【社労士監修】特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)とは。概要から支給額や申請方法まで解説。

創業手帳

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)をうまく活用し、雇用につなげよう。


特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)は、就職が難しいとされている労働者の雇用を促進するための制度です。企業が採用を考えやすくなるよう、一定期間の賃金を補助してくれます。

労働者、企業双方に役立つ制度なのですが、細かい決まりがたくさんあり、複雑で難しいのがネックです。

そこで今回は制度の概要を簡単に紹介し、特定求職者雇用開発助成金一部である「特定就職困難者コース」の、支給要件、支給額、申請方法、注意点をわかりやすく解説します。

榊 裕葵(さかき ゆうき)ポライト社会保険労務士法人 代表
東京都立大学法学部卒業。2011年、社会保険労務士登録。上場企業経営企画室出身の社会保険労務士として、労働トラブルの発生を予防できる労務管理体制の構築や、従業員のモチベーションアップの支援に力を入れている。また、ベンチャー企業に対しては、忙しい経営者様が安心して本業に集中できるよう、提案型の顧問社労士としてバックオフィスの包括的なサポートを行っている。創業手帳ほか大手ウェブメディアに人気コラムの寄稿多数。『日本一わかりやすい HRテクノロジー活用の教科書』(日本法令)を2019年上梓。
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特定求職者雇用開発助成金とは


特定求職者雇用開発助成金(以下、略称の「特開金」と表記)とは、高年齢者、障害者など就職が難しいとされている労働者の雇用機会を増やし、安定させることが目的の制度です。

特開金の支給条件に当てはまる労働者を、以下から紹介を受けて継続雇用することで、事業主が助成金を受け取れます。

    ・公共職業安定所(ハローワーク)
    ・地方運輸局
    ・特定地方公共団体(厚生労働大臣に無料職業紹介をすると通知している自治体)
    ・有料・無料の職業紹介をしていて、厚生労働大臣の許可を受けている事業者(※)
    ・無料船員職業紹介事業者(漁業協同組合、海洋系の学校など)

(※)「有料、無料の職業紹介をしていて厚生労働大臣の許可を受けている事業者」については、厚生労働省のホームページで都道府県ごとに確認できます。

継続雇用の期間等の詳細な内容については、後ほどわかりやすく解説します。

特定求職者雇用開発助成金は雇用関係助成金の一部

雇用関係助成金は下記7種類に分かれています。

  • 雇用関係維持
  • 再就職支援
  • 転職・再就職拡大支援
  • 雇入れ
  • 雇用環境整備
  • 仕事と家庭の両立支援

特開金は「雇入れ」が目的の助成金で、さらに細かくコース分けされたうちの1つとして、「特定就職困難者コース」があります。他にも雇用の際に活用できる助成金があるかを、ぜひ一度確認してみて下さい。

例)

  • 再就職支援が目的:中途採用拡大の「中途採用等支援助成金」
  • 雇入れが目的の特開金:65歳以上の「生涯現役コース」、35歳以上55歳未満の「就職氷河期世代安定雇用実現コース」
  • 人材開発が目的:職場適応訓練実施の「職場適応訓練費」 など

特定就職困難者コースに該当する労働者とは

特開金の特定就職困難者コースに該当する労働者は、以下のとおりです。珍しいケースもありますが、ひととおり要約して紹介します。

該当労働者 条件
高年齢者 60〜65歳未満
母子家庭の母等
父子家庭の父
65歳未満
重度身体障害者、重度知的障害者
精神障害者
身体障害者
知的障害者
45〜65歳未満or一定の状況の65歳未満
駐留軍撤退関連の離職者 45〜65歳未満
漁業関連の離職者
本州四国連絡橋建設関連の離職者
港湾運送事業関連の離職者
アイヌの人 45〜65歳未満
北海道居住
ハローワークor地方運輸局の紹介
中国残留邦人等永住帰国者 65歳未満
帰国から10年を経過していない
北朝朝鮮帰国被害者等 65歳未満
帰国意思決定から10年を経過していない等
その他、安定所長と運輸局長が「就職が難しい」と認められた人 65歳未満

