研究開発型ビジネスの起業家必見!タイプ別インキュベーション施設のリスト付き解説

創業手帳

創業時の活動拠点、安く借りられさまざまなサポートが受けられるインキュベーション施設を活用しよう


インキュベーション施設は、さまざまなリソースが不足する創業初期段階の起業家を支援することを目的としています。創業から事業化に至るまでの、研究開発施設の提供、事業化や経営に関わるハンズオン、資金調達や人材獲得のためのネットワーキングといった支援を行います。

近年では、オープンイノベーションに取り組む大手企業やVC(ベンチャーキャピタル)がインキュベーション施設を開設する例、また、民間のシェアオフィスやコワーキングスペースがスタートアップ向けに入居者を募集する例などが多く見られるようになり、ひとくちにインキュベーション施設といっても多様なものが見られます。

この記事では、国内でインキュベーション施設が見られるようになってから30年ほど経った今、インキュベーション施設の全体像を概観しつつ実際の施設をご紹介します。

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インキュベーション施設とは

インキュベーション施設は、国の中小企業施策のなかで2000年代に入ってから数多く作られるようになりました。特に、医療、AI、IoT、エネルギー、ものづくりなど研究開発型のベンチャー企業を数多く送り出してきたという点で、新しい産業の創出に大きな役割を果たしています。

産学官連携の枠組みの中で公的機関が設置・運営するもの以外にも、規模の大小を問わずインキュベーション施設といわれるものが増えてきているのが現状です。

インキュベーション施設の定義

以下の要件を満たしているものがインキュベーション施設といわれています。

  • 施設スペースの提供
  • IM(インキュベーション・マネージャー:支援担当者)による支援を提供
  • 入居者を創業予定者・起業間もない創業者に限定している
  • 一定の入居期間が設定されている

施設スペースを賃貸する形が一般的ですが、ほとんどは好条件で賃貸可能ネットワーキングやピッチイベントなどを行うことができる共有スペースなども設けられています。

施設には支援担当者が常駐しインキュベーション施設のキーマンとして経営資源の調達から事業計画のアドバイス、マーケティングのサポートなど、多方面からの支援を行います。

また、インキュベーションという言葉のとおり、研究シーズが孵化して事業化に至るまでの支援であり、一定期間内にビジネスを軌道にのせて次の成長ステージにステップアップすることが求められます。

起業家にとってインキュベーション施設を使うメリットと留意点

活動拠点としての物理的なメリット以外にも、ネットワーキングやメンタリングを通じて、事業を成長させる機会を得ることができる、などのメリットがあります。一方で、インキュベーション施設の運営者側の目的を理解しないと利用に対する制約も生まれてきます。

インキュベーション施設を利用するメリット

創業期の活動をサポートしてもらえるインキュベーション施設を利用できることは、起業家にとって大きなメリットです。その一つひとつを見ていきます。

専用施設を利用できる

研究開発型のビジネスを立ち上げる場合、医療・バイオ系であればウェットラボ※、ものづくり系であれば工房スペースや工作機器など、専用の施設・設備が必要となります。その環境を自前で揃えることができない研究開発型のスタートアップにとっては、インキュベーション施設が創業期の活動拠点となります。

※物理・化学、医療・バイオ分野等の専用設備が備わった研究・実験室。

賃料が安い

自治体や公的機関が運営するインキュベーション施設は、創業支援の一環として賃料が低く設定されています。創業起業に加えて中小企業の第二創業も入居要件としている施設もありますが、一定期間内の会社設立を予定している創業者には賃料が補助されるなど、創業起業者のインキュベーション施設の利用は優遇されています。

サポートの充実

公営の場合は支援担当者、民間ではVCからのハンズオンなど経営や事業化に関わるさまざまな創業に関するサポートを受けることができます。技術試験機関との連携やコラボレーション先の紹介、資金調達など支援担当者やVCのネットワークを活用することが可能となります。

ネットワーキング

多くのインキュベーション施設には共有スペースやイベントスペースがつくられ、大手企業や研究者、投資家、また、入居する起業家同士といったイノベーションにつながる交流の場と機会が積極的に設けられています。

