オプト 海老根 智仁|”エンジェルの鬼”の「投資家は起業家のここを見る!」
投資してもらうために必要な資質とは
(2017/09/29更新)
東証一部上場企業のオプトを、紆余曲折があった創業当初から、現代表の鉢嶺氏と会社を引っ張ってきた海老根智仁氏。
現在は、オプト代表から退任してエンジェル投資を行っており、同時に投資・事業創造を手掛ける株式会社レジェンド・パートナーズを創業。事業開発とベンチャー投資を行っており、”エンジェル投資の鬼”として、名を馳せています。
一部上場企業の経営者から転身してエンジェル投資を手がける海老根氏は、どういう起業家に投資をするのか?という話題を中心に、海老根氏と投資責任者の今川氏にお話を伺いました。
1992年4月、株式会社大広に入社。同社退職後、財団法人社会経済生産性本部において経営コンサルタントの認定を受け、1999年9月に株式会社オプトに入社。2001年に代表取締役COO、2006年に代表取締役CEO、2008年には代表取締役社長CEOに就任。2009年に取締役会長に就任し、2013年に退任。2010年3月、株式会社モブキャストの取締役に就任し、2014年4月に同社取締役経営企画室最高顧問、2014年7月には同社取締役社長室最高顧問に就任(現任)。2014年3月、株式会社レジェンド・パートナーズの代表取締役会長に就任し、2015年9月には同社取締役会長に就任(現任)。
起業家には一生付き合える人を見つけてほしい
海老根:オプトの創業時は現代表の鉢嶺さんと私を含む創業メンバー4名がいました。
私と鉢嶺は就職活動の時に待合室の隣の席に座っていたのがきっかけですね。鉢嶺さんとは、22歳で出会って今50歳。私はオプトを離れましたが、いまだに以心伝心です。
一般的に、ベンチャーは仲間割れして株を持ってやめる、といった話がよくありますけど、起業する人に言いたいのは、一生付き合える人を捕まえてほしい、ということですね。ビジネスは誰とやるかが重要です。経営陣が信頼できる人であれば、なんとでもなるんです。
1994年にオプトを創業しまして、資金は皆で約60万円ずつ出して300万円でした。
1995年にJICから投資してもらいました。JICはソフトバンク孫正義さん、パソナ南部靖之さんのベンチャーキャピタルで、ここから投資をしてもらったんです。
オプトの創業当初、現在とは違うビジネスをやっていましたが、自分はネット広告がこれから流行りそうだったので、各部門から人をいただいて、その事業を立ち上げました。
ネット広告部門を立ち上げて形になったとき、鉢嶺さんから「代表取締役になってくれ」と言われました。代表になって、色々やっていた事業をネット広告一本に絞ったんです。ただ、ネット広告なんて当時は新しい分野だから社員も売れると思っていない。社員に自信を持たせるためにも、自分で売って見せるしかなかったです。だから誰よりも働きました。
「俺が売れるなら、お前はもっと売れる」といった自信をつけさせるわけです。社員が売ってきた場合は駆け寄って、ものすごい賞賛したものです。
自分が代表就任前の2000年までは赤字で大変でしたが、自分が代表に就任して、ネット広告に集中した2001年は一気に業績が伸びて売上13億、約2億5000万の黒字。一気に経営が軌道に乗りました。
上場の目的を考えろ!
