ReStart 木村 悠|商社マンボクサーを経て起業!ダイエット業界の常識を覆す「白米ダイエット」
アスリートのセカンドキャリアの枠を広げていきたい
「商社マン」と「プロボクサー」を両立させながら、WBC世界ライトフライ級チャンピオンになった人がいる、と聞いたら普通の人は驚くのではないでしょうか。
そんな偉業を2015年に32才で成し遂げたのが木村さんです。その後防衛戦で惜しくも敗れ、引退した後に起業するという道を選び、講演業やダイエットサポートプログラムの運営に取り組んでいます。
創業手帳代表の大久保が、商社マンとプロボクサーの両立や起業に至る経緯などについてお聞きしました。
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株式会社ReStart 代表取締役
千葉県千葉市出身。習志野高校でボクシングを始め、法政大学時代に日本一になる。 大学卒業後、数多く世界チャンピオンを輩出している帝拳ジムでプロデビュー。その後、挫折をきっかけに商社に勤めながらのボクシング生活をスタートさせる。
仕事とボクシングを両立しながらの二刀流で世界チャンピオンになった異色のボクサー。NHKにて3度特集が組まれ商社マンボクサーとして注目を集める。
2016年に現役引退を表明。引退後の2020年に起業し株式会社ReStartの代表取締役に。解説やコラム執筆、講演活動や社員研修、企業顧問、ダイエットサポートプログラムの運営など、多方面で自身の経験を活かし活動中。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。
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「商社マンボクサー」が生まれるまで
大久保:世界チャンピオンになるのは相当難易度が高いと思いますが、そもそもボクサーになろうとしたきっかけはなんだったのですか。
木村:もともとはずっとサッカーをやっていて、Jリーガーが夢だったんです。ところが中学校で部活のキャプテンをやっていたときに学校が荒れていて、練習に出てこない部員を注意したら、殴りかかってこられてボコボコにされてしまったということがありました。
非常に悔しく、情けない自分を変えたい、もっと強くなりたいと思い、スポーツジムのボクササイズのようなものに行ったのが最初ですね。
高校はボクシング部があるところを探して、習志野高校に進みました。
大久保:ボクシングは運動神経が必要とされる競技だと思うんですが、もともと運動神経はよかったのですか。
木村:それが、実はボクシングってそこまで運動神経はいらないと思っているんです。反射神経がよかったり、スタミナがあったり、パンチが強かったりといった秀でるものがあれば勝つことは可能です。僕も反射神経はいいほうだったので、それが幸いでしたね。
大久保:習志野高校のボクシング部はどのような部だったのですか。
木村:全国優勝している選手もいるような部でとても強かったので、鍛えられました。やはり環境はとても重要ですので、強い選手が周りにいる環境に身を置けてよかったと思っています。今でもどういう環境に身を置くかということは常に意識していて、自分を磨ける環境にいようと努力しています。
その後、体育会だけれどそこまで厳しくなく、自分には合っているなと感じた法政大学でアマチュアボクシングに取り組み、1年生のときに全日本選手権で優勝しました。
大学卒業後、プロに転向し、大学在学中にスパーリングなどで出入りさせてもらっていた帝拳ジムに入門しました。
大久保:プロの試合ってすごく緊張しそうですよね。サラリーマンになるきっかけはなんだったのですか?
木村:プロになってから最初の5戦は勝つことができましたが、その後の6戦目で負けてしまったんです。周囲から引退勧告をされたりもして辛い思いもしましたが、せっかくプロになったのだからもう少し続けようと思いました。
たまたまそのときに、大学時代の友人と食事をする機会があり、社会人として活躍している彼らを見て自分も社会人として働くことで何か得られるものがあるのではないかと考えたのが、サラリーマンとして働こうと思ったきっかけです。
大久保:商社で働かれたと聞いています。サラリーマンになってよかったことはありましたか。
木村:専門商社で正社員として働きました。生活が安定したことももちろんですが、人間的な成長を手に入れられたと思っています。ボクシングを通してさまざまな人を見てきましたが、チャンピオンになる人はやはり人間的に完成された方が多いと感じていました。自分もそういう方に近づくために、変わりたいと思ったのです。
朝は6時半に起きてトレーニングをしてから9時17時で働いて、その後ジムで20時半までトレーニングをするという毎日でした。
ボクシングをやっていたことが仕事にも活きていましたし、その逆もそうでした。「技術営業職」と呼ばれる仕事を担当し、部材の仕入れ先の工場と部材を販売する得意先との間に入って、納期の調整などをしていましたが、それに習ってそれまで感覚で行っていた減量スケジュールやトレーニングスケジュールを数値化・分析し、PDCAを回すということを始めると、非常にうまくいきました。
