今注目のグリーンローンとは。加速化する環境ビジネスの新たなる資金調達方法
グリーンローンで資金調達は可能か?申込方法や利用のメリット・デメリット
近年、環境課題の解決を目指す資金調達方法として、グリーンローンが注目されています。
グリーンローンは気候変動などの様々な環境問題が取り沙汰される中、国内外で広がっている取り組みです。
使途は限られるものの、利用できる場合は多くのメリットが得られます。
グリーンローン利用に必要な申込方法や借り手として利用できる事業者などを解説します。
また、グリーンローンを使う意義や資金調達のメリット・デメリットも理解しておきましょう。
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この記事の目次
注目が集まるESGファイナンス(グリーンファイナンス)の手法
グリーンローンについて触れる前に、ESGファイナンス(グリーンファイナンス)についても理解しておく必要があります。
ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字であり、ESGファイナンスはこれら3つを考慮して行われる投資や融資を指します。
従来の財務情報だけによる評価ではなく、非財務情報を考慮した評価によって投資(融資)判断を行うのがESGファイナンスです。
グリーンローンやサステナビリティ・リンク・ローンがある
グリーンローンより前から行われてきた手法であるグリーンボンドをはじめ、今回注目されているグリーンローン、そして、サステナビリティ・リンク・ローンなどの資金調達方法がESGファイナンスです。
地球の環境問題が注目される中で、そういった環境対策に限定された事業に対して行われるESGファイナンスも注目を集めてきました。
ESGファイナンス(グリーンファイナンス)は、サステナビリティ経営を目指す事業者にメリットがあるだけでなく、環境保全や社会問題の解決といったメリットもあります。
こうした背景から、グリーンローンをはじめとしたESGファイナンスは市場を拡大しています。
環境省の取り組みもスタートしている
環境省でも、グリーンボンドやグリーンローンなどをサポートする取り組みを開始しています。
環境省で実施しているのは、地域環境保全対策費補助金(適応プロジェクトなどのグリーンプロジェクトの活性化に向けたグリーンボンド・グリーンローンなどの発行促進体制整備支援事業)です。
名称の通り、グリーンローンなどの促進を目指す補助金で、グリーンローンなどを実施しようとする事業者と自治体がターゲットとなっています。
また、令和2年には「グリーンローン及びサステナビリティ・リンク・ローンガイドライン」を、令和3年3月に「グリーンから始めるインパクト評価ガイド」を策定・公表しました。
さらに、グリーンファイナンスモデル事例創出事業として、ガイドラインに適合するグリーンファイナンスの情報発信を行うモデル事例を募集するなど、活発な情報発信とファイナンスの推進を行っています。
これらガイドラインは、すべて国際的なガイドラインである国際ガイドラインである「グリーンローン原則」に準拠し、国際動向に沿ったものです。
グリーンローン原則は、シンジケートローン市場で活動する作業部会(主要な金融機関の代表で構成)が2018年に策定しました。
グリーンローンとは
グリーンファイナンスのひとつであるグリーンローンは、グリーンポンドの後を追う形で登場した新たな手法です。
グリーンプロジェクトのための資金を調達するためにのみ利用できます。
グリーンローンは、資金調達後も確実に追跡管理がなされるなど、透明性が確保された融資となっています。
グリーンローンのあらましやグリーンボンドとの違いなど、基本的な情報をまとめました。
グリーンプロジェクトへの資金融資
グリーンローンは、グリーンプロジェクトと呼ばれる事業に限定して融資されるローンです。
グリーンプロジェクトとは、地球温暖化をはじめとした環境問題の解決に貢献する事業のことです。
再生可能エネルギー事業や生物多様性の保全事業、環境負荷の少ない交通や気候変動への対応などの事業を指します。
グリーンローンの使途は厳しく限定されており、融資後にもレポーティングによって管理されることになります。
管理される内容は、グリーンローンが使われたプロジェクトのリスト、各プロジェクトの概要やそれぞれの資金額、期待される効果などの情報です。
