ジーリーメディアグループ 吉田 皓一|「台湾で有名な日本人」が考える、成功につながるインバウンド戦略とは

創業手帳
※このインタビュー内容は2024年04月に行われた取材時点のものです。

訪日観光を活性化するために地方都市の魅力を台湾に伝える


経済成長が停滞している日本において、数少ない成長産業が「訪日観光」です。2023年の訪日外国人旅行消費額は5兆2,923億円(2019年比+9.9%)で過去最高額を更新するほど盛り上がりを見せています。

訪日客の中でも最も消費額が多いのは台湾人です。台湾からの訪日客は、日本の地方都市で消費する傾向が強いため、地方活性化の希望とも言えます。

日本だけでなく台湾を拠点に中国語で日本の魅力を発信したり、日本の地方都市で台湾の魅力を発信したりと、台湾と日本の橋渡しをしているのが、ジーリーメディアグループの吉田さんです。台湾人・香港人向け訪日観光サイトで利用者数No.1の「樂吃購(ラーチーゴー)!日本」を運営しています。大学在学中に独学で中国語を学び、ネイティブに近いレベルである漢語水平考試の最高級を習得するなど、語学にも精通しています。

今回の記事では、吉田さんの創業までの経緯やインバウンドビジネスを成功に導くヒントを創業手帳の大久保が聞きました。

吉田 皓一(よしだ こういち)
株式会社ジーリーメディアグループ 代表取締役
奈良県出身。防衛大学校を経て慶應義塾大学経済学部卒業後、朝日放送入社。総合ビジネス局にて3年にわたってテレビCMの企画・セールスを担当したのち退職。

2013年ジーリーメディアグループ創業。大学在学中に独学で中国語を習得(漢語水平考試最高級所持)し、中国語に堪能。「台湾で最もFacebookファン数の多い日本人」として台湾にてテレビ番組やCM出演、雑誌コラムの執筆なども行う。日本国内においても、台湾香港インバウンド関連のセミナーに多数登壇。現在は東京と台北を往復しながら、日本の魅力の発信につとめています。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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日本のコンテンツを世界に広めるため朝日放送への入社を決意

大久保:まずはこれまでの経歴を教えてください。

吉田:私は、小学生の時に阪神淡路大震災により被災しています。その時に自衛隊の方々に助けていただき、人の役に立つ仕事をしたいと思い、大学は防衛大学に進学しました。

しかし、防衛大学で学ぶ中で国防を担って日本を守る仕事をするよりも、マンガやアニメという日本文化を世界に広めることで日本の役に立ちたいという気持ちが強まり、慶應義塾大学に入り直す決断をしました。

大学卒業後は日本のコンテンツ関連企業の中でも「デジタルと海外」に関わる仕事をしたいと思い、朝日放送への入社を決意しました。

大久保:朝日放送に入社して、今に役立ったことは何ですか?

吉田:主に広告代理店の方との関わりが多かったので、在籍した3年間でコンテンツ業界の仕事の流れや立ち回りをみっちりと経験できたことが今役立っていると感じています。

大久保:現在、吉田さんはYouTubeでもかなり活躍されていますが、テレビとYouTubeにはどのような違いがありますか?

吉田:テレビとYouTubeはかなり違いますね。

テレビは何十人という人数をかけて1つのコンテンツを作るので、担当者1人の裁量はかなり小さいです。それに比べて、YouTubeは「瞬発力」が一番のメリットで、1つの切り口でもすぐに動画を撮影・編集して、すぐに公開できます。

大久保:朝日放送に在籍している時に台湾のメディア業界との繋がりもありましたか?

吉田朝日放送は、日本のテレビ業界では珍しく台湾に台北支局を置いていました。その流れで台湾のメディア業界の方々との出会いがあり、台湾に興味を持つようになりました。

ジーリーメディアグループを創業


大久保:中国語はどのタイミングで勉強されましたか?

吉田大学の時に中国語を勉強しました。慶應義塾大学には帰国子女の学生も多く、英語をネイティブレベルで話せる学生が多く在籍しています。

その中で英語を習得するよりも中国語を習得して差別化したいと考え、中国国家教育部が実施している外国人学生向けの中国語テストである漢語水平考試の最高級にも合格しました。

大久保:ジーリーメディアグループを起業した経緯を教えてください。

吉田:台湾で何かしたいと考えて、中国の深センでスマホケースを作って日本で販売したり、日本の古本を台湾で販売したりと色々と試しては失敗してを繰り返していたのですが、2011年にFacebookページを作ったことがジーリーメディアグループの起業につながりました。

当時はまだYouTubeやInstagramが今ほど普及していなかったので、私がFacebookページを作り、中国語で話している動画をアップロードしていたら、半年ほどでフォロワーが10万人以上になりました。

Facebookのフォロワーの方々にヒアリングをしながら作り上げたサービスが「樂吃購(ラーチーゴー)!日本」です。

大久保:その動きは誰かを参考にされたのでしょうか?

吉田:当時は今みたいに外国人が日本に大勢来ることも想像できていませんでしたし、日本人が中国語でコンテンツ発信すること自体珍しいことでした。

そのため、誰かを参考にしたということはなく、完全にオリジナルで開拓した道です。

大久保:Facebookのフォロワーが半年で10万人以上が増えるというのは大変凄いことだと思いますが、YouTubeやSNSをうまく伸ばすコツなどがあれば教えてください。

吉田立ち位置をうまくズラすことが重要だと思います。

例えば、最近だと台湾人向けに日本語講座をSNSで発信している日本人が増えていますが、日常会話の内容を発信している人が多いのであれば、あえてニッチなビジネス会話の内容を発信するというような戦略です。

あとは、各種SNSやプラットフォームごとにアルゴリズムもありますが、結局は毎日触って、毎日投稿している人が強いです。完璧な動画を月に1本出すよりも、そこそこの品質でも毎日投稿する方が伸びます。

台湾からの訪日客は地方都市での消費に積極的

大久保:同じ東アジアの中でも、台湾、中国、韓国からの訪日客にはどのような違いがありますか?

