人材採用や雇用維持に使える補助金、助成金について
人の採用や雇用維持に役立つ補助金・助成金とは?制度やポイントを正しく理解して、資金繰りに役立てよう!
事業をするうえで、人の採用や雇用維持に関する経費は欠かせません。しかし、採用や雇用維持は継続的に発生し、金額も多いため企業の負担も大きくなります。
これらの削減に役立つのが補助金や助成金です。
補助金や助成金を活用すれば、人件費などの節約に役立つだけでなく、企業のPRポイントにもなります。
この記事では、人材の採用や雇用の維持に役立つ補助金・助成金について解説します。
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この記事の目次
採用コストと人件費
採用コストとは、企業が人材を採用するためにかかる費用のことです。
採用コストは、景気や費やす時間などにより変動しますが、採用が難しい時期ほど高くなる傾向にあります。
企業の採用コストについては、就職みらい研究所『就職白書2020』の調査によれば、 2019年度では新卒採用93.6万円/人、中途採用103.3万円/人でした。
これに対し、同白書の2020年におけるアンケートでは、「採用コストが増えた」と回答した企業は20.9%、「減った」は33.5%、「同じ」は45.6%となっており、全体的に減少傾向とはなりましたが、引き続き高い水準で推移していることがわかります。
なお、採用コストは、「内部コスト」と「外部コスト」の2種類に分けることができます。
「内部コスト」とは、面接や採用など採用業務にかかる費用です。人事担当者の人件費や面談・研修に伴う費用、応募者の交通費、紹介手数料などがこれにあたります。
一方、「外部コスト」とは、採用活動において外部の機関や業者に支払う費用を指します。求人広告費をはじめ、採用支援会社への利用料、冊子やHPの製作費などがあります。
これらのコストの中で、特に高額となりやすいのが「人件費」です。
人件費は毎年、継続的に発生し、採用の成否にも大きく影響するため、削減しにくいものの一つです。
しかし、補助金や助成金には採用に関する人件費などを対象としたものが多いため、これらを活用すればムリな削減などをせずとも、人件費を削減することができます。
人材採用と雇用維持に使える補助金、助成金
企業が人材採用と雇用維持に利用できる補助金や助成金には、以下のようなものがあります。
採用関係
特定求職者雇用開発助成金
高年齢者や障害者などの就職が困難な方をハローワーク等の紹介により、継続雇用する事業主に対して助成する制度です。
特定就職困難者コース、生涯現役コース、被災者雇用開発コース、発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース、就職氷河期世代安定雇用実現コース生活保護受給者等雇用開発コースの6つがあります。コースの一例としては、以下のものがあります。
①「特定就職困難者コース」
高年齢者(60〜64歳)や障害者などの就職が特に困難な方を雇い入れる場合に助成を行うものです。
本助成金は、助成対象期間を6か月単位で区分した「支給対象期」ごとに、最大2~6回にわたって支給されます。助成額は、対象労働者などにより異なります。
短時間労働者以外の場合(中小企業のケース)
・重度障害者等 240万円
・重度障害者等を除く身体・知的障害者 120万円
・上記以外の者 60万円
支給額は、対象労働者に対して支払った賃金額が助成の対象となります。
②「生涯現役コース」
65歳以上の離職者を雇い入れることに対して助成を行う制度です。
短時間労働者以外の者(中小企業のケース) 70万円
支給額は、対象労働者に対して支払った賃金額が助成の対象となります。
中途採用等支援助成金
中途採用の拡大や起業による雇用機会の創出等を行う事業主に対して助成する制度です。
内容に応じて、中途採用拡大コース、UIJターンコース、生涯現役起業支援コースの3つのコースがあります。コースの一例としては、以下のものがあります。
①「中途採用拡大コース」
中途採用者の雇用管理制度を整備し、中途採用者の採用を拡大する事業主に助成を行う制度です。
