育児時短就業給付金とは?2025年4月から始まる新制度を解説
育児時短就業給付金を活用すれば時短勤務の収入減をカバーできる
2025年4月より、育児時短就業給付金という給付金制度が新設されます。小さい子どもを育てるために短時間勤務を選択する従業員に給付金を支給し、経済的に支援する制度です。
育児時短就業給付金の支給対象となるのは従業員本人であるものの、申請の手続きは事業主が行います。現に短時間勤務をしている従業員、育児休業から短時間勤務で復帰する予定の従業員がいる場合、どのような制度なのか知っておくとよいでしょう。
今回は、育児時短就業給付金の内容や申請方法などを解説します。制度の開始に備えるためにも、ぜひ参考にしてみてください。
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この記事の目次
新設される育児時短就業給付金とは
育児時短就業給付金とは、仕事と育児の両立を支援するために新設される制度です。2歳未満の子を養育するために、1週間あたりの所定労働時間を短縮して就業する従業員に対して、給付金が支給されます。
労働力人口が減少している日本において、妊娠や育児などを理由に、従業員が離職してしまうのは問題です。そこで、政府は短時間勤務の収入減をカバーする制度を新設し、柔軟な働き方の実現を支援しています。
つまり、育児時短就業給付金には子育て世帯への経済的な支援だけでなく、従業員のキャリアが中断してしまう事態を防ぐ役割が期待されているのです。
育児時短就業給付金の概要
育児時短就業給付金の支給対象者や支給額など、基本的な内容を見ていきましょう。
支給対象者
育児時短就業給付金の支給対象者となるのは、以下の要件を満たす従業員です。
- 2歳未満の子を養育するために、育児時短就業する雇用保険の被保険者であること
- 育児休業給付の対象となる育児休業から引き続いて育児時短就業を開始したこと、または育児時短就業開始日前2年間に被保険者期間が12カ月あること
以上2つの条件をクリアしたうえで、以下の要件をすべて満たす月が支給対象となります。
- 初日から末日まで続けて、雇用保険の被保険者である月
- 1週間あたりの所定労働時間を短縮して就業した期間がある月
- 初日から末日まで続けて、育児休業給付又は介護休業給付を受給していない月
- 高年齢雇用継続給付の受給対象となっていない月
「初日から末日まで続けて、雇用保険の被保険者である」ということは、雇用を継続する意味合いです。つまり、離職をせずに雇用関係を継続し続けることが、受給するための要件となっています。
支給対象となる時短就業
従業員が育児時短就業給付金を受給するためには、「2歳に満たない子を養育するために、被保険者からの申出に基づき、事業主が講じた1週間当たりの所定労働時間を短縮」している必要があります。
1週間あたりの所定労働日数を変更した結果、1週間あたりの所定労働時間が短縮される場合も含みます。また、子を養育するために正社員から短時間正社員・パートタイムなどに転換したことに伴い、1週間あたりの所定労働時間が短縮した場合も対象です。
フレックスタイム制の適用を受けている場合
フレックスタイム制で勤務している従業員に関しては、清算期間における総労働時間で時短勤務をしているかで判断します。
育児休業後において、育児休業前よりも清算期間における総労働時間を短縮して就業する場合は、育児時短就業と取り扱うため支給対象となります。
なお、総労働時間は変更せずにフレキシブルタイムの一部または全部の勤務を行わないことで欠勤控除を受けるときは、育児時短就業とは取り扱いません。
変形労働時間制の適用を受けている場合
変形労働時間制を採用している場合、対象期間の総労働時間で時間勤務かどうかを判断します。
育児休業から復帰後、対象期間の総労働時間を短縮して就業するときは、時短就業と取り扱うため、育児時短就業給付金の対象です。
裁量労働制の適用を受けている場合
裁量労働制により「みなし勤務」をしている従業員に関しては、契約内容の「みなし労働時間」で判断します。
契約内容の見直しにより、みなし労働時間を短縮して就業するときは育児時短就業として取り扱い、育児時短就業給付金の対象です。
「シフト制」で就労する場合
業務の都合に合わせてシフト制で勤務している場合は、実際の労働時間に基づいて判断します。
実際の労働時間から1週間あたりの平均労働時間を算定し、「労働時間が短縮している」という事実が確認できるときは、育児時短就業として取り扱います。
支給額
育児時短就業給付金の支給額は、原則として「育児時短就業中に支払われた賃金額の10%相当額」です。例えば、短時間勤務中の賃金が月額20万円の場合は「20万円×10%=2万円」、賃金が月額30万円の場合は「30万円×10%=3万円」です。
細かいですが、育児時短就業開始時賃金月額と比較した支給対象月に支払われた賃金額の割合(賃金率)ごとの支給率をまとめました。
賃金率 | 支給率 |
100% | 0%(支給なし) |
99.50% | 0.45% |
99.00% | 0.91% |
98.50% | 1.37% |
98.00% | 1.84% |
97.50% | 2.31% |
97.00% | 2.78% |
96.50% | 3.26% |
96.00% | 3.75% |
95.50% | 4.24% |
95.00% | 4.74% |
94.50% | 5.24% |
94.00% | 5.74% |
93.50%/td> | 6.26% |
93.00% | 6.77% |
92.50% | 7.30% |
92.00% | 7.83% |
91.50% | 8.36% |
91.00% | 8.90% |
90.50% | 9.45% |
90%以下 | 10.00% |
短時間勤務中の賃金と育児時短就業給付金の合計額が、育児時短就業開始時の賃金水準を超えないように調整されます。例えば、育児時短就業開始時の賃金が月額30万円で、短時間勤務中の賃金が28万円の場合で考えてみましょう。