世界チャンピオンを経て起業へ
大久保:世界チャンピオンになったときも商社で働かれていたのですか。
木村:そうです。二刀流だったことが僕にはプラスに働いたと思います。日本チャンピオンになるまでに8年ぐらいかかっているんです。そこから世界チャンピオンを取るまでは1年半ぐらい。相手はメキシコのペドロ・ゲバラでとても強い選手だったので、世界チャンピオンになれたときは不思議な話ですが自分が一番びっくりしましたね。
大久保:試合の最中はどのようなことを考えているのですか。
木村:考えて動くと間に合わないので何も考えていないんです。無意識に体が動くようになるまでトレーニングしています。ボクシングの動きをまずゆっくりと体に覚え込ませ、そこからだんだんと速くしていきます。体に動きを染みこませるようなイメージです。
大久保:目標があって達成する際は、焦らずに正しい形を覚えてからスピードアップする、意識的から無意識的にもっていくことを意識するとよさそうですね。
木村:例えばパンチの打ち方も、肩から打つのと手で打つのとは全然違います。細かいところを徹底的に反復していく感じですね。
ボクシングという競技は自分のペースに持ちこめたら勝ちなので、自分のボクシングができるように戦略を組み立てるのが大事です。例えば仕事の交渉においても、相手のペースに引き込まれると負けがちだと思います。自分のペースに引き込むようにという意識が大切です。
当初はプロになってから2〜3年で日本チャンピオンになるという青写真を描いていましたが、現実はそうはいかなかったので、やはり計画をたててPDCAを回すのが大事ですね。
大久保:才能がありながらもうまくいかず、チャンピオンになれないボクサーも多くいますよね。その差はどこにあるとお考えですか。
木村:ボクシングというのは、個人競技のようでありながら団体戦のような要素もあります。
リングに立つときに、ジムや家族、応援してくれる人々が調和している状態ではないと試合に影響してしまうので、そういった面を整える能力も重要だと思っています。
仕事もそうですけど、少しでも気になることが頭の中にあるとパフォーマンスに影響するので、そういうことをなくしていくということですね。
大久保:関係をよくするコツは?
木村:やはり相手の立場に立つということが大事だと思っています。人間関係のすべてに言えることですが、自分の思い通りに動こうとするのではなく、相手の気持ちを想像して、臨機応変に行動する能力が大事だと思います。
大久保:なるほど。その後、判定負けでそのまま引退されるわけですが、引退時はどのような思いでしたか。
木村:世界チャンピオンという自分の目標を達成できたので、もうやり残すことはないかなと思いました。
大久保:起業した理由をお聞かせください。
木村:そのまま勤めていた商社でしばらく働き、その後ベンチャーに転職したりもしたのですが、自分でなにかやりたい、チャレンジしたいという気持ちが出てきて、2020年にサラリーマンを卒業して起業しました。
糖質オフダイエットとは真逆の「白米ダイエット」
大久保:講演などの事業のほかに、ダイエットのサポート事業もやられているんですよね。
木村:そうなんです。僕自身が減量に苦労していまして、ダイエットはずっとやってきたことでもあります。
試合でいいパフォーマンスを出せず、負けていたときに栄養士さんを紹介してもらい、食事を見ていただきました。
それまでの僕は「お米は太る」と思いあまり食べていなかったのですが、お米の量が少ないので2〜3倍食べましょうというアドバイスに従って食べる内容を変えました。すると試合で連戦連勝してチャンピオンにもなれたんです。
自分の体験から、「お米は太る」と思っている人々にそうじゃないということを広めたいという気持ちでやっています。
大久保:アスリートの場合は単純に痩せればいいわけではなく、パフォーマンスも出さないといけないので難しいですよね。糖質は太るというのが最近のダイエットの主流でした。どのような食事を取るといいのですか。
木村:人にもよりますが、お米が6割、おかず4割で具沢山のお味噌汁をプラスするといった食事をおすすめしています。お米中心にすると、消化がいいので胃腸の動きがよくなります。消化できないものがあるとそれが胃腸疲労につながり、太ってしまうのです。
糖質を抜いたり量が足りなかったりすると、甘いものやお酒を欲するので、基本的にはお米をちゃんと食べるべきです。
大久保:体に無理をしない、負担がかからない食生活にしていくということなんですね。
木村:日本人はお米で育ってきているので、そういう体質になっているというのもあります。
食事指導に加えて運動指導もあり、オンライン・マンツーマンでボクシングをすることができます。ジムなどに行って他の人に体を見られるのが恥ずかしいという方、忙しい方に特に好評ですね。また生活習慣を整えていくことも大事です。やり方を学んで実践して自分でできるようにというサポートプログラムです。
