ひとり社長の給料は自由にできる?知っておかないとまずいルールや決め方を解説します
ひとり社長の給料は個人の所得税と会社の法人税のバランスで決めよう
個人事業主がビジネスで得た利益は事業所得となります。
一方、法人化してひとり社長になると会社から役員報酬を受け取るため、給与所得となります。
同じように働いていても、立場によって収入の扱いが変わる点には注意が必要です。
ひとり社長だから自由に役員報酬と決められると考えるのは大きな間違いです。
給料の金額次第では、法人と個人双方のキャッシュフローを悪化させてしまうかもしれません。
そこで、ここではひとり社長の給料の決め方について紹介します。
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この記事の目次
覚えておきたいひとり社長の給料ルール
フリーランスのように、組織に所属せず単独で働く人は数多くいます。ひとり親方やひとり社長といった言葉を聞いたことがあるかもしれません。
ひとり親方やひとり社長は、従業員を雇用することなく常態としてひとりで働いている人を指す言葉です。
個人事業主とひとり社長は同じように聞こえるかもしれませんが、ひとり社長は法人として認められている立場になる点が異なります。
ひとり社長の場合法律上は法人が業務をおこなっていて、事業上の責任は法人にあるとされています。
一方、個人事業主は、事業上の責任は業務をおこなう個人にあります。
ここでは、ひとり社長の給料のルールを紹介します。
実は自由には決められない一人社長の給料
ひとり社長であれば、自分で自由に給料を決められるから高給取りになれると思われるかもしれません。
自分ひとりだけだから給料を欲しい金額で決めたいなどといった考えの人もいるでしょう。
しかし、実際はそのようにはいきません。
ひとり社長が受けとる役員報酬は、会社の利益を調整するために使われないように法人税法や会社法でさまざまなルールが設けられています。
そもそも役員報酬は、株主総会の決議と取締役会の決議を受けて税務署への申請して決めます。
ひとり社長の場合は株主も実質一人のケースが多いので、株主総会決議や取締役会決議を省略してみなし決議で決定することも可能です。
そのため、実質社長本人が決められると思われてしまうのです。しかし、自由な金額で決めてしまうとさまざまな弊害が生じます。
銀行や税務署からチェックされやすい役員報酬
役員報酬は、法人の問題なので、ひとり社長以外にさまざまな利害関係者から注目されています。
例えば、銀行もそのひとつです。銀行が融資をおこなうときには、役員報酬も必ずチェックします。
極端に役員報酬が高くて利益が少ない企業は、融資先としての評価は高くはなりません。また、民間信用調査会社から評価も下がるため、取引先からの信用にも影響します。
特に注意すべきなのは、税務署からの見られ方です。
会社が支払う役員報酬額が不当に高額と判断されてしまえば、損金算入が認められず法人への課税が大きくなる可能性があります。
ただし、役員報酬を低く抑えすぎてしまえば会社に残る利益が大きくなって法人税が大きくなります。
役員報酬は、さまざまな観点から注目されていることを想定し、慎重に決定しなければなりません。
ひとり社長の給料は役員報酬として経費になる
個人事業主からひとり社長になるメリットのひとつが、役員報酬による節税が挙げられます。
個人事業主は、経営者である自分に対して給与を支給して経費にすることはできません。
個人事業主であれば収入から経費を差し引いて残る利益が事業所得となり、所得税が課せられます。
しかし、法人化することで役員報酬として自分に給料を支払うことになります。
すると、法人としては収入から役員報酬などの経費を差し引いた利益に対して法人税が課され、給料を受け取ったひとり社長は給与所得として所得税が課されることになるのです。
ひとり社長の給料を経費にするための条件
ひとり社長に支払う給料は、会社の経費とすることができます。しかし、経費と認められるには、一定の条件を満たす必要があります。
そもそも社長の給料である役員報酬は、税法上では損金不算入となり経費にできません。
しかし、一定の条件を満たすことによって経費として認められます。ひとり社長の給料を経費として計上するための条件を紹介します。
条件①1年間変更できない
役員報酬を経費にするには、給与の額を1年間変更することはできません。役員報酬は、事業年度から3ヵ月以内に決定して株主総会議事録に記載、その後の変更は不可です。
これは、役員報酬による利益操作を防ぐ目的です。
例えば、決算期に大幅に利益が出たから利益を圧縮するために、役員報酬を増やして利益を圧縮することはできないこととなっています。
役員報酬の変更には、定時株主総会の決議が必要なので、役員報酬の額を変更したいと考えても次の定時株主総会の決議を待たなければいけません。
つまり、役員報酬は可能な限り現実的な事業計画を立案して、それに適した額でなければならないのです。