インキュベーション施設を拠点とするネットワーキングによって、スタートアップは事業展開を加速させるチャンスを得ることができるでしょう。

インキュベーション施設利用の留意点

インキュベーション施設は、スタートアップや創業起業者であれば誰でも利用できるというものではありません。入居するための要件や審査があり、入居できる期間も定められています。それぞれのインキュベーション施設の入居要件や特徴を把握しておくことが重要です。

入居には審査があるケースがほとんど

大学のインキュベーション施設の場合は大学の研究シーズを活用するものであること、公営の場合は地域の産業に貢献するもの、もしくは、その自治体で起業するといった入居要件が定められる場合がほとんどです。加えて、創業からの年数や法人化するまでの予定期間、シード期かアーリー期かといった創業ステージが入居要件となっている場合もあります。

これらの要件を満たしていても、大学や先端研究機関のインキュベーション施設では研究開発の内容も審査の対象となり、事業性やサポートの可能性も検討されます。

市区町村や商工会議所、信金や信組などの地域金融機関のインキュベーション施設では、それほど厳しい要件や審査がない場合が多く、創業期のシェアオフィスやコワーキングスペースとして活用できます。

入居期間が定められている

ほとんどのインキュベーション施設では入居できる期間が設定されています。さまざまな支援を活用して一定期間内に事業化を終え、次の成長ステージにステップアップしてインキュベーションから卒業することが求められます。

支援担当者の人材不足

東京都はインキュベーション施設に対する認定事業を行っており、認定を受けた事業者は一定の要件を満たせば施設整備のための補助金を得ることができます。このことから、民間のシェアオフィス、コワーキングスペースの運営事業者が東京都の認定インキュベーション施設に参入するケースが増えています。

支援担当者には専門知識や創業支援経験が求められますが、特に資格要件は問われないため、東京都の認定インキュベーション施設であっても十分な経験を持つ支援担当者が置かれていないケースもあるようです。

公営のインキュベーション施設では中小企業診断士など士業の専門家やJBIA(日本ビジネスインキュベーション協会)の認定支援担当者といった創業支援の専門家が入居スタートアップの支援に当たります。市区町村の設置するインキュベーション施設では支援担当者の人材が不足しているケースも見られます。

インキュベーション施設の類型

さまざまなインキュベーション施設が運営されていますが、公営か民営か、施設・設備を含めた提供されるサポートの種類、施設が対象とする事業領域の違いや創業ステージの違いなど施設によって入居要件が異なります。

さまざまなインキュベーション施設を、事業主体や運営体制の違いごとにその特徴を見てみましょう。

大学のインキュベーション施設

研究機関である大学は、研究シーズを事業化に結びつける大学発ベンチャーの創出に注力しています。

東京、京都、大阪、東北、名古屋、東京工業、筑波の指定国立大学や慶応、早稲田、立命館大学などの私立大学では、投資ファンドやアクセラレーションプログラム、経営者とのマッチングなど、学内からの大学発ベンチャーに対する支援体制を整えるとともにインキュベーション施設も運営しています。

インキュベーション施設の入居対象は各大学の研究成果を活用する起業家、または学生や学内の研究者、大学関係者としている場合がほとんどです。最先端の研究シーズを事業化できるのが大学のインキュベーション施設の特徴といえます。

大学のインキュベーション施設には、学生や学内の研究者を対象としたものの他に自治体や外部の研究機関、中小機構等との産学官連携のもと学外の企業や個人も入居対象としているところがあります。

施設により異なりますが、入居には審査があり、大学の研究成果を活用すること、大学のある地域で起業することなどが要件となるケースもあります。

リサーチコンプレックス、第3セクター、公益法人などのインキュベーション施設

リサーチパーク、テクノパークといわれる研究開発機関が集積する拠点にインキュベーション施設が設けられています。産業振興を目的とする公益法人や中小機構、民間企業などが参画する試験研究拠点にインキュベーション施設が設置され、産学官の連携を図りながら先端技術や新分野での創業者をサポートしています。

インキュベーション施設には研究室や実験室、試作室といったラボ仕様の居室と、オフィスタイプの居室、コワーキングスペースを設けている場合などがあります。地域の産業集積の分野によって設置されている居室の仕様も異なります。

