運転資金の計算方法は?安定した資金繰りのためにできることを紹介します
運転資金の計算方法を知って、早い段階で資金調達を進めよう
運転資金は、事業を継続して運営するために必要な資金です。
運転資金の計算方法には、在高方式と回転期間方式があり、期間当たりの運転資金を正確に知りたい場合には回転期間方式をおすすめします。
運転資金を把握することによって、自社の運営や財務のどこに課題があるのか、どうすればキャッシュフローに余裕が生まれるのか戦略を練ることが可能です。
記事内で運転資金の計算方法や関連する用語を説明しているので、自社の事業に活用してください。
※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください
この記事の目次
知っておきたい運転資金の基本知識
融資を受けたり、利益の計算をしたりする際に頻繁に聞かれる言葉に、「運転資金」があります。
例えば、融資を受ける時に資金使途を尋ねられて、運転資金と回答するケースもあるでしょう。
運転資金は普段の生活でも聞きますが、言葉の意味を深く知らない人もいるかもしれません。ここでは、運転資金の意味から種類や計算方法までをまとめています。
運転資金とは
運転資金は、企業が事業を継続して運営していくために必要となる資金です。
企業のお金は工場の建設や機器といった設備資金と、運営するために必要な運営資金に大別されます。
運転資金と簡単にいっても、その内容は従業員の給料・光熱費・家賃・仕入れの費用・宣伝費用・金融期間への返済金など多岐にわたっています。
以下では運転資金の種類についてまとめました。
経常運転資金
経常運転資金は、企業が事業運営を行うための資金です。
多くの企業では商慣習として掛取引を行っており、これは代金を後払いにして売上げを計上してから数カ月後に入金される取引きの手法です。
掛取引では、売上げと入金にタイムラグが生まれてしまいます。
しかし、入金が遅くなる一方で毎月の家賃・人件費・水道光熱費などは必ず支払わなければいけません。
こういった常に必要とする資金を、経常運転資金と呼びます。
増加運転資金
増加運転資金は、売上げが増加した分増える運転資金をいいます。
企業で売上げが増加すればそれだけ仕事も増えるため、人件費や仕入れの費用も増加するのが一般的です。
増加運転資金も、経常運転資金と同じように入金が後になるため、一時的に資金繰りが苦しくなることがあります。
急な売上げの増加に対応できず、手元にある資金では支払えなくなるかもしれません。
売上げが増加しているのに、費用の支払いができずに倒産することを黒字倒産と呼びます。企業は利益が出ていても継続して運営できるとは限りません。
運転資金をマネジメントしなければ、利益が順調でも倒産することがあります。
減少運転資金
減少運転資金は、売上げが減少した際に固定費の支払いに充当する資金をいいます。
売上げが減少した場合でも、家賃や人件費といった費用は支払わなければいけません。
売上げが少なくなった状況では、この減少運転資金の負担が重くのしかかります。
季節性運転資金
季節性運転資金は、決まった季節に需要が発生する運転資金を指す用語です。
例えば、スポーツ用品でいえばウィンタースポーツの時期やマリンスポーツの時期に需要が拡大します。
また、クリスマスや夏休み、お正月などのイベントに連動して需要が増えるアイテムもあります。
季節性運転資金は、決まった季節の需要に対応するための仕入資金です。
そのほかの運転資金
運転資金には、販売先や仕入先の条件が変わった時に発生する資金もあります。
例えば、取引先の売掛金や手形の支払いが遅れた場合には、入金が遅れてしまうため対応するための運転資金が発生します。
運転資金の計算方法は2種類
運転資金の意味や種類はわかっても、毎月支払うお金をどのように計算すればいいのでしょうか。
運転資金を算出する計算式には2つあり、「在高方式」は大まかに必要額を計算する方法で、「回転期間方式」は詳細な必要額を計算できます。
以下に、それぞれの計算方式の詳細と使われる用語を紹介します。
在高方式
在高(ありだか)とは、手元に今ある資産、お金の総量を表します。
在高方式は、現在企業にある資産や負債から計算できるため、すぐにでも算出可能な方法です。
在高方式の計算式は、以下のとおりです。