軽率に決定するのではなく、決めた金額を1年間払い続けられるかどうかを考えてみてください。
条件②定期同額給与
役員報酬を経費にするためには、定期同額給与にしなければいけません。
定期同額給与とは、一定の時期に定額で支払う給与です。つまり、一度決めた役員報酬は原則1年間毎月一定額を支払います。
一般的に被雇用者であれば、残業になれば割増賃金になったり、深夜給などが支払われたりします。
しかし、定期同額給与の場合には、長時間労働になったり休日出勤したりしても支払われる金額は変わりません。
逆に、病気やけがで入院した場合であっても給料の額が減額されることもありません。
また、役員報酬は減額については一定の条件を満たしたときに認められることがあります。
具体的には、役員の職務上の地位に変更があった場合や、会社の経営状況が著しく悪化した場合です。
これらの場合であれば臨時改定自由に該当して、役員報酬を減額できるとされています。
条件③事前確定届出給与を税務署に提出する
役員報酬を損金算入する前には、事前確定届出給与の税務署への提出も忘れないようにします。
ひとり社長のケースであってもそうでなくても、法人の費用における役員報酬の金額は少なくありません。
そのため、納税負担を減らすためにも事前確定届出給与の届出は忘れないようにしてください。
ただし、一度でも届出内容と異なる条件で報酬を支給してしまえば、不一致の部分だけでなくその年度の事前確定届出給与分すべて損金不算入となってしまいます。
条件④ストックオプションや役員退職金は経費
ひとり社長が受け取る報酬は定額の給与だけではありません。
例えば、利益に応じて支払われる利益連動給与や、退職時の役員退職金も経費として計上できます。
また、現金の代わりに自社株を支給するストックオプションも経費計上可能です。
その法人の形態や業績予想、将来的なビジョンからどういった形で支給するかを検討してください。
ひとり社長の給料を決める際の個人と法人の視点
ひとり社長の給料は決して自由に決めることができるのではなく、さまざまな視点から考えて決定しなければなりません。
特に注意すべき点が、法人としての視点と社長個人としての視点です。ここでは、どのようにしてひとり社長の役員報酬を決めればいいのかを説明します。
法人視点から見ると税金がが気がかりに
役員報酬を法人の視点から考えると、経費となる役員報酬を決めるには売上がいくらで利益はどれだけ残るのかを考えなければいけません。
つまり、年間事業計画を可能な限り具体的に立てることになります。
業績悪化によって役員報酬の減額が可能であることは前述しました。
しかし、想定外の業績悪化と役員報酬のカットは、金融機関や取引先にとって明るいニュースではありません。
ビジネスに不利な影響を与えないためにも、無理のない金額で役員報酬を決定します。
逆に役員報酬を低く設定しすぎるケースも問題です。
役員報酬が低すぎれば、会社にお金が残りすぎて法人税が高くなってしまいます。
せっかく役員報酬を少なくして業績が上がっているのに納税額が増えてしまうのは納得できない人もいるでしょう。
中には、決算が近くなってから慌てて経費を計上するために車や設備を買い替えたり、高価な備品を購入したりする会社もあります。
急に経費を大きくして利益を圧縮しようとしても難しい場合もあるので、計画的に経費を計上しなければなりません。
個人視点では社会保障も考えて
ひとり社長は、法人を設立したことで大きく立場が変わり、社会保障や給料の扱いも変化しています。
また、ひとり社長になったことで節税目的で給料を増やせば、社会保険や福祉サービスにまで影響するかもしれません。
以下で、社長の個人視点としての給料について解説していきます。
所得税
個人事業主の収入は、事業所得となります。一方でひとり社長は、給料を受け取る立場になるので給与所得です。
所得が増えれば個人に課せられる所得税の税率が上がることには注意が必要です。
所得税は、5%~45%の超過税率で所得が増えることで税率が上がる仕組みが採用されています。
一定額以上になると所得税の税率は法人税の税率以上になります。
つまり、給料として受け取る額を大きくし過ぎれば、法人税として課される税金よりも高い税率が適用されてしまうのです。
社会保険料
さらに収入が増えることによって社会保険料も増えます。
社会保険料は、個人と会社での折半になるため、個人の保険料負担が上がれば会社の負担額も増えてしまいます。
ひとり社長の場合、法人としても個人としても社会保険料を支払うことにため、余計に負担が大きくなってしまうのです。
福祉サービスの利用
福祉サービスには、さまざまな種類があります。
国や自治体から手当を受給している場合には、支給対象外になる所得のラインを確認してください。
収入が増えたとしてもこども手当や児童扶養手当が支給対象外になると、個人としての手元に残るお金が少なくなってしまうことがあります。