一定期間後に生産性が向上した場合には追加の助成(生産性拡大助成)があります。
1)中途採用拡大助成
中途採用率の拡大 1事業所あたり50万円または70万円
45歳以上の者の初採用 1事業所あたり60万円または70万円
2)生産性向上助成
中途採用率の拡大 1事業所あたり25万円
45歳以上の者の初採用 1事業所あたり30万円
それぞれ採用に要した経費が助成の対象となります。
②「生涯現役起業支援コース」
40 歳以上の中高年齢者が起業に際して一定の対象従業員を雇い入れた場合に、採用・募集経費等の一部を助成する制度です。
起業者の年齢60歳以上の場合 200万円(助成率2/3)
起業者の年齢40歳以上60歳未満の場合 150万円(助成率1/2)
民間有料職業紹介事業の利用料、求人情報誌、求人サイトへの掲載費用、募集パンフレット等の作成費用、就職説明会の費用などが助成の対象となります。
労働移動支援助成金(早期雇入れ支援コース)
再就職援助計画などの対象者を離職後3か月以内に期間の定めのない労働者として雇い入れ、継続して雇用することが確実である事業主に対して助成する制度です。
通常助成 支給対象者1人につき30万円
優遇助成 支給対象者1人につき40万円 さらに一定の要件を満たす場合は増額助成
なお、早期雇入れ支援の支給対象となる方に職業訓練を実施した場合は、上記の額の他に一定の額が上乗せして支給されます。
トライアル雇用助成金
一定の理由により、就職が困難な求職者を試用する事業主を助成する制度です。
内容に応じて、一般トライアルコース、障害者トライアルコース、障害者短時間トライアルコース、 若年・女性建設労働者トライアルコースの4つのコースがあります。
コースの一例としては、以下のものがあります。
①一般トライアルコース
職業経験、技能、知識の不足等から安定的な就職が困難な求職者に対して、試行雇用を行う事業主に対して助成する制度です。
通常の対象者-支給対象者1人につき4万円/月
母子家庭の母等または父子家庭の父が対象者-5万円/月
② 若年・女性建設労働者トライアルコース
35 歳未満または女性を建設技能労働者等として試行雇用し、トライアル雇用助成金の支給を受けた事業主に対して助成する制度です。
支給対象者1人につき最大4万円/月(最大3ヶ月)
地域雇用開発助成金
雇用機会が特に不足している地域において、事業所の設置・整備や創業をすることに伴い、その地域の求職者を雇用した場合に助成する制度です。
地域雇用開発コースと沖縄若年者雇用促進コースの2つのコースがあり、地域雇用開発コースでは、最大3回にわたって、事業所の設置や整備費用につき48万円〜960万円が支給されます。
雇用維持関係
人材確保等支援助成金
労働環境の向上等を図る事業主等に対して助成する制度です。
全部で9つのコースがあり、コースの一例としては以下のものがあります。
①雇用管理制度助成コース
評価・処遇制度、研修制度などの雇用管理制度の導入を通じて、従業員の離職率の低下に取り組む事業主に対して助成する制度です。
目標達成助成 57万円 評価・処遇制度、研修制度などの導入に要する経費
②介護福祉機器助成コース
介護福祉機器の導入を通じて、介護労働者の離職率の低下に取り組む事業主に対して助成する制度です。
目標達成助成 介護福祉機器の導入等に要した費用の20%(生産性要件を満たした場合は35%)上限150万円))
キャリアアップ助成金
非正規雇用の労働者の企業内でのキャリアアップを促進する取組みをする事業主に対して助成をするものです。
全部で7つのコースがあります。コースの一例としては、以下のものがあります。
①正社員化コース
有期契約労働者の正規雇用労働者への転換、または派遣労働者を直接雇用した事業主に対して助成する制度です。
有期契約から正規雇用への転換等 57万円/人
有期契約から無期雇用への転換等 28.5万円/人
無期雇用から正規雇用への転換等 28.5万円/人
②賃金規定等改定コース
有期契約労働者の賃金規定を増額改定し、昇給させた事業主に対して助成する制度です。助成額は労働者の数により異なります。
