企業ですべき防災対策とは?企業防災のポイントをまとめました
企業の防災対策は『ヒト』の準備と『モノ』の準備を欠かさない
災害が多い日本において、防災対策は欠かすことができません。
災害時の被害を最小限にするため、また事業を継続させるためにも、普段から防災対策を講じる必要があります。
備蓄品や防災マニュアルといった『モノ』を準備するとともに、啓発活動や研修、避難訓練といった活動で『ヒト』が防災の心構えを持つことが重要です。
災害時にパニックにならないためにも、平時から防災対策の活動を実施しておくようにしてください。
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企業の防災対策が重要性を増す
多くの企業では、何らかの防災対策を講じているはずです。
日本は地震大国でもあり、特に2011年の東日本大震災では甚大な被害が発生しました。さらに、台風の接近や異常気象といった危機は各地に大きな爪痕を遺しています。
そのような環境の中、各家庭や個人だけでなく、企業においても防災対策の重要性が叫ばれるようになっています。企業の防災対策について紹介します。
企業防災の基礎知識
企業が行う「企業防災」は、災害時に企業が行う取組みを指します。
企業防災のアプローチは、人的、物的被害を最小にする防災の観点と、災害に遭っても企業活動を続ける事業継続の観点が必要です。
どちらかの観点が欠けてしまえば企業防災として不十分になってしまいます。
どうして企業が防災対策をしなければいけないのか
企業には、災害発生時に人命が危険にさらされた際、従業員や顧客の生命の安全を最優先にしなければならない責任があります。
しかし、防災であれば、各個人でそれぞれが対策すれば良いといった考え方もあります。
どうして企業に防災対策が求められるのでしょうか。
企業の法的責任
企業が従業員や顧客の安全を確保しなければならないといった責任は、道義的なものにとどまりません。
法律で明確な規定はなくとも、最高裁判所の判例では企業の安全配慮義務が認められています。
2015年には、東日本大震災の津波で犠牲になった自動車教習所の安全配慮義務違反があったと認定されました。
これは、消防による広報を軽視したり無視したりすることなく、速やかに避難させる義務に違反したと判断したものです。
企業はどのように情報を集めて従業員や顧客に発信するのか、どのように誘導すれば安全なのか、日ごろから備えておくことが求められます。
条例で災害対策が求められることも
多くの企業を抱える地方自治体では、条例を定めて企業に災害対策を求めている場合もあります。
例えば、東京都では帰宅困難者対策条例で災害時に従業員が帰れなくなった場合の対策を定めました。
帰宅困難者対策条例は、東日本大震災の被害を省みて施行された東京都条例です。
従業員1人に対し3日分として、水9リットルと食糧9食、毛布1枚の備蓄が求められています。
帰宅困難者対策条例は努力義務ではありますが、多くの企業でそれに準じた防災備蓄の整備を行っています。
事業継続困難のリスク対策
自然災害は、企業の事業継続にも大きく影響します。東日本大震災のでは、地震や津波、原発事故から多くの中小企業が事業継続困難になりました。
もし自社が直接被害に遭っていなくても、取引先やサプライチェーンが被害で事業継続できなくなれば、自社の事業継続も難しくなります。
災害の後に早期に事業の回復を図る、企業として存続し続けるためにも防災対策に取り組まなければいけません。
自然災害が増加傾向
中小企業庁が発表した2021年版小規模事業白書によると、近年発生した災害に対する各種損害保険の補償金額は増大傾向にあります。
しかし、自然災害への対応状況を企業規模ごとに見ると、大企業の約5割が「十分に対応を進めている」、「ある程度対応を進めている」と回答したのに対し、中小企業は約3割にとどまりました。
さらに、事業を復旧させるための「事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)」については、大企業の4割が「策定している」または「現在、策定中」と回答しているのに対して、中小企業は約2割に留まりました。
自然災害だけでなく感染症のまん延といったリスクが増える中、中小企業の対策の遅れが目立つと指摘されています。
