ジェイキャスエアウェイズ 白根清司 梅本祐紀|70代×40代の異色コンビ!地方を救う航空スタートアップとは
撤退が続く地方路線に、ベテランとIT起業家が挑む

大手航空会社が次々と撤退する国内の地方路線。その再生に挑むのが、航空スタートアップ「ジェイキャスエアウェイズ」です。
代表を務めるのは、日本航空(JAL)出身で、スカイマークの立ち上げを経験した白根清司さん(70代)と、2度のIPO経験を持つ梅本祐紀さん(40代)。異色の二人三脚で、2026年秋の就航を目指します。
「10年以上温めてきた構想。諦めなければ道は開ける」と語る白根さん。地方の交通格差解消と地域創生という大義を掲げ、参入障壁の高い航空業界に果敢に挑む姿を追いました。
JAL出身。運航技術部にてDC10の導入準備からキャリアをスタートし、DC8、767、747のパイロット関連規程設定に携わる。新運航方式であるカテゴリーIII運航の導入時には、航空局のサーキュラー策定プロジェクトに参加。その他、2エンジン機の洋上飛行を可能とするETOPSの導入を実現。30代後半には747-400導入準備のため、ボーイング社に出向し、コックピット設計に従事。帰国後、運航技術部においてマニュアル作成システムを導入し、いち早くIT化を推進。その後、技術部時代は整備関連規程設定に従事。40代後半にスカイマーク立ち上げに参加し、運航部門責任者として就航を実現。この経験を活かし、2017年より地域を結ぶ航空会社の立ち上げを開始し、現在に至る。広島県庄原市出身。
2023年9月より現職。Denso Ten、GREE、FreakOut、and factoryといった企業で、マーケティング、ITサービス開発、インバウンド向け宿泊施設開発など多岐にわたる経験を積む。特に0→1フェーズにおけるマーケティングや事業開発を得意とする。2度のIPO経験を背景に、航空スタートアップの実現に向けて取り組み、2026年に関西国際空港と富山・米子を結ぶ空路の開設を目指す。人流創出だけでなく、就航先の企業や行政との共創による地域創生にも注力。兵庫県神戸市出身。
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この記事の目次
JAL、スカイマークを経験して見えた「本当にやりたいこと」
白根:JALに勤めていた頃から、地方路線がどんどん縮小していく現状を非常に残念に思っていました。その後、スカイマークの立ち上げに初期メンバーとして参加したのですが、当初は小型機でローカルを結びたいという気持ちで参加したんです。
ただ、競争に勝ち抜くためには、ある程度ドル箱路線をやらざるを得なかった。実際、東京—福岡線から始めて成果を上げたものの、自分の思うような路線展開ができなかったこともあり、退職して自身でコンサル会社を立ち上げました。
コンサル時代には新規航空会社立ち上げのお手伝いをしていたのですが、やはり「これは自分のやりたいことと違うな」と常々感じていました。そして10年以上前から「地域航空が必要だ」と考え続け、なんとかならないかと計画を練ってきた。それが、今回の立ち上げのきっかけです。
白根::長らく国は「地方創生」を叫び、補助金などの支援策を打ち出していましたが、一時的に資金を投入するだけで、地域が抱える構造的な課題の解決には至っていないと感じていました。根本的な問題は、交通インフラが不足していることなんです。
地方に住んでいる人たちは、都市部との間に大きな交通格差を感じています。その格差を是正することこそが、地域創生の本質的な解決策になると考え、地方路線の展開が必要だという結論に至りました。
白根:そうですね。今から20年以上前、JALと日本エアシステム(JAS)が経営統合する以前から、大手航空会社が採算の取りにくい地方路線から撤退していく流れが続いています。
同じように人材や資金を投入するなら、どうしても採算性の高い路線に特化せざるを得ません。それは企業として仕方ない選択。しかし私は、適切な機材を選定すれば、地方路線でも事業は成り立つのではないかと考えたんです。
