DEA 山田 耕三|元テレビ東京の社員がシンガポールで起業!ゲームで社会問題の解決を目指す

創業手帳
※このインタビュー内容は2025年03月に行われた取材時点のものです。

遊ぶほど社会貢献に。エンタメ系暗号資産ビジネス

山田耕三
約30兆円と言われ、今後も成長が期待される世界のゲーム市場。こうした中ゲームで社会課題の解決に取り組み、注目されているスタートアップがDigital Entertainment Asset (DEA)社です。独自の暗号資産を発行し、ゲームの報酬に活用していることでも話題となっています。

2018年にシンガポールでDEA社を創業、現在Co-CEO(共同最高経営責任者)を務めている山田耕三さん。山田さんはかつてテレビ東京の社員として、バラエティ番組などをプロデュースしていたと言います。

そんな山田さんがなぜ海外で起業し、なぜゲーム事業や暗号資産の発行を手掛けているのか、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

山田 耕三(やまだ こうぞう)
Digital Entertainment Asset Pte.Ltd.(DEA) Founder & Co-CEO
1977年生まれ。東京大学法学部卒業後、2002年テレビ東京入社。制作局にて音楽・バラエティ番組を中心に番組制作を担当。デジタルメディアとの連動企画を得意とする。
2018年に独立し、エンターテインメント全般のプロデュースを手がける。同年シンガポールにてDEA社を創業。NFTゲームプラットフォーム事業PlayMiningを運営する。2022年1月にPlay to Earnトークン「DEAPcoin(DEP)」を日本初上場に導く。2024年に行われた世界最大級のビジネスコンテスト「スタートアップワールドカップ」東京予選で優勝。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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インターネットの盛り上がりに衝撃を受けた、テレビマン時代


大久保:東京大学を卒業後、テレビ東京に入社されたそうですね。

山田:学生の頃はあまり深く考えず、右に倣えという感じで司法試験の勉強をしていました。しかし勉強に身が入らず、現実逃避という感じでテレビ局の面接を受けてみたところ興味がわいたのです。

それから何とかテレビ東京に受かり、入社後は制作局に配属されてバラエティ番組などを担当しました。

大久保:当時テレビ制作の現場は、かなりハードだったのではないでしょうか?

山田:そうですね。道端で10分寝て、その後起きて仕事を続けるなんてことも普通でした。ただ僕としては、当時がむしゃらに働いたことは大事な経験だと思っています。オンエア直前ぎりぎりまで追い込んで、どこまでクオリティを高められるか。そういうこだわりを持って仕事をする世界を体験できましたから。

大久保:テレビ業界にいた山田さんが起業しようと思われたきっかけは何でしたか?

山田:一言で言うと、起業のきっかけはインターネットの勃興(ぼっこう)です。僕は当時バラエティ番組の他に音楽番組も担当していたので、あらゆる音楽のトレンドを知っておきたいというこだわりがありました。だから音楽業界には詳しいつもりでしたが、ボーカロイド音楽が話題になった時に全然キャッチできてないことに気づいたんです。

そこでとにかくインターネットについて勉強しました。すると、インターネットは音楽にとどまらないと感じたんです。特に初音ミクから始まるボーカロイドの盛り上がりは、クリエイションの世界に身を置く僕としては衝撃的でした。

テレビ業界にいる僕としても、インターネットと連携しなければと思い始めて、自分で番組をプロデュースしました。おそらくテレビ地上波初の完全ネット連動番組だったと思います。

この番組では収録の模様を全てニコニコ生放送で配信しました。僕自身、半年間毎日配信を続けることで、かなりインターネットのことを学びましたね。これがきっかけで、ネット連動番組を担当する機会が増えたんです。

ちょうどテレビ朝日さんとサイバーエージェントさんがABEMAを立ち上げる時期で、プロのクオリティでインターネットがわかる作り手が求められるようになり、僕に仕事がどんどんくるようになりました。動画プラットフォーム勃興期には、実はほとんど僕も関わっていたんですよ。

インターネットや動画にもっと注力したいと思って、独立することにしました。会社を辞めてまず個人でテレビ制作会社を作り、自由にいろんなことに手を出しましたね。その後、今の会社の共同代表である吉田直人とDEAを立ち上げました。

大久保:吉田さんとはどこで知り合ったのですか?