運転資金=売上債権(売掛金+受取手形)+棚卸資産-買入債務(買掛金+支払手形)
上記の計算式で、経常運転資金を計算できます。
棚卸資産や売掛債権はこれからお金になる予定の資産です。
まだ現金化されていない(これから現金化される)お金から、支払っていない(これから支払う)お金を差し引くのが在高方式の計算方法です。
運転資金の多くは、入金までの間にあるタイムラグの支払いに充当するつなぎとして使われています。
在高方式では、この入金と支払いに充当する出金のズレを埋めるために必要な金額として運転資金を計算しています。
以下では、計算式で使われている用語の詳細をまとめました。
売上債権
売上債権は、商品は販売して売上げは計上したものの、入金がされていない、つまり代金を回収できていないお金を指します。
具体的には、売掛金や受取手形が該当します。
売掛金は、売り上げた商品の代金を受け取ることができる権利です。
また、手形を発行している場合には、受取手形と呼びます。
棚卸資産
棚卸資産は、まだ販売していない商品在庫を指し、商品や製品のほか、原材料や製造途中の仕掛品を含みます。
今はまだ売れていないものの、販売されて売上げになる予定なので会計上資産として扱われます。
買入債務
買入債務は、売上債権とは反対に、商品や材料を買ったものの代金を支払っていないお金を指します。該当するのは、買掛金や支払手形です。
買掛金は掛取引で商品を購入した時に代金を支払わなければいけない義務を表します。
この取引きで手形を振り出している場合には、支払手形として計上します。
回転期間方式
回転期間方式は、以下の式で計算できます。
運転資金=平均月商×(売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-買入債務回転期間)
回転期間方式は、何日間の間でどれだけのお金が必要かを算出するために使われています。
運転資金は入金と出金のタイムラグを埋めるために使われるお金です。
回転期間方式は、そのタイムラグがどれだけあるかを計算して、正確に運転資金を算出します。
回転期間とは
回転期間を簡単に説明すると、資産が1回転して、もとの状態に戻るまでの期間です。
売上げの場合は、商品を売り上げて債権が発生、代金が回収されるまでを表します。
仕入れの場合には、仕入れてから代金を支払うまで、在庫は在庫を抱えてからすべてを売り上げて代金を回収するまでの期間です。
売上債権回転期間
売上債権回転期間は、掛取引で商品を販売してから、その代金を回収するまでの期間を表します。
売上債権回転期間=(売掛金+受取手形)÷(年間売上高÷12)
※上記の式ならびに以下の式で出ている「12」は、12カ月(365日)を指します。
売上債権回転期間は上記の式で計算しますが、これは売上債権を1日当たりの平均売上で割る計算です。
売上債権回転期間を計算することで、入金されるべき売上金が何日分未入金となっているかがわかります。
売上債権回転期間が短ければ、売掛金の回収が順調であり、経営が健全であると考えられます。
棚卸資産回転期間
棚卸資産回転期間は、在庫になっている商品や材料が売り切れるまでの期間です。
以下の式で計算できます。
棚卸資産回転期間=棚卸資産÷(年間売上原価÷12)
これは、棚卸資産を1日当たりの平均売上の原価で割る式です。
売上げに対して、在庫が何日でなくなるかを計算できるのが棚卸資産回転期間です。
棚卸資産回転期間が短ければ、在庫が順調に消化されて売上げとなっていることがわかります。
買入債務回転期間
買入債務回転期間は、掛取引で商品を仕入れてから代金を支払うまでの期間です。
以下の式で計算できます。
買入債務回転期間=(買掛金+支払手形+受取手形の譲渡高)÷(年間売上原価÷12)
これは、買入債務を1日当たりの平均売上の原価で割る式です。
将来的に支払わなければならない仕入代金を何日分未払いにしているかがわかります。
買入債務回転期間は、長いほうが支払いでの無理が生じにくく、事業運営では好ましいといわれています。
運転資金を計算してみよう
ここからは、具体的に運転資金がどれだけ必要なのか、例を挙げて計算してみます。
在高方式と回転期間方式の両方の計算を行うので、方式による違いにも注目してください。
在高方式の計算式