大手も撤退する「儲からない路線」を黒字化するために

白根:私たちが採用したのはATRという小型のプロペラ旅客機です。プロペラ機と聞くと古いイメージを持たれるかもしれませんが、実はジェットエンジンでプロペラを回す仕組みで、非常に燃費が良いんです。世界中で1600機以上が運航されている、地方路線では定番の機材です。
梅本:ATRの座席数は72席。実はこのサイズが重要です。例えば富山空港—関西国際空港(関空)間は、かつて大手航空会社が160席規模の機材で就航していましたが、搭乗率33%ほどしか取れず、3年で撤退しました。米子空港—神戸空港もLCCが同様の理由で撤退しています。ところが、1便あたり50人しか乗らない路線でも、72席なら搭乗率は60%を超える。適切なサイズの機材を選べば、黒字化できるんです。
白根:航空会社の場合、人材、資金、機材という三つの要素が揃わないと事業は成立しません。今まさにそれぞれのハードルに向き合っている最中です。
白根:やはり航空事業にとって、安全は何よりも優先すべきこと。決してないがしろにできません。そのためには、地域航空に賛同して「ぜひやっていこう」という気持ちを持った人を集めることが何より大切だと思っています。現在も人材集めに注力しています。
白根:そうですね。航空業界は狭く、人材が豊富ではありません。特にパイロットや整備士など、ライセンスを持つ人材を集めるのは難しい。それに加えて、立ち上げ期は安全運航のノウハウを持った経験者が不可欠なので、新人を採用するわけにはいきません。結果として平均年齢が高くなってしまうのが現状です。現在の体制は60名ほど。就航時には100名を超える体制を目指しています。
70代と40代、異色の共同代表誕生
梅本:私がジョインしたのは2023年9月。ジェイキャスエアウェイズ立ち上げから3か月ほど経った頃に、共同代表に就任しました。
私は航空業界出身ではなく、ITやIPOの経験を積んできた人間です。直近ではand factoryを上場させた後に退職し、2年ほど個人で仕事をしていました。ビジネスは順調に成長していたものの、社会的意義ややりがいを見出せず悩んでいた時期に、長年の仕事仲間に「世の中に残せる事業をしたい」と話していたところ、白根を紹介してくれたんです。
初めて白根と会った時、私は金髪で日焼けした「渋谷の兄ちゃん」みたいな見た目だったんですが(笑)、意気投合して。昔パイロットを目指していたこともあって航空業界には関心があり、これは運命的な出会いだと思いました。
もちろん立ち上げのハードルは高いと分かっていました。でも白根と一緒なら、日本の航空産業や地方の交通格差を変えられるのではないかと感じ、ジョインを決めたんです。
白根:実は私は、前身の会社で株主候補を回っている時に「あなた、もう結構年ですよね。後継者はいるんですか?」とよく言われていました。年齢の問題は常にクローズアップされていて、若い人を探していたのは確かです。
梅本はマネジメント能力やIPOの経験、IT業界でのキャリアがある。さらに若さもあり、行動力やスピード感も兼ね備えています。私が持っていない部分を補ってくれるので、掛け合わせればいい会社になると直感しました。
白根:年齢的にも親子のような関係なので、時には息子に叱られながら(笑)、お互いの強みを活かしています。特に我々は飛行機を飛ばすだけではなく「地域創生」もビジョンに掲げているので、その規模の事業だからこそ、“2本柱”の体制がぴったりだと思っています。
梅本:それに、地域航空会社の立ち上げには白根が説明した「人」「資金」「機材」に加えて「航空局の許可」「地元の支援」も不可欠です。特に航空局は、航空会社を社会的インフラと捉えているので、社会性のない会社は認められません。
だから、いくら経験のない私が「やりたい」と思っても、仮に資金を集められたとしても、立ち上げは不可能です。白根の経験や人脈があって初めて、新しい航空会社をつくれる。二人の代表でやっていることには、とても意味があると思っています。
資金調達のリアル。年間100フライトの「泥臭い」営業戦略とは?