企業の防災対策アプローチ
企業防災には、防災対策と事業継続のアプローチがあります。ここでは、具体的にどのような対策があるのか紹介します。
災害対策の観点からの防災対策
防災対策のアプローチとして、まず初めにどのような災害があるのかを想定し、それに対応できる準備や対策を講じるようにします。
具体的に、以下でまとめました。
防災マニュアルの作成
まずは従業員や顧客がどのような災害に遭う可能性があるかを想定し、必要な災害対策を立案してマニュアル化します。
マニュアル作成時には、いざ災害が発生した時にどのような対応をするのか明確に定めます。
災害時の組織体制のほか、情報収集や提供の手段、緊急連絡網も防災マニュアルに含めてください。
各地方自治体でも防災マニュアルや、防災マニュアルを作成するための手引きを紹介しているため参考にできます。
災害備蓄品の用意
業務中に災害が発生し、公共交通機関が遮断すれば、帰宅困難者が発生する可能性があります。
帰宅困難者が出ると想定して、必要な食料や医薬品などの備蓄の準備が必要です。備蓄品は、必ず従業員と顧客の人数を考えてその分を用意します。
また、備蓄品は定期的に場所や中身を確認して従業員に周知します。必要なタイミングですぐに使えるようにしてください。
防災訓練
防災訓練では、様々な災害に対応した訓練が必要です。
例えば、地震や火災発生時の避難誘導訓練や初期消火訓練が挙げられます。
さらに、AEDの使い方指導や心肺蘇生法を学ぶ応急救護訓練、負傷者の救出や搬送の手順をシミュレーションする救助訓練があります。
顧客を誘導するようなケースでは、避難経路や誘導方法の確認も行ってください。
防災訓練は実施したら必ず結果を振り返り、必要に応じて防災マニュアルを改善します。
事業継続の観点からの防災対策
事業継続の観点からの対策として、事業にダメージを与えるような重大な被害を想定して継続すべき重要な業務を選別しなければなりません。
抽出された中核業務に必要な資源と、業務復旧の際に制約となるような要素を洗い出して対処してください。
事業継続計画(Business Continuity Plan)の策定
事業継続に必要な計画を策定します。
事業継続計画(BCP)とは、災害やトラブルといった緊急事態が発生した時に、中核事業を継続、復旧するための計画や対策を意味しています。
事業継続計画を策定するためには、災害が発生したとしても継続すべき中核業務の選定とその付随業務まで洗い出してください。
また、復旧までにかかる目安時間を定めて早急な回復を目指します。
緊急時の経営に関する意思決定のルール化も必要です。上記を踏まえて誰がどこで、何をどこまで、どのように実施するかの「事業継続計画(BCP)」を作成します。
作成した事業継続計画は、従業員に周知・徹底してください。
安否確認システムの導入
従業員の安否を確認できるような体制も求められます。
もし事業継続計画を用意していても、人手がなければ事業継続のための活動も不可能。安否確認は最優先と考えてください。
ただし、災害時にメールや電話での安否確認は大変です。
そのため、安否確認システムを導入するとともに、災害時を想定した訓練も行っておく必要があります。
また、スマートフォンのアプリなどを活用したグループチャットも安否確認に活用可能なツールです。この機会に社内の連絡ツールを見直してみてください。
バックアップシステムの構築
企業には重要なデータが数多く存在します。
そのようなデータが失われないようにバックアップを用意、重点業務を代替できるようなシステムも整備しておく必要があります。
例えば、データやシステムをコピーして遠隔地で保管する方法がクラウドサービスの活用です。
同じ地域でバックアップを保管すると、同時に使えなくなってしまうこともあります。
クラウドサービスを活用すれば、場所に関係なくアクセス可能なので復旧作業も進めやすくなります。
在宅勤務環境の整備
災害時には、従業員が通勤できなくなる可能性もあります。
既存のオフィスが使えない場合に備えて、バックアップオフィスを確保しておくという方法があります。
在宅勤務やテレワーク環境の整備は、事業継続ために有効な手段であるとともに、従業員が働きやすい環境を作るためにも有効な手段です。
企業が防災対策を行うときのポイント
