日本初“飲食特化”クラウドファンディング「飲食メディア、FinTechも…尽きない野望」
キッチンスターター代表・渡辺氏インタビュー
(2016/04/14更新)
日本初、食に特化したクラウドファンディング・キッチンスターターを創立した渡辺浩志氏。日本におけるクラウドファンディングのビジネス展開に疑問を抱き、国内インフラ化に挑戦している。飲食だけでなく、食に関わる様々な業界の融合を考えている、キッチンスターターの壮大なビジョンを伺った。
幼少期から実業家である父親の影響を受け、中学生時代から様々なビジネスに携わる。明治学院大学卒業後、総合商社にて携帯関連ビジネスに着手。中国・韓国等の基幹部品を初めて日本に導入。その後英国Symbian社にて、日本支社の立ち上げ、ライセンス拡大に従事。2003年からKLab社に参入し、黎明期から営業部長、事業部長等を歴任。大規模法人向けのビジネス戦略立案、責任者として活躍。2010年からフリービット株式会社にてクラウド事業の総責任者として参画。2013年株式会社セマンティックゲートの設立を経て、2015年株式会社キッチンスターターを設立し現在に至る。
14歳から商売人…「欲しければ自分で稼ぐ」の中で身につけた経営センス
渡辺:私の家は父が経営者で、「欲しければ自分で稼ぎなさい」という考えのもとで育ちました。
14歳からいわゆる定額のお小遣いではなく、私の工夫に対して父が評価を行ってお金を貰える様な環境であったため、空き缶拾いからコーヒー豆の輸入まで色々やりました。
18歳の頃、単純にお金が必要で始めた事業で、結局大掛かりな借金を抱えることになってしまい、借金返済への焦る思いと、以前から外国相手の商売がやりたいという思いがあり、定職につこうと考えました。
そこからしばらくは会社員をし、卒業後は縁があって商社の兼松に入社しました。
その時に出会ったのが当時世の中に出たばかりの携帯電話。
携帯電話はその時代の最先端の部材を必要としますから高コスト。
日本製品の代替となりえる品質が高くて安い海外生産社をSONYと連携して探しました。
その後、3G携帯のOSを作っていたイギリスの会社、六本木にあるゲーム会社の法人事業部長、クラウドの新規事業の立上げ、ITを軸にいろいろ関わってきました。
そこから再度独立を決意、もう一つの会社を興し、キッチンスターター起業に至りました。
今になって、その時代時代の0.3歩ほど先のITに関われていたことに感謝しています。
渡辺:実は、初めからクラウドファンディングありきで考えた訳ではないです。
身内の話で、私の叔父は、1200年も歴史を持つ瓦職人の家なんです。
しかし、叔父が最後の伝承者ということで承継問題に困っていました。
伝統産業の特徴として、製品が売れないから後継者が育たないのと、承継が口伝のため再現性がないという問題があります。
現在は瓦の家も少なく需要が少ないですから、それを解決するために採ったのが、「形(用途)と、売り先を変える」ということ。
具体的に、技術を応用して壁画にしたところ、地元の市役所が採用し、同じものがバリ島のホテルの外壁にも使用されています。
今までの建材が美術品にも変化し、需要があがってきています。
この体験を通して、価値があるにも関わらず、無くなってしまうようなものも、マーケティングやプロモーションを変えることで、成功できる可能性が高くなることを実感しました。
この概念に当てはまったのがクラウドファンディングでした。
様々な分野が持つ問題点を「明確化」できる。
問題点に対する「解決策を提示」できる。
クラウドファンディングを「共感し」「応援し」「共に育てよう」と言うコミュニケーションのツールと捉えたのはその時です。
渡辺:クラウドファンディングでの起業を決意しましたが、それを「決して消えない分野に当てはめてみよう」と考えた結果、“食”に辿り着きました。食は成熟産業ですが、人間である以上需要は無くなりません。
皆さんにとって当たり前で常識のルールでも、少し視点や考え方を変えると新しい商売の種になるため、食の分野でやってみようと思いました。
あとは母が料理の先生をしていた影響もあってか、単純に食べる事が好きだからです。
24億円と5400万円 40倍の規模の差を埋める挑戦
渡辺:キッチンスターターは「食」に特化したクラウドファンディングです。
「世界のキッチンを豊かにしたい」という設立理念を持ち、飲食店だけではく、世界中の食に対して貢献がしたいという思いから始まりました。
プロジェクトの登録と同時に不特定多数に対する「リサーチ・マーケティング・PR」を無料で支援できるサービスになっています。