山田:もともと僕がテレビ東京のプロデューサーだった頃、知人を介して知り合いました。

独立後にいろいろな仕事をする中で、創業者の人生をオリジナルの舞台にするというプロジェクトがあり、その題材になってもらったのが吉田でした。ですから僕は彼の人生をよく知っていたんです。

吉田は20代でゲーム会社を立ち上げ、ヒット作もあり順調だったものの、ガンを患うなどいろいろあり結局会社は倒産してしまいました。表舞台から一旦は姿を消しましたが、再起して3社も上場させたんです。これってすごいことですよね。でも当時の吉田は、「夢半ばで終わったゲーム会社にまだケリをつけていない」と言っていました。

一方で僕はテレビ東京で音楽番組やバラエティ番組を担当していましたが、それらはスポット消費型と言いますか、基本的に1回見れば終わりのコンテンツです。ですからゲームのような、ずっと残るコンテンツに強い憧れがありました。

そういうところで意気投合して、一緒に会社を作りました。世界中の人がびっくりして記憶に残るようなエンターテインメントを作りたい、というのが僕らの根っこにあります。

起業当初からシンガポールで会社を登記した理由とは


大久保:現在シンガポールに拠点を置いているそうですが、起業当初からですか?

山田:はい。いろいろなアイデアが出た中で、自ら暗号資産の発行体になり、ユーザーがゲームを通じて暗号資産を獲得できる仕組みを作る。これが最もエクストリームなものでした。そこで暗号資産の事業に取り組むことにしました。

ただ当時(2018年)の日本では、僕らのようなスタートアップが暗号資産の発行体になるのはかなり難しいことがわかり、シンガポールで登記しました。先に共同代表の吉田がシンガポールへ移住し、僕も3年前に家族を連れてシンガポールへ渡りました。

大久保:日本では何が一番ボトルネックになったのでしょうか?

山田:日本では暗号資産を発行する場合、発行した流通前のトークンもすべて課税対象になる仕組みでした。

例えば事業スタート時に300億枚の暗号資産を発行して、少しずつ流通させるとします。日本では最初の1枚が流通して価格がついた瞬間、300億枚のコイン×価格の金額が資産となり、課税されてしまう。

かなり省略した説明ですが、これでは最初の決算で税金が払えず、会社は確実に潰れてしまいます。一方シンガポールではあくまで流通した分が課税対象です。

ただ日本の税制ではスタートアップが海外に出てしまうという大きな問題があったため、その後変更されたようです。

大久保:なるほど。今の事業についてお聞きしたいのですが、「ゲームを通じて社会問題の解決を目指す」というのはすごくユニークですね。

山田:そうですね。例えば僕らの「PicTrée(ピクトレ)~ぼくとわたしの電柱合戦~」というゲームは、ユーザーがスマホで電柱を撮影し、それらを線でつなぎ距離などを競い合うものです。

ただ従来のゲームと大きな違いが2つあって、1つは現実世界の社会貢献につながる点です。ユーザーが撮影した電柱画像は東京電力様のグループ企業にシェアされ、電力設備の保守管理などに役立てていただいています。

もう1つはユーザーへの報酬が暗号資産という点です。ユーザーはゲーム結果に応じてポイントがもらえるのですが、これは僕らが発行している暗号資産に交換することができます。ただ、暗号資産になじみがない方でもゲームをプレイできるように、Amazonギフト券にも交換が可能です。

大久保:日本企業と組んだ事業が多いようですが、シンガポールに拠点を置きつつ、まず日本の市場をおさえたいということでしょうか?

山田:単純に言葉の問題が大きいですね。僕らの事業はゲームというデジタル活動を現実世界につなぎ込み、それが貢献活動になるような経済圏を作るものです。事業を進めるにはパートナーが必要ですし、いろいろな事案を関係者間で調整することになります。

そうなると、相手の文化や気持ちを推し量りながら進めていかなければいけない。僕の拙い英語では難しいかなと思って、今は日本に注力しています。

ただしゲームを使って社会課題を解決していくという事業は、グローバルに展開できると思っています。何事もそうだと思いますが、実績が出れば数字で説明しやすくなりますよね。今は日本で頑張って実績を作り、それから世界へ広げていきたいと考えています。

暗号資産やブロックチェーンを活用することで、地球全部を経済圏にできる


大久保:ゲーム事業を手掛ける一方、御社はさきほど伺ったように暗号資産の発行体というポジションもありますよね。両方手掛けているのは非常に珍しいのではないでしょうか。

山田こういう会社はまだ世の中にないと思うので、僕らがロールモデルにならなければと感じています。

まず僕らの強みは、ビジネス経験値の高い吉田とテレビ業界にいた僕が組むことで、ゲームを使ったソリューションの構築を最後までやりきる実行力があるところです。これによって、企業から事業を請け負い、収益を上げていくことが株式会社としての一面です。

一方で暗号資産の発行は、ゲーム事業と連動はしていますが、仕組みは別に動かすイメージです。こちらはインフラに近いものなので、どちらかというとパブリックな立ち位置ですね。そのあたりのバランスが大事だと思っていて、この2つをどう両立するかを今整理しているところです。

大久保:御社のゲームではユーザーの報酬に暗号資産を使っています。暗号資産にすることでどんなメリットがあるのか、わかりやすく教えていただけますか?