領域特化型のインキュベーション施設

東京中野区のサブカルチャーや大田区の町工場、神戸のファッションといった、地域の産業を活かした創業起業を支援するインキュベーション施設も多く見られます。ものづくり系の施設では3Dプリンタ、工作機器等の設備や工場型のオフィスを利用できるなど、対象とする事業領域ごとにそれに合わせた施設環境が整えられています。

市区町村、商工会議所などのインキュベーション施設

数多くの市区町村や商工会、商工会議所などのレイヤーで、それぞれが創業や新事業創出を支援するために独自のインキュベーション施設を設けています。これまでにご紹介した大学や、産学連携を進める公営機関によるものと比較すると、シェアオフィス、コワーキングスペースといった施設に支援担当者をはじめとする創業支援機能をもたせたものが多くなります。

東京都では東京都認定インキュベーション施設を公表しており、2021年5月時点で78の認定インキュベーション施設があります。東京都が設置するもの以外にも民間のシェアオフィス、コワーキングスペース等も含まれます。

東京都認定インキュベーション施設

大手企業のインキュベーション施設

大手企業が手掛けるインキュベーション施設は、自社の事業領域を中心としたオープンイノベーションの創出を目的に設置するものです。有望なスタートアップはCVCからの出資やアクセラレーションプログラムの提供を受けることができます。

大手デベロッパーが展開するインキュベーション施設では、大手企業が集まる都心のビジネス地区という利点を活かし、大企業や官公庁、大学等を広く巻き込みイノベーションを共創する取り組みが行われています。

利用するスタートアップに提供されるオフィスはコワーキングスペース的なものが多く、ミートアップやセミナー等のためのイベントスペースが充実しています。

VC、アクセラレータ系のインキュベーション施設

スタートアップと直接関わるVCやアクセラレータも、出資するスタートアップに向けたインキュベーション施設を運営しているところがあります。参加するスタートアップは事業化プログラムの提供や経営人材のマッチング、メンタリングといった手厚いサポートが受けられます。支援側の人脈を活かしたコミュニティが形成され、起業家どうしの交流が盛んに行われています。

地域金融機関のインキュベーション施設

地域を経営基盤とする信金や信組も、自治体やNPO等と連携する形で創業支援に取り組んでいます。地域に根ざしたスモールビジネスが支援対象であり、支援先の事業者が開業できれば地域金融機関にとっては新たな取引先となります。

インキュベーション施設はシェアオフィスやコワーキングスペースが中心で、居室スペースは小規模なものが多くなります。スモールビジネスの創業者に対して、資金面も含めたワンストップの支援ができることが地域金融機関の強みとなります。

女性起業家支援のインキュベーション施設

託児スペースの併設や保育施設と提携するなど、女性起業家への積極的支援を打ち出しているインキュベーション施設もあります。女性向けのセミナーや勉強会等が開催されるなど、女性の起業家に向けてのサポートが行われています。

まとめ

イノベーションには「魔の川、死の谷、ダーウィンの海」※という3つのハードルが立ちはだかると言われ、経験のない起業家にとっては創業から事業化まで厳しい道のりが続いていきます。何もかもが不足する創業段階では、さまざまな支援が期待できるインキュベーション施設は起業家に大きなプラスをもたらすでしょう。

インキュベーション施設は研究開発の事業化シーズやビジネスのアイディアが集まる場所であり、各分野の専門家や投資家などの目に晒される場所でもあります。起業家それぞれのビジネスの可能性が値踏みされ、可能性が見いだされれば支援する側のステークホルダーとともに市場競争力を高めていくプロセスが動き始めます。場合によっては事業化シーズやアイディアが別の形に姿を変えていくことも考えられます。

魔の川の手前で可能性を見極め、死の谷を乗り越えるための道標となるインキュベーション施設は起業家にとってダーウィンの海へ漕ぎ出すための大きな助けになるでしょう。

※「魔の川、死の谷、ダーウィンの海」
魔の川:研究開発段階から製品化段階に進むまでの障壁
死の谷:製品化から事業化までの障壁
ダーウィンの海:事業化後、市場競争に晒されている段階

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