基本的には失業中であることが条件ですが、以下の労働者は離職前でも該当します。

  • 重度身体障害者、重度知的障害者
  • 精神障害者
  • 45歳以上の身体障害者、知的障害者

ハローワーク等の紹介者が、紹介時点で「特定就職困難者コースに該当します」と知らせた上で申請書を郵送してくれます。

ただし実際には「申請書がなかなか届かない」という事業主の声も多数あるため、紹介者任せにしないという意識も大切です。申請書の到着予定日を、事前に確認しましょう。

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)の支給要件、不支給要件


特開金(特定就職困難者コース)は支給要件不支給要件が細かく決まっています。それぞれ確認しやすいように、要約して解説します。

9つの支給要件を簡単解説

特開金(特定就職困難者コース)を利用するためには、9つの要件を全部クリアする必要があります。

まずはすべての事業主がクリアするべき7つの要件です。

  1. 事業主が雇用保険事業者であること(助成金申請と同時に雇用保険加入もOK)
  2. 紹介時点で「特定困難者コースに該当する」と知らせがあること
  3. 雇用保険の一般被保険者として継続雇用(※)すること
  4. 基準期間(雇入れ日の6ヶ月前から1年間)に、事業主都合で労働者を離職させていない
  5. 過去3年間に特定就職困難者コースを利用して雇用した労働者を、事業主都合で離職させていない
  6. 基準期間に倒産、事業縮小などの事業主都合で労働者を離職させた割合が一定以下(計算式があります)
  7. 対象労働者の出勤簿、賃金台帳などの書類を保管すること
  8.  
    (※)継続雇用とは、下記2つの条件を満たす雇用です。雇入れ時点で常用雇用を確定する必要があり、事業主都合で試用期間を設ける、契約終了期間を決めるなどができない点にも注意しましょう。

    ・労働者が希望する限り更新できる

    ・労働者が65歳以上になるまで&2年以上(重度障害者は3年以上)雇用する

    次に、該当する場合のみクリアが必要な要件です。(それぞれ計算式があります)

  9. 障害者の生活も含めて支援する事業主で既に特定困難者コースを利用した労働者が5人以上いる場合、離職率が一定以下
  10. 障害者の就業支援を行う事業主で既に特定困難者コースを利用した労働者が5人以上いる場合、離職率が一定以下

上記9つの支給要件には細かい例外や計算方法などがあるため、不明点は都道府県ごとの問い合わせ先に質問しましょう。

11の不支給要件をわかりやすく解説

支給要件に該当する事業主でも、以下に該当すると特開金(特定就職困難者コース)の対象外となります。

  • 雇用内定後に特定就職困難者コースを利用しようとした
  • 既に雇用しているのに特定就職困難者コースを利用しようとした
  • 過去に雇用、請負などの関係があった人を雇用
  • 過去に3ヶ月以上の訓練、実習などをしたことがある人を雇用
  • 親会社等で雇用等、訓練等などを行ったことがある人を雇用
  • 事業主や取締役の3親等以内の親族を雇用
  • 過去に職場適応訓練で受け入れた人を雇用
  • 特定就職困難者コースを利用して雇用した労働者へ賃金を払っていない
  • 「紹介時の条件と違う、不利な条件での雇用だった」と労働者から申し出があった
  • 高年齢者雇用確保措置(定年を65歳までにする等)を実施していなくて、厚生労働大臣から勧告を受けた
  • 指定障害福祉サービス事業者の場合、法律に適合していないと勧告等を受けた

