倒産後も事業を継続させていくことができる?ー弁護士が倒産処理手続きの方法を解説
事業を継続させていく倒産処理手続きの方法があるのを知っていますか?
(2020/05/27更新)
新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の影響で、経営危機にある方や倒産することになってしまったという方もいらっしゃると思います。
「倒産」と聞くと、代表者は破産し、従業員が失業するといった印象をもつ方が多いです。しかし、これは間違いです。
倒産処理手続きの種類によっては、事業を継続していくという方法もあります。
今回は、10年以上弁護士として活躍する安田氏に、倒産処理手続きの種類や事業と従業員の雇用を守るためにできることを聞きました。
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2009年に京都大学法科大学院を卒業後、同年司法試験合格。1年間の司法修習を経て2010年より堂島法律事務所で弁護士として執務開始。2012年8月から2016年2月までエディオン株式会社に週の一部出向。2016年から1年間ニューヨーク大学ロースクールに留学し、2017年9月から2018年4月まで北京天達共和律師事務所に勤務。年5月から2019年1月までタイ三井物産株式会社でそれぞれ勤務した後、2019年2月より日本での弁護士業務に復帰して現在に至る。
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この記事の目次
「廃業」と「倒産」の違いとは?
廃業はその名のとおり、事業者がその事業を終えることです。資金繰り不安による廃業だけではなく、黒字企業が後継者不在のために廃業するなど、その理由も様々です。
一方で、倒産とは、一般的に資金繰りが破綻して事業を継続できなくなることを意味します。
倒産というと、会社と代表者が破産して従業員は全員失業し、事業が消えてなくなるイメージが強いかもしれませんが、後に述べるとおり、事業を継続するような倒産処理手続きも存在します。
倒産処理手続の種類を紹介
倒産処理手続きには、いくつかの種類があります。種類によっては事業を継続させていくこともできます。
その種類について解説していきます。
法的倒産と私的整理
法的倒産は、法律の根拠に基づいて裁判所の関与のもとで進める倒産処理手続き(破産、民事再生、会社更生、特別清算)です。
一方、私的整理は、法的倒産手続きを取らずに、債権者との合意によって債務を処理する手続きのことです。債務免除をせずに、銀行借入れの返済をリスケジュールするという合意も、私的整理の一種といえます。
清算型と再生型
株式会社の倒産を念頭においた場合、破産や特別清算は原則として事業を停止して行い、手続き終了後には株式会社が消滅する手続き(清算型)です。
一方、民事再生や会社更生は事業を継続したまま債務を縮減する手続き(再生型)です。 ただ、株式会社が破産をする場合でも、一部の事業については事業譲渡によって第三者に譲渡することで、事業自体は継続させるケースもあります。
事業活動を続けつつ、取引債務には影響を与えずに、金融債務のみカットやリスケジュールをする私的整理も再生型手続きの一種といえます。
このように、倒産といっても、必ずしも事業が消えてなくなるものばかりではありません。
一時的に資金繰りが悪化したり、実際に法的倒産手続きを行ったとしても、その後経営を立て直して存続している企業は数多く存在します。
事業と雇用の両方を守るためにできること
厳しい状況の中でも、事業と雇用の両方を守るためにできることはあります。
なかなか、ご自分では情報がなくて分からないということもあるでしょう。そこでいくつかの方法をご紹介します。
(1)倒産しても事業や雇用を守る
これまで述べてきたとおり、倒産手続きといっても色々な手法があります。足元の資金繰りが厳しくても、会社を存続させる方法があるかもしれません。
また、会社自体の存続が難しくても、事業や従業員の雇用を守る手立てがあるかもしれません。経営者が会社の債務を保証していた場合でも、経営者保証ガイドラインの利用などによって、個人としての破産を避けられる可能性もあります。
(2)支援策を利用する
最終的に、破産して事業を閉じる以外の選択肢がない場合もあるかもしれません。破産を余儀なくされる場合は、キャッシュを完全に使い果たす前に、ある程度手元に資金がある状態で手続きを開始しましょう。
