DROBE 山敷 守|MBO発のスタートアップ!優位性とその裏の葛藤とは?

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年07月に行われた取材時点のものです。

世の中にインパクトを!パーソナルスタイリングサービスの先駆け「DROBE」

「パーソナルスタイリング」は、自分に合ったファッションアイテムをスタイリストがセレクトしてくれるサービス。「一般人にスタイリストが?」と驚いてしまいますよね。

「DROBE(ドローブ)」のパーソナルスタイリングサービスでは、予算や好みのテイスト、体型などを登録するだけで、約200以上のブランド、40万種類以上の洋服の中から、プロのスタイリストが選んだ一人ひとりに合ったアイテムが自宅に届きます。家で試着して気に入ったものだけを購入、それ以外は送料無料で返品することができるのです。

パーソナルスタイリングサービスは、サブスクリプション型も登場し、今まさに急成長中の領域。なかでもDROBEは、2019年にサービスをローンチした先駆け的な存在です。

株式会社DROBEで代表取締役CEOを務める山敷守さんは、学生起業を経てIT企業、外資系のコンサル会社で経験を積み、企業傘下から事業部門を買収して独立するMBO(マネジメントバイアウト)をしました。

今回は山敷さんに、キャリアのスタートから大企業での会社員時代、MBOを経ての独立の経緯に加え、コロナ禍での舵取りや社内カルチャーの醸成について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

山敷 守(やましき まもる)
株式会社DROBE 代表取締役CEO 
東京大学在学中、学生向けSNS「LinNo」を立ち上げる。2010年、新卒でディー・エヌ・エー(DeNA)に入社。ヤフーとの事業提携などを成功させた後、無料通話アプリ「comm」の立ち上げプロジェクトの責任者に。2016年にBCG Digital Venturesの日本拠点の立ち上げフェーズから参画し、様々な大手企業との新規事業開発に取り組む。2019年4月DROBEを設立し代表に就任。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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学生起業からMBOスタートアップまでの道のり

大久保:DROBEは、社内事業からMBOを経て立ち上げられたのですね。事業立ち上げや起業のマインドはどこで育んだのでしょうか。

山敷:学生起業の経験に依るところが大きいと思います。東京大学に在籍中、起業サークルに入って、IT企業へインターンに行きました。2006年当時は学生起業なんてあまり一般的ではなかったのですが、アルバイトではなく自分でプロジェクトビジネスをするという選択肢に興味をもったのがきっかけです。

インターン先が設立する子会社の役員という形で起業に携わりました。Facebookのような、オープンプラットフォームの大学SNSを運営する会社で、設立当初は順調に伸びていたのですが、2年目で調子が落ちて終了しました。しかし、自身でサービスを起こすことで世の中にインパクトを与える道があることを強く意識するようになりました。

大久保卒業後はDeNAに入社、その後外資系のボストンコンサルティンググループ(BCG Japan)へ転職されたんですね。起業という道を選ばず、就職を選ばれたのは何か目的があったのでしょうか。

山敷:学生起業でのいわゆるベンチャー的な経験は、なにかと苦しいことも多かったのです。1人で総務、経理、人事などを管理し、加えてマーケティングの実務。学生起業なのでビジネスにさける時間が少ないうえ、資金調達もうまくないので、人材獲得など様々な場面で大企業に競り負けます。そこで卒業後は、大企業の基盤の中で事業立ち上げに関わりたいと考えました。

若いうちから事業を任せてくれそうという理由で、DeNAに入社しました。学生時代の事業経験とIT知識のおかげで、いわゆる「下駄をはいている」状態だったこともあり、ここでの4年間は非常にチャレンジングに多くの新規事業に携わらせてもらいました。その中で感じたのは、スマートフォンというデバイスが普及しきった今は、インターネットオンリーの事業ではなく、リアルな産業とデジタルを絡めた事業に伸びしろがあるということです。

そこで、外資系コンサルのBCG Japanに移り、コンサルティングだけでなく、スケール感のあるデジタル事業の立ち上げを日本を代表する企業と一緒に行う「デジタルベンチャーズ」という部隊の創設を主導しました。

