サムライ榊原氏×創業手帳大久保| 起業大国イスラエルと日本の創業事情

創業手帳
※このインタビュー内容は2016年10月に行われた取材時点のものです。

世界を相手に戦うイスラエルと、日本企業の本質的違いとは

(2016/09/08更新)

サムライインキュベートCEO(最高経営責任者)榊原健太郎さんと創業手帳の大久保の対談。

前回は、イスラエルと日本の文化的な違いや、なぜイスラエルで優秀な人材・起業が次々と生まれているのかを教えていただきました。

世界的な起業大国と言われるイスラエルですが、どうしてイスラエルのベンチャー企業は世界を相手に戦えるのでしょうか。今回は、イスラエルにおけるスタートアップの現状や、そこから日本企業が学ぶべきこと、これからのサムライインキュベートの目指すものについて伺いました。

インタビュアー:創業手帳(株) 創業者 大久保 幸世
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榊原 健太郎(さかきばら けんたろう) 1974年生まれ。関西大学卒業。大手医療機器メーカーを経て、2000年にアクシブドットコム(現VOYAGE GROUP)に入社。インリッピック電通(現電通ワンダーマン)でダイレクトマーケティング戦略に従事後、アクシブドットコムに復帰。西日本広告販売ブランチの立ち上げや、営業本部の再構築、モバイルサイトの立ち上げを担当。2008年に株式会社サムライインキュベートを設立、代表に就任。2014年には先進的ベンチャー支援のため、イスラエルに事務所を開設。IT起業家の創業を支援している。

世界を舞台に動くイスラエルのスタートアップ

ー大久保:イスラエルにはたくさん優秀な人がいらっしゃって、個人の能力だけでなく、企業の技術も発展していると感じています。イスラエルにおける起業の現状はどうなっているんですか?

榊原:地理的に言うとイスラエルは四国くらいの大きさしか無いんですが、ベンチャーへの投資額は、日本の投資額の5倍にのぼります。一人あたりの投資額で言うと、世界でナンバーワン。それだけでなく、技術者や科学者の数も、M&Aも一人あたりで世界ナンバーワンです。また、世界中の企業がR&Dセンター(研究開発機関)を置いている場所でもあります。データで見ても、ビジネスにおいてのイスラエルの強さは圧倒的だと思います。

ー大久保:経済水準は日本と同じくらいなんですよね。日本とイスラエルの違いをどこに感じますか?

榊原技術力があっても、国内ではあまり使っていないところでしょうか。日本は、どうしても国内市場で満足しているとことがありますね。一方、イスラエルはマーケットが小さいので、外に出ていかざるをえないんです。

ー大久保:確かに、四国と同じ大きさですもんね。だから、スタートアップからいきなり世界に行ってしまうと。

榊原:そうですね。起業の時も、特許技術を作って、それを外国企業に売却するという流れがほとんどです。

ー大久保:なるほど。日本とイスラエルの起業の違いには、特許などの技術力も一つの要因になりそうです。

榊原日本のスタートアップは、ほぼ特許の話がありませんもんね。逆にイスラエルでは、既に特許を取得済みの状態や、申請中の段階で始めるのがほとんどです。いわゆるBtoBが多いのも特徴かもしれません。

10年先を見てイノベーションを起こせるか

ー大久保:イスラエルのスタートアップに精通している榊原さんから見て、「日本はもう少しこうすべきじゃない?」という提言はありますか?

榊原革新性というか、イノベーションを起こすような先見性が、やや不足しているように感じます。イスラエルは、ちょっと先を読み過ぎているくらいです。市場があるかどうかを考える前に、まず技術を開発してしまうんですよ。

ー大久保:いくつか、事例を教えていただけますか?

