農地バンクで農地を貸し借り!仕組みや使い方、ケース別のメリット・デメリットなどを解説
農地バンクは公的機関を通じた農地の賃貸
農地バンクは、公的機関を通じて安心して農地を賃貸できる事業であり、農業を始めたい人や持て余している農地を貸したい人に注目されています。
そのような農地バンクには借り手・貸し手のそれぞれにメリットとデメリットがあるため、仕組みを正しく理解した上で利用することが大切です。
そこで今回は、農地バンクの概要や仕組み、使い方、ケース別のメリット・デメリットなどについて紹介します。
安全な農地の賃貸を実現するために農地バンクについて知りたい人は、ぜひ参考にしてください。
この記事の目次
農地バンク(農地中間管理機構)とは?
農地バンクの正式名称は農地中間管理機構で、農林水産省による農地の賃貸を支援する法人および事業です。
都道府県や市町村、農業団体などが出資する法人で、都道府県ごとに1団体あります。
都道府県ごとに事業を運営しているので、借り手の条件などは地域ごとに異なります。
農地中間管理機構の目的は、地域農業を守るために農地の集積・集約化を進めることです。
2023年4月に施行された改正農業経営基盤強化推進法にて法定化された地域計画に基づいて、所有者不明の農地や遊休農地も含めて農地の借り受け・貸付を行い、利用する農地面積を拡大させて農業生産基盤の維持を図ろうとしています。
なお、2025年度からは各地域で策定される地域計画を達成させるために、農地の賃貸は原則農地バンク経由となっています。
農地バンクが誕生した背景
農地バンクが誕生した背景は、農地の分散や放置された農地といった問題を解消するためです。
農業は、農道や用排水路など必要な基盤が共通しています。
そのため、個別に基盤を整備して行うよりも共同体全体で行ったほうが効率は良いので、集落単位(農村)で行われていました。
しかし、農村内でも農地自体は個人の所有物であり、世代交代や売買などによって所有権が移転し続けます。
その結果、農地は分散されてしまい、農業を行うのが非効率な状態になっているのです。
また、高齢化などを理由に農業を辞めたことで、放置されている農地もたくさん存在します。
放置される農地の増加や農家・農業就労者の減少は、農作物の生産量を減らし、日本の食料自給率の低下につながります。
使わない農地は売買や賃貸によって利活用できますが、農地法によって簡単に売買や賃貸ができないことが所有者にとっての大きな課題でした。
そこで、農地の活用を促進するために農地バンクが誕生しました。
公的機関による農地賃貸のサポートによって、農業就業者の増加や放置されている農地の減少に期待できます。
利用できる対象者
貸し手の場合、市街化地区以外の区域にある農地の所有者であれば、誰でも農地バンクに農地を貸すことが可能です。
そのため、農業をリタイアする人や経営転換を検討している農業者、相続で農地を受け取ったが農業経営を行う気がない人なども農地バンク経由で土地を貸し出せます。
ただし、登録できる農地には細かい条件があるので注意してください。
例えば、遊休農地も貸すことができますが、状態が悪く再生不可と判断されている土地や農地として利用が困難な土地は農地バンクでは借り受けできません。
ほかには共有の農地を登録する場合、共有者からの同意を得なければならないなどの条件があります。
農地バンクを利用できる借り手は、新規就農者や農業経営基盤強化促進法に基づいた認定就農者、営利目的で農業経営を行う農業生産法人・一般法人(営利目的)といった農業経営を行いたい人です。
借り手の条件は地域ごとに異なるため、各都道府県の農地中間管理機構に確認してください。
農地バンクの仕組み
農地バンクを活用して農地の賃貸を行う場合、その仕組みをしっかり理解しておく必要があります。
ここで、農地バンクの具体的な仕組みを紹介します。
農地の貸付期間は10年間
農地バンクでは、農地の貸付期間を原則10年間と定めており、更新せずに契約期間が終了すると農地は貸し手に返却されます。
契約期間中、貸し手は自分の都合で農地を売却したり、他者に譲ったりすることができません。
そのため、借り手は最低でも10年間は安心して借りた農地で農業ができます。
一部農地では、貸出期間を5年間まで短縮できます。しかし、ほとんどのケースが10年間となるため、貸し手も借り手も長期の賃貸となることを覚悟しなければなりません。
農地を借りるのに賃料がかかる
農地を借りることになるので、借り手は貸し手に賃料を支払わなければなりません。借り手は農地を選択でき、賃料は基本的に借り手の意見が優先されます。
賃料に関しては貸し手が不利となりがちですが、それでも使っていない農地を活用してもらうことで、多少の賃料を得られるのは借り手にとってメリットです。
