auペイメント 菊池 良則|KDDIグループ全体で「お客様に寄り添う」サービスを提供する

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年06月に行われた取材時点のものです。

大企業の一社員から社長就任へ繋がった「実行力」と「お客様視点」とは


日本では2016年ごろからQRコード決済サービスが普及し始めましたが、au PAYは2019年4月にサービスを開始した後発サービスです。しかし、先行するサービスが作った時流を活用し、勝機を見出しているのがauペイメントの菊池さんです。

そこで今回の記事では、菊池さんがKDDIに入社後にauペイメントの社長に就任されるまでに行った「大企業内での出世するコツ」や「後発サービスを成長させる工夫」について、創業手帳の大久保が聞きました。

菊池 良則(きくち よしのり)
auペイメント株式会社 代表取締役社長
2005年4月KDDI株式会社に入社。モバイルソリューション営業1部を経て、2017年1月同社のau WALLET推進部 WALLET企画G グループリーダーに就任。
2021年4月同社au PAY企画部長の後、2023年4月1日より、同社代表取締役に就任。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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KDDIに入社後、決済事業の経験を積んでauペイメント社長に就任

大久保:auペイメントの社長に就任するまでのキャリアについて教えてください。

菊池2005年にKDDIへ入社し、法人向けにauのケータイを販売する、ソリューション営業を行っていました。

当時、MNP(モバイルナンバーポータビリティ、※1)が始まる前だったので、電話番号を変えてまで携帯電話会社を変える法人さんはそれほど多くなかったのですが、2006年にMNPが始まり、携帯電話事業者間の競争が激化する時代に営業をしていました。

その後、プロダクト開発に興味を抱くようになり、2010年にサービス企画部門の新設メンバーを公募していたので、手を挙げました。

大久保:それは、KDDIがペイメント事業に乗り出したタイミングでしたか?

菊池:もともとKDDIとしては、通信料と合算してお支払いができるキャリアビリングサービスを提供していました。私が手を挙げたのはペイメント事業ではなかったのですが、異動後に東日本大震災があり、担当していたプロジェクトが中断となってしまいました。ちょうどそのころKDDIが電子マネーを取り扱う株式会社ウェブマネーの買収を発表し、私もそのメンバーに入ることになりました。

事業主体は株式会社ウェブマネー側にあり、auと連携した取り組みや利用促進を検討する立場にいました。

2014年に旧au WALLETプリペイドカードの事業企画、サービス企画に携わることとなり、2019年にau PAYとしてスタートいたしました。

2023年3月までは、当サービスのサービス企画部門の責任者を担当していたのですが、2023年4月からauペイメントに移り、現在に至ります。

※1:MNP・・・電話番号はそのままで移転先の携帯電話会社のサービスを利用できる制度

大企業で自分の存在を認められるにはお客様のための「実行力」が重要

大久保:企業に務めながら、社長に抜擢された菊池さんとして、意識していたことはあるのでしょうか?

菊池:大きく二つあります。

一つ目は、会社の全社戦略を理解した上で、実行まで持っていくことです。

特に2014年の旧au WALLETプリペイドカードに携わり始めてから、意識していました。

二つ目は、お客さまのためにサービスが存在すると常に意識することです。

そのため、お客さまのためになるものを提供したいという強い意志を持っていました。

サービスを運営している中で、お客さまにご迷惑をおかけするような改定を選択せざるを得ない場面にも出くわしますが、最後までお客さまのことを意識し、期待を裏切らないような事業運営を心がけていました。

大久保:特に上の立場になると、決断をしなければいけない時もあったと思いますが、苦労した経験について教えてください。

菊池サービスのリリース日に間に合わないと、報告を受けた時です。

リリース日も意味があって設定しています。そのため、安易にずらすことはしたくありません。

こういった時に、実行力が試されるので「だめだ、間に合わない」となってからが本気だと思っています。そのため、簡単に諦めず、メンバーのモチベーションを維持しながら、なんとかできる方法を考えます。

会社の全社戦略を形にする実行力があればチャンスは回ってくる

大久保:大企業で出世するコツがあれば教えていただけますか?