不支給要件にも細かい例外があるため、申請書に同封されている書類には、全て目を通すようおすすめします。

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)の総支給額、支給期間


特定就職困難者コースの総支給額は、労働者の状況と事業主の企業規模によって違います。金額と支給期間を、一覧表で紹介します。

労働者の状況 企業規模 総支給額 支給期間
短時間以外
(最低週30時間)
ア. イ.、ウ.以外 中小以外 50万円 1年
中小 60万円 1年
イ. 身体障害者
知的障害者
(ウ.以外)
中小以外 50万円 1年
中小 120万円 2年
ウ. 重度障害者 中小以外 100万円 1年半
中小 240万円 3年
短時間
(週20時間以上30時間未満)
エ. オ.以外 中小以外 30万円 1年
中小 40万円 1年
オ. 身体障害者
知的障害者
精神障害者
中小以外 30万円 1年
中小 80万円 2年

支給期間を半年ごとに1期、2期…と区切り、分割での支給となります(最長6期)。

ただし「期ごとの支給額>賃金の総額」となる場合の支給額は、賃金の総額です。また労働者が支給期間の途中で退職した場合は、全額を受け取れない点も覚えておきましょう。

上記一覧表では企業規模について支給額が違います。「中小」の規模は以下のとおりです。

業種 資本金、出資総額 雇用人数
小売業
(飲食店含む)
5,000万円以下 or 50人以下
サービス業 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他 3億円以下 300人以下

紹介した総支給額は基本的な額です。元々の労働条件や特別な理由によっては、違う方法で支給額を計算する場合もあります。

また通常は労働時間が減ると支給額が減額されますが、現在(2021年9月時点)は「新型コロナウィルス感染症の影響で労働時間が減った場合は減額しない」という特例が実施されています。

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)の申請方法


特定就職困難者コースは支給期間が最長6期まであることを前述しましたが、1期ごとに申請書を提出する必要があります。

申請の流れ

特開金(特定就職困難者コース)支給までの、主な流れを紹介します。

支給までの流れ

ハローワーク等から労働者の紹介

雇用、労働者の雇用保険加入手続き。特定就職困難者コースについての周知文と申請書が郵送で届く

1期分の申請書を提出(提出期限:雇入れ日から6ヶ月を経過した翌日〜2ヶ月以内)

審査

支給or不支給が決定し通知書が郵送で届く

1期分の助成金支給

2期〜6期までは、「ハローワーク等の紹介」を抜いて同じ流れです(周知分と申請書は、期ごとに郵送で届きます)

ちなみに何らかの都合により1期目の申請をできなかった場合は、2期目以降から申請することも可能です。

その場合に事業主が支給要件に該当するかの確認が必要なため、1期分の申請書も提出を求められます。

申請書の提出に関して以下2点が疑問だったため、ハローワークに電話確認をしました。回答と一緒に紹介します。

Q.申請から支給までの期間はどれくらいですか?

A.全国的に2ヶ月が目安です。

Q.案内に「基本的に提出した書類で審査するので不備が無いように」と記載されていました。不備があったら、即不支給となってしまうのでしょうか?

A.書類に不備があった場合は事業主に連絡をし、訂正等をお願いすることがあります。書類の不備が原因で、一方的に不支給とすることはありません。

特開金のような公的な手続きには、複雑な決まりが多数あります。審査をスムーズにするために、審査する側がわかりやすい状態に書類を整えましょう。

書類の書き方等で迷ったら、書類提出先に問い合わせをして具体的におしえてもらうのがおすすめです。

提出書類

必ず提出する書類は7種類で、5年間の保存が定められています。

提出書類 具体例等
賃金がわかる書類 賃金台帳等(手当の内訳もわかるもの)
出勤状況がわかる書類 出勤簿等
特定就職困難者コースに該当することがわかる書類 ・障害者なら身体障害者手帳
・障害者手帳が無い疾患は医師の診断書・意見書
・母子家庭の場合は住民票 など
1週間の労働時間と雇用契約期間がわかる書類 雇用契約書等
「対象労働者雇用状況申立書(特定就職困難者コース)(様式第5号困)」 指定様式
「支給要件確認申立書(共通要領様式第1号」
職業紹介証明書(民間事業者からの紹介で雇用した場合) 民間事業者が発行