賃料の振込みは農地バンクが行うため、確実に賃料を受け取れます。
農地バンクの利用方法
各地域に設置される農地中間管理機構ごとに細かい条件や申請方法などは異なりますが、参考に農地を貸す・借りるケース別に利用方法を紹介します。
農地を貸す場合
農地を貸したい人に向けて、年2回ほど貸付希望を募集しています。募集期間中に、各市町村の窓口に相談してください。
農地を貸す場合の大まかな流れは以下のとおりです。
1.市町村の窓口に農地を貸したいと相談・申請
2.農地の調査
3.農地を借りたい人とマッチング
4.中間管理権が発生して農地を貸し出す
市町村に相談や申請を行うと、まずは農地を調査されます。農地バンクに農地を登録するためには、一定の水準を満たさなければなりません。
そのため、農地として問題ないか調査し、貸し出せると判断されたら貸付期間や賃料などの調整が行われます。
その後、農地バンクを通じて、借り手とのマッチングを開始します。
公募は年に数回にわけて行われ、申し込みがあれば借り手の意見も考慮して貸付期間や賃料の調整が行われ、最終的な条件で貸付の同意に至れば契約締結です。
契約が成立すると農地バンクに中間管理権が発生します。この権利によって農地バンクは農地を借り受け、借り手が支払った賃料が貸し手に振り込まれるようになります。
農地を借りる場合
農地を借りたい場合、市町村が公募している期間中に申請書を窓口に提出して、応募してください。公募は年に数回行われています。
申請書には、主に以下の内容を記載します。
-
- 借りたい時期や期間
- 作る予定の作物や農地を借りたい理由などを明記した農業計画
- 借りたい農地の場所や面積 など
応募すると、マッチングのために希望者の名前や希望条件などが公表されます。
農地バンクを通じて条件に合った農地が見つかると、期間や賃料などの交渉が行われ、最終的な条件に納得できれば、契約締結です。
必要に応じて農地の整備が行われた上で、農地が貸し出されます。賃貸開始後は、農地バンクに賃料を支払います。
農地バンクの成功事例
農地バンクはすでに多くの地域で活用されています。ここで、農地バンクの成功事例を3つ紹介します。
村の働きかけで地域農業の担い手となる法人を設立(青森県西目屋村)
西目屋村は農業者の高齢化によって、将来の担い手不足が懸念されていました。
危機感を持った村の担当職員が中心となり、村は地域農業の継続的な担い手として、水稲生産組合と生産組合を一本化する法人の設立を提案します。
法人の設立に向けて、村は生産組合の役員らに法人化の必要性やメリットを繰り返し説明するほか、JA・県民局・農地中間管理機構に協力を求め、支援を得ることができました。
その結果、2016年に地域農業の将来にわたる担い手として法人が設立されました。
地区内にある143haある農地の57%にあたる81haは、農地バンクを活用して集積・集約化されています。
それによって、7haに及ぶ耕作放棄地の発生を未然に防ぎました。
地域ぐるみで遊休農地を再生して集積を実現(福島県福島市水保地区)
福島市水保地区では、農業継続者の減少に合わせて遊休農地が増え、鳥獣被害が深刻化していました。
そこで、東日本大震災で被災した酪農家が組織する法人が中心となり、2014年に法人の自給飼料確保と遊休農地解消に向けて対策協議会を立ち上げます。
対策協議会は説明会を定期的に開催し、遊休農地の洗い出しと地権者を特定します。
そして、法人は地区内農家の総意を得て、国の補助事業を活用して52haにおよぶ遊休農地のうち24.5haの農地を再生しました。
さらに、再生した農地と貸し手農家が所有する22.5haを合わせた、合計47haの農地は農地バンクを活用して、法人に集積されました。
営農法人と地域住民が協力して活気ある農業・農村づくり(山形県山形市村木沢地区)
山形市村木沢地区では、地域農家の高齢化が進み、農業・農村を維持できないという課題に直面していました。
そこで営農法人が中心となって地域に呼びかけ、集落の枠を超えて地域農業・農村づくりをはじめます。
2015年に地域営農計画を見直しました。
そして、農地の集積・集約化を加速させるために、営農法人が各農家を訪問したり、県やJA、農地中間管理機構などの支援を得て説明会を実施したりしました。
また、計画的に農地バンクを活用することで、100haの地区内農地が担い手にもとに集積・集約します。
農地の集積・集約化によって生産規模が拡大し、さらに作業効率が向上しました。
農地バンクで農地を貸すメリット・デメリット
農地バンク経由で農地を貸すことには、メリットとデメリットの両方があります。農地所有者は、その点を理解して農地の登録を検討してください。
メリット
農地バンクで農地を貸す主なメリットは以下のとおりです。