そうすることで、従業員への解雇予告手当の支払など、スムーズに手続きを進められます。
しかし、突然破産して事業を閉じるとなると、従業員が職を失うだけではなく、取引先などにも迷惑をかけてしまうことになります。
現在、新型コロナの感染拡大によって影響を受けた事業者のため、日々様々な支援策が公表され、また検討されています。事業を続けるための方策が本当に残されていないのか、しっかりと検討することが必要です。
(3)専門家へ相談する
倒産を避けるための手立てが見つからず、倒産が避けられない場合には、どのように進めればよいのかを検討するなど、各種専門家に相談することで展望が開けるかもしれません。
資金繰りに不安がある状態では、経営者が受けるプレッシャーは極めて大きなものになります。一人で悩むことは避け、なるべく早期に、信頼できる専門家に相談することをおすすめします。
弊社代表・大久保が語る「今、できること」
よく誤解されがちですが、小さいスタートしたての会社では「倒産」はあまり発生しません。倒産は、ある程度の売上・投資規模になることで発生します。創業期や零細企業の場合は、倒産ではなく「廃業」「休眠」が多いでしょう。
全国で新型コロナ関係の「倒産」が100件以上発生していますが、それよりはるかに多いのが「コロナ廃業」なので、こちらの方が深刻です。
たとえば、お店で売上の先行きが不透明になったことから店を閉めるという場合は、「倒産」ではなく「廃業」ということになります。そのため、倒産よりも廃業の方が発生件数は多いのです。
「倒産」「廃業」を回避していくには、資金調達で多めに資金を用意しておくことが重要です。資金調達を多めに用意しておくと、経営者の時間が資金繰りに取られるということがなくなるため、経営・ビジネス自体に集中できます。
また、状況が悪化してしまってからでは、資金繰りの成功率は下がり、費やす時間も増えてしまいます。従って、資金繰りは「資金繰りを心配しなくてもいい余裕のある時期にやっておく」ことが望ましいです。
特に今は、新型コロナ関係の融資が出ているので、金利が優遇されています。金利が高い場合には、負債を圧縮した方が良いこともありますが、今回のような低金利・無金利状態では、キャッシュフローを多く確保しておく方がメリットは大きいです。
固定費を圧縮して変動率を下げ、キャッシュが手元に残る状況を作る
固定費を圧縮して変動費率を下げるということも非常に重要です。固定費とは、売上に関わらずかかる費用で、変動費は売上と連動して増える費用のことをいいます。
たとえば、正社員の固定給与や家賃などが固定費、仕入れや外注費用などが変動費に該当します。
変動費率を高くしすぎてオペレーションが不安定になったりと、あまりにもコストが割高になってはいけません。しかし、経営においては固定費が低く、変動費が高いほうが安全です。
一方で、固定費はすぐには削れないため、長期的な対策が必要になってくるでしょう。支払いサイトの調整なども、手元資金を増やす有効な手段です。
いずれにしても、キャッシュが手元に残る状況を作っておくことで倒産は回避できます。今回のような急激な変動にも耐えやすくなるでしょう。
また、手元現預金は、資金調達しやすい大手企業だと1ヶ月分、中小企業で2ヶ月分あるといわれています。中小企業よりも大手企業の手元現預金が少ないことを意外だと感じるかもしれません。
大手企業は資本市場や金融機関から借りやすいため、金利圧縮のために手元現預金を減らしているのです。
環境変動以外にも、実際には入金・支払のタイミングのズレもあるため、ある程度、現金のバッファー(ゆとり)をもっておく必要があります。今回の新型コロナで2ヶ月間休業となった場合、通常の中小企業にとってはかなり厳しい状況となることが理解しやすいのではないでしょうか。
- 早めに資金調達で余裕資金を残すこと
- 事業の先行きの経営的な判断
- 最悪の「倒産」「廃業」が回避できない場合は、早期に財務と法務の専門家のアドバイス
上記の3点が大事なので、頭に入れておくと良いかもしれません。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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(編集:創業手帳編集部)