例 すべての有期契約労働者等の賃金規定を改定した場合で、対象労働者の数が7人~10人の場合:1事業所当たり28.5万円
両立支援等助成金
労働者の職業生活と家庭生活を両立させるための制度の導入や事業内保育施設の設置、女性の活躍推進の支援を行う事業主に対して助成する制度で6つのコースがあります。
コースの一例としては、以下のものがあります。
①出生時両立支援コース
男性労働者に育児休暇等を取得させた事業主に対して助成する制度です。
1人目の育休取得 57万円 ※2人目以降は取得日数に応じて加算
育児目的休暇の導入・利用 28.5万円
②介護離職防止支援コース
労働者の介護休業の取得・職場復帰に取り組んだ中小企業事業主に対して助成する制度です。
介護休業 休業取得時:28.5万円 職場復帰時:28.5万円
介護両立支援制度 28.5万円
③女性活躍加速化コース
自社の女性の活躍に関する「数値目標」や「行動計画」を策定して、目標を達成した事業主を助成する制度です。
常時雇用する労働者が300人以下の事業主が対象です。
助成額 47.5万円(生産性要件を満たした場合は60万円)
人材開発支援助成金
労働者に対して職務に関連した専門的な知識・技能の習得をさせるための職業訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度で7つのコースがあります。
コースの一例としては、以下のものがあります。
①特定訓練コース
効果が高い訓練を実施する事業主に対して、労働者の訓練中の賃金を助成する制度です。
賃金助成 760円/h
経費助成 45%
②教育訓練休暇付与コース
有給または長期の教育訓練休暇制度を導入・実施した事業主に対して助成する制度です。
賃金助成
教育訓練休暇制度 なし 長期教育訓練休暇制度 6000円/日
経費助成
教育訓練休暇制度 30万円 長期教育訓練休暇制度 20 万円
補助金・助成金を申請する前に確認すべき3つのポイント
補助金や助成金の申請をする際には、あらかじめ確認しておくべきポイントが3つあります。
この確認ができていないと、事業の実施や補助金等の獲得が難しくなる原因となるため、まずは申請前にチェックすることをおすすめします。
制度の趣旨や目的等があっているか
補助金等は、「もらえるかもしれないから」という理由で応募するものでなく、事業目的の達成の一助として利用するものです。
しかし、補助金等ありきで事業をしてしまうと、本来の事業目的と異なった方向となってしまうだけでなく、審査にも悪影響となります。
そのため、本来の事業内容が補助金等の主旨とあっているのかを十分に確認する必要があります。
期限や難易度に問題がないか
補助金等については、その種類ごとに応募期間や要件が定められています。
そのため、しっかりした計画を立てないと、申請までの時間が足りなくなったり、必要な要件をクリアーできず、中途半端な結果で終わってしまいます。
補助金等の申請では、これらを募集要項等で確認し、間違いのない計画を立てる必要があります。
必要な資金の準備ができるか
補助金等では、原則、「事業の経費は先払い、補助金等は事業の完了後の支払い」となるため、その事業を完遂できるだけの資金の準備が必要となります。
資金の調達方法には、自己資金を使う、銀行から融資を受けるなどがありますが、いずれについてもそれなりの時間が必要となります。
せっかく、補助金の交付決定を受けても、資金不足で事業が完成できないような場合には、補助金は支給されません。
そのため、申請をするときには、確実に資金の調達ができる方法や見込みを立てておく必要があります。
まとめ
企業が人材の採用や雇用の維持をするには多額のコストがかかりますが、これらは適切な補助金や助成金を利用することで、大幅に削減することができます。
また、補助金等の獲得は、優良な企業のPR材料ともなります。
しかし、補助金等の申請では、事業の内容や目的にあった制度を選ぶだけでなく、資金の準備や要件をクリアーできるかといったことにも注意する必要があります。
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