-
- 使われていない農地を活用できる
- 公的機関を通じて安心して貸し出せる
- 貸付期間が終われば農地は確実に返却される
- 節税対策に活用できる
農地を貸し出すことができれば持て余している農地を利活用でき、社会問題の解決に貢献できます。
公的機関がサポートしてくれるので、個人間で賃貸契約を締結するよりも安心感が大きいこともメリットです。
農地は貸し手にとって大切な資産です。貸付期間が終われば農地は確実に返却されるので、大事な資産を借り手に奪われる心配がありません。
農地を貸すことは、節税につながることもメリットです。所有する全農地を新たに農地バンクに貸し付けると、その農地の固定資産税が1/2に軽減されます。
優遇措置が適用される期間は、10年以上の貸付で3年間、15年以上の貸付は5年間です。
また、相続税・贈与税の納税猶予を受けている場合、それが適用される農地を貸付ても猶予は継続されます。
デメリット
農地バンクで土地を貸すデメリットは以下のとおりです。
-
- 誰が借り手になるかわからない
- 確実に借り手が見つかるわけではない
- 借り手の意見が優先される
貸付先は農地バンクが決めるので、誰に農地が貸し出されるのかわからず、そこに不安を感じてしまうかもしれません。
また、定期的に公募が行われるとはいえ、確実に借り手が見つかるわけではない点にも注意してください。
賃料は基本的に借り手の意見が優先されるため、自分が希望する賃料で貸し出せない可能性があるのもデメリットです。
農地バンクで農地を借りるメリット・デメリット
農地バンク経由で農地を借りる人も、申し込む前にメリット・デメリットを理解しておく必要があります。
メリット
農地バンクで農地を借りる場合のメリットは以下のとおりです。
-
- 契約や賃料の手間がかからない
- 複数の農地を一括して借りられる
- 新規就農者も農地を借りられる
- 農地所有者に相続が発生した時に対応してもらえる
農地バンクが賃貸契約をサポートしてくれるので、安心して利用できます。
複数の農地を一括で借りることも可能です。一括で借りた農地の所有者が異なっていても、賃料の支払先はすべて農地バンクとなるため、支払いに手間がかかりません。
また、公的機関である農地中間管理機構が仲介してくれるため、実績がなく信頼度が低い新規就農者も、農地を借りて事業を開始することが可能です。
契約中に農地所有者が亡くなるなどして相続が発生することがあります。
その場合、賃貸契約がどうなるか不安になりますが、農地バンク側が相続人に契約内容の説明などの対応をしてくれるので、安心して農地を利用できます。
デメリット
農地バンクを活用して農地を借りるメリットは以下のとおりです。
-
- 貸付期間が決まっている
- 賃料が発生する
農地バンク経由で農地を借りる場合、貸付期間は原則10年間となっています。
最低でも10年間は農地を借りることになるので、中長期の視点で事業計画を立てて、農業に取り組んでいかなければなりません。
賃料が発生することも借り手側のデメリットです。ただし、賃料に関しては借り手側の意見が通りやすいため、希望する予算内で農地を借りられる能性があります。
農地バンクは地域にとってもメリットがある
農地バンクの活用は、地域にとって以下2つのメリットがあります。
-
- 協力金が交付される
- 農家に負担がかからず農業基盤整備事業を実施できる
地域のまとまった農地を農地バンクに賃貸した地域に対して、機構集積協力金が支給されます。
この協力金の使い道は、地域で決めることが可能です。
農業の受け手に向けて農業機器の購入や鳥獣害対策の支援、農地の貸し手に賃料先払いの支援、農道の維持管理費といった地域支援など、地域ごとの実情に合わせて協力金を活用できます。
農家に負担をかけずに、農業生産を推進するための基盤を整備する農業基盤整備事業を実施できるのもメリットです。
従来の農地基盤整備事業は、農業者は12.5%の費用を負担しています。しかし、農地バンクで農地の賃貸を行った場合、農業者の負担分は国に上乗せされます。
まとめ・農地バンク制度を正しく理解して農地の貸し借りに活かそう
農地バンクを活用すれば、農地がない人でも農業を始めたり、経営規模を拡大したりすることができます。
また、使っていない農地を活用できるので、耕作放棄地や遊休農地の増加を防止し、農地に関するあらゆる問題を解消することが可能です。
社会問題の解消にもつながる便利な制度ですが、借り手と貸し手のそれぞれにメリット・デメリットがあるため、制度を正しく理解して、農地の賃貸を利用するようにしましょう。
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(編集:創業手帳編集部)