大久保:そちらで三越伊勢丹と一緒に立ち上げた事業がDROBEですね。

山敷:はい。パーソナルスタイリングサービスはニーズがあるうえにビジネスとしてもチャンスが大きいと見て、三越伊勢丹の子会社として立ち上げました。2019年の立ち上げの際は、私は株式をもたない雇われ社長の立場でした。2021年の資金調達のタイミングでMBOをしてようやくスタートアップになったという、ちょっと特殊な生い立ちの会社です。

大久保:MBOで独立する流れがうまくいった理由はなんだとお思いですか。

山敷:終始、社内事業であるという点を大切にして、物事を運んだ点です。三越伊勢丹とBCG Japanから約2年分の運転資金を入れて創業していますから、この後も三越伊勢丹として伸ばしていきたいと考えてくれるのであれば、資金を入れて傘下で運営し続けていくこともできます、と明言していました。独立したい気持ちはもちろんゼロではありませんでしたが、事業が伸びるのであれば子会社でもいいと割り切って考えていました。私は起業家より事業家に近いようで、そこがいい風に働いたかもしれません。

また現実的な話をすると、MBOで独立する際に経営陣として私たちも自身のお金を出資しています。個人として少なからぬ重みを持つ金額で、責任とコミットを表した形です。

大久保:ゼロからの起業と大企業からのカーブアウトでのスタートアップの違いはどのような点があるでしょうか。

山敷:学生起業は経験値にはなりましたがいかんせん失敗しているので、自分の中で方法論としてはゼロリセットし、DeNAとBCG Japanでの経験をベースに動いていました。その点で立ち上げに関しても、例えばコスト面などで大企業的な発想で進めてしまったところがあったなと反省しています。

例えばオフィスコストひとつとっても、単価などを調査し、ベンチマークをとっての最適解で設計したのですが、結果的にはややファットでした。方法として間違っていないんですけども、スタートアップとして正解ではなかった「いや、これ高くないか?」と感じるきめ細かなコスト感覚といった辺りの修正は必要だと思います。

大企業とスタートアップの両方を経験して

大久保:ゼロからのスタートアップは周囲からの期待が少ないぶん、自由度が高くスピード感が出ますが、大企業傘下ともなるとそうもいかないといったことはありますか。

山敷:非常にあります。 DeNAなら当時は「モバゲー」、三越伊勢丹なら百貨店という主力事業があり、新規事業は本体事業への影響を考えないといけません

例えばモバゲーだと、当時はサービス内でのコミュニケーションに対して人力で監視の目を光らせ、警察を含め省庁と緊密に連携するなど、全社をあげて健全なサービスとなるよう努力していました。例えばライブ配信の新規事業を興したとして、そこでショッキングな配信をするユーザーが出てしまうなどしたら、本体事業の努力に泥を塗ることになってしまいます。

そういう意味でやりづらい部分はあります。だからこそ裏を返すと、DROBEは子会社でありながら「三越伊勢丹スタイリング」などといった名前にはしなかった。本体事業のブランドを使いたいという誘惑もあるのですが「そこはやめよう」

大久保:なるほど。大企業の出資を受けたりコラボしたりする新規事業では、まさに陥りそうな甘い罠ですね。いい知見をありがとうございます。

社内カルチャーの醸成に取り組む

大久保:独立してから、困りごとやつまずきはありましたか。

山敷:子会社からのスタートなので、スタートアップとして自社のカルチャーを作るという点で意識が弱かったように思います。創業後の1~2年は「ボーナスタイム」。優秀な人材が集まりやすいうえ、創業期にだけ構築できるカルチャーがあるのです。弊社は、事業やビジネスモデル、サービス、プロダクトへの意識は強かったのですが、組織に関しては正直手が回っていなかった。創業からの2~3年で、経営陣以外の正社員の少なくない数が、静かに辞めてしまっていたのです。

大久保:組織のテコ入れはどのような取り組みをされたのですか。

山敷:私の肝いりで「カルチャー推進プロジェクト」を立ち上げました。弊社は基本的にリモートワークなので、ミーティングなどでも同部署の人としか顔を合わせず、他部署の仕事はよく知らない状況でした。「モチベーションは個人で作るもの」といったムードもあり、飲み会などもほぼなかったのです。しかし、横の人間関係がないと「会社が資金調達しました!」といった大ニュースに接しても、他人事のようになってしまいます。ですから、会社全体に関してのスタッフの表面積を増やし、会社への関心とリンクさせようと意識しました

