法人税の軽減税率とは?中小企業等の法人税率の特例を徹底解説
「中小企業等の法人税率の特例」を認識しておこう
法人税の軽減税率は2025年3月31日までとなっています。税負担が増えるとなれば、不安視する中小企業も多いかもしれません。
しかし、2025年度の税制改正大綱の要望によって経済産業省が延長を求めています。
そこで今回は、「中小企業等の法人税率の特例」を認識するためにも、法人税の概要に加えて、制度の詳細などを解説していきます。
中小企業が活用できる法人税の軽減方法についてもまとめているので、税負担でお悩みの中小企業や制度について理解したい人は参考にしてみてください。
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この記事の目次
そもそも法人税とは
中小企業等の法人税率の特例について理解する前に、「法人税」そのものについて解説していきます。
法人税がどういったものなのか知らなければ、事業継続に影響を与えてしまいます。
課税対象の法人や法人税が課せられる所得などを説明していくので、理解するために役立ててください。
法人の所得に対して課せられる税金
法人が事業活動を行う上で得た所得に対して課せられる税金を法人税といいます。
個人事業主に対しては所得に所得税が課せられますが、法人の所得に対しては法人税が課せられます。
法人に課せられる税金には、法人税のほかに地方税となる法人住民税や法人事業税がありますが、これら3つの税金をまとめて「法人税等」と呼ばれるのが一般的です。
法人税が課税対象の法人
法人税は、すべての法人に課せられるわけではありません。
法人というと、株式会社をはじめとして様々な形態の会社が挙げられますが、合名会社や協業組合といったそのほかの形態の法人にも法人税が課せられます。
法人税が課せられる法人は以下の通りです。
- 【普通法人】
-
- 株式会社
- 有限会社
- 合名会社
- 合資会社
- 相互会社
- 医療法人
- 企業組合
- 監査法人
- 非営利型法人を除く一般社団法人
- 非営利型法人を除く一般財団法人 など
- 【協同組合等】
-
- 農業協同組合
- 漁業協同組合
- 労働者協同組合
- 生活協同組合
- 信用金庫 など
法人税が課税対象とならない法人
法人税が課せられない法人は以下の通りです。
- 【公共法人】
-
- 日本政策金融公庫
- 日本年金機構
- 地方独立行政法人
- 日本中央競馬会
- 日本放送協会 など
- 【公益法人等】
-
- 一般社団法人
- NPO法人
- 公益社団法人
- 公益財団法人
- 非営利型法人
- 学校法人
- 社会福祉法人
- 宗教法人 など
- 【人格のない社団等】
-
- マンション管理組合
- PTA
- 各種研究所
- 同窓会 など
公益法人等と人格のない社団等においては、収益事業によって得た所得は課税対象となります。
法人税が課せられる所得
益金から損金を差し引いた額が、法人税が課せられる所得となります。
益金とは、事業年度の税務上の収益を指し、商品やサービスによる売上収入や土地や建物の売却収入などが対象です。
損益は、売上原価や販売費や災害による損失など、税務上の費用を指します。計算式は、「益金-損金=所得」となります。
益金と損金は法人税所の概念です。企業会計上の収益や費用とは金額が必ずしも一致しない特徴があります。
これは、「企業会計上は費用となる場合でも税務上は損金にしないもの」「企業会計上は費用とならないが税務上は損金とするもの」があるためです。
そのため、収益から費用を差し引いた利益に法人税法の規定に基づいた税務調整を実施したものが課税される所得となります。
中小企業等の法人税率の特例とは
法人税について理解を深めたら、次に中小企業に対する法人税の軽減税率「中小企業等の法人税率の特例」について理解してみてください。
どういった制度なのか、概要や摘要となる中小企業などについて解説していきます。
中小企業の法人税率を軽減してくれる制度
法人税が高い税率のままで課税されれば、資金力が低い中小企業の中には税負担が重くのしかかり、事業継続に影響を与える可能性があります。
しかし、中小企業は法人税率の特例によって大企業と比較すると法人税率が優遇されています。
通常、法人税の税率は23.2%です。しかし、中小法人に対しては各事業年度分の年800万円以下の所得部分の税率が15%に軽減されます。