菊池大企業で出世するには「上司の顔色を窺うなど、いわゆる忖度が必要」といった話がありますが、私はそういったものは必要ないと思っています。

会社の全社戦略や目指すべき姿さえ見失わなければ、どこにいようが、チャレンジするチャンスは回ってくると思っています。

メンバーと一緒に、やるべきことをやり切ることができれば、信頼は得られ、自ずと次のチャンスは訪れます。

このように、やるべきことをやれば、誰でもチャンスを掴むことはできると思います。

大久保:見てる人は見てるということなんですね。

仮にプロジェクトがうまくいかなくても、先ほどの「実行力」と「お客様のため」という視点を必ず意識して、動くことが大事になってきそうですね。

菊池:おっしゃる通りです。

新規事業で成功するための要諦は「シンプルさ」

大久保:新規事業や新サービスを企画する時に気をつけていることはありますか?

菊池:どうしても過大な計画や楽観的な計画を立てたりしがちなのですが、ちゃんとマーケティングをして、正しい計画を立案する必要があります。

マーケットがすでにあるのであれば、その中でどれほどのシェアを取ることができるのか、どれだけ伸びるのか、をちゃんと見えるようにしておかなければいけません。

逆に、マーケットが存在しない場合は、自分たちが参入しマーケットを作ることができるのか、見極めをしなければいけません。

その際に、データを見ることはもちろん、データでは見ることができない部分も大いにあると思いますので、これら全てを冷静に見る目を持つようにしています。

大久保:マーケットの有無で意識する点が違うんですね。

菊池:精緻に計画を立てて、KPIも可能な限り細かく設定し、結果を追ってください。

また、成功の秘訣としても、シンプルでわかりやすいことが非常に重要です。

全てのお客様が我々のサービスについて、細かく考えてくれるわけではないので「シンプルさ」も市場に出ていく中での武器になります。

大久保:考えれば考えるほど、何かと付け足してしまいがちですよね。

菊池:おっしゃる通りです。最近は「引き算」をしていくことを特に意識しています。

大久保:シンプルにする時は、リーダーの決断が問われそうですね。

菊池:決断する機会が増えれば増えるほど、選択の精度は磨かれます。
そのため、自分が主体となって、新しいチャレンジをするように意識しています。

KDDIは大手企業でありながら「挑戦できる風土」がある

大久保:KDDIさんのような公共性のある領域について、事業としての面白いポイントを教えてください。

菊池:通信の会社は大きく4社ありますが、どの会社も抱えているお客さまが数百万~数千万人単位になってくるため、お客さま基盤が大きいというのが特徴になります。

そのため、一つのことを始めると広がりが早く、お客さまに街で使っていただくシーンに遭遇するため、自分が関わったサービスとして嬉しい気持ちになります。

一方で、旧体制だと思われることも多いですが、そうでもないと思っています。

新しいことにチャレンジしたい時は、マーケティングをしっかりしたうえで、正しい事業計画書を描ければ、きちんとチャレンジさせてくれる会社です。

そのため、皆さんが思っている以上に、挑戦できる会社だと思っています。

競合他社とともにマーケットを拡大

大久保:新しいサービスを広げるために、起業家が参考にすべき考え方について教えてください。

菊池PayPayさんが2018年に行った「100億円キャンペーン」が大騒ぎになりました。

我々は2019年4月にサービス化したため、その時点では世の中に出ていません。

社内で働いている社員も「10万円のドライヤーを買って、本当に全額返ってきた」と喜んでいて、かなり話題になっていました。

サービスを企画する立場としては、非常に歯痒い思いもしますが、こういった時こそ相乗効果を狙って、ライバルの動きをうまく利用することもできると思います。

大久保:ある意味、先行している競合他社が畑をきれいにしてくれていると思えば、良いですからね。

菊池:自分たちで流れを作るのが一番ですが、後発だったとしてもその流れに乗り、一緒にマーケットを拡大させることも一つの選択肢だと思います。

大久保:切磋琢磨して、弱気にならずに進むことが大事ですね。

事業者が乱立するコード決済の将来

大久保:決済業界は、次々とイノベーションが起きると思いますが、どのようなことに注目していますか?