梅本:私はスタートアップやベンチャーにずっと関わってきたので、資金調達の進め方自体は理解していました。そして航空業界は特殊だと覚悟してジョインしましたが、実際もやはりその通りでした。
ただ、航空業界には「飛行機好き」の方々が一定数いらっしゃるんです。投資家や経営者の中にも、パイロットライセンスを持っているなど、航空事業を心から応援したいという熱意を持った方がいる。シード期の1.5億円調達では、同じ志を持つ方々と出会い、仲間になっていただくことが重要でした。
当時は私と白根を含め3名のみの体制でしたが、事業の考え方や計画に賛同してくださる方を一人ずつ訪ね、想いを伝え続けました。ジョインして3か月以内に必ず実現すると決めて動いた結果、なんとか達成できたんです。
梅本:第2回以降は「就航地の応援団づくり」を重視しました。富山と山陰で21社から5億円を集めたのですが、これが簡単ではなかった。私たちは東京を拠点とする会社で、地元の会社ではありません。「人もお金もない、梅本って人間だけ来て飛行機飛ばすから応援してくれ」と言っても、最初は誰も応援してくれませんでした。
梅本:自治体や商工会議所の方、一部の経営者など応援してくれそうな人を見つけて、「誰に話せばいいですか?どういう順番で進めればいいですか?」と作戦会議を開いてもらいました。「まずこの人から挨拶に行ったほうがいい」といったアドバイスを受けながら、かなりウェットな作戦を立てたんです。
2024年は週に1〜2回、山陰か富山に行っていました。年間の3分の2くらいはどちらかにいる生活。1年くらいかけて何度も同じ人に会いに行き、気持ちを伝え続けて、ようやく応援していただけるようになりました。一人応援してくださる方が現れると、そこから輪が広がって、21社にまでつながった。計画した通りの華々しい成功ストーリーなどではなく、本当に泥臭い営業の結果でした。
梅本:そこは気になりますよね。航空業界は参入障壁が非常に高く、営業利益率も10%未満。路線数も限られているので指数関数的な成長は見込めません。だからこそ、初期フェーズでは「リターン目当て」ではなく「応援してくれる人」に味方になっていただく必要がありました。
例えば山陰地方は、米子空港周辺から大阪へ出るには4時間近くかかります。羽田へは飛行機がありますが片道2万円以上で、気軽には使えません。そこで「大阪まで1時間、1万円強で行ける」交通手段を提供できれば、大きな価値がある。地元の企業から「ぜひ飛んでほしい」と出資をいただいた理由もそこにあると思っています。
徹底した路線分析で見つけた「航空スタートアップ」の戦い方
梅本:おっしゃる通り、日本にも小型機で地方路線を飛ばしている航空会社はいくつか存在します。ただ、その多くは「第三セクター方式」なんです。出資先から「うちの県のために就航してください」と言われてしまうので、全国的な展開ができないのです。
一方、私たちは富山や山陰の企業から出資をいただいていますが、それはあくまで初期の路線計画として協力いただいています。資本政策も経営陣も、そこから日本全国に広げていくことを前提に設計しています。これが大きな違いです。
梅本:徹底的に路線分析をした結果です。大手やLCCがどこを就航しているか、新幹線や長距離バスの動きを見て、競合しない路線を探しました。
まず、ハブとなる空港をどこにするかを考えました。例えば、羽田空港や伊丹空港は国内線の主要拠点ですが、超過密空港で発着枠に余裕がなく、大手航空会社が既に押さえている。新規参入する余地がほとんどありません。
一方、関空は国際線が中心で、国内線の発着枠にはまだ余裕がある。中部国際空港(セントレア)も同様です。そこで関空を主なハブに据え、将来的にはセントレアも活用するという戦略を立てました。
そのうえで、先ほどもふれましたが、大手が撤退した路線でも機材サイズを適正化すれば事業として成立する。加えて今はインバウンド需要が増えているので、条件は過去より良くなっています。そういった分析から、富山と米子が初期参入に最適だと判断しました。
