法人は社会保険料の負担が増える?負担割合から内訳、個人事業との違いまで解説

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会社にとって大きな負担となり得る社会保険料


社会保険料は日本に住んでいる人が病気、ケガ、高齢などを理由に生活困難になった場合などのリスクに備えて分担し合う公的な負担金です。
治療費の一部を負担する健康保険や高齢になった際に受け取れる厚生年金保険などがあります。
保険料は毎月会社と従業員が折半して負担する仕組みです。しかし、業種によって会社と個人負担の割合が変わるケースもあります。

この記事では法人の社会保険の負担割合や内訳、個人事業主とどのような違いがあるかについて解説します。
社会保険料の負担がどれくらいになるのか、個人事業主とどれくらい違うのか気になる人は、ぜひ参考にしてください。

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法人と個人事業主で社会保険の負担は異なる?


社会保険は、原則企業と従業員が半分ずつ負担する仕組みです。
法人である場合は、給与に基づいて計算しますが、個人事業主の場合は所得に基づく計算が取り入れられています。
ここでは、法人と個人事業主における社会保険料の負担を中心に解説します。

個人事業主よりも社会保険料の負担は増える傾向にある

会社員から個人事業主になった場合、社会保険料の負担額が大きくなります。
会社員時代の社会保険料は勤めていた会社との同額負担となるため給与から半額を支払う仕組みです。
簡単に説明すると、毎月の保険料が2万円だった場合、会社側も従業員と同額の2万円を保険料として納める仕組みになっています。

個人事業主になった場合、社会保険料は国民健康保険と国民年金に変更され、全額自己負担に変わります。
もし、法人化となった場合は健康保険と厚生年金になり、会社と個人での負担に変わりますが、会社負担分が経費に含まれるだけでなく、負担額も高くなる傾向です。

負担が増える分、保障内容は手厚くなる

個人事業主の場合、国民健康保険と国民年金への加入が必要ですが、法人になった場合は健康保険、厚生年金、労災保険、雇用保険、介護保険への加入が必要です。
法人となる場合は、役員や従業員の報酬や給与に基づいて計算して折半して負担します。

個人事業主は、基本的に自己負担になるのでほかの負担を背負うことがなありません。
一方、法人では会社負担のみの保険料に加えて従業員分の折半も含まれるため、負担が増えてしまいます。
しかし、多くの保険に加入しているため手厚い保障が受けられるのが特徴です。

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社会保険の種類と負担割合


社会保険の種類と負担割合についてです。
企業において社会保険料は、「広義の社会保険」と「狭義の社会保険」があり、それぞれによって含まれる保険が異なるため、負担部分においても異なります。
保険の種類と負担の割合については、以下のとおりです。

種類 企業と従業員の負担割合
健康保険料 企業と従業員の折半(50%ずつ)
厚生年金保険料 企業と従業員の折半(50%ずつ)
介護保険料 企業と従業員の折半(50%ずつ)
雇用保険料 企業負担割合が多い(業種によって異なる)
労災保険料 企業負担のみ

健康保険料

健康保険は、会社員や扶養している家族が加入する公的医療保険制度で、ケガや病気の際に医療費の負担軽減などを目的としています。
会社員や公務員は健康保険、個人事業主などは国民健康保険です。

健康保険料は、労使折半の原則に基づいて50%ずつの負担と定められています。
全国健康保険協会(協会けんぽ)では、都道府県ごとに料率が決められているのでその内容に沿って保険料が計算される仕組みです。
例えば、2025年の東京都では、介護保険第2号被保険者に該当しない場合は9.91%となり、報酬月額に基づいた保険料を算出します。

(例)東京都で標準報酬月額が30万円の従業員
30万円×0.0991=29,730円(健康保険料の総額)
29,730÷2=14,865円

この計算により、会社と従業員の負担額が14,865円になります。
なお、健康保険組合に加入している企業では組合が独自で定めた料率に基づいた計算がされるため金額が異なります。

厚生年金保険料

厚生年金保険料は、会社員や公務員などが加入する公的な年金制度です。20歳から最長70歳までのすべての人に対して加入義務が生じます。
国民年金保険にプラスした保険料を毎月の給与から天引きされる仕組みです。保険料を納めると、定年退職後に「老齢厚生年金」として受け取れます。
なお、厚生年金保険料は社会保険の中で最も負担が大きいです。