海老根:2004年の2月に上場しましたが、上場して良いかどうかは、頭がちぎれるくらい皆で考えました。「なぜ上場するのか」、「どう上場するのか」をとことん議論する合宿もやりました。
上場した理由は、この業界全体としての知名度をアップさせたかった、という部分が大きかったです。当時は、インターネットの社会的な信頼性や認知度がまだ低かったので、「会社が成長するためには業界自体の信頼性を上げなければいけない」とずっと思っていました。それと同時に、人材の採用に力を入れていきたかった、という側面もあります。
なので、上場目指す起業家は「そもそもなんのために上場したいのか」というのを、もの凄く考えなきゃいけないと思います。
上場の鐘をついたときに考えたこと
海老根:上場してしばらく浮かれちゃう人もいますが、僕は上場して鐘をついてから、すぐに次のことを考え始めていました。
そのとき考えていたのは、「強みの多重化」です。今後のことです。
当たり前のことですが、戦略上の強みは誰でも考えます。
自分の会社は誰がターゲットで何が強みなのか、どのように競争相手に差別化されているか、それを把握していないと経営者失格です。
ですが、その上で必要なのは強みに強みを重ねること。つまり、「強みの多重化」です。
商品、教育、採用、組織など、どれか一つが強み、というわけでなく、2つ3つ差別化ポイントがあったほうがいいと考えました。
それを調べるためには、競争相手の戦略を全て考えて、どういう行動をすれば良いのかを、図や表に表して実行することが有効だと思いました。
例えば、ネット広告の営業マンであれば、単にネット広告ができるだけだと、いつかは誰かに追いつかれてしまいます。ですが、単にネット広告の知識を持っているだけでなく、クライアントの業界の知識にも精通している、という営業マンであれば、そういうことでも差別化できるわけです。
起業家に対しても一緒で、自分自身の強みを時々洗いなおした方が良いと思います。
強みの多重化
差別化ポイントを複数に
投資のスタイルは「金は出すけど口も出す」
海老根:事業創造とベンチャー投資活動をしていまして、最近ですと、食やスペース有効活用に関わる新事業を立ち上げました。
魚食文化を復活させる47fishと、スペースの有効活用のコインスペースというものですが、魚食文化の復活については、ビジネスというよりも、ライフワークという意味合いが強いかもしれませんね。本当に、新事業っていうのは大変ですが、楽しくやらしてもらっています。
今川:投資先は、国内外約30社の会社に及びます。
有望な経営者や俊逸なビジネスに支援的な意味合いで投資をしています。
今川:弊社の場合は、経営にどんどん突っ込んでいきます。そういうのに耐えて、プラスにできる人に投資しています。緊張感が生まれたり、新しい視点が生まれるっていうメリットがあるんじゃないでしょうか。
いろいろな企業を経営したり、投資をしている中で、蓄積したノウハウやネットワークもありますので、相手に対してかなりコミットしていますね。
投資してもらうためには「しつこさ」・「貪欲さ」・「誠実さ」が必要
海老根:エンジェル投資家は、ベンチャーキャピタルが入る前の資本政策の段階で入ったほうが良いですね。
企業の枠組みを起業家と一緒に作って、そこからベンチャーキャピタルや、投資家、事業会社を連れてくることができるので、エンジェル投資家が入るかどうかで展開が変わってくると思います。
経営のアドバイスをする際にも、どんどん言うことができるので、起業家からすると気が付かなかった面に気が付くことがあります。
オプトも最初からいろいろな人に株を買ってもらいましたし、投資家が反対するからある事業を辞めた、なんていうケースもありました。経営に対する気づきやいろいろなリソース、つながりを与えてくれます。
あとは、提携するのに良い事業会社を見つけたりして、企業価値を上げていく、というのも投資家の役割でしょうね。
海老根:見るポイントは人、戦略、商品などありますが、結局は人ですよね。普通の能力があって、すごい熱意があって無茶苦茶に努力すればどうにかなるもんなんですよ、と思っています。
商品とか業界が良くても、経営メンバーがダメならダメ。あとは、人としての誠実さとかが重要ですね。
海老根:弊社の場合では、渋谷のコインスペースで朝会をやっていますが、そういう起業家や投資家が集まるイベントに行くというのが一つの手ですね。
あとは、面談してほしいとメールを送ってみる、といった手もありますが、共通して言えるのは1回や2回断られてあきらめるようではダメだということですね。
1回くらい相手にされなくても、向かっていくようなしつこさや、貪欲さがあったほうが私は好きです。
自分も、投資をしてほしいと言われて、もう嫌になるくらい断っていた案件がありましたが、結局根負けして最終的には投資した、といった経験もあります。
そういう熱意や意志、粘り強さ、執念は、小手先のテクニックとかよりも、投資を受けるためにはとても重要なことなんじゃないかなと思います。事業を成功させるため、という意味でも同じことが言えますね。
執念は
テクニックに勝る
海老根:まずは一生一緒にいられるような経営陣、パートナーを見つけられると良いですね。そして、社長がとにかく一番働くことです。
投資家は最終的には「人」を見ます。商品や戦略も大事ですが、最後は熱意や人間性、誠実さみたいなことが必要なんじゃないかな、と思います。
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