要注意!「早すぎた法人化」のリスクを解説|法人化で失敗しないための判断基準
早すぎた法人化は“節税”どころか負担増につながることもある

個人で事業を手がけている中で「法人化したほうが節税になる」と聞いたことがある人も多いかもしれません。
実際、法人化によって節税につながる部分もありますが、場合によっては「節税どころかかえって負担が増えてしまった」というケースも少なくありません。
これは「早すぎた法人化」による様々なリスクが影響しているといえます。
この記事では、早すぎた法人化による失敗しがちなパターンや、後悔しないための判断基準などを解説します。法人化すべきか迷っている人は、ぜひ参考にしてください。
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なぜ「早すぎた法人化」で失敗が起きるのか

法人化のタイミングを間違えてしまうと、なぜ失敗につながってしまうのでしょうか。ここでは、早すぎた法人化で失敗する要因を解説します。
税金メリットだけで判断してしまう
法人化=節税効果につながると考える人は多いですが、実際には所得水準や経費構造などに左右されるため、イコールで捉えるものではありません。
そもそも法人化をすると節税効果があるといわれているのは、一定額を超えた場合に個人の所得税率より法人の法人税率が低くなることが関係しています。
個人の所得税は「累進課税制度」が適用されており、所得が増えれば増えるほど税率も上がっていきます。
一方、法人税は所得の多さに関係なく、税率は一定です。そのため、所得が多い個人事業主は法人化によって節税効果が期待できます。
また、個人事業主は青色申告特別控除などを活用できますが、法人化すると利用できなくなり、税負担が増えてしまいます。
さらに、給与所得控除や社会保険料負担の仕組みも異なることから、早すぎる法人化によって失敗する可能性が高いです。
維持コスト・手間を考えていない
会社を設立しようとすると、登記費用や顧問税理士に支払う報酬、社会保険料などで年間数十万円規模の維持コストが発生します。
法人の決算申告では専門的な会計処理が必要であり、税理士に代行を依頼する費用や事務負担が個人の時より増えてしまいます。
また、一人社長や法人化したばかりで従業員が少ない場合、経理・労務・法務などの管理業務が増え、経営者が一手に担う必要がある点も見落とされやすいです。
例えば、個人事業主の場合は所得額次第で会計ソフトを活用し、個人で処理することもできます。
しかし、法人は細かい会計ルールに従い、複雑な会計処理を行わなくてはなりません。
さらに、社会保険の手続きや法律のチェックなども必要となることから、事務作業の負担が大幅にかかってしまいます。
安定収入が少ない段階で決断してしまう
安定した収益を確保できていない状態で法人化をすると、固定費の負担が増え、資金繰りを余計に圧迫してしまうリスクがあります。
法人化から赤字が続いてしまうと、銀行の融資審査でも信用力が低下し、資金調達が難しくなる可能性も高いです。
特に、黒字転換までの期間を見越したキャッシュフロー計画を立てておかないと、事業継続すら困難になる恐れもあります。
社会保険の強制加入を見落としている
会社を設立してから5日以内に、健康保険と厚生年金の加入手続きを済ませる必要があります。
法人は一人社長でも社会保険に加入する義務があり、一方の個人事業主は従業員が5人未満なら加入する義務はありません。
こうした違いにより保険料の負担は個人事業主の時と比べて大幅にアップし、その差に驚く経営者は多いです。
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早すぎた法人化で後悔した実例

法人化のタイミングを間違えてしまい、後悔してしまった事例もあります。ここで、どのようなケースで後悔につながってしまうのか確認してみてください。
1.節税目的で法人化したが手取りが減ったケース
個人事業主が法人化したことで、一人社長でも原則社会保険に加入しなくてはいけなくなります。社会保険に加入することで、年間の負担額も増加してしまうでしょう。
そのため、節税目的で法人化したにも関わらず、社会保険料の負担増加や登記費用などが節税効果を上回ってしまい、かえって手取りが減ってしまうケースもあります。
また、法人税法上において役員報酬は定期同額(毎月決まった金額を支給すること)であることと、不相当に高額でないことで経費計上できるようになります。
しかし、最初に様子を見ようと役員報酬をゼロに設定すると、後から上げる際に定期同額のルールに違反しているとして、経費に計上できない可能性が高いです。
こうした手取りが減ってしまうという失敗は起きやすいので注意してください。
2.売上が安定する前に法人化して資金繰りが悪化したケース
開業したばかりの頃や売上が不安定な段階であるにも関わらず、法人化をすると固定費の負担が増加し、資金繰りを圧迫してしまいます。
例えば、上記でも紹介したように個人事業主時代は支払う必要がなかった社会保険料が、法人化によって大幅に増えてしまい、手元に残るお金が少なくなって資金繰りが苦しくなったというケースは決して珍しいものではありません。
また、決算や顧問料の支払いによりキャッシュフローが悪化して、赤字が続いてしまうケースもあります。
法人化のタイミングを間違えると、事業継続そのものに悪影響を及ぼしかねないので注意が必要です。
3.会社名義にこだわりすぎて柔軟性を失ったケース
法人名義での契約・取引に固執した結果、個人事業の頃よりも対応の自由度が下がってしまうケースもあります。
例えば、個人事業主の頃はスピーディーだった契約の手続きや承認フローが、法人化にともない意思決定や承認まで時間がかかるようになり、業務スピードが低下する場合もあります。
また、法人名義に変わったことで賃貸物件の保証金などが増えてしまい、費用の負担まで大きくなってしまうこともあるでしょう。
法人名義は社会的な信用度は高くなるものの、その分柔軟性が失われたり、負担が大きくなったりする場合もあることを知っておいてください。
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法人化を検討する前に確認すべき5つのポイント