榊原:例えば、目が見えない人にリアルの風景を見せるような技術を作るとか。20年くらい先のことをやっているかもしれませんね。敵対する国々に囲まれたイスラエルは、常に周りが敵だらけなので、いつ死ぬかわからないという気持ちが根底にあります。

それでいて全員エンジニアですから、目の前の問題をすぐ解決しようという動きが生まれるんです。他にも、20年前には既にチャットアプリを作っていますし、自動運転車の画像認識の仕組みも、イスラエルの会社がほぼ7割のシェアを占めているんですよ。

ー大久保:その技術の市場があるかどうかも、作ってみないとわからないという世界なんですね。そもそも、市場を先読むセンスが高いですよね。日本のマーケットリサーチよりよほど外さないものができているというか。

榊原マーケットに出たら、いつまでたってもイノベーションは起こせませんからね。これは、日本とイスラエルの大きな違いかもしれません。ちなみに、イスラエルにはほとんど雨が降らないのですが、自給自足率ってどのくらいだと思いますか?

ー大久保:30%とか?

榊原:それが、100%に近いんですよ。水をどうしているのかと思ったら、海水を飲料水にしているんですよね。その技術も世界一。結局、周りに敵しかいないので、自分たちで解決しようという意識、つまり危機感が相当強いんです。だから、イノベーションが起きるんだと思います。

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サムライはさらに世界を目指す

ー大久保:今後、サムライインキュベートはイスラエルや日本でどのように事業を進めようと考えていらっしゃいますか。

榊原:今と同じように、「世界中の優秀な人達が集まっている場所」「世界中のお金がつながっている人たちが集まっている場所」をブランチとして作って、そこをおさえるというビジネスをとことんやっていこうと思います。そうすれば、世界は取れるかなと思うので。

ー大久保:やはり、目指すは世界なんですね。

榊原:結局、日本の企業は海外を全く意識しないのがダメだと思います。日本で儲かるから、それはそれで良いんですけど。ただ、国内しか見ていなさすぎです。私も世界を変えると言って日本にいたままで、これはダメだと思って英語もしゃべれないままに世界に乗り込みました。それが、今に繋がっています。

ー大久保:日本の企業が海外に進出する際、成功する要因の一つとして「選んだ国が日本のことを好きか」という点が結構あると聞くのですが、イスラエルもそうですか。

榊原:おっしゃるとおりです。シリコンバレーの人達は、日本のことに企業としても市場としてもあまり興味が無い印象ですが、イスラエルの人たちは日本企業のことがとても好きなんです。だから、大切なのは向こうの人が日本にどれくらい興味があって、日本と、その企業と何がしたいと思っているかではないかと思います。私のこれからの拠点選びも、この点は大切にするかな。

成功する起業家に共通する”巻き込み力”

ー大久保:いくつものスタートアップを育てている榊原さんが思う、成功する起業家とそうでない人の起業家の違いは何だと思いますか?

榊原:ウチのサムライ軍団の中でも、成功している人は周りを巻き込む力があります。自分だけでいけるとか思っている人は成功しないですね。

ー大久保:周りをもっと巻き込んで欲しいですね。

榊原:できないときにできないと言ったり、教えて欲しいと言ったりすれば、皆助けてくれますから。そういう人の方が成功するでしょうね。

起業家へのメッセージ

ー大久保:最後に、日本の起業家のみなさんに、メッセージをいただけますか。

榊原:まず、本質的に世の中の問題をしっかり理解すること。そして”0から1を産む”視点でどうすれば問題を解決できるのかを考えること。「できるできない」ではなくて、「やるかやらないか」で世界を変えて欲しいですね。日本は、できないと思っている方が多すぎるので。英語ができないから海外進出できないとか。でも、できる手段をちゃんと考えて欲しいです。

ー大久保:そして、世界的なベンチャー企業を出していくということですね。

榊原:はい。今も日本で毎月2、3社投資していますが、地方の起業家はまだ少なくて。地方から東京じゃなくて、地方から世界へという挑戦も作っていきたいですね。日本はもっともっと、日本のサムライを出さないといけないと思います。

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第1回サムライインキュベート代表・榊原氏インタビュー
起業大国・イスラエルに学ぶ “天才が育つ”10の習慣

(取材協力:サムライインキュベート代表 榊原健太郎) (編集:創業手帳編集部)

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