2025年版「中小企業白書」に見る中小企業・小規模事業者の現況と効果的な取組とは

創業手帳

構造的な人手不足、円安・物価高、金利のある世界への対応には経営者の「経営力」向上が重要!

2025年4月25日に本年の「中小企業白書・小規模企業白書」が閣議決定されました。2025年版中小企業白書は、円安・物価高や「金利のある世界」、構造的な人手不足など、昨今の中小企業を取り巻く情勢、課題が色濃く反映されています。

また同白書は、現況を乗り越え、中小企業が成長・発展を遂げるためのポイントとして経営者の「経営力」向上を挙げています。さらにその先にある「スケールアップへの挑戦」も取り上げられており、中小企業・小規模事象者の経営層には有益な内容です。

そこで今回は、2025年版中小企業白書を読み解き、中小企業・小規模事象者にとっての要点をわかりやすく紹介します。これから時代に合わせた経営を考えたい、さらなる成長・発展を遂げたいなどとお考えの方々、ぜひ参考にしてください。

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中小企業白書とは

中小企業白書とは、中小企業庁が毎年取りまとめる法定白書のひとつです。中小企業基本法に基づき政府が国会に提出した「(前年度の)中小企業の動向」と「(今年度の)中小企業施策」からなります。

要するに中小企業白書とは、政府が今の中小企業の景況をどのように見ていて、今後どのような政策を講じるのかを示す文書です。2025年版の中小企業白書は、2025年4月25日に閣議決定されました。

なお、関連文書として毎年「小規模企業の動向」「小規模事業施策」をまとめた小規模企業白書も編纂されています。本稿では、小規模企業白書も含む形で2025年版の中小企業白書を紹介します。

2025年版 中小企業白書の概要および方向性

2025年版 中小企業白書は、円安・物価高や「金利のある世界」の到来、構造的な人手不足などの現状に着目した内容です。それら苦境を乗り越えて成長するための施策に、設備投資やデジタル化の推進、適切な価格設定・価格転嫁などが挙げられています。

他方、日本経済の成長という観点から、雇用の7割を占め地域経済基盤を担う中小企業・小規模事業者に期待する旨も記されています。

また中小企業・小規模事業者の成長・発展には経営者の「経営力」が欠かせないとする点も2025年版中小企業白書の特徴です。とくに中小企業に関しては、一人経営体制を克服して「成長の壁」を打破するための方策などが記されています。一方、小規模事業者においては、独自の強みを創出して差別化を図ること、「経営の自走化」を実現することが掲げられています。

なお、2025年版中小企業白書は、第1部「中小企業・小規模事業者の動向」、第2部「成長に有効な取組」という構成です。本稿もその構成に則り、最新の中小企業・小規模事業者の動向から始めて、なすべき取組まで紹介します。

中小企業・小規模事業者の動向(現状分析)

以下では、2025年版中小企業白書・小規模企業白書の概要および本文より、中小企業・小規模事業者の現況を紹介します。

1. 業況、経常利益:景況認識は足踏み、増益傾向も大企業との格差拡大

出典:2025年版中小企業白書(2023年で回復傾向がピークアウトしているように見える)

企業の景況認識を示す「業況判断DI」は、23年に約30年ぶりの最高水準を記録して以降、回復が足踏み状態となっています。この傾向はいずれの業種にも見られ、とりわけ製造業・建設業ではコロナ前の水準まで落ち込みが見られます。

要するに2024年では、2023年より業況が「好転」したと考える企業が少なく、むしろ「悪化」したと考える企業が多い※ということです。昨今の物価高や生産・投資コスト増、人手不足などが中小企業に与えている影響の大きさがうかがえます。

※業況判断DIは前年同期と比較して業況が「好転」と答えた企業の割合から、「悪化」と答えた企業の割合を引いた値(%)

出典:2025年版中小企業白書の概要(21Q1ごろに比べて24Q4では大企業と中小企業の差が拡大, 業種別ではサービス業が低調)