個人事業主から法人化を検討する際に、まず確認しておきたいポイントが5つあります。どのようなポイントを押さえるべきか解説します。
1.所得・売上規模
まずチェックしておきたいのが所得と売上規模です。
個人事業主の課税所得が900万円を超えた場合、所得税率は33%となりますが、法人税だと所得800万円を超えた部分は一律23.20%となります。
つまり、法人化による節税効果を受けるためには、個人事業主の課税所得が900万円以上で、法人税率を超えていないと意味がありません。
所得が低い段階で法人化をしてしまうと、節税につながらないどころか社会保険料や顧問料などの負担が増え、実質的な可処分所得が減ってしまう可能性も考えられます。
国税庁の法人税率・所得税率を比較しつつ、税負担の分岐点をシミュレーションした上で法人化を検討することが重要です。
2.経費・人件費の構造
次にチェックしたいのが、経費・人件費の構造です。
経費は個人事業主よりも法人のほうが範囲は広く、社宅の家賃や出張時の日当、法人契約の生命保険料、自分や家族の役員報酬も経費として計上できるようになります。
そのため、今支払っている中で法人化すると経費にできるものがあれば、法人化によるメリットは大きいといえます。
また、前年の前半6カ月の売上が1,000万円以上、かつ人件費が1,000万円を超えている場合も、法人化を検討したほうが良いタイミングです。
この条件を満たすとその年から課税事業者となり、消費税を納めなくてはなりません。
しかし、法人化をしていれば期の設定にもよりますが、2期分の消費税を免除できるようになります。
3.今後の事業計画と資金繰り
将来的に事業の拡大や設備投資を予定している場合、個人事業主よりも法人格を持っていたほうが融資審査や補助金申請で有利になりやすいとされています。
また、信用度の高い法人だと金利が低かったり、借りられる限度額が大きかったりするなどのメリットもあります。
ただし、まだ準備段階で売上が安定していないのに法人化をしてしまうと、維持費によって経営を圧迫する可能性が高いです。
万が一赤字が続いてしまった場合でも、最低限法人を維持できるコストは負担できるほどの資金余力があるか確認することが重要となります。
4.社会保険料・手続き負担の確認
法人化によって代表者にも社会保険への加入義務が発生し、負担額は増えてしまいます。
ほかにも法人維持にともなう登記費用や税理士報酬などの固定費も支払っていく必要があります。
そのため、法人化をする前にどれくらいの費用がかかってくるのか見積もっておくことが大切です。
また、法人化にともない固定費だけでなく経理・労務・法務の手続き負担も増えることから、人的リソースを確保できるか、外注は必要かどうかを事前に確認しておくことも重要です。
5.取引先や信用面での必要性
大手企業や行政機関と取引きをする場合、個人ではなく法人というだけで信用力が上がることもあります。
なぜなら、法人は法的存在であり、一定の義務をともなっているためです。
また、個々の所有者や経営者とは別で存在していることから、万が一経営者が変わったり亡くなったりしても、法人自体は存続します。
長期的な契約・関係を維持できることから、個人よりも法人のほうが信用力は高いです。
そのため、契約や取引条件において法人化したほうが有利になるかどうかも事前に検討しておく必要があります。
取引拡大や新規事業へ参入するのに法人化は有効かどうかを判断しつつ、メリットを最大化できるタイミングを見極めるようにしてください。
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法人化を急がないほうがいいケース