山田:実はすごく効率的で、スケールを大きくできるんです。例えばユーザーが外国人で銀行の口座を持っていないと、一般的なサービスではその時点で対象から外れてしまいます。

一方で暗号資産の口座を持っている人は、今やアジアやアフリカ、中東など世界中でどんどん増え続けています。日本のような先進国では銀行口座を持つ人がほとんどですし、すでに見えている人やお金を扱えばいいので、従来の仕組みでも問題ありません。

でも実際には僕らが認識していなかったり見えていなかったりするところにお金や人がある。それを動かせる仕組みがWeb3(※編集部注:ブロックチェーンなどを使った新たな分散型インターネットのこと)なんです。

従来の銀行は、どうしても地域に縛られます。でもWeb3を使った分散型金融の世界では、どこに人がいるかという概念がありません。つまりスケールの小さなビジネスなら従来の仕組みでいいけれど、地球を1つの経済圏として捉えてスケールの大きなことをやるには、ブロックチェーンや暗号通貨を使った新たな仕組みを使う必要があります。

僕らのゲーム事業で言うと、今は日本国内の話ですから従来の仕組みでも可能です。ただこうした取り組みが国境を超えれば、もっとスケールアップできるというわけです。

例えば今手掛けている「遠隔ごみ分別ゲーム」は、デジタルゲームを通して、遠隔で工場のロボットを動かし、ごみの分別作業を手伝えるというものです。この仕組みでは、フィリピンにいる人が新潟にある工場のロボットを操作する実験も終えているんですよ。日本が抱える労働力不足という課題の解決にもつながると考えています。

ただ暗号資産などの新たな仕組みが社会問題の解決に役立つことは、事例が少なくまだ知られていません。これは僕らのような事業者の責任なので、これからしっかりとしたプロダクトを作っていく必要があると感じています。

動いてみた場所からしか見えない世界がある


大久保:起業してから現在まで一番大変だったことや、反対に一番達成感があったことを伺えますか?

山田:ゲームを作る話になった時、最初に僕と吉田の頭の中にあったのは、任天堂さんやソニーさんが作った既存のゲームでした。そういうゲームに暗号資産などが入って、何らかの新しい体験を生み、ビジネスがスケールすると考えていました。

でも事業をやってみたところ、それは大きな間違いだったとわかりました。僕自身エンタメの事業者でありながら、その本質に気づいていなかった。これは大きな失敗でしたが、一方で大きなことを学んだという達成感もありました。

架空の世界に没頭して爽快感や幸福感を得ることに、映画やアニメといった既存のエンターテインメントの根幹があります。でも暗号資産は現実の資産です。それが架空の世界に異物として入ってくることを、僕らはやろうとしていた。これは間違いでした。

世界のゲーム人口は約30億人と言われています。それだけ巨大なマーケットがあり、日々ユーザーがお金を出してエネルギーを消費しています。そのエネルギーを合気道のように、現実世界に流し込むことができないかなと思うようになりました。

そこで立ち位置をエンターテインメント側ではなく、現実世界の事業者側に置きました。課題解決というテーマを持ち、ゲームを活用することで暗号資産などのエネルギーをうまく流し込ませる感じですね。

その第1号になったのが、先ほどお話しした電柱点検ゲーム「ピクトレ」です。ピクトレは「ポケモンGO」とルールはほぼ同じですが、ポケモンGOは位置情報以外はフィクションですよね。

僕らのゲームでは、ゲームに夢中になればなるほど現実世界が良くなる仕組みです。陣取り合戦というデジタルでの活動が進むにつれ、現実世界では電柱を管理するインフラ事業者の点検コストが下がる。現実世界が良くなった結果として、お金をゲーム側へ流し込む形です。

この考え方は、あらゆる課題に応用が効くと思っています。その原資というか、エネルギーの元はやはりデジタル上の活動です。30億人がこれまでゲームで発散させていたエネルギーの一部を、現実世界の社会貢献活動につなぎたいという発想です。

大久保:最後に、読者に向けてのメッセージを一言いただけますか?

山田僕らも起業当初から、事業をピボットしてきました。でもそれは実際にやらないとわからなかったことなんですよね。実際に動いてみた1歩先からしか見えない世界が、必ずあります。成功を掴むためには、自分で前に乗り出してそこからものを見ないと始まらない。

最初に踏み出した1歩が最適解ならいいですが、おそらく違うことも多いでしょう。それでも、力強くもう1歩進めばいいと思います。僕はそうやって自分を鼓舞して、柔軟に前に進んでいます。

起業される方々は、世界に新しい価値を作ろうという思いを持つ仲間だと思っています。僕らの事業ともきっと何らかの形で結びつくはずですから、一度お会いして一緒に新しいことに取り組めることを祈っています。

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(編集:創業手帳編集部)

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(取材協力: Digital Entertainment Asset Pte.Ltd. Founder & Co-CEO 山田 耕三
(編集: 創業手帳編集部)



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