また売上高・経常利益は2020年以降増加傾向にありますが、直近の4年で大企業と中小企業の格差が広がっている点に留意すべきです。昨今の物価高等の情勢による影響を中小企業がより強く受けていることを示唆するデータともいえます。

なお、経常利益には業種ごとにばらつきがあり、宿泊・飲食などサービス業では伸び悩みが見られます。

2. 雇用環境:人材不足感は深刻、「現業職」がとくに不足

出典:2025年版中小企業白書(過去30年で最低の水準、とくに中規模企業で深刻な不足感)

人手の不足感を測る従業員数過不足DIからは、過去30年で最低ともいえる深刻な現状が見てとれます。中小企業の中でもとくに「中規模企業」の不足感が強いことが特徴です。

また業種別では「建設業」の人手不足感がとりわけ強いとの結果が出ています。

出典:2025年版中小企業白書の概要(職種別では現業職が最も不足している)

加えて、中小企業・小規模事業者ともに、管理職や事務職などに比べて「現業職」が不足している現状にも注目すべきです。

ここでの現業職とは、製造作業者、販売従事者、サービス職業従事者、運輸従事者、建設作業者などのことを指します。業種を問わず、現場の人間が足りていない厳しい現状がうかがえます。加えて、産業構造の高度化により、技術系をはじめとする専門職の供給不足も昨今の課題です。

3. 賃上げ、労働生産性:賃上げは高水準も余力に乏しい、生産性向上が急務

出典:2025年版中小企業白書(賃上げ率は2022年以降大きく上昇)

昨今の賃上げムードにより、春季労使交渉による賃上げ率は約30年ぶりの高水準を記録しました。中小だけの賃上げ率を見ても4.45%※と高く、各事業者が積極的な賃上げを行っている(もしくは余儀なくさせられている)ことがうかがえます。

しかし、全体の賃上げ率は5.10%であることから、大企業の賃上げ率は中小よりもさらに高い水準です。つまり大企業と中小企業の賃上げ格差は拡大中であり、このことが人材流出のリスクを高めると白書の概要で示唆されています。

※賃上げ率の計算式は「(昇給後の給与)÷(昇給前の給与)−1(100%)=賃上げ率(%)」。つまり賃上げ率4.45%は、例えば、一人あたりの平均給与が30万円から31.335万円に上がるような状況を示す。

出典:2025年版中小企業白書(労働分配率は大企業と中小企業で大きな格差)

また大企業と中小企業の格差で言えば、特筆すべきは「労働分配率」の格差です。労働分配率とは、営業純益をはじめとする付加価値額※のうち、人件費が占める割合を示す指標。上記の通り、大企業の労働分配率が5割未満を推移するのに対し、中小企業の労働分配率はすでに8割ほどに達しています

要するに、中小企業では付加価値額(≒営業利益)の大半が人件費に使われており、賃上げ余力はもうあまりないということです。大企業に比べて賃金余力が厳しいということは、今後、大企業との賃上げ率の格差が拡大し、人材流出のリスクが上がることも示唆します。

※付加価値額:営業純益(営業利益ー支払利息等)+人件費+支払利息等+動産・不動産賃借料+租税公課

出典:2025年版中小企業白書(「業績の改善が見られないが賃上げを実施」が大半、割合増加)

実際、昨今の中小企業の賃上げ実施状況を見ると、「業績の改善が見られないが賃上げを実施(予定)」の事業者が多くを占めています。こうした苦しい現状を打破するには、労働生産性を高めて営業利益を向上させることが重要だと2025年版中小企業白書は説いています。

4. 設備投資、デジタル化:どちらも大企業に比べて低水準、未着手企業も

出典:2025年版中小企業白書の概要(中小の設備投資額は大企業に及ばず、2024年の設備投資計画も低調気味)

労働生産性を高める取組としては、設備投資やデジタル化が有効ですが、ここでも中小企業の水準は大企業に届いていません。設備投資に関しては、中小の設備投資額は大企業よりも低水準であり、2024年度の設備投資計画も増勢が低下しています。

