開業支援のプロ・個人珈琲店のパイオニアに聞く「繁盛店の成功法則」
堀口珈琲創業者・堀口俊英氏インタビュー
(2016/06/15更新)
1990年に「珈琲工房HORIGUCHI」を開業し、以来個人珈琲店のパイオニアとしてコーヒーの新しい可能性を探り続けている堀口珈琲。創業者の堀口俊英氏は、一からすべてを築き上げた人物だ。2001年から行っている新規開業支援では、自身の経験に基づいた的確なアドバイスを求める飲食関係者が後を絶たない。そこで飲食開業手帳では、飲食店を開業する上で重要なことについて堀口氏に話を伺った。
1990年、東京・世田谷区に「珈琲工房HORIGUCHI」を開業。創業当時より、喫茶・小売り・卸売りの3業態を担う。2002年に「堀口珈琲研究所」を設立し、コーヒーの栽培・精製と香味の関係を研究する一方、生産者とのパートナーシップ提携、セミナーの開催、開業支援等に幅広く取り組む。現在は都内に「堀口珈琲」3店舗とセミナーハウスを構える。主な著書に『スペシャルティコーヒーの本』(旭屋出版)、『珈琲の教科書』(新星出版社)など。
経済とマーケットを知り、いいコーチを見付ける
堀口:今の時代だと、まず経済が分からないとダメですよね。
つまり、日本が今どういう状況なのかということをきちんと把握する必要がある。
そして、第二段階ではマーケティングを把握し、第三段階ではいいコーチを見付けること。
だいたいこのぐらいですね。
自分で勝手にやると潰れてしまう確率が高いので、やはりいいコーチを見つけることはすごく重要です。
スポーツ選手だって、いい選手にはいいコーチがいますよね。
それと同じで、飲食においても良き指導者に恵まれるということは成功への近道です。
1人でやっても時代が読めませんし、初めての経験であればそれはなおさらでしょう。
堀口:今の日本の経済は、先行きが見えず、景気がどうなるかなんて予測できないですよね。
例えばお金は比較的借りやすい環境にあるけれど、その一方で2020年問題もあれば2025年問題もあって、日本は今構造的にものすごく大変な時代に入ってきている。
人口が減ってこの先経済も成長しないんだから、限られたパイの中でどうすべきかを考えなければいけない時代になってきていますよね。
ですから、単純に何かをやりたいから始めるのではなく、状況をきちんと把握した上で自分がどうするかということを考えていく必要がある。
そこで初めてプランニングできるという時代になっています。
他との違いを常に20は考える
堀口:それは「徹底的に差別化を図る」ということでしょう。
飲食業の本質は考えることです。次のメニューはどうしよう、次のディスプレイはどうしよう、半年後は何を作ろうといったことを常に考えていないと、長くは持ちませんよね。
例えば日本料理屋は、季節によって料理も器も変えています。
ファミレスでさえ、シーズンごとにメニューを変えているわけですから、そのぐらいの心構えは必要だと思いますよ。
ですから、私が講演を行っている開業セミナーでは、必ず「他とは違うことを20考えなさい」と言っています。例えば「自分の笑顔が可愛い」というようなことでもいい。
つまり、そういう風に考えて20挙げれば、他との違いが出ますよね。もう少し別の言い方をすると、コーヒー店を開業するならスターバックスの隣にお店を出すということを考えなさいと。
そうすると、かなりコンセプトが明確になるじゃないですか。
自分が作るお店はスタバとはコンセプトが違うんだから、絶対に問題はないはずなんですよ。
でも実際にお店を始めてみると、その20の個性は1、2年で使い切ってしまう。
だから3年持たない飲食店が後を絶たないんです。ですから、3年のうちにもう一度もっと新しい違いを考える。
そうすると、次の2年は生き残ることができます。
でもここで問題になってくるのが、飲食をやる上で生まれるジレンマなんです。
堀口:飲食店の経営者は1週間に6日も働いて、休みの日はたいてい寝て洗濯をして終わってしまうわけです。
そうすると、マーケットが見えなくなってしまう。
自分の店しか通わなくなって、色々なところに行かなくなるため時代と乖離していくんですよ。
そこに一番の落とし穴があって、そうなってしまうと最初に考えた20は確実に3年で使い切ってしまう。
だからいかに働きながら遊ぶかということが重要になってくるんだけど、そうする時間がない。
飲食店の経営者はそういうジレンマに陥ってしまうから、なかなかうまくいかないんですよね。
堀口:セミナーでは、やるべきか否かを判断するための判断材料を提示しています。
飲食業は難しい仕事であり、やるからには意識変革やスキルの習得が必須で、中途半端ではやらない方が良いとアドバイスしています。
それから、資金力がないのにやろうとする人がたくさんいますが、基本的には少ない投資でハイリターンはあり得ません。
余裕がないとお店も遊びが足りなくなって、お客さんにもギスギスしているのが見えてしまう。それはやっぱり良くないですよね。
お店というのは自己表現の場
堀口:それはなかなか難しいかもしれません。
オープンしてから相談に来られても、もう対応できないんですよ。
オープン後に方向転換しようとするとまた新たな資金が必要になってしまうし、コンセプトを直すのも大変ですよね。
ですから、先ほどから言っている通り、最初の段階からいい指導者を見つけて、その上で他との違いを明確にすること。
私自身は指導者がいない状態で始めましたが、コンセプトだけは明確にして、誰もやっていないことしかやりませんでした。
だから始めは「これは全部趣味ですか?」と言われたぐらいで。
でも、そのぐらいに思われるぐらいでもちょうどいいかもしれない。
そう考えていくと、実はお店というのは自己表現だということが理解できますよね。
自分を表現しないといけない世界がお店で、自分の中に何か表現するものがなければお店はできない。
ミュージシャンが音楽を作るのとまったく同じレベルで、そこがちゃんと理解できていないと厳しいのではないでしょうか。
堀口:やはり、いいコーチ、指導者を見つけなさいということに尽きると思います。
それから、味覚というのは必ず客観的に味を見る訓練をしなくてはいけません。
うちで出すこの料理はどのぐらいのレベルなのかということが見えれば、飲食はとても楽な仕事で、どんな飲食のジャンルであろうとうまくいくと思いますよ。
(取材協力:珈琲工房HORIGUCHI/堀口 俊英)
(編集:創業手帳編集部)