特例を利用するためには条件をクリアする必要がありますが、15%の軽減税率が適用されれば納税額を大きく抑えることができます。
例えば、年に100万円の利益があった場合、通常であれば232,000円を納税することになりますが、条件をクリアした中小企業であれば15万円の納税で済む仕組みです。
節税したい場合には、制度の詳細や条件など、細かくチェックすることが大切です。
制度がつくられた背景
中小企業等の法人税率の特例がつくられた背景には、中小企業の数が挙げられます。
中小企業省による発表では、2021年6月時点で中小企業と大企業合わせて337.5万もの企業が日本各地には存在していましたが、そのうちの99.7%となる336.5万もの企業が中小企業と発表されています。
中小企業では日常生活に必要となる製品やサービスを提供しているケースが多く、国民の生活にとって不可欠な存在です。
しかし、人材不足や資金調達におけるコストの増加などによって大企業と比較すると生産性や収益性が低くなりがちな点が多く、支援が必要と考える企業も中には多く存在しています。
特に近年では、物価高による資源の高騰や労働力不足といった不安要素が続いているため、中小企業を支援するための制度が強く望まれています。
その結果、中小企業等の法人税率の特例といった節税対策となる制度が作られたと考えられるでしょう。
制度が適用される中小企業
中小企業が法人税率の軽減税率の特例を受けるためには、条件をクリアする必要があります。
制度が適用される中小企業は以下の通りです。
-
- 資本金額または出資金額が1億円以下
- 資本または出資を有せず事業年度の終了時に以下の1~7に該当するものを除いた法人
1.相互会社
2.資本金5億円以上などの大法人との間に完全支配関係がある普通法人
3.2以外で普通法人と完全支配関係があるすべての大法人が有している株式や出資の全部を、そのすべての大法人のいずれかの法人が有するものとみなした場合に、いずれかの法人と普通法人との間に完全支配関係がある普通法人
4.投資法人
5.受託法人
6.特定目的法人
7.大通算法人
適用が除外される中小企業
過去3年の平均所得金額が15億を超過している中小企業は法人税の軽減税率は適用されません。
そのため、一般税率での法人税が課せられます。過去3年の平均所得は、以下の計算式で算出可能です。
「(事業年度3年分の所得金額÷期間中の月数)×12=過去3年の平均所得」
上記の計算式で出した数が15億を超えていた場合は、適用が除外されます。
適用除外事業者については、国税庁による「通算制度における適用除外事業者の取扱いについて」や「中小企業者の判定等」を活用して確認してみてください。
経済産業省が延長を求めている
中小企業の税負担を抑えるための制度となる中小企業等の法人税率の特例ですが、前述したように2025年3月31日までの制度です。
2023年度の税制改正によって期間が延長された背景があり、2025年度の税制改正大綱の要望によって、経済産業省が再度2年間の延長を求めています。
そのため、継続して軽減税率の特例を活用できるかもしれません。
しかし、永続するとは限りません。中小企業等の法人税率の特例は租税特別措置法に基づいた制度です。
租税特別措置法は時限立法となるため、将来的には終了する可能性があります。
時限立法とは、有効期間を限定して定められる法律を指し、時限法とも呼ばれている法令です。
中小企業としては永続的に続いてほしい制度ですが、いずれは終了する可能性があることを覚えておいてください。
法人税の計算方法と税率について
ここからは、法人税の計算方法を紹介していきます。法人は、事業で得た所得を基にして法人税を算出し、税務署に申告をして納税をする義務があります。
算出の仕方を理解するためにも、以下の方法を参考にしてください。
1.課税所得を求める
法人税額を求めるためにも、まずは課税所得を算出しなければいけません。課税所得は益金から損金を差し引いた額なので、以下の計算式となります。
「益金-損金=課税所得」
益金は、前述したように商品やサービスに対する売上収入や土地や建物の売却収入です。損金は、売上原価や販売費、災害による損失などが当てはまります。
2.法人税率を確認する
次に法人税率を確認していきます。資本金が1億円を超えている普通法人であれば、所得金額に関係なく税率は23.2%です。
