創業融資の審査に失敗する4つのパターン! 日本政策金融公庫の担当者に教えてもらいました
日本政策金融公庫担当者に聞く、融資のホンネ【第3回】
起業家を資金面から支援している日本政策金融公庫。第一回・第二回では、日本政策金融公庫の融資制度の仕組みや特徴、リスケジュールの対応について教えていだきました。
最終回となる今回は、多くの創業者を見てきた公庫の担当者に、融資が下りない人の失敗原因を伺っていきます。ポイントは、「信用」「マーケティング」「自己資金」「創業計画書のバランス」の4つある、と言います。それでは早速見ていきましょう。
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日本政策金融公庫 国民生活事業本部
東京ビジネスサポートプラザ所長
平成4年、国民金融公庫(現日本政策金融公庫)入庫。横浜支店、大宮支店、東大阪支店、船橋支店、沼津支店、堺支店で4,000社を超える創業者を含む融資審査を担当。平成27年4月より現職。
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この記事の目次
創業融資とは
創業融資とは、自己資金のみで創業資金が足りず融資を受けることです。融資先は、民間金融機関・日本政策金融公庫・ノンバンク・家族や親戚などです。創業融資先として利用することが多いのは、日本政策金融公庫でしょう。民間金融機関やノンバンクも考えられますが、創業時は信用や実績もないことが多く、現実的ではありません。
創業融資が失敗する4つのパターン
ここでは、創業融資が失敗する理由を4パターンで紹介します。日本政策金融公庫の国民生活事業本部所長に話を伺いました。
失敗例1. 信用情報
大澤:まず、みなさんに説明しているのが「信用情報」です。いわゆる、クレジットカードや公共料金の支払がきちんと行われているか、ということが詳しく見られます。
なぜなら、日本政策金融公庫が融資審査で見ているのはまず起業家の「信用」だからです。銀行が融資する時は、自行の口座など見えるものがありますが、我々には預金業務はありません。そこで、信用情報を拝見して、「社会的にちゃんとしている人か」という判断をするのが融資審査の1つのベースです。家賃は毎月払えていないのに、公庫の支払いだけは間違いなくやります、というのは信ぴょう性に欠けますから。担当者が稟議書を作る上でも信用の裏付けが乏しくなります。
大澤:はい。指定信用情報機関のCIC(シー・アイ・シー)というところで調べることが可能です。
無料でもらえる資金調達手帳では、CICで信用情報を開示する方法を詳しく解説しています。ぜひチェックしてみてください。
失敗例2. ”どうやって売るか”を考えていない
大澤:創業計画書は、単なる1枚の紙にすぎません。でも、私たちは、その創業計画書に「内容の厚み」みたいなものが見えます。私たちは、創業計画書からその人の熱意というか、一生懸命さがにじみ出ているかどうか、というところを見ています。字の上手い下手ではなく、創業計画書を一生懸命書いているかどうか。しっかり考えて書いているということは伝わりますから、たくさん書いてそれぞれを自分で見て「この創業計画書が自分の考えているものに合っている」と感じたものを選んで持ってきてもらうのもいいかもしれません。
それから、もうひとつ重要なのが、「誰が買ってくれるのか」ということを理解しているか、マーケットがちゃんとあるのか、という点です。例えば、誰に対して、どういう宣伝活動をして、それをいくらで買ってもらうのかとか。いくら商品が立派でも、それだけで買ってくれるわけではありませんから。
大澤:はい。どうやって誰にいくらで売るか、という観点が重要です。
「誰を」が重要なのは、誰に対して商品を売るか明確にするためです。具体的なペルソナが設定されていないと、誰に対して情報を届けるのかわからなくなります。すると情報にブレが生じやすく、誰の心にも届かない商品になってしまいます。
誰に商品を届けるのか明確になれば、「何を」の商品部分もハッキリするでしょう。対象となるペルソナが求める商品設計にすればいいだけです。また「どうやって」の部分もペルソナが決まると、その対象者が目にしやすい売り方が見つかっていきます。
失敗例3. 自己資金0
大澤:「自己資金割合を高めるのは融資を高めること、そして事業の成功を高めること」と我々は説明しています。融資を申し込む際に、自己資金ゼロというのはやっぱりちょっと…。
ご利用いただいている人を見ると、自己資金割合(資金計画全体に対する自己資金の割合)は平均22%となっています。親御さんや親族からの借り入れを入れても、2割から3割の自己資金を投入している方の利用実績が多いですね。ですから、この割合を意識してもらうと一つの目安になると思います。
大澤:そうですね。事業に必要な資金から逆算して自己資金を決めてもいいと思いますし、創業計画を立てる時に「自己資金は200万準備できるから、600万円くらいの事業計画が自分には妥当かもしれない」というスタートでもいいと思います。
失敗例4. 事業計画書の「バランス」が悪い
大澤:創業計画書にはサービスの内容、セールスポイント、動機、経歴、取引予定、資金計画、収支計画等を書いていただきます。どれが大事かとよく聞かれますが、全部大切です。1つ1つを単体で見るのではなく、さまざまな角度から見ると「この人の事業計画であればこれはできそうだ」「ちょっとここに無理があるかな」ということが見えてきます。
例えば、資金計画と収支計画のバランスを考えた時に、極端に言うと売上が月10万円なのに、起業時に必要な資金は5,000万円となれば投資が大きすぎますよね。このように、「投資に対してどのくらいバックがあって、利益から何年くらいで返済できるのか」というバランスというのを重要視しています。
事業計画書のバランスも、「どうやって売るか?」のリサーチをしっかりしていれば、バランスの良いものになるはずです。創業融資の申し込みをする前に、もう一度事業内容を見直してみましょう。具体的に動機・経歴・取引予定・資金計画・収支計画の情報を紙に書き出して洗い出してみてください。