厚生年金保険料は、全国一律で18.3%の料率が定められています。毎年料率の変化がなく、2017年9月から固定されています。
なお、2025年の時点でも変更されていないので、上記と同様の条件で算出します。

(例)東京都で標準報酬月額が30万円の従業員
30万×0.183=54,900円(厚生年金保険料の総額)
54,900÷2=27,450円

この計算により、会社と従業員の負担額が27,450円になります。

介護保険料

介護保険料は、介護保険制度において介護サービスを受けるために支払います。
40歳以上の住民は自動加入となっていて、介護が必要になった際にはサービスを受ける権利が得られる仕組みです。
64歳まで健康保険に加入している場合は、介護保険料として会社と折半で納めます。2025年度の介護保険料の料率は1.59%です。

(例)東京都で標準報酬月額が30万円(40歳)の従業員
30万×0.0159=4,770円(介護保険料の総額)
4,770÷2=2,385円

この計算により、会社と従業員の負担額が2,385円になります。

労災保険料

労災保険とは、従業員を雇用した際に加入が必要な保険です。
国が従業員の雇用と生活を守るために加入必須な保険であり、事業規模に関わらず従業員が1人でもいれば保険料の納付が必要です。

労災保険は雇用保険と総称する言葉であり、業務中の事故、ケガ、災害などが原因で起こったケガや病気に対して補償します。
通勤中、仕事中などに起こった事象に起因する内容が対象で、従業員やその遺族のために必要な保険給付が行われます。

労災保険料の支払いに関しては、個人負担がありません。全額事業主となる会社が負担します。労災保険料を一部でも自己負担にさせるのは違法行為です。
企業は、労災保険料を雇用保険料と合わせて原則1年に1回前年度分をまとめて申告、納付するので毎月の計算は必要ありません。

雇用保険料

雇用保険は、休業や失業した人が給付を受けるためのものです。雇用保険制度に基づく掛け金を雇用の安定を支えるために使います。
従業員を雇用しているすべての事業者が対象となっているため、業種や規模などは問われません。

雇用保険加入対象になる従業員の条件は「1週間の所定労働時間が20時間以上」「31日以上継続して雇用される見込み」「昼間部の学生ではない」です。
雇用保険料の大きな特徴は、ほかの社会保険に比べて事業主負担が大きく設定されているだけでなく、業種ごとに料率が変わります。
なお、雇用保険料の対象になるのは以下のとおりです。

  • 基本給
  • 賞与
  • 手当(残業・深夜・扶養・家族・通勤・住宅など)

退職金、休業補償費、出張手当、見舞金などは対象外です。一般の事業で働く従業員の場合、負担割合は0.55%、事業主負担は0.9%です。

(例)東京都で雇用保険対象賃金が30万円の従業員
30万×0.0055=1,650円(従業員負担額)
30万×0.009=2,700円(事業主負担額)

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社会保険料を労使折半で負担する理由


健康保険料や厚生年金保険料などの社会保険料は、なぜ従業員と事業主で折半するのでしょうか。
法律で定められていることですが、社会保険料をすべて従業員の負担にした場合、手取り収入の大幅な減少にともない、日常生活がままならなかったり支障をきたしたりする恐れがあるからです。

このような理由から、従業員のモチベーション低下に加えて離職率上昇を引き起こす可能性なども懸念されています。
事業主側も、人材確保が困難になるだけでなく、経営存続の危機を招く恐れがあり、大きな社会混乱を起こさないためにもこのような法律になっていると考えられます。
社会保険は加入条件を満たしている労働者すべてが加入しなければなりません。持続性や公平性の観点からも決められた割合で費用負担が求められています。

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社会保険料を決める標準報酬月額・標準賞与額とは?


