「メルケルフォーマット」のすすめ。ドイツ首相メルケルのコロナ演説はなぜ格が違うのか?起業家・リーダーのための話す力
有権者・顧客にへつらわず厳しいことを言える信念はあるか?
この記事の目次
EUの牽引者のドイツの首相がメルケル。地味な女性首相だが、傑出したリーダーだという声が高い。特に際立つのが、コロナの対応についての演説は日本でも反響があった。
メルケルは、東西統一ドイツの中では、旧西ドイツに比べて小さく貧しい旧東ドイツの出身だ。会社の合併・M&Aに例えると、買収された側の小さい会社から親会社の社長になったようなもので、メルケルの実力が分かるだろう。旧社会主義の不自由さの実体験や、有権者に厳しいことも言う姿勢は評価が高い。
メルケルの演説を分析すると一定のパターンが分かる。仮にメルケルフォーマットと名付けるが、政治家に限らず、ビジネスパーソンなどリーダーが人を説得する時に役立つ。今回はメルケルの演説がなぜ優れているか、経営者向けのセミナー・講義を数多く行う創業手帳の創業者の大久保がメルケルフォーマットを解説する。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
メルケル首相の演説の概要
2020年の12月9日にドイツのコロナ死者数が過去最多の1日590人になった。
連邦議会において行われた演説で、普段冷静なドイツのメルケル首相が手を振りかざして訴える姿は世界的に話題となった。
死者590人という数字について、あってはならないとし、より厳格なコロナ対策を行う必要があると主張。
高齢者や持病をもつ人を訪ねる場合は、事前の最低1週間は、他者との接触を控えるよう求めた。
「クリスマス前に多くの人と接触し、その結果、祖父母と過ごす最後のクリスマスになってしまうようなことはあってはなりません」
クリスマスまでの期間、ホットワインやワッフルを屋外で楽しむ習慣に理解を示しながらも、「心の底から申し訳なく思います。けれど、私たちが払う代償が、1日590人もの命だとしたら、それは到底容認できません」と訴えた。
コロナウイルス対策として12月中旬からの部分的なロックダウンや財政支援、ワクチン接種についての概要も説明した。
やじに対しては下記のように返した。
「私は啓蒙の力を信じている。今日のヨーロッパが、まさにここに、このようにあるのは、啓蒙と科学的知見への信仰のおかげなのだ。科学的知見とは実在するのであって、人はもっとそれを大切にするべきだ。私は東ドイツで物理学を志した。しかし私が旧連邦共和国(=西ドイツ)出身だったならば、その選択はしなかったかもしれない。
東ドイツで物理学を志したのは、私には確信があったからだ。人は多くのことを無力化することができるが、重力を無力化することはできない。光速も無力化することはできない。そして他のあらゆるファクトも無力化することはできない、という確信が。そして、それはまた今日の事態においても引き続き当てはまるのだ」。
感動的なスピーチとして会場からの拍手で声がかき消されるほどだった。
メルケル首相のスピーチは何が優れているのか
メルケル首相のスピーチは何が優れているのだろうか?
シンガポール建国の父、リークアンユー元首相は「メルケルは西洋最高の指導者」だと評価している。
ドイツ・ベルリン在住の起業家SwatLab矢野氏にメルケルの評価を聞くと下記の感想だった。
・東ドイツ出身
・男性社会のドイツで女性から首相
・学者出身
という3重苦のハードルを乗り越えてきている。
ドイツと複雑なEUを牽引している政治家で日本の政治家とは格が違って当然、だという。
多くのリーダーを取材している創業手帳がメルケルのスピーチの特徴を分析してみた。
メルケルのスピーチは他のスピーチも含めて一定の特徴がある。
仮にメルケルフォーマットと名付けよう。
心を静かにつかむメルケルフォーマットの基本構造は下記だ。
- メルケルの演説は何が優れているか
「メルケルフォーマット」の6つの基本構造 -
- 1 最初に数字と事実を述べる
- 2 自分の体験
- 3 有権者に堂々と厳しい要求をする
- 4 大きい歴史観、世界観、人生観から具体的な話をする。
- 5 自分がこうしたいという意志を伝える
- 6 具体的な方法論
メルケルフォーマットを起業家・リーダー向けに解説する
メルケルの「話し方」は政治家だけでなく起業家やリーダーなどビジネスパーソンにも応用できる。
メルケルフォーマットを項目ごとに解説しよう。
1・最初に数字と事実を述べる
まず最初に事実と数字を述べている。これによって聴衆は事実を冷静に理解し状況を整理する。
意見は後から言うが、まずその前に、数字と事実を述べるのがポイントだ。
2・自分の体験
メルケルは東ドイツの不自由な環境で育ったが、その厳しい体験を交えて、話をする。
聴衆はメルケルの人生に自らを重ね合わせる事で共感し、難しい説得の前段階として、まず人としての共感を呼ぶことに成功している。
3・有権者に堂々と厳しい要求をする
ここが重要だ。政治家は有権者の人気を優先し厳しいことを言いにくい。
政治家だけでなく、ビジネスパーソンや経営者も同じだ。政治家にとっての有権者は、経営者にとっての顧客や株主のようなものだ。厳しいことは言い難いが、それでも、ずばっと厳しい要求ができるのがメルケルだ。背景になる信念があるからそういう言動ができる。その姿勢がこびへつらうだけの政治家よりも説得力や共感を生む。
4・大きい歴史観、世界観、人生観から具体的な話をする。
哲学や信念と言い換えても良い。コロナの演説では、啓蒙や知性についてや、生い立ちの話をしているが、そうした大きい視点から今の問題を説明することで理解がしやすく、また品格の高いスピーチになる。
5・自分がこうしたいという意志を伝える
リーダーで大事なのは「自分はこうしたい」ということだ。
一見勝手なように見えて、責任を任された自分がどうしたいのか、ということは責任の所在をあいまいにせず、責任負うものとして逃げない姿勢を表すことにもなる。評論家のように他人事をならべるより、自分はこうしたい、というリーダーの方が信頼されやすい。
6・具体的な方法論
明確にこうして欲しいということを伝えている。
だから難しい話も一定の方向にまとまる。
まさにリーダーシップのお手本と言えるだろう。
メルケルフォーマット6つの要素を、人を説得する際に使ってみたい。
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(編集:創業手帳編集部)
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