カツカツの資金計画に注意
大澤:提出された資金計画があまりにもカツカツだと、心配になります。事業を始めた後に予想しなかった出費とかも当然ありうるので。そういった方には、逆に「借入れを増やしませんか」とご案内をすることもあります。
大澤:例えば、設備資金が500万かかる事業を始めたいという方が、「自己資金は200万あるので、公庫から300万円の融資を受けたい」という計画を出されることがあります。
これだと、運転資金が何も考慮されていません。運転資金とは商品仕入れや人件費、広告費などの経費のことですが、赤字の補填も行う部分です。運転資金がないと、最初に商品も仕入れられませんし、先行する人件費などの経費も捻出できません。一般的には、経費の3ヶ月分くらいの運転資金を考えたほうがいいので、先ほどの例の場合なら「全体の計画を700万円にして、自己資金200万、公庫から500万でやるのが良いかもしれない」とアドバイスすることもあります。
ただ、金額の話はこちらで決められませんから、あくまで全体で必要な金額を算出する際に案内をしています。多ければいい、少なければいいというものではないのが難しいところですね。
大澤:はい。起業したい人は、「あれもやりたい、これもやりたい」が積み上がって設備資金が膨れたりすることが多いんです。内装や設備を豪華にしたりとか。でも、最初から大きな借金を抱えると、つまづいたときに起き上がれなくなってしまいます。ですから、こだわるところはこだわっていただいて、その他は中古を利用したり、すぐに必要ないものは段階的に購入を検討してもらったりしています。「小さく生んで大きく育てる」を我々はモットーにしています。
冊子版の創業手帳では、事業計画書の書き方や、創業期の資金繰りに必要なノウハウを詳しく説明しています。もちろん、日本政策金融公庫の担当者さんは初めての人でもわかりやすいよう丁寧に対応してくれますが、事前に必要な情報や知識を持っておくことで、より相談がスムーズになります。踏み込んだ有意義な相談をするための準備に、冊子版の創業手帳なども活用してみてください。
半年赤字はあたりまえ!起業はバラ色ではない
大澤:創業当初と、軌道に乗ったあとの売上計画を書いてもらうのですが、実は、創業当初から黒字になるということはあまり多くありません。アンケートによると、半年くらいは赤字が続くので、それを念頭に置いて計画をたてると、よりリアリティがあると思います。
よくある失敗が、利益を出すために売上を逆算してしまうこと。赤字にならないようにと逆算して売上の数字を作り始めるとリアリティがなくなってしまうんです。ですから、当初半年は赤字でも大丈夫という前提でストーリーを描くといいかもしれません。公庫には、そのための「据置期間」という仕組みもありますから。
大澤:はい。予想売上の達成度は結構厳しくて、融資後のお客様にアンケートを実施したところ「1年後に計画通りの売上を達成している」と答えた方は約半分しかいないんです。また、採算状況についても、黒字基調の方が65%ですが、35%の方はまだ赤字が続いているという状態です。黒字化まではの期間はアンケートによると平均6.7ヶ月です。利益が出るまでには、やっぱり一定の期間がかかるんですよね。
大澤:起業はバラ色ではありませんから。
2017年度版の「中小企業白書・小規模企業白書」によると、創業から1年で60%の割合の企業が、資金調達を課題にあげていました。創業から2~3年経っている企業であっても、約半数が資金調達の問題を感じているというデータが出ています。
さらに、創業から1年で廃業する割合は、約3割といわれているようです。これらのデータから考えると「最初は赤字経営があたりまえ」ということが理解できるのではないでしょうか。最初から利益が得られると考えるのではなく、赤字を見込んだ資金計画を立てるようにしてください。
起業家に必要な3つの要素
大澤:3つあると思います。1つ目は「熱意」。しゃべるのが得意でいない人でも、計画書や自己資金など、色んなところに見え隠れする熱意を担当者は見ています。これらがある人は、何かあったときにも乗り越えられると思います。
2つ目は「巻き込み力」です。どれだけ応援者を増やせるかということですね。創業しても自分で全てはできないので、そこを助けてくれる仲間を増やせる人は、成功する人だなと思います。
3つ目は、「三方良しのビジネスモデル」。自分よがりな計画ではなく、取引先も、世間も課題解決されるビジネス。それをやることで、取引先も使っているお客さんも喜ぶ、という仕組みになっているものは多分成功しますね。
大澤:そうですね。みんながハッピーになるモデルじゃないと事業は続きませんから。
まとめ
私自身、金融機関は固い、という先入観があったのですが、今回のインタビューを通して、日本政策金融公庫の「創業者の成功を本気で応援する」という熱い想いと、そして懐の深さを感じました。
融資を受けられるかどうかというのは、多くの起業家にとって、事業のスタートを切れるかどうかを決める重要なポイントだと思います。融資申し込みの際に必要な事業計画書をつくるときに、立場を変えて、自分が金融機関側の融資担当者だとしたら?という目線で見直しをしてみることをおすすめします。事前準備を万端に、そして是非、今回ご紹介した事例なども参考にしてみてください。
少しでも悩みがある方は、まずは気軽に相談してみてくださいね。
冊子版の創業手帳では、日本政策金融公庫のほかにも、創業後の融資やその準備に役立つノウハウをまとめて紹介しています。しっかり情報を得て、なるべく不安を潰しながら創業期を駆け抜けましょう。
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(取材協力:日本政策金融公庫 東京ビジネスサポートプラザ
ビジネスサポート所長:大澤雅志)
(編集:創業手帳編集部)