このほか必要な場合のみ、就業規則、総勘定元帳などの提出が求められることもあります。

特開金を含む雇用開発助成金を受給するためには、審査に必要な書類を整備&保管し、必要なときに提出・提示する必要があります。

複数回の申請が必要なので、書類はすぐに取り出せる状態にしておきましょう。

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)利用時の注意点

特開金利用時に、知っておいて頂きたい注意点が3つあります。

「申請書提出期限の起算日」と「支給期間の起算日」が違う

雇入れ日と賃金締切日が違う場合に、申請書提出期限を間違わないよう注意して下さい。期限を過ぎぎると、申請を受け付けてもらえません。

申請書提出期限の起算日
起算日は雇入れ日です。雇入れ日から起算して6ヶ月を経過した翌日〜2ヶ月以内に申請書を提出することになります。

支給期間の起算日
起算日は賃金締切日の翌日です。

例)1月1日に雇入れをして賃金締切日が15日、賃金支給日が末日の場合
→1月末に支払う賃金は半月分のため、支給対象期間とならない。2月15日の翌日から支給期間(1期)が始まる。

他の雇用関係助成金で問題があった事業主には支給されない

特定就職困難者コースの支給要件に該当していても、過去に他の雇用関係助成金で以下のような問題があった場合は、受給資格がありません。

  • 平成31年4月1日以降に不正受給によって不支給or支給取り消しとなり、5年を経過していない(平成31年3月31日以前の場合は3年)
  • 他の事業所で不正受給に関与した役員がいる
  • 過去の労働保険料を納付していない
  • 申請前1年間に、労働関係法令の違反をした
  • 性風俗関連営業、暴力団との関わりなど

事業主や役員が他の事業所で不正受給等に関わっている場合も、問題となる点がポイントです。

不正受給について

不正受給の際には、以下のような取り扱いとなります。虚偽申請等のないよう、十分に注意して下さい。

・支給前なら不支給となる
・支給後なら助成金を返還するほか、延滞金、罰金が請求される
・以後5年間、雇用関係助成金を申請できない
・事業主名が公表される

詐欺罪で懲役刑を受けたケースもあるため、不正受給のリスクは大きいと考えておきましょう。

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)と他の助成金等との併用について


雇用関係助成金をフル活用するために、他の補助金等と併用できるのかについても解説します。

トライアル雇用助成金との併用が可能

トライアル雇用助成金は、「一定条件(母子家庭等)によって就職が困難な労働者を常用雇用できるか」を見極める事業主に、助成金を3ヶ月間支給する制度です。

トライアル雇用後に雇用保険の一般被保険者として継続雇用すると決まった場合には、雇入れ日にさかのぼって特定就職困難者コースを申請できます

ただし2期目からの支給となるため、総支給額は【(先程一覧表で紹介した総支給額)−(1期分を差し引いた金額)】です。

他の助成金等が併用できるかの判断ポイント

特定就職困難者コースと同じような条件の助成金、補助金制度がある場合、併用できるかどうかを判断するポイントがあります。

併用できる
特定就職困難者コースとは違う趣旨や目的の助成金等で財源も違う場合は、一般的に併用できる

併用できない
同じ事業主、同じ行為、同じ経費など、内容が重なる助成金等との併用はできない。

ただしその助成金への申請が初めてだった場合に限り、不支給決定後に特定就職困難者コースへの申請が可能な場合があります。

国だけではなく地方公共団体独自の助成金等もあるので、併用できるかも含めて検討し、ぜひフル活用なさって下さい。

併用可能かどうかがわからないときは、助成金等の窓口に質問をすると回答してくれます。

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)を活用し、雇用の幅を広げよう!


特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)は複雑な内容ですが、支給額が大きいため、事業主にとって積極的に活用したい制度です。

雇用の幅を広げることは会社の重要な資力である「人材」の層を厚くすることにつながり、社会的にも意義があります。

一度しっかりと書類を揃えれば同内容の申請を繰り返すだけなので、社内で書類整備と保存体制を整えて申請をなさって下さい。

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(編集:創業手帳編集部)

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