事業計画書に欠かせない「損益計画」と「資金繰り計画」とは?専門家が両者の違いについても解説
中小企業診断士が事業計画書に必要な「損益計画」「資金繰り計画」の書き方やポイントを紹介します
(2020/05/17更新)
新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナとする。)の影響はすさまじいものがありますね。今後、国内外の経営環境の急激な変化が予想されるため、事業計画書の見直しは重要になってきます。
事業計画書は、将来実現する経営ビジョンや経営目標を設定し、それを実現するための行動計画と数値計画で構成されます。
創業期前後の経営者の中には、数値計画、とくに「損益計画」と「資金繰り計画」の違いにお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、事業計画書を構成する「損益計画」と「資金繰り計画」の違いについて、財務会計領域を専門とする中小企業診断士に話を伺いました。
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この記事の目次
事業計画書はなぜ必要なのか
今回の新型コロナのように、不確定な要素が多い経営環境下で企業が存続していくためにも、「事業計画書」の重要性が益々高まっています。
事業計画書とは、企業が将来に向けての経営ビジョンや数値目標を設定し、それを実現するために、将来と現在のギャップを埋めるための行動計画のことをいいます。
企業が事業計画書を策定する目的としては主に、次の3つがあります。
- 企業を存続させる
企業の大きな社会的責任の一つとして、企業の存続があります。不確定な将来に向け、企業が安定的に成長し存続していくためには、将来自社の進むべき目標を明らかにして、その実現のためにどのような行動をとるかを「事業計画を立てる」ことで、明確にする必要があります。 - 経営目標などを明確にし、全社で共有する
事業計画書の確実な実行には、経営層だけでなく現場を含む全社での事業計画書の理解と共有が不可欠です。将来に対する夢を経営理念や経営目標として明確にし、全社で共有することによって、目標を達成するための事業計画(行動指針)が実効性のあるものとなります。 - お客様など利害関係者との関係性を強化する
事業計画書を策定し、対外的に公開することは、お客様など自社を取り巻く利害関係者との関係性強化につながっていきます。とくに中小企業では、金融機関からの融資や補助金の申請などで事業計画書が活用されるシーンが多くなっています。
事業計画書は、経営ビジョンや経営方針といった全社戦略経営戦略、市場や商品サービスなどの事業戦略(機能別戦略を含む)、および「損益計画」「資金繰り計画」などの数値計画で構成されているのが一般的です。
損益計画の考え方やポイント
損益計画は、売上高や売上原価・費用を計画し、利益がどのくらい計上できるのかを計画することです。会社は、利益を計上できないと存続できません。そのため、数値計画の中でも、将来の収益性を確認する重要な計画となっています。
利益の構造を理解しましょう
「損益計画」は、決算書の「損益計算書」と同じ構造をもっています。そのため、中小企業会計規則などの会計基準に従って作成されます。
「損益計算書」に表示されるそれぞれの「利益」の意義と計算式を理解することが大切です。
- 売上総利益
本業(商品・サービス)で稼いだ利益のことで、モノ・サービスでの直接の競争力を表しています。計算式は以下のとおりです。
売上高-売上原価=売上総利益 - 営業利益
モノ・サービスの直接の競争力と営業活動を含めた営業活動の成果を表しています。計算式は以下のとおりです。
売上総利益-営業費用=営業利益 - 経常利益
本業や営業活動の成果に加え、財務力等も含めて稼いだ成果を表しています。計算式は以下のとおりです。
営業利益+営業外収益-営業外費用=経常利益 - テキスト税引き前利益
経常利益から、臨時かつ巨額の特別的な損益をさしひいた利益のことです。計算式は以下のとおりです。
経常利益+特別利益-特別損失=税引き前利益 - 当期純利益
税引前利益から法人税等の税金を差し引いた利益を指し、会社が最終的に稼いだ利益のことです。計算式は以下のとおりです。
税引き前利益-法人税等=当期純利益
各項目の意味を解説
各項目の意味がよく分からないという方のために、分かりやすく表にまとめました。ぜひ、参考にしてみてください。
項目 | 意味 |
---|---|
売上高 | 顧客に自社の商品・サービスを提供し、対価を受け取ることが確定した取引額 |
売上原価 | 原材料費や労務費、商品仕入れなど商品・サービスを製造又は販売する費用で売上高に直接的に紐付けられる費用 |
営業外収益 | 本来の営業活動以外から経常的に発生する収益(受取利息など) |
営業外費用 | 本来の営業活動以外から経常的に発生する費用(支払利息など) |
特別利益 | 営業活動以外から、経常的ではなく臨時的・突発的に発生する収益(固定資産売却益など) |