それ以外の中小企業は、以下の表で税率をチェックしてみてください。
区分 | 所得 | 税率 |
---|---|---|
普通法人(中小法人) | 年800万円以下の部分 年800万円以上の部分 |
15% 23.2% |
普通法人(中小法人以外の法人) | 全額 | 23.2% |
一般社団法人等 | 年800万円以下の部分 年800万円以上の部分 |
15% 23.2% |
公益法人等 | 年800万円以下の部分 年800万円以上の部分 |
15% 19% |
協同組合等 | 年800万円以下の部分 年800万円以上の部分 |
15% 19% |
法人の種類や資本金額によって法人税率は異なります。法人税率に関しては、国税庁による「No.5759 法人税の税率」でも確認できるので参考にしてみてください。
3.法人税額を求める
課税所得と法人税率を導き出せたら法人税額を計算していきます。計算する際に、1円未満の端数がある場合は切り捨てとなります。
税額控除を適用する際には、その金額を差し引いてください。
「課税所得×法人税率-税額控除=法人税額」
上記の計算式によって法人税額を求められます。
青色申告をしている中小企業の場合、前年度よりも給与支給額をアップさせた際に一部を税額控除できる「賃上げ促進税制」を活用しているケースもあります。
その場合は、税額控除に当てはまるため算出する際には課税所得と法人税率を乗じた額から差し引かなければいけません。
所得課税控除や外国税額控除なども当てはまるので、利用している場合は注意してください。
法人税を節税する方法
最後に、中小企業が法人税を節税する方法を解説していきます。
今回紹介した中小企業等の法人税率の特例の条件に当てはまらない企業でも活用できる方法なので、参考にして取り組んでみてください。
役員報酬を増やす
中小企業の節税方法として役員報酬を増やすことが挙げられます。役員報酬は賞与を含めて一定要件を満たしていれば損金計上が可能です。
役員報酬を増額もしくは新しく役員を追加することで役員報酬を増やせば、課税所得の減額ができます。
しかし、法人税を増やせば役員の所得税や住民税、社会保険料の負担額は増えてしまいます。
その結果、納税額が増える可能性もあるため、役員の報酬額については税理士といった専門家に相談をして適正な額を決めることが大切です。
また、役員報酬は原則1年間固定となります。金額の決定や増減をする場合には、株主総会を開いて決議する必要もあるため手間が増えるデメリットがあります。
よく考えた上で役員報酬の増額を決めてください。
保険や共済への加入を検討する
保険や共済に加入し、保険料を費用として計上できれば節税につながります。
ただし、損害保険は損害に対する補填が目的なので全額費用計上が可能ですが、生命保険の場合は計上できるものもあれば資産となるケースもあるため注意してください。
中小企業倒産防止共済制度の掛け金は損金として計上できるので、加入すると節税につながります。
企業が経営を続ける上でのリスクに対する負担を軽減するために役立つので、保険や共済への加入を検討し、すでに加入している場合でも種類や保障内容は定期的に見直すことが重要です。
税理士に相談する
節税対策を実施するには税務に関する知識が必要です。しかし、税務関連の知識を身に付けるには時間や負担を要します。
そのため、税務の専門家でもある税理士に相談することを検討してみてください。適切なアドバイスをもらえれば、効果的な節税対策を実行できるはずです。
まとめ・中小企業は適用となる軽減税率を把握して法人税を正しく納めることが大切
法人税の税率が高いまま課税されれば税負担が重くなるので、納税のための資金を別途調達しなければいけない中小企業も中にはいます。
しかし、中小企業等の法人税率の特例によって大企業と比較すると中小企業は法人税率が優遇されています。
優遇を受けるためには、条件があるため適用となるか確認が必要です。適用となれば、適用となる軽減税率を把握して法人税を正しく納めてください。
ただし、永続的に制度が続くとは限りません。
条件に当てはまらない可能性もあるため、制度に依存せずに利益を生み出せるビジネスモデルを目指して企業努力を続けることが大切です。
今回紹介した節税方法を取り入れながら事業の発展を目指してみてください。
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(編集:創業手帳編集部)