菊池:政府のキャッシュレス決済促進の取り組みやマイナポイント事業などによって、コード決済市場も大きく伸びてきました。皆さんの生活圏においても、利用できるお店が増えてきたと思います。コード決済は気軽に始めることができるため、おひとりで複数サービスを利用されるケースも多くあると聞きます。

利用できる場所に差がなくなってくると、各社のアプリ内で提供されるコンテンツや、各社の経済圏の広がりの戦いになっていくのだと思います。

店舗事業者がau PAYを導入するメリット

大久保:読者には飲食店を開業した方もいらっしゃるのですが、auペイメントのサービスの中で、読者におすすめしたいサービスはどれでしょうか?

菊池:飲食店などの店舗事業をやられている方には、ぜひau PAYをお勧めさせていただきます。

初期費用0円で導入できますし、Webだけでお申込みが完了し、最短1週間で各種キットをお届けします。手数料も2.6%と、クレジットカードより安いケースが多いです。

大久保:支払いサイクルはどのような感じなのでしょうか?

菊池即時振り込みというものもあり、1万円を超えたら、申請後、翌営業日に振り込みとなってます。(23年5月時点ではキャンペーンにより無料)

大久保:au PAYを入れるメリットはどういった点にあるのでしょうか?

菊池au PAY側で実施するキャンペーンがあり、加盟店さまからすると、無償で送客してくれるという点は、メリットになると思います。

また最近では、自治体が実施するコード決済に関するキャンペーンもあり、加盟店さまが原資を負担せずに、集客できることもメリットだと思います。

KDDIのビッグデータの活用でお客様の生活の質を上げていく

大久保:auペイメントとしての今後の展望を教えてください。

菊池:グループ内には、銀行・証券・保険などの他の金融事業も展開しており、それらのデータをうまく繋ぎながら、お客さまに寄り添ったサービスのご提案をしていきたいと思っています。

例えば、携帯電話であれば家族割があります。1人で使っていた方が、同い年くらいの同一名義の方を家族割に追加された場合、結婚したであろうことが予想されます。さらに、au PAYでベビー用品を買い物されると、お子様が産まれそうなことも想像できるので、住宅ローンなどをお勧めすることができると思います。

こういった、お客様の体験に沿ったご提案ができるよう、KDDIグループ全体として目指していきたいと思っています。

大久保:auペイメントのサービスの中で、今後、力を入れることを教えてください。

菊池:2023年5月現在で、au PAY アプリは月間で約1,400万人ほどの方にご利用いただいています。

au PAY アプリの利用者を増やしていくのと同時に、他の金融サービスと連携して、クロスユースを狙っていこうと思っています。

起業家、新規事業に限らず、挑戦者は「強い想い」を持ち続けるべき

大久保:起業家、新事業を考えている読者に、メッセージをお願いします。

菊池:起業家や経営者、新規事業家に限らず言えることですが、新しいことに挑戦するのであれば「強い想い」を持ち続けることが一番大切です。

そして、最後までやり続けて、やり抜くと強い気持ちを持って、仕事に臨むことが重要だと思っています。

この思いを持っていると、日常のものの見方も変わってきて、自分のビジネスに繋げて考える癖がつきます。

ぜひこの思いを持ち続けてください。

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(取材協力: auペイメント株式会社 代表取締役 菊池良則
(編集: 創業手帳編集部)



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