特別損失 | 営業活動以外から、経常的ではなく臨時的・突発的に発生する費用(固定資産廃却損失など) |
資金繰り計画の考え方やポイント
資金繰り計画とは、一定期間における将来の資金繰り計画を表にしたものです。短期計画(半年~1年)や中長期計画(3~10年程度)があります。
資金繰り計画は、経常収支、設備収支、財務収支の3つの区分で、会社の資金の動きに関わるものをすべて織り込みます。
(1)経常収支
経常収支とは、事業活動で現金がどれだけ増減したかを表す区分です。在庫の状況や掛け取引の状況では、月別にプラスマイナスは出ますが、きちんと利益を計上できていると半年間など一定期間の合計では、収支はプラスになります。
逆にいえば、経常収支が継続して数ヵ月ほどマイナスになると、事業自体が赤字基調であり、将来的に現金がなくなっていく可能性が高いということを表しています。
- 現金売上・売掛金の回収
- 現金仕入れ・買掛金の支払い
- 人件費の支払い
- 賃借料、水道光熱費など営業費用の支払い
(2)設備収支
設備収支とは、設備投資による資金の流出や設備売却による資金の流入など、設備による現金の増減を表す区分です。
一般に設備投資は金額が大きく、経常収支でまかなうことが難しい資金です。そのため、銀行からの借入などによって資金調達します。
- 設備投資
- 有価証券などの購入
- 設備売却
- 有価証券などの売却
(3)財務収支
財務収支とは、金融機関からの融資や返済などによる現金の増減を表す区分です。無借金経営できれば良いのですが、なかなか難しいでしょう。
そのため、経常収支がマイナスの場合や設備投資が必要な場合には、金融機関の借入が必要となります。財務収支は、資金繰りにおいて非常に重要なポイントとなります。
- 金融機関からの借入
- 金融機関への返済
損益計画と資金繰り計画の違いは大きく4つ!
経理の知識が少ない方は、「利益の額と現預金の額が一致する」と誤解しがちです。損益計画は、発生主義(※)による利益計画であり、資金繰りは今後の資金のリアルな計画です。
※発生主義・・・現金の収支に関係なく、経済的事象の発生または変化にともなって、その時点で収益や費用を計上しなければならないこと
損益計画と資金繰り計画は、同じ事業計画をベースとしていても、作成の考え方がまったく違うため、2つの結果も異なる場合がよくあります。
損益計画では黒字の利益が見込めるのに、資金繰り計画では資金がマイナスになってしまうこともあるのです。この差額が発生する代表的な原因は4つあります。
(1)掛取引
掛け取引とは、簡単にいうと「つけ」の取引です。
商品を買ったときに、すぐに現金で支払わず1ヶ月後に支払うなどが、日常的に行われていますよね。これは取引相手を信用していることで成り立っていることから、「信用取引」と呼ぶこともあります。
たとえば、4月に100万円の商品を売った時に、代金を5月に支払う取引をしたとします。「損益計画」では、100万円の利益が計上されますが、「資金繰り計画」では、5月の収入となり1ヵ月のずれが生じます。
(2)在庫
商品を仕入れて販売する場合、ビジネスサイクルは、仕入→在庫→仕入支払→売上→売掛金回収の流れになります。仕入れた商品がすぐに販売できるわけではなく、一旦在庫となります。
商品を仕入れて在庫が増えても、「損益計画」では益が減少することにはなりません。しかし、「資金繰り計画」においては、仕入れ・在庫によって現金が減少します。
(3)設備投資
事業を進めていく中で、大なり小なり設備投資を行いますよね。
設備を購入すると、設備代金の支払いによって現金は減少します。しかし、会計上は支払った金額すべてをその時点で費用計上することはできません。
基本的に一定額以上の設備を購入した場合、購入代金については、減価償却という方法によって、一定の方法で期間按分(※)することとなります。
※期間按分・・・複数の会計期間で費用を振り分けること
たとえば、100万円の設備投資を行った場合、10年間の定額償却だと、「損益計画」では毎年10万円の費用計上となり、「資金繰り計画」では購入した年に100万円の現金が減少します。
(4)資金の借入・返済
借入の資金の調達・返済にも差額が生じます。たとえば銀行借入において、利息は「損益計画」に費用として計上されますが、借りた金額は「損益計画」には表れません。
現金の動きとしては、借入時に大きく増加し、返済を通じて減少していきますが、この動きは「資金繰り計画」に表れることになります。
損益計画と資金繰り計画の両面から数値計画を立てましょう
会社が存続していくためには、きちんと利益を計上できることが大切です。短いスパンでみると、「損益計画」の利益と「資金繰り計画」のキャッシュは大きく乖離することがあります。
運転資金や設備資金などの様々な理由で資金調達は行われますが、基本的には事業活動による利益を源泉として、返済を行っていくことになります。
そのため、「損益計画」「資金繰り計画」の両面から整合性のある数値計画を作成することが重要です。
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(編集:創業手帳編集部)