2025年版白書では、物価高や人手不足などに直面する今こそ、積極的な設備投資によって生産性向上を図るべき旨が記されています。

出典:2025年版中小企業白書の概要(デジタル化未着手企業は減少しているものの依然存在)

他方、デジタル化については、多くの中小企業・小規模事業者で推進されています。しかし、紙や口頭による業務を主体とする非デジタル化(デジタル化未着手)企業も未だ一定数存在する現状です。

出典:2025年版中小企業白書の概要(ソフトウェア投資比率も中小企業は大企業に及ばない)

またソフトウェア投資額においても、中小企業は大企業に比べて低水準にあります。ここでも大企業に食らいついていくような積極性が求められます。

5. 価格転嫁率:改善も道半ば、ここでも大企業と格差

出典:2025年版中小企業白書の概要(中小企業の価格転嫁率は改善傾向も、採算DIは横ばい)

仕入価格の上昇分をどれだけ販売価格に転嫁できているかを示す価格転嫁率は、直近で改善傾向を見せています。具体的には、中小企業の価格転嫁率は2024年9月で約5割(49.7%)まで回復しています。

しかし、仕入単価DIと売上単価DIの隔たりは依然として埋まっておらず、採算DIも過去30年で横ばいです。よって、中小企業の価格転嫁状況はまだまだ道半ばといえます。

出典:2025年版中小企業白書(価格転嫁力にも大企業との格差あり、中小でも製造業・非製造業で差がある)

また上記の通り、中小企業の価格転嫁率は大企業に比べて低水準で推移しています。製造業・非製造業とも同様です。これは前述した労働生産性の低さとの関連が考えられ、中小企業には設備投資やデジタル化などによる生産性向上が強く求められます。

なお、中小の製造業と非製造業との比較では、非製造業のほうが価格転嫁が進んでいるという現状もあります。ただし、実質労働生産性および名目付加価値額の数値はむしろ製造業のほうが良好です。この辺りを見ても中小企業の価格転嫁と生産性向上は「まだまだこれから」といえるでしょう。

中小企業・小規模事業者が直面する主な課題

続いて今の中小企業・小規模事業者が直面する主要な課題をまとめました。金利高や円安・物価高をはじめ、中小を取り巻く現況について再確認するのにご活用ください。

「金利のある世界」の到来

2024年3月、日本銀行がマイナス金利政策を解除し、政策金利が0.10%に引き上げられました。その後、同年7月には0.25%、2025年1月には0.5%と引き上げが続き、約30年ぶりの「金利のある世界」が到来しています。

それを受けて金融機関の貸出金利も上昇、中小企業の借入金利水準判断DIは大きく上昇を見せました。

出典:2025年版中小企業白書(「金利のある世界」の到来を受けて、企業の借入金利水準判断DIは大きく上昇)

元来、中小企業は大企業よりも借入金依存度が高く、貸出金利の上昇は利益を大きく下押しする恐れがあります。中小企業の中でもとりわけ借入金依存度が高い宿泊業・飲食サービス業では、とくにこのリスクが顕著です。

また中小企業は有利子資産の保有量も少なく、金利上昇の恩恵を受けにくい点も留意すべきでしょう。

ただし、元来、金利引き上げは物価上昇局面で実施されるデフレ政策であり、理論的には物価の抑制が中小企業の売上高・利益増につながる可能性は十分にあります。実際、白書の試算※でも、政策金利を1.50%まで段階的に引き上げた場合、経常利益は27.8%増加すると推計されています。

金利上昇を事業の追い風とするためには、適切な価格設定や設備投資、デジタル化などを実現する経営者の「経営力」が肝心です。

※2025年版中小企業白書「コラム 外部環境の変化がもたらし得る企業収益への影響」, p.9-

円安・輸入物価高の継続

2025年6月現在も、歴史的な円安・輸入物価高は続いています。この円安には、米長期金利の高止まりやロシア・ウクライナ情勢など、さまざまな要因が絡んでおり、今後の動向は不透明です。