借り手側
グリーンローンで融資を受けられるのは、グリーンプロジェクトを実施する事業者です。
グリーンプロジェクトのみを実施する特別目的会社(SPC)のほか、一般事業者も含みます。
また、グリーンプロジェクトに対する投資や融資を行う金融機関などが原資を調達する目的に利用します。
投資者
グリーンローンへの投資者は、主にESG融資を行うことを表明している銀行などの金融機関です。
各大手都市銀行をはじめ、地方銀行もグリーンローンの実施を表明しています。
グリーンローンへの投資は社会的な支持も得られ、さらに安定的なキャッシュフローを得られることで、投資者側のメリットも多いものです。
投資利益と環境保全、社会的評価の3点が得られます。
グリーンローンでは、外部評価機関が借り手を評価することを推奨されています。
評価を受けることにより発行されるセカンドパーティー・オピニオン(SPO)もグリーンローンの信頼性を高めるものです。
グリーンボンドとの違い
グリーンボンドは、グリーンローンと同じくプロジェクトの内容は厳しく限られますが、グリーンローンとは違い、融資ではありません。
企業や団体が発行する債券のことを「ボンド」というように、グリーンボンドはグリーンプロジェクトを対象にした債権です。
金融機関から資金を借りるグリーンローンに対し、グリーンボンドはグリーンプロジェクトを実施する企業が債権を発行し、資金を集める方法です。
グリーンボンドはグリーンローンの以前から資金調達方法として規模を広げてきましたが、近年ではグリーンローンが急速に成長しています。
グリーンボンドを発行する企業や自治体などは、グリーンボンド原則に従うのがルールです。
グリーンローンはグリーンローン原則に、グリーンボンドはグリーンボンド原則に則って実施されます。
ただし、グリーンボンドはあくまでも債権であり、投資家側からすると債券投資にあたります。
グリーンローンの仕組み・申込方法
グリーンファイナンスは、国内では省庁も注目し、支援事業やガイドライン策定などが進められています。
その中でもグリーンローンは注目度も高く、利用できる場合には様々なメリットも得られるでしょう。
グリーンローンの利用に関心を持ったら、その資金調達の仕組みと申込方法を知り、自社の事業に適しているか考えてみてください。
グリーンローンの資金調達の仕組み
グリーンローンの融資は、資金の貸付機関である金融機関だけでなくセカンドパーティである外部評価機関によって資金調達主体となる企業を審査、評価して実施されます。
グリーンローンの外部評価機関は、融資実行に際し、資金調達主体である企業からローンフレームワークをはじめとした評価に必要な資料の提供を受けます。
外部評価機関は、それに基づき環境改善目標などの確認を行い、評価を付与します。
外部評価機関となるのは、企業動向や経済に関する調査研究を行う情報機関、シンクタンクなどです。
融資を受けた企業はグリーンローンの対象事業に投資を行い、レポーティングで金融機関に影響報告を行います。
融資後も引き続き定期的なレポーティングによって目標達成状況が見守られ、設定目標の達成状況に応じて利率の優遇措置などが実施されることもあります。
グリーンローン借入申込の流れ
グリーンローンの借入も、基本的には金融機関のそのほかの借入と同じように進められます。金融機関ごとの審査が行われ、審査に通過すると融資が受けられるのは同じです。
ただし、そこに外部評価機関が入り、第三者確認が行われる点が異なります。
グリーンローンの利用を希望する企業は、事前に評価書類となるローンフレームワークを策定し、提出します。
その後、外部評価機関から評価を取得、融資が実行される流れです。また、グリーンローンの融資がスタートしたら、最低年1回のレポーティングが必要です。
このレポーティングは、ローンの完済までずっと継続します。
グリーンローンのメリット・デメリット
グリーンローンは、グリーンプロジェクトを実施する企業に対して融資されるローンです。
使途が限定されており、そのほかにいくつかのデメリットはありますが、利用で得られるメリットは大きいと考えられます。
グリーンローンのメリットとデメリットを比較して利用を検討してみましょう。
グリーンローンのメリット
グリーンローンは、様々な面で企業に良い影響を与えるものです。