法人化のタイミングを見極めようとした際に、急がないほうがいいケースもあります。どのようなケースだと法人化は見送ったほうがいいのか解説します。
1.収入や案件の波が大きく、安定していない場合
まず、収益や案件の波が大きく不安定な段階にある場合です。
この状態で法人化を急いでしまうと、毎月の固定費や社会保険料の増加により、経営が圧迫されるリスクがあります。
一時的に売上が上がったからといってすぐに法人化をすると、翌年以降は収入が減ってしまい、負担だけが重くのしかかる場合もあるので注意が必要です。
2.経費があまりかからない業種の場合
法人化によるメリットとして、個人よりも経費の範囲が広くなるという効果がありますが、そもそも経費があまりかからない業種だと法人化による節税効果は限定的になってしまいます。
また、逆に法人化してから売上が下がってしまうと、法人税が高くなってしまうリスクもあるので注意しなくてはなりません。
特に業務が少人数、または1人で完結する場合は個人事業で運営したほうが効率的になるでしょう。
3.売上規模が法人化のメリットを上回らない場合
法人化にかかる登記費用や顧問税理士に支払う報酬など、維持費が節税効果を上回ってしまう場合もあります。
年商や利益の水準が低い場合、法人化による節税メリットよりもコストの負担が大きくなってしまうため、法人化が得策とはいえません。
特に年間所得が500~600万円以下の場合は、法人化しないほうが税金や社会保険料などの観点から、維持費を抑えることが可能です。
売上規模と負担額をシミュレーションした上で、総合的にメリットがあることを確認してから法人化を検討したほうが良いでしょう。
4.将来の方向性がまだ定まっていない場合
事業内容やビジネスモデルが変わる可能性があるのに法人化をしてしまうと、柔軟性が失われ、事業の失敗につながる恐れがあります。
例えば、「将来的に事業を拡大したい」など、漠然と考えているだけで法人化をするのは適切ではありません。
また、法人化をしてから事業形態を変えようとした場合、再度手続きやコストが発生する可能性もあります。
将来の方向性や成長計画を具体的に定めてから、法人化を検討したほうが失敗のリスクも回避しやすいです。
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法人化が向いているケース

法人化を急がないほうがいいケースについて紹介しましたが、逆に以下のケースに該当する場合は法人化をしたほうが恩恵を受けやすくなります。
1.利益が一定以上あり節税効果が明確な場合
年間の利益(事業所得)が800万円を超えている場合、個人の所得税率よりも法人税率を適用させたほうが税負担を軽減できます。
個人事業主の利益はすべて個人所得として扱われ、最大55%(所得税最大45%+住民税の所得割10%)の税率がかかってくることになります。
一方、法人は資本金1億円以下の法人で年800万円の利益がある場合、最大23.20%の税率です。
このことから、年間の利益が800万円を超えている場合は、法人化したほうが税制上のメリットは大きいです。
2.従業員を雇用する予定がある場合
個人事業主でも従業員を雇用することは可能ですが、法人化をしたほうが給与体系や社会保険の管理が整いやすく、従業員の雇用もスムーズに行えるようになります。
また、法人化をすると社会保険への加入が義務化され、福利厚生の充実につながり、人材を採用しやすくなったり、満足度向上や定着率アップにつながったりする場合もあります。
今後事業拡大にともない従業員を増やす計画がある場合は、管理体制の整備がしやすくなることを考えると、法人化を検討したほうがいいでしょう。
3.取引先や信用面で法人格が求められる場合
大手企業や行政機関と取引きをする場面で、法人格の有無が契約条件や信用評価につながる場合があります。
取引先によっては個人事業主との取引きは制限しており、法人とだけ取引きをしている企業も存在します。
信用を獲得しやすいというメリットが事業の成長に直結する場合は、法人化を検討してみてください。
4.事業拡大や投資計画がある場合
事業拡大や設備投資などを予定している場合、法人格を持っていたほうが融資や補助金申請の場面で有利に働く場合があります。
例えば、金融機関から融資を受けたい場合、法人だと法的な枠組みの中で活動しているとみなされます。
その結果、金融機関からの信用度が高まり、融資が受けやすくなるのです。
法人化にともない事業計画を明確にすることで、資金繰りやリスク管理なども効率的に行えるようになります。
将来的な投資・事業拡大を見据えた経営戦略がある場合は、法人化が適している場合もあるでしょう。
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まとめ:「法人化」はタイミングを見極めてこそ効果を発揮する
法人化は単に節税ができるというだけでなく、社会保険料や経理手続きの負担が増えてしまうため、タイミングを見極めることが重要となってきます。
タイミングを見極めるためには、所得・経費・資金繰りの3つの要素を分析し、さらに維持費をカバーできるほどの安定した収益を確保してから法人化を検討することが大切です。
公的制度や税制なども踏まえつつ、専門家からアドバイスを受けながら長期的な経営戦略として法人化を検討してみてください。
創業手帳(冊子版)は、創業者・起業家が知りたい失敗事例・成功事例なども掲載しています。リスクを回避しつつ、成功に近づくためにはどのようなステップを踏めば良いのかなど、ビジネス・経営に活かせる情報を多数紹介しているので、ぜひお役立てください。
(編集:創業手帳編集部)