この場合、育児時短就業給付金の支給額は「28万円×10%=28,000円」ですが、賃金と給付金を合わせると育児時短就業開始時の賃金である30万円を超えます。
このような場合は給付額を調整し、賃金と給付金の合計が30万円となるように調整されるのです。
支給対象期間
育児時短就業給付金の支給対象期間は、原則として「育児時短就業を開始した日の属する月から育児時短就業を終了した日の属する月まで」の各暦月です。
例えば、1月16日から短時間勤務として復帰し、同年の12月31日まで短時間勤務を継続した場合、1月から12月までの12カ月間が支給対象期間となります。
支給申請期間
育児時短就業給付金の支給申請は、原則として2カ月ごとに行いますが、1カ月ごとに支給申請を行うことも可能です。
なお、支給申請期間は最初に申請するときは「最初の支給対象月の初日から起算して4カ月以内」、2回目以降の申請は「支給対象月の初日から起算して4カ月以内」です。
例えば、4月と5月分の申請は7月31日までに行う必要があります。
支給申請手続きの流れ
初めて育児時短就業給付金を申請するときの流れは、以下のとおりです。
事業主がやること | 必要書類 |
育児時短就業開始時賃金を届け出る | ・雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書 ・所定労働時間短縮開始時賃金証明書 ・賃金証明書に記載した賃金支払基礎日数、賃金支払状況や育児時短就業を開始した日を確認できる書類 |
受給資格を確認する | ・育児時短就業給付受給資格確認票 ・育児時短就業給付金支給申請書 ・育児の事実、出産予定日・出生日を確認することができる書類 ・育児時短就業を開始した日を確認できる書類 ・本来の週所定労働時間を確認できる書類 |
初回の支給申請 | ・育児時短就業給付受給資格確認票 ・育児時短就業給付金支給申請書または育児時短就業給付金支給申請書 ・支給対象月における賃金の額及び賃金の支払状況を確認できる書類 ・支給対象月における短縮後の週所定労働時間を確認できる書類 |
2回目の支給申請 | ・育児時短就業給付金支給申請書 ・支給対象月における賃金の額・賃金の支払状況を確認できる書類 ・支給対象月における短縮後の週所定労働時間を確認できる書類(変更がない場合は省略できる) |
添付書類として、賃金台帳・出勤簿・タイムカード・労働条件通知書などの提出が求められます。受給資格を確認する際には母子健康手帳の提出を求められることがあるため、従業員からコピーを受け取っておくとスムーズです。
なお、支給申請の手続きは原則として事業主が行いますが、やむを得ない場合は本人が直接支給申請を行うことも可能です。
育児時短就業給付金が支給されないケース
育児時短就業給付金が支給されないケースとして考えられるのが、以下の5つです。
- 月の途中で離職し、被保険者資格を喪失した場合
- 週所定労働時間20時間未満の労働条件で転職した場合
- 支給対象月に支払われた賃金額が、育児時短就業開始時賃金月額の100%以上の場合
- 支給対象月に支払われた賃金額が、支給限度額以上の場合(2025年7月31日までは459,000円)
- 支給額が最低限度額以下であるとき(2025年7月31日までは2,295円)
月の途中で離職した場合は、「月の初日から末日まで続けて被保険者である」という要件を満たしません(資格を喪失するのは離職日の翌日であるため)。例えば、4月15日に離職した場合、4月は支給対象とならず、申請できるのは3月分までとなります。
また、週の週所定労働時間が20時間未満の場合は雇用保険に加入しないため、「雇用保険の被保険者である」という要件を満たしません。つまり、雇用形態を変更した結果雇用保険に加入しなくなった場合、育児時短就業給付金は支給対象外となります。
育児時短就業給付金の留意点
育児時短就業給付金の申請をするにあたって、事業主が留意すべき点を解説します。
2025年4月1日より前に時短勤務を開始している場合
すでに短時間勤務制度を導入している企業では、2025年4月1日よりも前から、2歳未満の子を養育するために時短勤務をしている従業員がいるケースが考えられます。
この場合は、2025年4月1日から育児時短就業を開始したものとみなして、時短勤務前後の賃金を比較して支給の可否を判断します。
要件に該当する場合、2025年4月1日を育児時短就業開始日とみなして、2025年4月以降の各月を支給対象として取り扱います。
フルタイム復帰後に再度時短勤務になる場合
育児休業終了後、「時短勤務で復帰→フルタイム勤務に復帰→再度時短勤務に戻す」というケースがあり得るかもしれません。
この場合、再度時短勤務をするときに賃金や雇用保険への加入状況などの要件を満たしていれば、二度目の時短勤務をしたときも再度給付金の対象になります。
月の初日から末日まで続けて育児休業給付または介護休業給付を受けていた場合
月の初日から末日まで続けて育児休業給付または介護休業給付を受けている月に関しては、育児時短就業給付金は支給されません。
受給要件の一つに「初日から末日まで続けて、育児休業給付又は介護休業給付を受給していない」という項目があるためです。
まとめ:育児時短就業給付金を活用して時短勤務の従業員をサポートしよう
育児時短就業給付金を活用すれば、時短勤務による収入の減少を一部カバーでき、従業員のモチベーション向上にもつながります。政府も子育てと仕事を両立しやすい環境整備を進めているため、時短勤務中の従業員を雇用している事業主の方は、有効活用しましょう。
短時間勤務という選択肢を提供し、育児を理由とした離職を防ぐことは有意義です。育児と家庭を両立させながら、長期的なキャリア形成をサポートしやすくなるため、人材確保という面でも効果的です。
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(編集:創業手帳編集部)