具体的には、部活動を立ち上げたり、新入社員への歓迎会の補助を出したり、自己開示の時間を作ったりと、割とベタな活動をしています。なにかと理由をつけて以前より少しウェットに、社員の人となりをお互いに知る取り組みを行っているところです。

思うにこういった取り組みは、創業当初だとうまくいかなかったかもしれません。ただ、創業期からいたメンバーが抜けていくことに対する課題感は、みんな少なからずもっていたので、自社カルチャーを作り直そうという呼びかけが響いたようです。おかげ様で、今はだいぶ持ち直した感覚があります。

大久保:2019年に独立され、翌年にコロナ禍に突入しました。影響はありましたか。

山敷:最初は追い風になるかのように見えました。店舗が休業しユーザーがECに流れたことで、2020年の2月3月は、瞬間風速的に単月で約2倍に売上が伸びたのです。しかし今は、向かい風の始まりだったという風に捉えています

DROBEは、ハイブランドでもなく街の洋品店でもない、ミドルプライスのファッションを楽しむ人をターゲットにしたサービスです。コロナ禍をきっかけに、このゾーンのニーズがぐっと弱くなりました。さらに細かい話ですが、加速度的に行われるiOSなどの仕様変更にも振り回されました。toCのビジネスは、SNSなどに掲載している広告が期待した動きをしなくなると、大きく影響が出ます。

この頃は売上が落ちたとしても、要因がiOSのアップデートなのか、コロナ禍による需要の減退なのか、それとも我々の努力不足なのか判断しかねました「何と戦っているかよくわからない」感じで、1年間くらいはもやっとした気持ちでしたね。

大久保:日本中が大混乱していましたからね。

山敷:そうですね。それに大企業にいる時は、理由を調べて説明すれば役目は終わりといった側面がありますが、独立して事業をしていると「理由やそれが正しいかどうかは問題ではなく、この後のアクションが正しいかどうか」というアクションベースで事態が迫ってきます。

でも「理由を整理して納得したい」気持ちは今でもあります。そういった点では、良くも悪くも大企業的な動きから抜け出せていないのかな、ぬるいのかな、と思う面もあります。理由の分析には、人件費も時間もコストがかかります。そのコストをかけるべき時なのか否か、見極めの精度を上げたいですね。

新プラットフォームで世の中にインパクトを

大久保:今後の展望をお聞かせ下さい。

山敷:DROBEは月商1億円を大きく超える規模になり、一定の影響がある企業として認められるようになってきました。ただ、ファッション業界全体ではまだまだ小さな存在なので、認知度・魅力ともにしっかり伸ばしていきたいですね。それに加えて、パーソナルスタイリングサービス自体のカテゴリ認知がまだ発展途上なので、そこを作っていきたいと思っています。

パーソナルスタイリングサービスは、ファッションの新しい選択肢になりうると感じています。いっぽうで、各ブランドの自社ECサイトも急激に成長しています。しかし、各ブランドがスタイリングサービスに取り組もうとすると、今はベンダーに依頼してゼロからオーダーメイドで開発する必要があります。

ですから今、弊社はBtoBtoCの新しい事業体を立ち上げています。ブランドがパーソナルスタイリングサービスを提供したいと思った時に利用できる、ECでいうとShopifyのようなプラットフォームです。パーソナルスタイリングサービス特有のシステムを構築し、弊社のノウハウを入れることで、ワンストップのサービスを提供するのが目標です。具体的に今いくつかの企業・ブランドと取り組みを始めています。

パーソナルスタイリングサービスの領域において、過去にユナイテッドアローズがECモールに出店した時のようなインパクトが、このシステムで出せるかなと思っています。協業事業モデルを着実に広げていきたいと思っています。

大久保:起業家をはじめ、読者にむけてメッセージをお願いします。

山敷:現・岸田政権の推進もあり、今の日本は創業には良い環境だと思います。私自身スタートアップとしては「途上オブ途上」ですが、自分の手で社会を変え、インパクトを与えられるかもしれないうえに、リスペクトしてもらえる仕事であることは、たまらない魅力だと感じています。ポジティブに起業に踏み出すきっかけになるといいなと思います。

起業を支援する冊子「創業手帳」では、多くの起業家のインタビューを掲載しています。起業経験者による体験談をご覧いただき、ぜひ今後にお役立てください。
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(取材協力: 株式会社DROBE 代表取締役CEO 山敷 守
(編集: 創業手帳編集部)



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