出典:2025年版中小企業白書の概要(中小企業の輸出入比率では輸入比率のほうが格段に多い)

中小企業では輸出比率に比べ輸入比率のほうが多いため、円安による悪影響(利益の下押し効果)を受けやすいといえます。

とはいえ、日銀の金利引き上げにより、為替ルートが円高方向に転じる可能性はあります。また前述の通り、物価上昇・利上げ局面は、理論的には中小企業の売上高・経常利益を増やす状況です。そのため、やはり経営者の「経営力」、およびそれを発揮することによる適当な価格転嫁やDXなどの諸施策が重要となるでしょう。

構造的な人手不足(と倒産)

2025年版中小企業白書の概要や同白書の公式サイトでは、「構造的な人手不足」という言葉が使われています。

ここでの構造的とは、主に人口動態、つまり少子高齢化のことです。高齢化によって介護・医療・物流などの生活維持サービスが需要過多となる一方で、少子化により労働供給は減少が進みます。こうした構造は「労働供給制約」とも呼ばれます。

また前述の通り、現業職(または専門職)の深刻な人手不足にある中、事務職等は求人過多であるなど、需給関係の偏りにも要注目です。この現象にも、産業構造の高度化や高学歴化による労働需給のミスマッチなどの社会構造が関係しています。

出典:2025年版中小企業白書の概要(「人手不足」「物価高」に起因する倒産が増えている)

なお、倒産件数はポストコロナ期に再び増加傾向を見せています。2024年の倒産件数は10,006件でした。そのうち、人手不足関連の倒産は289件で、前年に比べて1.8倍以上に増えています

物価高関連の倒産も同様に増えており、構造的な人手不足と並んで中小企業・小規模事業者が直面する課題となっています。

中小企業経営者の高年齢化(と休廃業・解散)

出典:2025年版中小企業白書の概要(中小企業の経営者年齢は平準化しつつあるが、いまだ60代以上が大半)

中小企業の後継者不在率が解消する一方、経営者の年齢は依然として高年齢で推移しています。60歳以上の経営者が半数以上を占め、中小企業の経営層も高齢化しています。

出典:2025年版中小企業白書の概要(黒字の休廃業・解散が過半数、休廃業・解散企業の経営者年齢は70代・80代が増加傾向)

経営者の高齢化と関連する課題が中小企業の休廃業・解散です。休廃業・解散件数も2023年から再び増加傾向にあり、休廃業・解散企業の経営者年齢は70代・80代以上の割合が増えてきています。また黒字にもかかわらず休廃業・解散を選んだ企業が過半数を占めることも特筆すべき点です。

経営者の高齢化による中小企業の休廃業・解散が進めば、取引やサプライチェーン、地域経済など、多方面へ影響が懸念されます。

中小企業・小規模事業者の成長・発展に有効な取組

以下では、ここまで解説した中小の動向、直面する課題を踏まえ、成長・発展に効果的な取組を2025年版中小企業白書をもとに紹介します。

経営者の「経営力」向上

2025年版中小企業白書では、中小が課題を乗り越え成長・発展を遂げるための要として経営者の「経営力」向上が挙げられています。同白書でいう経営力とは、以下のように定義されるものです。

本書における「経営力」とは、中小企業の成長や持続可能性の向上に寄与し得る、経営戦略の策定力及び経営資源のマネジメント力、経営者の成長的至高、従業員にとって健全な環境や待遇を整備する能力等と定義する。

引用:2025年版中小企業白書, 第2部 新たな時代に挑む中小企業の経営力と成長戦略, 第1章 中小企業の経営力, p.68

また同白書の概要では、経営力とは、「自社内外の状況を正確に見極め、適切な行動を起こしていく」(力)とも書かれています。

さらに同白書によると、経営者の「経営力」向上は以下3つの要素から考えられます。

経営者の「経営力」向上3要素
A)個人特性面:異業種・広域ネットワークでの他経営者との交流、学び直し
B)戦略策定面:経営計画の策定および実行、差別化や市場環境を加味して適切な価格設定を行う戦略的経営の実現
C)組織人材面:経営理念、業績・経営情報を共有するオープンな経営、賃上げ、社内コミュニケーションの円滑化、働き方・環境改善(いわゆる「人を大切にする」人材経営)