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食べながら痩せる白米ダイエット
やはりダイエットの優先順位が高い人、主体的に自分のやり方を見つけられる人は成功しやすいですね。
大久保:起業してからどのように事業を広げていったのですか。
木村:最初は個人事業主で2〜3年やっていまして、講演活動やイベントに出演したり、企業や自治体で話すのがメインでした。
その後売上げが上がってきたことと、個人とは契約しないという企業もあることなどから法人の形態にしました。
取引先に関しても、最初は知り合いがメインで「こんな事業を初めたので新人研修をやらせてください」などと声をかけさせていただきました。そこから徐々に人に会う機会を増やしていき、経営者が集まる会や飲み会などに参加して人脈を広げていきました。
大久保:木村さんは起業時に創業手帳を読んでいただいたんですよね。
木村:はい。起業して、何をしたらいいかわからなかったときに創業手帳を読んで、どんなステップで何をしたらいいかが全部書かれていて本当に助かりました。
大久保:ありがとうございます。最後に読者にメッセージをいただけますか。
木村:「失敗したらどうしよう」とか「怖い」という理由で起業に迷っている人は多いと思います。
でも、起業すれば自分の好きなことができてお客さんに喜んでもらえますし、自由が手に入るので、やろうと思ったらチャレンジしたほうがいいと伝えたいですね。
アスリートとして、アスリートのセカンドキャリアの枠を広げていきたいという気持ちで事業をやっています。現役を退くとジムや自分の競技だけに関わる人が多いですが、僕は起業をしてさまざまな人に出会えたり、わくわくする日々を過ごせているので、そういう人が増えて欲しいですし、そのために起業して活躍するという道を作っていきたいと思っています。
大久保の視点
創業手帳冊子版は毎月アップデートしており、起業家や経営者の方に今知っておいてほしい最新の情報をお届けしています。無料でお取り寄せ可能となっています。
(取材協力:
株式会社ReStart 代表取締役 木村 悠)
(編集: 創業手帳編集部)
木村悠さんはバランスの達人だ。
サラリーマンをやりながら世界をつかんだ稀有な王者だ。
今「副業」「二刀流」が流行っているが、サラリーマンをやりながら世界一になるというのは夢のある話だが、実際はそこまでやるのは困難で、その努力は並大抵ではない。
しかし「仕事をしながら挑戦したのがむしろ良かった」という。
ボクシングもビジネスも同じPDCAだと木村さんは言う。
また会社や家族、ジムなど周りとの関係が大事だという。
ボクシングは基本的に勝ち抜き戦で負けると容赦なく出世街道から外れてしまう。ジムも無敗で才能のある選手に優先的に良い試合を組む。
しかし木村さんはボクシングのキャリアの初期で負けてしまいジムから将来性がないと見放されて2年試合を組んでもらえず干されていた。
そんな中でもコツコツ修正をかさね、メキシコ人の世界王者ペドロゲバラに勝って世界王者をつかんだ。面白いことに勝った相手のゲバラも弁護士資格を持っており弁護士対商社マンの対決ともなった。
ボクシングは一見ただの殴り合いに見え、体力も重要な要素だが、同時に高度な心理戦・頭脳戦が展開されている。一流になるには頭脳も必要ということなのだろう。
引退後、ベンチャー勤務後に起業したが、木村さんも創業手帳を読んで頂き開業時にお会いした。こうした読者だった方の開業、チャレンジを応援し、しばらくして成功して取材をさせていただくということが増えてきた。創業手帳をやっていて良かったと思える瞬間だ。
木村さんが秀逸なのは、ボクシング世界王者のダイエットという強力な武器もそうだが、「白米を食べるダイエット」という常識の逆を打ち出したことだ。
ライザップなど低糖質ダイエットが流行っている。低糖質ダイエットはアトキンスダイエットともいい肉や野菜を好きに食べても良いが、パンやお菓子など糖質だけ制限するダイエット法だ。アメリカのロバートアトキンス博士が提唱して世界に広がった。
日本人に比べて肥満が圧倒的に多く、食事の量も大盛りでセーブするのが難しく、昔から肉食に馴染んだ米国人にはタンパク質や脂肪は良しとして、糖分だけでもカットする事でやせる低糖質ダイエットはわりと現実的な方法と言えるだろう。それを日本に持ってきてCMなどで普及させたのがライザップだ。
一方で、木村さんは全く逆のアプローチを取っている。
糖質を適度に取り日本人特有の食事のバランスを維持する方法だ。
日本人の食生活や習慣に合った無理のないダイエット方法を提唱している。
流行りの逆でニーズを掴んだところがさすがだ。
アスリートで王者になったり有名になったりすると普通の生活に馴染めず生活が崩れてしまう人もいて、アスリートのセカンドキャリアはスポーツ業界では課題になっている。
サラリーマンをやりながらPDCAで世界王者になり、引退後も常識の逆を行く戦略の木村さんはアスリートの引退後のロールモデルになるかもしれない。