Glasp 中屋敷 量貴|世界で200万人が使うAIツール!20代で渡米し命の危機を乗り越え開発

創業手帳
※このインタビュー内容は2025年03月に行われた取材時点のものです。

ハイライト共有からAI要約まで!知識の民主化を目指すプラットフォームを世界展開

Glaspは、ウェブ上のハイライト機能を核に、YouTubeの要約やAIを活用した知識共有のプラットフォームを提供する企業です。

同社は現在200万人以上のユーザーを抱え、収益化にも成功。創業者の中屋敷量貴さんは愛媛県松山市出身で、理系出身ながらシリコンバレーで起業。20代で命の危機を経験したことが、現在の事業コンセプトにつながっています。

そこで今回は中屋敷さんに、渡米を決意した経緯から、シリコンバレーでの苦労、そして現在の成功に至るまでを創業手帳の大久保が聞きました。

中屋敷 量貴

中屋敷 量貴(なかやしき かずき)
Glasp Cofounder & CEO
愛媛県松山市出身。東京理科大学で化学を専攻し、東京大学大学院に進学。大学院時代にMITとハーバードへの短期留学を経験。その後UCバークレーのビジネスコースに進学し、Googleでコントラクター・ベンダーとして勤務。最初の起業では挫折を経験するも、現在はGlaspを創業し、世界200万人以上が利用するプラットフォームに成長させる。ウェブ上の有益な情報をハイライトし、AIで要約・分析できるサービスを提供している。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

20代で命の危機を経験し、人生観が一変

大久保:中屋敷さんは理系のエリートとして順調なキャリアを歩んでいらっしゃいましたが、大きな転機があったと伺いました。

中屋敷:はい。大学3年生の時、20歳で右側の脳に硬膜化血腫で血が溜まり、左半身が痺れて緊急手術を受けました。その時の経験が、今の事業にも大きく影響しています。

大久保:具体的にはどのような影響があったのでしょうか?

中屋敷:死を意識したことで、自分が生きて何かの役に立ったという貢献感を残せるような人生を送りたいと強く思うようになりました。今のGlaspも、人々の知識や経験を次世代に残していけるプラットフォームを目指しているんです。

創業の原点となった幼少期と家族の影響

大久保:起業家としての素質は幼い頃から感じていましたか?

中屋敷:父と祖父が会社を経営していて、小さい頃から経営や株式投資といった話題が身近にありました。特に祖父の「堅実な仕事をすることが大事だ」という言葉は今でも心に残っています。

祖父は建設業を営んでいて、国鉄(現JR)の仕事を請け負っていました。周りの建設業者が手を抜く中でも律儀に仕事をこなし、時間はかかっても着実に信頼を築いていく姿勢を見て育ちました。

現在の事業でも、急成長を追い求めるのではなく、確実に価値を提供することを重視しているのは、その影響かもしれません。

理系からビジネスの世界へ転身した理由

大久保:東大大学院で化学を専攻されていた時期に、MITとハーバードへの留学経験もありますよね。

中屋敷:はい。その経験が大きな転機になりました。日本の研究は細分化されているのですが、アメリカでは異分野間のコラボレーションが活発で、研究がダイレクトにビジネスにつながっているのを目の当たりにしました。

例えば、防弾チョッキの研究でコンピューターシミュレーションを活用するなど、分野を超えた面白い取り組みがありました。

大久保:その後、UCバークレーのビジネスコースに進学されていますが、研究者の道を諦めるのは大きな決断だったのではないですか?

中屋敷:実は博士課程に進む予定だったんです。でも、良い論文が書けても運の要素が大きいと感じていました。

それに、アメリカで見た異分野融合型のビジネスにも強く惹かれていて。結果的に、シリコンバレーでの挑戦を選びました。まずは1年間のエクステンションプログラムからスタートしましたね。

シリコンバレーでの挫折と再起

大久保:シリコンバレーでの最初の仕事はGoogleでしたよね?

