起業家なら知らないとまずい「源泉徴収」|税務の基礎知識を学ぼう
従業員を雇う・報酬を支払う際の「源泉徴収」入門
(2017/11/21更新)
従業員を雇って給与を支払う企業がかならず行わなければならないのが「源泉徴収」です。
名前は知っているけど、実際にやるとなるとわからないことがたくさん!という方でも大丈夫です。
源泉徴収とはいったいどのような仕組みなのか、どのような手続きをし、注意すべき点はどこかなど、源泉徴収を行う上で最低限把握しておくべき部分を易しく解説していきます。
この記事の目次
源泉徴収の仕組み
源泉徴収とは、人を雇って給与を支払う場合や、報酬・料金などを支払うとき一定率の金額を天引きして預かり、支払いを受ける者のかわりに所得税および復興特別所得税を納付する仕組みです。
源泉徴収の目的
源泉徴収は、国が国民から税金を正しく漏れなく納めてもらうために作った仕組みです。
もし、源泉徴収という仕組みがなく、給与を受け取った人間すべてが納税のための申告をすることになると、税務署がたいへん混み合い時間がかかることになります。
また、計算間違いなどで正確な申告が難しくなってしまうことも考えられます。
脱税する人も出てくるかもしれません。
そこで、これらの課題を解決するために、給与や報酬を支払う側が所得税を代わりに支払う「源泉徴収制度」が導入されたのです。
所得税とは
所得とは、収入から必要経費や各種控除を差し引いた金額のことを指します。
所得税は、個人の所得に課税される税金のことです。
会社員の場合は給与所得に、自営業者の場合は事業利益に対して所得税が課せられます。
復興特別所得税とは
復興特別所得税とは、「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」により、新たに創設された税金です。
平成49年12月31日までの給与・報酬などの所得に課せられます。
「源泉徴収」と「源泉徴収票」の違い
「源泉徴収」は、支払いを受ける者のかわりに、支払う側の事業主が給与や報酬から所得税と復興特別所得税を天引きして預かり、国に納付する制度です。
対して「源泉徴収票」とは、源泉徴収した所得税額を証明する書類のことを指します。
源泉徴収を行う者は、この源泉徴収票を発行する義務があり、原則的には年末に作成して従業員に交付します。
また、特定の源泉徴収票は税務署に提出する必要があります。
なお、年末だけではなく、退職者があった場合も作成して交付しなければいけません。
参考:平成29年版「給与所得の源泉徴収票」エクセル・e-Taxでの書き方・作成方法
源泉徴収する対象は?
従業員の給与
従業員を雇用して給与を支払う場合は、かならず源泉徴収を行います。
また、役員は従業員という扱いではないのですが、役員報酬は給与所得と同じ扱いのため、源泉徴収を行うという点に注意が必要です。
フリーランス・個人事業主への報酬
源泉徴収は、従業員だけでなく、フリーランスや個人事業主、専門家への報酬についても行わなければならない場合があります。
対象となる範囲は以下の8つです。
- 原稿料や講演料など。
- 弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金。
- 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬。
- プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金。
- 芸能人や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金。
- ホテル、旅館などで行われる宴会等において、客に対して接待等を行うことを業務とするいわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金。
- プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金。
- 広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金。
創業期の会社においては、フリーランスに仕事を外注する際や、税理士報酬などの場合に必要になることがあります。
源泉徴収が不要なケース
上記で挙げた範囲に含まれないものは源泉徴収する必要はありません。
また、報酬・料金を支払う側が個人事業主の場合、源泉徴収が不要な場合があります。
それは「常時2人以下で、お手伝いさんなどのような家事使用人だけに給与などを支払っている人」「給与などの支払いがなく、弁護士報酬などの『報酬・料金等』だけを支払っている人」です。
個別の支払いや報酬について、源泉徴収に該当するのか曖昧な場合は、必ず税理士などの専門家に相談するようにしましょう。
源泉徴収税額の計算方法
従業員の給与と、フリーランス・個人事業主への報酬とでは計算方法が変わってきます。
従業員の給与の場合は、会保険料等を控除した額に税率をかけて計算します。
扶養親族等の人数によって税額が変わるため、国税庁が掲載している「給与所得の源泉徴収税額表」を使って計算します。
次は、フリーランス・個人事業主への報酬の場合です。