はじめに在高方式を使い、以下の条件で計算してみます。
売上債権:1,000万円
棚卸資産:500万円
買入債務:700万円
上記の条件では、1,000万円+500万円-700万円=800万円で運転資金は800万円と計算できます。
回転期間方式の計算式
回転期間方式では、月単位で計算する方法と日単位で計算する方法があります。
ここでは、一日単位で計算する方法を紹介します。
経常運転資金は、1日当たり平均売上×(売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-買入債務回転期間)で計算可能です。
計算するには先で挙げた3つの回転期間を計算してから運転資金回転期間を求め、運転資金回転期間に1日当たりの平均売上をかけて計算します。
以下のような条件で計算してみましょう。
売上債権:1,000万円
棚卸資産:500万円
買入債務:700万円
年間売上:1億円
年間売上が1億円なので、一日当たりの売上は、1億円÷365日で約27万円です。
売上債権回転期間は、1,000万円÷27万円で、約37日。
棚卸資産回転期間は500万円÷27万円で、約19日。
買入債務回転期間は、700万÷27万円で、約26日間です。
これをもとに運転資金回転期間を計算すると、37日+19日-26日=30日となります。
運転資金は、1日当たりの平均売上である27万円に30日をかけて、810万円と計算できます。
運転資金を安定させるためにできること
運転資金の確保や捻出は多くの企業にとって重要な課題です。
事業運営に必要な資金を十分に確保するためには、回転期間を把握して運転資金を計算しておかなければいけません。
どうすれば安定した運転資金を確保できるのかを、以下にまとめました。
売上債権回転期間の短縮
運転資金を確保するために、まずチェックしてほしいのが売上債権回転期間です。
売上債権回転期間が長期化すると、資金繰りが苦しくなり、売上げが順調だとしても支払不能になってしまうことがあります。
黒字倒産を避けるためにも、売上債権回転期間が長くなっていないかをチェックしてください。
例えば、売上債権の回収が遅延していたり、取引先から先延ばしを依頼されていたりする場合には要注意です。
特に、取引先から支払いを遅くするように打診された場合には、取引先に異変がないか注意してください。
取引先が倒産や不渡りを出すような事態になれば売上債権の回収が困難になり、自社の支払いにも影響してしまいます。
在庫を減らす
運転資金を安定化させるためには、棚卸資産回転期間が長期化していないかをチェックしてください。
在庫をたくさん持っていると、売上増加や急な注文に対応しやすくなりますが、商品として販売されない在庫は、劣化や損耗によって価値が下がる恐れもあります。
また、在庫を保管するための倉庫や管理にも費用がかかります。
棚卸資産回転期間を短縮するには、小まめに在庫をチェックして、不要な在庫は破棄することが大切です。
また、過去の売上げや仕入れを分析して、適切な量に調整できるようにします。
長期的キャッシュフローの把握
運転資金を把握するには、長期的な目線が必要です。
企業が資金調達するには、金融機関からの融資もありますが、申込みや審査には時間がかかるでしょう。
運転資金確保のために、キャッシュフローは長期的な目線で把握します。
前期や前々期と把握して売上げや回転期間はどうなっているのか、財務状況はこれからどうなるのかをチェックします。
資金繰り表を作成して、これからの自社の収入と支出を把握し、無理がないかを確認してください。
支払期間は長く
運転資金を確保するためには、出金となる支払いはできるだけ先に延ばしたほうが有利です。
取引先との交渉になりますが、資金繰り表も確認して大口の入金の後に支払いができるような支払いスケジュールを設定するようにしてください。
まとめ
開業して間もない段階では、運転資金について先の予定まで考えていないかもしれません。
しかし、運転資金の計算を誤れば、利益が出ていても事業が継続できなくなってしまいます。
運転資金の計算方法を知ることによって、先の資金繰りも把握しやすくなり、事業運営にも余裕が生まれます。
事業に集中するためにも、運転資金を把握してマネジメントできるようになりましょう。
(編集:創業手帳編集部)