中屋敷:オフィス自体はGoogleですが、業務形態はコントラクター・ベンダー(業務委託)として働いていました。

コントラクターとはいっても、Googleのプロダクトを社員と一緒に作るので、アメリカの働き方を間近で見られる良い機会でした。

日本とは違って、オフィスであまりみかけない人でも成果を出せれば評価される文化があり、驚きましたね。オフィス環境も素晴らしく、ランチやディナーが出たり、ジムが使えたり。ただ、従業員はいつ解雇されてもおかしくない環境で、日本の終身雇用とは大きく異なることも実感しました。

その後、起業家の知人の紹介で知り合ったアメリカ人の共同創業者と、デザインのフィードバック管理ができるようなツールを開発する会社を立ち上げました。しかし、ある日突然「やめよう」と言われ、プロジェクトは頓挫して対立することになり、この時は本当にハードでした。

お金をかけずに200万人のユーザーを獲得

大久保:現在のGlaspを立ち上げたのはどのような経緯でしょう?

中屋敷:共同創業が頓挫した後、再度、起業にトライしましたが、ストレスで肺に穴が空くような状態になり、本当にきつかったです。

そこが、今のGlaspのような自分自身の分身・記憶を世の中に残すという発想につながったのかもしれません。

シリコンバレーでは大規模な資金調達をしないといけない、と思われがちです。しかし今はAI時代で、開発コストが急速に下がっています。12ヶ月で10倍のスピードでコストが下がっているんです。そのため、必ずしも大規模な資金調達は必要ないと考えました。それよりも世の中に出すスピードのほうが大事でした。

結果、Glaspは広告費をほとんどかけずに成長できました。特にYouTube動画の要約機能は、チャットGPTが出てきた直後にリリースできたことが大きかったです。ニュースレターやYouTubeクリエイターに取り上げられ、口コミで広がりました。

今では収益化もできて投資家もついていただいていますが、良いプロダクトを早く出すことに集中できたのが良かったかもしれないです。

大久保:Glaspを使ってみましたが、GPTで要約してくれたり、記録が残って集約されたりして便利ですね。

中屋敷:Glaspは、ウェブテキストやYouTube動画の要約などいろいろな機能と入り方があるので、印象が人によって違うかもしれないですね。Glasp自体は自分の興味や知識経験を集約して、自分の分身のような記録が作れるサービスです。

今のソーシャルメディアは刺激が収益につながる「ドーパミンプラットフォーム」化していて、意味のある知識共有が難しくなっている側面もある気がします。

私たちは「本当に意味のある人々の知識や経験を次世代に残せるプラットフォーム」を作りたい。そのために、AIを活用して個人の学習履歴に基づいたデジタルクローンを作り、誰もが専門家の知識にアクセスできる世界を目指しています。

今後のビジョン・自分の知識と経験を残すプラットフォームへ

大久保:今後の展望についてお聞かせください。

中屋敷:自分のようなものが偉そうと思われると申し訳ないですが、1ビリオン、つまり10億人規模のユーザーを獲得したいなと思っています。

大久保:えっ!それってメジャーなITサービス並みということですね。

でも、今のGlaspはすでに100万人単位のユーザーを獲得していて桁を上げ続けることに成功している。それを繰り返せば夢ではないかもしれないですね。

中屋敷:自分が出したサービスが皆さんに使われて、結果、その規模になってくれば嬉しいなと思います。

大久保写真大久保の感想

中屋敷さんの軌跡で最も印象的だったのは、20代での命の危機という経験が、現在の「知識を残す」というミッションの原点になっているということです。

また、シリコンバレーという最先端の地で、あえて「お金をかけず、スピーディーに市場投入する」という戦略を選択し成功を収めた点も特筆すべきでしょう。

理系出身ながら、アメリカの異分野融合型の考え方に触れたことで視野を広げ、世界規模のプラットフォームを構築。ユーザー数200万人という実績は、その戦略の正しさを証明しています。

個人的にもGlaspは使いやすく便利でした。「知識の民主化」という大きなビジョンと、それを実現するための地に足のついた事業戦略。その両立が、中屋敷さんとGlaspの強みなのかもしれません。

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(取材協力: Glasp Cofounder & CEO 中屋敷 量貴
(編集: 創業手帳編集部)



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