フリーランス・個人事業主への報酬は、二段階税率というものを考える必要があります。
二段階税率は「同一人に対し1回に支払われる金額」が100万円を超えるか超えないかが基準となっています。
100万円を超えない場合は、税率は、所得税の10%と復興特別所得税の0.21%を合わせた10.21%です。
100万円を超える場合は、報酬から100万円を引き、そこに税率の20.42%をかけたあと102,100円を足して計算します。
以下の記事に詳しい計算方法などを書いているので、参考にしてください。
参考:【平成29年版|起業家が理解しておくべき源泉徴収額の計算方法・税率】
源泉徴収税を納付する
源泉徴収した所得税・復興特別所得税は、所得税徴収高計算書や、報酬・料金等の所得税徴収高計算書など一般的に納付書と呼ばれているものにまとめます。
そして納付書を添えて国に納付するという手続きになります。
納期
納期は、給与を支払った月の翌月の10日までです。
10日が土・日・祝日の場合は休日明けの日で大丈夫です。
また、給与を支払う従業員が常時10人未満の事業者には、納付が年に2回だけで済む特例があります。
特例申請をすることで、1月から6月までに源泉徴収した分の納期は7月10日、7月から12月までに源泉徴収した分の納期は翌年の1月20日になります。
納付の手段
納付の方法にはいくつかあります。
所轄の税務署の窓口
銀行・ゆうちょ銀行の窓口
税務署の窓口での納付ができる時間は、8時30分から17時(土日祝日を除く)となっています。
手数料は不要で、現金に納付書を添えて納付することができます。
銀行にも納付書(一般用)が備えつけられているところはありますが、在庫がない等の場合があるため、事前に納付書を入手しておいたほうが安心です。
※クレジットカードは利用することができません。
ダイレクト納付
e-Tax(国税電子申告・納税システム)を利用するものです。
申告書等を提出したあと、納税者の名義の預貯金口座から、即時もしくは指定した期日に、口座引落しにより国税を納付することができます。
e-Taxを利用するためには利用開始手続きが必要となるので、あらかじめ準備しておきましょう。
インターネットバンキングやATM等
e-Taxで申告書などを提出したあと、インターネットバンキングやATM等を利用して納付する方法です。
コンビニ納付
税務署から交付・送付されたコンビニ納付専用のバーコード付納付書を使用してコンビニで納付する方法です。
コンビニ納付の場合は利用可能額が存在しており、バーコード付納付書1枚につき30万円以下となっています。
納付書の作成方法
納付書は、所轄の税務署の窓口で入手できるほか、手続きをして郵送してもらうこともできます。
専用の用紙のため、国税庁のサイトにあるPDFを印刷して使ったり、エクセルなどで自作することはできませんのでご注意ください。
給与や税理士等への報酬は「所得税徴収高計算書」を使用し、原稿料やデザイン料などは「報酬・料金等の所得税徴収高計算書」を使用します。
納付書には、支払った給与・報酬の総額や、天引きした源泉所得税の総額などを記載します。
詳しい書き方は国税庁のHPを参考にしてください。
給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書の記載方法(国税庁HPより)
報酬・料金等の所得税徴収高計算書(国税庁HPより)
給与と賞与は別の記入欄になっているのでご注意ください。
年に1度の年末調整
毎月の源泉徴収によって天引きした税額は概算で計算しているため、年末に1年間の所得や個人の生活事情と照らし合わせて再計算し、過不足額を調整します。
これを「年末調整」といいます。
会社は年末調整を行う情報を得るために、従業員に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」と「給与所得者の保険料控除申告書 兼 配偶者特別控除申告書」の2つの控除に関する申告書を書いてもらいます。
申告書が揃ったら、配偶者の所得、生命保険料等、社会保険料、住宅ローン控除などを加味して正しい年税額を計算し、これにより過不足がわかります。
徴収不足の人からは足りない分を徴収し、反対に徴収しすぎていた人には還付します。
最後にいつもの「所得税徴収高計算書」の「年末調整による不足税額」もしくは「年末調整による超過税額」欄にその額を記載し、所轄の税務署等で納付します。
また、年末調整での源泉所得税の還付については、本来税務署が還付しなければならないものを、事業主が立て替えて従業員に支払っています。その立て替え分は、次の源泉所得税の納付額から差し引くことが可能です。その結果、納付額が0円となる場合がありますが、納付書は提出するようにしてください。
参考:年末調整の書き方とは。計算方法、注意点などを解説します【保存版】
源泉徴収を正しく行って健全な事業活動を!
源泉徴収は、仕組みをしっかり押さえれば難しいことではありません。起業して従業員を雇うことになったら、漏れのないようにしっかりと行なっていきましょう。
(執筆:創業手帳編集部)
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