公的サービスの多くは前年の税金額と関係しています。
税金が増えた結果として、想定以上に手元に残るお金が少なくなってしまうこともあるので注意してください。
広い視点でひとり社長の給料を考えよう
法人設立時には、多くの事項を決定する必要があり、ひとり社長の報酬もそのひとつです。
多忙がゆえにひとり社長の給料について深く考える時間が取れないかもしれません。
ここでは、ひとり社長の給料を決めるためのポイントを紹介しています。
①会社の収益見通しから考える
ひとり社長の給料をを決める際に、まず指標となるのが会社の収益見通しです。
役員報酬額は、その金額で会社の利益が逼迫することがない金額を予想して決定する方法がよく用いられます。
ただし、創業間もない企業の場合には売上や業績の見通しが立ちにくく、いくらの役員報酬が妥当か判断できないかもしれません。
収益が伸びると確信が持てないからとあまりに少ない役員報酬を設定するのも考えものです。
あまりに自分が受け取る報酬が少ないと、仕事のモチベーションも上がらないでしょう。これだけ頑張っているのにと仕事にやる気がわかなくなってしまうかもしれません。
②同業他社を参考にする
創業して間もなくで役員報酬を決める基準がない時には、同業他社を参考にしてください。
同業種や同規模の他社の給料を基準として役員報酬を決める方法です。
同業他社と比較して、あまりに役員報酬が多い場合には会社の利益を圧迫する原因になっている可能性があります。
また、外部関係者からも過大な役員報酬であると評価されてしまうかもしれません。
もちろん、同業他社の給料なんてわからないという人もいるでしょう。国税庁では、民間給与実態統計調査を公開しています。
民間給与実態調査では、業種や事業所の従業員別の給料が示されています。これから人を雇用する場合にも役に立つ調査なので、ぜひ参考にしてください。
③ひとり社長が生活するために必要なお金から考える
ひとり社長だと事業目線で給料を決定してしまいがちです。
しかし、ひとり社長も毎日を過ごして、社会保険や税金を支払うための生活費を賄えるかどうかを考えなければいけません。
創立間もない法人であっても、ひとり社長は社会保険の加入が義務付けられます。
社会保険は、報酬月額ごとに健康保険料や厚生年金保険料が決まる仕組みです。
等級が上がればその分保険料が上がるため、労使折半となる会社の負担も大きくなります。
会社に残る利益と個人の手元に残るお金が最大になるように実際に計算してシミュレーションしてください。
役員報酬は給与所得控除が受けられるものの所得税は所得が増えるほど税率がアップします。
個人として課税されるよりも法人に利益を残して法人税を課された方が税制面で有利になる場合があるのです。
そのため、社会保険と税金の両方から計算して最適な金額を導き出すようにします。
日常的な生活費自体が多額で資金不足になってしまうケースも起こらないとは言えません。
会社からお金を借り入れると決算書上は役員貸付金として計上されます。役員貸付金が計上された決算書は金融機関や取引先からの信頼も損ねてしまいます。
生活費を会社から用立てなくても済むように、社会保険や税金、生活費を適正に準備するようにしてください。
まとめ
個人事業主が法人化すると、ひとり社長になって役員報酬を支払えるようになります。役員報酬による節税は、法人化するメリットのひとつです。
しかし、役員報酬の額を考え無しに決めてしまうと、想定よりも手元に残る資金が少なくなり、資金繰りが悪化してしまう可能性があります。
そのため、多角的な視点で役員報酬の額を検討してください。
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創業手帳・代表 大久保の解説
(編集:創業手帳編集部)
多くの起業家の支援をしてきましたが、知らなかったあるあるなのが定期同額。自分で会社を作る場合、1年間は役員報酬を変更できません。
バリバリ稼いで、すぐ給料を上げるぜ!もしくは調子が悪いので役員報酬を引き下げる、ということはできない(無理やりできなくはないですが、税金上のデメリットが大きすぎるので通常やりません)のでご注意下さい。頑張ったらボーナスで!というのも難しいので注意して下さい。
もしも、会社のキャッシュが少ないので社長の給料を下げることになった場合は、役員報酬の引き下げではなく、会社への個人貸付にするケースが多いです。
社長と会社のお金の貸し借りは現実的にはあることですが、財務のきれいさ・公私混同という面で、融資を受ける際に金融機関や税務署からの見られ方が良くないので、これもなるべく避けたほうが良いです。
また定期同額については、例えば経費で計上していた支出が個人的な支出と税務署でみなされて否認されてしまった場合、ダメージが大きいです。公私混同は避けた方が良いことがわかりますね。
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