白根:まずは富山や米子といった地域から始め、5年間で15路線まで増やす計画です。最終的には「日本のローカルのどこにいても、どこへでも行ける」ネットワークを作りたいと思っています。欧米では当たり前にある小型機による地域航空のネットワークを、日本でも実現したいんです。
梅本:次の展開として松山を候補の一つとして検討しています。関空—松山は以前ピーチさんが飛ばしていましたが、採算が合わず撤退しました。地元からは復活を望む声が寄せられています。適正なサイズの機材を活用することで、再開の可能性を丁寧に探っていきたいと考えています。
飛行機だけでは終わらない、地域創生への挑戦
白根例えば富山はニューヨークタイムズの「2025年に行くべき52か所」に選ばれるなど、知る人ぞ知る観光地です。山陰地方も神話のゆかりの地であるほか、NHKの朝ドラの舞台になるなど盛り上がっています。
ただ、現地には二次交通の選択肢が少なく、知名度も十分ではありません。素敵な取り組みをしている人もたくさんいるのに、人が来なければ事業は継続できない。そこへ「人を送り込む」ことが私たちの仕事です。
また、インバウンドは東京・大阪・京都などに集中し、地方にはまだ広がっていません。そこで「国際空港から地方へ行きやすくする」仕組みを作り、交通やプロモーション、マーケティングを連携していきたいと考えています。
梅本:私は以前、インバウンド向け宿泊施設の事業を立ち上げた経験があります。ゆくゆくは、その知見を活かして地方で宿泊施設を展開し、地域全体の価値を高めていきたいと考えています。
もちろん、我々一社だけで完結するものではなく、地域の事業者との連携が不可欠です。地方の交通事業者は「タクシー運転手が足りない」「バスが減便される」などの問題を抱えていますが、それは結局、利用者が少ないから。人流が生まれれば地域は変わります。
梅本:実は、72席というのは観光バス2台分ほどの席数なんです。旅行会社から「丸ごとチャーターできないか?」という相談もよく受けます。機内で推し活イベントやスポーツチームとのコラボなど、小さな機材ならではの一体感を活かせる。移動を単なる手段ではなく体験に変える、そんな新しい価値を提供できるエアラインを目指しています。
「もう遅いのでは」と感じている人へ
白根:起業を目指す方は、頑張ってもなかなかうまくいかず、挫折を感じる時があると思います。私自身もここに至るまで10年近くかかりました。私から言えることは「決して諦めないこと」。諦めなければ可能性は高まりますが、諦めたらそこで終わりです。私自身、現在70代ですが、もちろん年齢は関係ありません。そもそも、起業に年齢制限はありませんから。
梅本:私が思うのは、その人が取れる限り最大のリスクを取るキャリアを選んだ方がいいということです。私もキャリアの選択では常にリスクのある方を選んできました。コンフォートゾーンにとどまると、キャリアは伸びません。
と言っても、もちろん、無謀に借金をして大きな挑戦をする必要はなくて。その中でも、「今の自分にとって難しいけれど、実現したら絶対に面白い」と思える道を選ぶ。その積極的なリスクテイクが、面白い人材を作ると思っています。
梅本:そうですね。白根は70を超えても新しい挑戦をしている。私もそれを近くで見ていて刺激を受けています。自分が70を超えて同じことができるかと考えると、正直難しいかもしれません。
でもだからこそ、今の自分にできる最大限のチャレンジを選ぼうと思えます。年齢を重ねると選択肢は狭まるのかもしれませんが、白根を見ていると「いつからでも遅くない」とも感じさせられますね。
白根:はい。地方の交通格差を解消し、人の流れを生み出すことで地域を変えていく。簡単な道ではありませんが、私たちなら必ず実現できると信じています。
(編集:創業手帳編集部)
(取材協力:
株式会社ジェイキャスエアウェイズ 代表取締役 白根清司 梅本祐紀)
(編集: 創業手帳編集部)