社会保険料を決めるには、標準報酬月額・標準賞与額が関係してきます。ここでは、社会保険料を決める際の基準となる標準報酬月額・標準賞与額が何かについて解説します。

標準報酬月額とは

標準報酬月額とは、社会保険料を算出するための基準となるものです。従業員の毎月の給与を区切りの良い幅で区分しています。
4月~6月の従業員の報酬を基準に算出して、その年の9月~翌年の8月までの1年間、その区分が適用されるので、前年度の報酬額が基準になるということです。

給与に大幅な変動があったり、新卒や中途での入社をしたりした場合は報酬の支払い実績がない状態です。
この場合は、固定賃金の変動、変動があった3カ月の平均報酬などから算出して随時改定を行います。

標準賞与額とは

標準賞与額は、従業員の受け取るボーナスです。年3回以下の回数で支給される対価を意味していて特別手当、一時金も含まれます。
年4回以上になると賞与ではなく給与とみなされます。この金額によって、社会保険に反映させる基準額が決まります。
実際に支払われた賞与額の1,000円未満を切り捨てた金額で、健康保険では4月1日~翌3月31日までの年度累計573万円、厚生年金保険では1カ月150万円が上限です。

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社会保険料の負担を軽減するには?


法人となれば、対象となる従業員数分の社会保険料を負担しなければなりませんが、少しでも負担を軽減するためにできることはあるのでしょうか。
ここでは、社会保険料の負担を軽減する方法を紹介します。

役員報酬や給与を調整する

社会保険料の負担軽減をするには、役員報酬を適した額に見直して設定するだけでも大きく変わります。
役員報酬が高額になれば法人税額は少なくなるものの、役員個人の住民税、所得税など社会保険料の負担は大きくなるからです。

役員報酬を少なくすれば、法人税額は高くなるだけでなく役員の生活を支えられない可能性もあります。
単純に増額や減額をするのではなく、バランスを考えながら適した額に調整すると負担が軽減できます。

入社日を調整する

社会保険料は、入社日から月額が必要になります。日割り計算などを行わないため、31日に入社した場合でもその月の分を支払わなければなりません。
従業員を雇用する際には、入社日を毎月1日に定めればその月からの社会保険料の支払いになるので、多く支払うこともなくなります。

非正規雇用や業務委託を活用する

従業員として雇用する際には、非正規雇用や外部委託を活用すると社会保険料の負担軽減ができます。
パートタイマーは正社員の3/4以上の労働時間、労働日数が条件なので、それ以下の条件で雇用します。

ただし、従業員数101人以上ではパートタイマーの労働時間が短くても条件次第で社会保険の加入義務があるので注意してください。
従業員の直接雇用ではなく業務委託などの外注に変えると、社会保険料の負担がありません。
しかし、業務委託としながらも雇用と同じ実態である場合は税務調査などで指摘される恐れがあります。

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個人経営の法人でも社会保険の加入は必要?


法人が社会保険に加入しなければならないのは理解できたものの、個人経営の場合も加入が必要なのでしょうか。
ここでは、個人経営の法人も社会保険加入必須かについて解説します。

すべての法人が加入対象

基本的には、個人事業主で個人経営の場合は社会保険に加入できません。
ただし、個人事業主で常時5人以上の労働者を雇っている場合は個人事業主以外を社会保険に加入させる必要があります。

なお、一人社長の法人でも役員報酬が発生している場合は、社会保険の加入が必要です。
これは、株式会社だけでなく合同会社なども法人扱いになるため、業種、従業員数に関係なく社会保険の加入が法律で義務になるということです。
社長を含む役員および従業員全員が加入の必要があります。

未払いだと懲役・罰金のペナルティを受けてしまう

社会保険の加入義務があるにも関わらず、未加入のままだと懲役や罰金などのペナルティの対象になるので注意してください。
社会保険加入対象の事業者には年金事務所から通知が届きます。この通知に応じないと、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。

少子高齢化によって社会保険の必要性が高く、納付に関係する指導も年々厳しさを増している状態です。
保険料の滞納は2年間まで遡って追徴されますが、その際には延滞金も上乗せとなり、倒産しても支払いの免除は免れないので気を付けてください。

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まとめ・社会保険負担を把握して健全な経営に役立てよう

社会保険制度は、いざという時に安心できる保証が受けられるものです。適切な保険料の支払いにより、安心して働ける環境が整います。
働く側にとっても欠かせないものとなるので、健全な経営には社会保険の加入が求められています。
このような保険の加入は知らなかったでは済まされない部分もあり、経営を検討している時点でこれらの内容についても把握しておくと安心です。

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(編集:創業手帳編集部)

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