プロジェクトに賛同いただく方々からお金を集める資金調達の機能だけでなく、ほぼコストゼロで「リサーチ・マーケティング・PR」の支援が受けられ、さらには新規オープンする飲食店にとって最も重要である「お店のファン」も獲得できるというサービスを提供しています。
渡辺:資金調達ツールとしてみた場合、日本のクラウドファンディング業界には、関わる人間として危機感を覚えています。
というのも、クラウドファンディングの先駆国・アメリカで成功を収めるキックスターターの調達記録は24億円、ベスト10には10億円超えが集まっています。
一方、日本での最高記録は5400万円しか集まっておらず、資金調達力には40倍程の差があります。
アメリカではインフラになっており、コンテンツ力も必然ながら圧倒的な差があるのです。
日本のクラウドファンディングは、インフラになることができるのか疑問を持ちながら挑戦しています。
渡辺:これだけの差がついている理由は3つあります。
1つ目は、言語の違いです。
ITでビジネスをする以上、日本語である時点で不利なのです。英語圏の人たちに直接リーチでできるプラットフォームには、いいコンテンツもいい人も集まります。
そのため、キッチンスターターでは、積極的に動画を採用しています。食べ物との相性が良いのと、海外へのアピール性も抜群だからです。
2つ目は、圧倒的なコンテンツ力の差です。
アメリカでクラウドファンディングがインフラになっているのは、単純にコンテンツがカッコイイからです。
ビジネスアイディアをきちんと考えた人なり企業なりが「リサーチ・マーケティング・PR」に使っています。
プロジェクトを見ただけで欲しい!と思える先行販売のカタログになっています。
3つ目は文化の違いです。
日本人は、人のアイディアに対して応援はしますが、お金を払う・投資をするという風習があまりないため、日本とアメリカとでは差が生まれるのです。
この差を単純に埋めるのではなく、キッチンスターターは、クラウドファンディングで資金調達以外の要素も確立して行きます。
繰り返しになりますが、アイディアの「リサーチ・マーケティング・PR」への活用と生産者、お店、ユーザーとの前向きなコミュニケーションです。
国内でお金を持っている人達が本気でクラウドファンディングに投資している間に、儲からないからといってこの業界から手を引いてしまう前に、しっかりとしたインフラを構築していかなければならないと思っています。
“食”からFinTech、伝統産業まで繋がる? 果てしない野望
渡辺:私たちの考える展開は、まず、新しい“食のITバリューチェーン”を創ることです。
原材料の調達から料理やサービスとなって顧客に届くまで、その一連に付加価値をつけたいと思っています。
インターネットの価値は時間と空間の短縮と一気に情報を拡散させることです。
そして、インターネットの商売はネットで初めてネットで終わらせる事が美しいとされていましたが、それをIT以外の人に押し付けすぎてはいけません。
そこが原因でいつまでたっても日本は「ITとリアル」が融合していません。
IT屋はITの世界から一歩外にでて、生産者やレストランも現場から一歩外に出て、関心のある人たちとの「リアルな接点」を持たせる。
そこの経由となるのがインターネットの価値だと捉えています。
従来の様に誰かが一方的な損をかぶるのではなく、対等なコミュニケーションができる、クラウドファンディングから派生するサービスを充実して行きます。
飲食メディア、素材のマッチング、製品開発、EC等、展開は多岐に渡ります。
更には、金融機関との融合を考えています。
クラウドファンディングでのマーケティング、リサーチを銀行の融資審査に生かして、「こんなに反応が良かったのですが、どうでしょうか?」という判断材料に使ってもらえるように働きかけています。
資金は、8割融資で2割がクラウドファンディングで調達する位なら実現可能です。
我々としては、金融機関にクラウドファンディングの元請けとしてサービスを横展開できるので、ぜひ取り組みたいと思っています。
すでに関西の金融機関との連携がスタートしています。
そして、特化型クラウドファンディングの横展開。先にお話しした、日本ならではの伝統工芸の輸出にも活用していきます。
日本の伝統産業の問題点は、「製品が売れない」「後継者が育たない」です。
実は、経済産業大臣が認定している国内で100年以上の歴史を持つ伝統産業は200以上あるのです。
この200の産業にそれぞれ多くの職人さんがいます。日本人は真面目で品質の良いものを作る強みがある。
そこに付加価値を与えて輸出することを地域自治体と連動していきたいとも考えています。伝統産業の後継者は外国人でもいいわけです。
日本を支える古き良き伝統産業の貢献に繋げていきたいですね。
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