グリーンローンは使途が限定されるという厳しさもありますが、それによって社会から高く評価されており、利用企業もその影響を受けます。
また、グリーンローンは、条件の良い融資でもあります。
好条件での資金調達が可能となる
グリーンローンは、グリーンプロジェクトに関する事業性評価に精通した投資家から比較的良い条件で資金調達しやすい手法です。
使途の定められていないローンよりも、厳しい審査、評価を受けていることにより、好条件での融資が可能になっています。
利用条件に当てはまる事業のみに限定される分、優遇金利などが期待できます。
サステナビリティ経営の強化が進む
グリーンローンの利用を通じて、サステナビリティ経営の強化、高度化が進み、企業価値が向上しやすくなるのもグリーンローンのメリットです。
グリーンローンを使うための取り組みを実施するために、企業内ではサステナビリティに関する戦略やガバナンスの体制整備などが進むことが予想できます。
こうした企業努力は、中長期的にもESG評価の向上につながるものです。
社会的支持が高まる
グリーンローンを利用する企業は、社会的にも高く評価されるようです。
グリーンローンを利用することで、グリーンプロジェクト推進に積極的な企業であることをアピールでき、他企業や消費者などから広く支持を得られるでしょう。
SDGsの推進する企業の増加により消費者意識も変わってきており、環境保全に力を入れる企業を見極めて商品を選ぶ人も増えています。
また、海外でも非財務情報の評価の重要性は強く認識されており、世界に向けてのPRにもなり得ます。
グリーンローンのデメリット
グリーンローンは、高い評価と好条件の融資というメリットを持つ反面、評価や融資条件を担保するために厳しく審査されるというデメリットもあります。
グリーンローンの様々なメリットは、デメリットを乗り越えた企業にしか得られません。
利用を検討する際には、デメリットについて十分な検討をする必要があります。
利用条件が限られている
グリーンローンは、その資金使途が厳しく定められており、グリーンプロジェクトに関すること以外には使えません。
そのため、一般的な融資で誰でも申し込めるものではなく、利用できない企業も多いものです。
また、こうした厳しい利用条件に当てはまるか、また、それが守られるか、利用企業は融資の前から長期的に確認されます。
資金調達の際に、外部評価機関から使途の適切性や環境改善効果などを客観的に評価され、さらに、返済が終わるまでに年1回のレポーティングもあります。
外部評価機関による評価の手数料がかかる
グリーンローンは、金融機関の審査だけでなく、外部評価機関からの評価を必要としますが、その評価をもらうためには手数料がかかります。
融資を受ける額に比べたら大きな負担にはならないかもしれませんが、ほかの融資では必要のない手数料なのでデメリットと言えそうです。
グリーンローンの実施状況
グリーンローンは、世界的に注目を集めるグリーンファイナンスのひとつであり、日本国内でも実施する金融機関が増えてきています。
グリーンローンの現状を知るために、各機関の実施状況を振り返ってみましょう。
日本生命保険
2021年8月、日本生命保険相互会社は初のグリーンローンの実施を発表しました。
同社は、今後、企業や地方自治体の実施する環境負荷の低い物件の取得や建設のための資金融資を実施することになります。
2021年3月にもESG投融資の強化を発表するなど、グリーンファイナンスに力を入れている企業で、グリーンローンの実行は大手生命保険会社では初のことです。
日本政策投資銀行
日本政策投資銀行は、東北電力株式会社に対してグリーンローンとして融資を行っています。玉川第二水力発電所の整備にかかる費用が対象です。
玉川第二水力発電所は、脱炭素化に役立つ電源としての条件を満たし、荒川水系玉川の特色を生かしてCO2排出量低減に貢献できると評価されました。
まとめ
グリーンローンは、グリーンファイナンスの手法のひとつとして注目されている融資です。
債権であるグリーンボンドに並ぶ勢いで成長しており、国内でも実施する金融機関が増えてきました。
様々な取り組みが進められ、社会的にも認知されていますが、利用条件を満たす事業フレームワークの策定が必要で、実際に利用するにはハードルが高い融資と言えます。
(編集:創業手帳編集部)