積極的な経営者間交流や学び直しなど、経営者の成長意欲の高さは好業績につながります。また経営計画に基づく戦略的経営や経営の透明化、ガバナンス強化なども重要です。


出典:2025年版中小企業白書の概要(経営者間の交流や学び直しが創造性、成長意欲に好影響を与える

上記を見ると、経営者ネットワークでの交流や学び直しのある経営者のほうが、成長的であり、実際に業績もよいことがわかります。ちなみにリスキリング(reskilling)とは、経営環境変化への対応などのために新たな知識・スキルを習得する、いわゆる学び直しのことです。

経営課題に応じた経営計画の策定

中小企業経営において経営計画を策定・実行することは大変有効です。経営計画を策定している企業、それも5年超の長期を見据える企業のほうが、売上高・付加価値額ともに増加率が高いとのデータがあります。

経営計画は各自の経営課題に合わせたものを作ることが大切です。目下では「人材確保」が中規模企業・小規模事業者に共通の課題です。加えて、中規模企業では「省力化・生産性向上」が、小規模事業者では「受注・販売の拡大」「事業承継」が課題になりやすいといえます。

適切な価格設定・価格転嫁

近年の中小企業では、各社が価格転嫁に取り組んでいるものの、採算DIは横ばいに推移しています。原材料・商品仕入単価と売上単価のDIの差は、依然として埋まっていません。

採算DIを改善するには、各社が生産コストや品質に見合った適切な価格設定を行うことが重要です。ときには原価計算等の適当な準備をした上で、発注企業との積極的な交渉を行うことも求められます。この時、発注側も誠実に応じるべきです。

出典:2025年版中小企業白書(マークアップ率と経常利益率・設備投資額・賃金水準が比例している)

またマークアップ率※が高いほど、経常利益率や設備投資額、賃金水準が高い傾向にあります。つまり適切な価格設定ができている企業ほど、好業績・好環境・好待遇の好循環に入りやすいということです。

※マークアップ率とは名目限界費用(商品・サービス1単位の生産・提供に必要な名目費用に対する販売価格の比率。名目限界費用を上回る価格設定ができていれば1倍を超える。水準が高いほど適切な価格設定・価格転嫁ができている。

「差別化・希少性」を意識することも重要

出典:2025年版中小企業白書の概要の概要(差別化や市場環境を意識している企業ほど販売価格への転嫁状況がよい)

利益率を高めるには、自社製品・商品・サービスの差別化や市場環境を意識することも有効です。差別化・市場環境を意識している中小企業ほど価格転嫁率が高く、価格転嫁に積極的な企業ほど経常利益率も高い傾向にあります。

出典:2025年版中小企業白書の概要(小規模事業者の差別化の取組では「希少価値・プレミアム感」が昨今のトレンド)

またとくに小規模事業者は、持続的発展に向けて希少性を意識することも重要です。中規模企業より事業規模や商圏の小さい小規模事業者においては「希少価値・プレミアム感」で差別化を図る戦略が定番となっています。

同様に小規模事象者は「地域資源・文化の活用」を意識して差別化するのもおすすめです。小規模事象者には地域活性化や雇用創出、高齢化対策など、地域の社会的課題解決の役割も期待されるため、ビジネスチャンスを掴みやすいといえます。

経営理念の共有と経営の透明化向上


出典:2025年版中小企業白書の概要(経営理念の共有や経営の透明性向上に取り組む企業のほうが業績がよい)

経営理念・ビジョンを従業員に共有している企業のほうが、売上高、売上高の増加率ともに高いというデータがあります。経営者の思いや自社の立ち位置を踏まえた理念・ビジョンを伝えることが、従業員の主体性、ひいては中小企業の成長につながります。

