何も悪くないのに、ただただ僕の愚痴をひたすら受け止めてくれたのです。

僕はハッと我に返ってピエールに謝り、そして話を聞いてくれたことにお礼をしました。夜も更けていたので連絡先だけ交換して、記念にセルフィーを撮って別れました。翌日、朝起きると、なんとピエールからメールが届いていました。

「実は、昨日のMiyoの話を受付やメイドさんたちに話したんだ。そしたら、朝食を毎日無料で出してあげようよって決まったんだ!」

「みんなが喜んで三代のためにアレンジするよって言ってくれた。あと、何かあったらこの番号にかけてくれれば、いつでも助けになるよ。TEL### ドミニクより」

今泊まっているホテルでは、朝食が高額のため元々素泊まりでした。(朝食はなんと15ユーロ=2000円!)そんな中、ドミニクのメールを見た瞬間に泣きそうになりました。

朝食をメイドさんたちが毎日部屋まで運んでくれて、そして観光から帰ってくると、受付に立っている人たちはいつも声をかけてくれて……

「三代、今日は楽しかった?良い人に出会えた?美しい景色を眺めることができた?」

落ち込んでる僕に、あえてポジティブな話題を振ってくれていることに気づきました。最初のパリの印象は最悪でしたが、彼らのおかげで好きになれたのです。

人生の失敗はすべて経験とネタになる

それもこれもすべてピエールのおかげ。僕はピエールにメールをしました。

「もし時間があれば、ご飯でも行かないか?」

すると、返事は意外な内容だったのです。

「いいね、じゃあもう1回ルーブルに行こうよ。近くにご飯屋さんもあるからさ。」

え、僕のトラウマスポットにまたあえて連れて行くなんて、この方は何を考えてらっしゃるのでしょうか……?僕はご飯だけ誘ったんだけど……

しかしながら、どうしても連れて行きたいらしく、おとなしくピエールに連れられるがまま僕はルーブルに向かいました。夜のルーブルに着くと、前回来たときとは全く違う雰囲気を醸し出していました。

夜のルーブル美術館の外観

「今日は美術館がいつもより遅くまでやっているんだ、さぁ行こう!」

どうやらピエールは大のルーブル好きらしく、僕が一人で散策したときとは比べ物にならないほどの情報量を持って、それぞれの美術品のことを面白おかしく説明してくれました。

閉館前で人は少なく、夜なので照明はやや薄暗く感じる……まさにナイトミュージアム。1時間ほど見て回って外に出たら、夜景が本当に綺麗でした。

さらにルーブルの周りにある歴史的建造物や、有名な観光スポットにとても楽しそうに案内してくれて、僕はいつしかピエールワールドに引き込まれていました。

映画「ナイトミュージアム」のような雰囲気

そして、ひとしきり夜の散歩を終えたあと、ピエールは立ち止まって夜空を眺めながら、僕に一言語りかけたのです。

「三代の悲しい思い出が残ってしまったルーブルを、楽しかったルーブルの思い出に変えてあげたかったんだ。」

その一言に体が震えました。僕はルーブルでの事件がきっかけで、パリが嫌いになっていました。しかし、結果的に好きになってパリを離れることができたのです。

すべてはピエール(ドミニク)というたった1人の男のおかげで。今回のことで僕は、自分の考え方が大きく変わりました。

なるほど、嫌な思い出は「そのあとの良い思い出」で上書きされちゃうんだなぁ。逆に嫌なことがあっても、このあと良いことが待ってるかも!

このような考え方にシフトできたら、この先どんなに辛いことが旅中に起こっても楽しく思えるだろうと。おそらく人生においても同じように、壁が山ほど現れて、挫折があって、葛藤があって、たくさん悩むことがあるかもしれない。

ただ、死ぬ前にこの人生は最高だった!って思える未来を決めつけてしまえば、それまでに起こる人生の失敗はすべて経験とネタになる。

だから何にでもチャレンジできる。僕は何をやっても良いんだ。そんな生きる上での考え方をピエールに教えてもらったパリの旅でした。

起業家・起業を目指している方へのメッセージ

起業家にとっても、最初の出会いや経験が最悪だと「二度とそこに向き合わない」ことがあるかもしれません。しかし、考え方をシフトして見方を変えると、じつはそこがビジネスチャンスだったり、最高の出会いになったりする可能性があるのです。

三代さんの旅の経験を通して、考え方ひとつで「自分の身に降りかかる出来事」の見え方が変わること、自信をもってチャレンジできる姿勢に感銘を受けました。

次回のシリーズ第3弾は「やりたいことを見つける」をテーマに、三代さんと創業手帳が人間の可能性の限界=地平線を探ります。

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(編集:創業手帳編集部)



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