企業の防災対策の内容は多岐にわたります。
しかし、防災のための作業等やることばかり増えても、実際に効果があるかどうかはわかりません。企業が防災対策をするときに考えておきたいポイントをまとめました。
防災マニュアルを周知徹底する
防災マニュアルが作成されていても、社員への周知が徹底されていなければ意味がありません。
マニュアルがあっても普段手に取る機会がなければ、内容について従業員は知らないままです。
自社で作成した防災マニュアルは、行動マニュアルとして配布したり、従業員の自宅に保管させたりすることを検討してください。
マニュアル全部を配布することが難しい場合には、初動時に必要な行動を記載したポケットマニュアルやカード型のマニュアルを用意します。
また、防災マニュアルがあったとしても、一般社員と管理職では行動の指針が異なります。それぞれに適した内容のマニュアルを作成し、配布することが必要です。
「人命の安全確保」を最優先
防災対策の中で、何よりも優先されるのが従業員と顧客の安全確保です。経営者や管理職だけでなく、従業員全員が自身の命を守るために行動できるような教育が求められます。
避難訓練というと、自分が避難することしかシミュレーションしないかもしれません。
しかし、けが人が発生した時の応急処置やハンディキャップを持つ人への対応が必要なケースも想定しておきましょう。
二次被害を食い止める
災害時は一時被害だけでなく、二次被害が起こる可能性がある点も確認してください。
地震が発生した時には、火災や火事、土砂崩れや停電も発生する可能性があります。
もしオフィスの近くに河川や海がある場合や海抜が低い場合には、水害も想定したマニュアルの作成が必要です。
また、店舗・オフィスが古い建物の場合には、倒壊するリスクもあります。
災害時には、常に「もし」を考えて、安全確保後に二次被害を防止するための行動に移行してください。
防災備蓄品の内容はわかりやすく
防災備蓄品は、必ずどこに何があるのか、どのように使うのかを周知徹底しなければなりません。
また、防災備蓄品はいざという時に使い方がわからないことも想定されるため、従業員が使い方を勉強する機会を作ってください。
備蓄品がどこにあるのか確認したり、停電した時に実際に使えるか試してみたりすると、従業員が個人として備えるべきことを学ぶきっかけにもなります。
周辺地域との連携を強化
災害時には、オフィスや店舗周辺の地域との連携が必要になります。
事業内容によってもできることは違いますが、社用車を移動手段として提供したり、避難場所を提供したり、地域のためにできる取組みを考えてください。
危機意識を風化させない
東日本大震災や全国各地での災害のニュースから、危機意識を持ち災害から得られた教訓を生かそうと考えた人も多いはずです。
しかし、残念なことに人の緊張感や教訓は時間が経過するとともに薄れていってしまいます。
危機意識が風化してしまうことは、災害対策や備えへの甘さにつながります。
防災マニュアルを作成して備蓄品を用意したとしても、従業員に危機意識がなければ、避難経路や備蓄品の使い方が分からないという事態になるかもしれません。
危機意識の風化を防止するには、様々な方法があります。
例えば、社内のイントラネットに災害対策に関するコーナーを立ち上げて、活動を投稿することもそのひとつです。
また、災害の日について考える日を設定して、マニュアルや備蓄品の確認にあてる方法や、社内報で災害対策について注意喚起、啓発を発信する方法もあります。
ただし、会社から従業員に伝えるだけの一方通行の内容になってしまうと、啓発活動も形骸化してしまいます。
現場の社員や従業員すべてが災害防止についての意識を高められるように、働く人すべてが参加できる形の取組みを導入してください。
まとめ
災害は実際に起きてみなければ、何が必要でどうやって行動すればいいのか明確にはわかりません。
しかし、事前の準備やマニュアルがなければ、全社員が冷静に災害に対処することは不可能です。
素早く適切な行動をするためには、普段から危機意識を持ち防災マニュアルや備蓄品を準備しておくことが大切です。
緊急時の行動手順や役割の明確化、緊急連絡網の作成といった活動は、平時でなければできません。平時にこそ、災害に備えるための行動をスタートしてください。
(編集:創業手帳編集部)