また付加価値額を高めるには経営の透明性を向上させる取組も有効です。具体的には、従業員への経営情報の開示、業務の属人化防止などが挙げられます。こうした透明性向上の施策は、従業員の信頼を高めるのみならず、業務効率化にも効果的です。

人材確保には高賃金、働き方改善、福利厚生

出典:2025年版中小企業白書の概要(賃上げや社内コミュニケーションの円滑化が人材の定着につながる)

人材の定着率を高めるための取組には、「賃上げ」と「社内コミュニケーションの円滑化」が挙げられます。とくに社内コミュニケーションの充実は、賃上げに比べてコストがかからず、ほぼ無料でも実施できるのでおすすめです。

出典:2025年版中小企業白書の概要(人材確保には「有給休暇・育児休業の充実」「時間外労働の削減」などの働き方改善の取組が有効)

また人材確保には、高賃金だけでなく、働き方の改善や福利厚生にも力を入れることが重要になります。とりわけ「有給休暇・育児休業などの休暇」「時間外労働の削減」が、従業員・求職者からのニーズが高い要素です。

ただし、高賃金にも待遇改善にも当然費用がかかるため、前提として設備投資やデジタル化などによる労働生産性を高める取組の実施が望まれます。

売上高規模に応じたスケールアップ戦略

2025年版中小企業白書では、成長・発展に向けた経営者の「経営力」向上の先にあるステップとして、「スケールアップへの挑戦」を掲げています。

スケールアップとは、中小企業・小規模事業者が生産性を高め、賃上げ等で人材を確保し、投資を積極的に進めて拡大すること。地域経済をリードする企業、輸出等で外需を獲得できる企業へと成長することを指します。

出典:2025年版中小企業白書の概要(重要なスケールアップ戦略は売上高規模ごとに異なる)

スケールアップに向けて重視すべき戦略は、売上高規模によって異なります。売上高100億円以上の企業で重要な戦略は「経営人材およびDX人材の確保・育成」です。一方、10億円未満の企業では「その他専門的な人材の確保・育成」「経営者の兼務解消・権限委譲」などが重要になります。

出典:2025年版中小企業白書の概要(売上高規模が大きくなるほどM&Aの実施回数も多くなる傾向)

またM&A(他社の買収)もスケールアップに効果的な戦略です。実際、売上高規模の大きい中小企業ほどM&Aの回数も多いというデータが出ています。

なお、M&Aの成功には、

経営者自らがPMI※を主導することが肝心

です。経営者自身が買収先企業の従業員と対話を重ね、強い信頼関係を気づくことが、買収後のシナジー効果を高めることにつながります。

※PMIとは、M&A成立後の統合作業のこと。「Post Merger Integration」の略。「経営統合」「信頼関係構築」「業務統合」の3要素からなる。2025年版中小企業白書では、M&A成立前や統合後の継続的な取組も含めてプロセス全般を広義のPMIとしている。

2025年版 中小企業白書のまとめ

2025年版中小企業白書によると、中小の目下の課題は、経常利益の伸び悩みや労働分配率の高さ(賃上げ余力の低さ)などです。また社会構造的な課題としては、現業職を中心とした人手不足、輸入物価高・円安、「金利のある世界」の到来などが挙げられます。

これら課題の根本解決を実現する方法としては、労働生産性を高めて営業利益を向上させることに尽きます。そのために経営者の「経営力」向上を最重要視する点が、2025年版中小企業白書の大きな特徴です。

成長・発展に有効な取組は、設備投資やデジタル化、社内交流の円滑化、働き方の改善、差別化・希少性の実現などさまざまです。また前提として(長期を見据えた)経営計画の策定・実行も重要となります。そうした取組の取捨選択を含めて、一人ひとりの経営者がいかに優れた「経営力」を発揮できるかが、中小の存亡の命運を握るでしょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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