吉田中国からの訪日客は、初めて日本に来る方の割合が多く、東京を中心に富士山や京都などの定番コースが人気です。

台湾や香港からの訪日客の約90%が2回目以降のリピート客で、定番の観光地ではなく東北や四国でゆっくりするというプランが人気です。

また、訪日客の人数で言うと、去年は韓国人が最も多かったのですが、消費額では台湾人が1位でした。

大久保:消費額は台湾からの訪日客が一番多いのですね。

吉田:台湾からの訪日客は、日本の中でも都市部ではなく地方に積極的に行ってくれる上に、しっかりと消費をしてくれるので、日本の地方活性化に大きく貢献していると思っています。

大久保:吉田さんは自社メディアを伸ばしつつ、外部のメディアへも積極的に出演している印象があるのですが、自社と外部のメディアで気をつけていることがあれば教えてください。

吉田:自社のメディアでも外部のメディアでも一番大事にしていることは、視聴者さんが求めることだけを簡潔に伝えることを意識しています。もちろんYouTubeとテレビでは、視聴者層も求められる情報も異なります。

それぞれのメディアに最適化した情報だけを手短に伝えることで、結果的により多くの方々から必要としていただける存在になるのではと考えています。

大久保:今後計画している展開があれば教えてください。

吉田:ジーリーメディアグループでは、海外から日本に来るインバウンド関連の事業を展開していますが、今後さらにインバウンド観光客を増やすためには、日本から海外に行くアウトバウンド客を増やす必要があると考えています。

地方空港から台湾への直行便が出ていても、飛行機に乗っているのはほとんどが台湾人です。

今後は日本の地方から台湾に行く人を増やすことで、お互いの国や都市に相乗効果が出せるようになると思っています。

すでに北海道のラジオ番組や熊本県のテレビ番組にレギュラー出演して台湾の魅力を発信しているのですが、今後はこのような日本の地方都市への働きかけを強めていきたいと考えています。

台湾向けにビジネスをするならソフトコンテンツ、観光、高級品領域が狙い目

大久保:スタートアップ、ベンチャー界隈では、外部からの資金調達をすることがかっこいいという風潮がありますが、吉田さんは外部資本を入れることを検討したことはありますか?

吉田:私は自社の株式を100%自社保有で運営しているので、自分たちが面白いと思うことで社会にいい影響を与えられることを自由に形にできています。

資金調達を検討する際には、爆発的な成長の代償として、自由を失うリスクを慎重に考えないといけませんね。

大久保:今後、色々な分野でインバウンドを絡めたスタートアップが増えてくると思いますが、インバウンドビジネスを成功に導くコツがあれば教えてください。

吉田:インバウンド領域に限らず、起業家に大事なことは「しつこさ」だと思っています。

コロナ禍をきっかけに多くのインバウンドビジネスが撤退していきましたが、どんな外部環境の変化があったとしても、自分が信じた道をしつこく進み続けることが、遠回りのようで近道なんだと考えています。

大久保:一言でインバウンドビジネスと言っても、対象とする国により対策は大きく異なると思いますが、意識していることがあれば教えてください。

吉田:おっしゃる通りで、対象とする国の成長フェーズをしっかりと見極める必要があると考えています。

特に台湾は一人当たりのGDPが日本を追い抜くという試算もありますし、経済成長のステージで言うとこれ以上の成長はないくらいに成長しきっています。

だからこそ、今後台湾に向けてビジネスをするのであれば、ソフトコンテンツや観光、高級品の分野にチャンスがあります。

大久保:少し前から考えると、日本がアジア諸国にGDPで追い抜かれるなんて想像もしませんでしたよね。

吉田:最近は全世界的にビジネスモデルの大変革が起こっているので、必ずしも大企業だから勝てるというわけではなくなっています。

若者やスタートアップにしかできない戦い方ができる時代になっているので、逆に日本は今から面白くなってくると思います。

海外進出のハードルは「言語習得」ではなく「異文化理解」

大久保:今後、海外進出を狙う起業家が注意すべきことがあれば教えてください。

吉田:あと5〜10年もすれば自動翻訳機能がさらに発達するので、語学を習得する必要性は低くなると思います。

ただし、海外の国の文化を深く理解する努力が必要です。

例えば、台湾ではお昼休みを90分しっかり取るとか、春節の前には会社主催で盛大に忘年会をするとか、相手の面子を潰さないように気をつけるとか、その国ならではの文化や商習慣を理解しなければいけません。

ここさえ注意すれば、日本の起業家にもまだまだ海外で活躍できるチャンスは十分にあると思います。

大久保:最後に起業家にメッセージをお願いします。

吉田:長年右肩上がりだった日本経済が逆回転し始めて10年ほど経ちますが、若い起業家やスタートアップにこそチャンスがある時代になりました。

自分が持つ強みを最大限に活かして、果敢に海外に挑戦してほしいと思います。

海外では日本人というだけでも多くのメリットがあるので、台湾でお待ちしています。

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(取材協力: 株式会社ジーリーメディアグループ 代表取締役 吉田皓一
(編集: 創業手帳編集部)



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