TOMAコンサルタンツグループ 藤間秋男|ワンストップグループを築いた代表取締役会長が語る「会社を拡大するために社長がすべきこと」とは?
社長が「1+1=2の仕事」をするのはNG!創業期に大切なのは、未来費用を出し惜しまないこと
『100年残したい日本の会社』など、数々の著書も手掛けるTOMAコンサルタンツグループ代表取締役会長の藤間さんは、お客様がゼロの状態から税理士や公認会計士、社会保険労務士、行政書士など、様々な分野の専門家が約200名揃う一大ワンストップグループを作り上げました。
今回は、精力的に経営支援をされている藤間さんに、創業期に社長がすべきことや、会社を大きくしていくための秘訣を創業手帳代表の大久保がインタビューしました。
TOMA100 年企業創りコンサルタンツ株式会社 代表取締役社長/公認会計士/税理士/中小企業診断士/行政書士/賃貸不動産経営管理士/AFP/ 登録政治資金監査人/ M&A シニアエキスパート/感動経営コンサルタント/終活ガイド上級資格
慶応義塾大学卒業後、大手監査法人勤務を経て、1982 年に藤間公認会計士税理士事務所を開設。
2012 年より分社化し、TOMA 税理士法人、TOMA 社会保険労務士法人、TOMA 公認会計士共同事務所、TOMA 行政書士法人などを母体とする200 名のコンサルティングファームを構築。2017 年、創業35 周年を機に事業承継を行い、会長に就任。
その後、ライフワークとする中小企業の100年企業創り・後継者づくりを支援する「TOMA100年企業創りコンサルタンツ株式会社」を設立し、代表取締役に就任。
老舗企業を集めたイベント「100年企業サミット」を主催する他、雑誌やテレビなどで老舗企業取材も多数経験。関連セミナーも1900 回以上開催している。
著書に『中小企業の「事業承継」はじめに読む本』(すばる舎)、『社長引退勧告』(幻冬舎)、『社員を喜ばせる経営』(現代書林)、『100年残したい日本の会社』(扶桑社)など。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
ワンストップグループを作る意思を受け継ぐ
大久保:まずは、創業までの経緯を教えていただけますか?
藤間:1890年に高祖父である藤間秀孝が司法代書人(現:司法書士)として事業を始め、そこから代々司法書士事務所を受け継いできました。なので、当然私も司法書士事務所を継ぐものと考えていたのですが、大学3年の時に突然父から「会計士になれ」と言われたんです。それは、東京司法書士会会長も務めた曽祖父がワンストップグループを作ろうと、父や叔父に「藤間一族には司法書士しかいない。誰か弁護士か会計士になる者はいないのか」と言っていたらしいのですが、当時は戦争があったこともあり、司法書士事務所を守り抜くことで精いっぱいでした。その話を聞き、私は曾祖父の「ワンストップグループを作りたい」という意思を受け継いで公認会計士になりました。
大久保:司法書士事務所を継ぐのではなく、公認会計士として起業されたのですね。
藤間:はい。大手監査法人勤務後、30歳の時に藤間公認会計士税理士事務所を開設しました。でも、最初は社員もお客様もゼロの状態でスタートして、開業から1年間はお客様を獲得することができなかったんです。父の司法書士事務所の一角を間借りして、コピー機や電話も借りていたので固定費はかかりませんでしたが、お客様を獲得するまでの一年間は肩身が狭かったですね。
大久保:そこから、どのようにして会社を大きくされたのでしょうか。
藤間:私はあまり計算が好きではないので、お客様を獲得後すぐに税理士を雇い、申告決算や税金計算などはすべて任せて、私は本の執筆や講演に力を注ぎました。当時は、ちょうど事業承継の税制が変わった時だったので、本を出版し、精力的に講演を行っていたところ、事業承継にお悩みのお客様を多数獲得することができました。
また、昭和 60 年の医療法改正によって、一人医師医療法人(※)という制度ができた際も、本を執筆し、医師会など医療系の団体に営業に行き、一人医師医療法人の講演を精力的に行いました。なので、会計事務所自体の営業を頑張ったというよりは、事業承継や一人医師医療法人など、コンサル的な内容で営業や講演を行った結果、会計事務所の仕事が増えていきました。
※一人医師医療法人……勤務する医師または歯科医師が常時1人ないし2人の小規模医療法人のこと。一般の医療法人は、常時3人以上の医師または歯科医師が勤務する。
大久保:その流れでグループ会社も増えていったのでしょうか。
藤間:はい。2012年からグループ会社としての経営をスタートし、現在では、税理士、社会保険労務士、公認会計士、行政書士など、ワンストップサービスを提供できるグループ会社に拡大させることができました。2013年にはシンガポール支店を開設し、東南アジアでビジネス展開する企業の支援も行っています。
大久保:会計事務所の仕事に専念するのではなく、コンサル的な業務に専念されたことが、会社を大きくできた秘訣だったのですね。
藤間:そう思います。他の方と同じようなパターンで会計事務所を始めていたら、これほどまでの規模にはならなかったと思います。新しいものが好きで、「世の中に変革を起こしたい」という気持ちがあったからこそ、事業を拡大できたのだと思っています。もしも私が税金計算や申告決算書類の作成が好きだったら、おそらく会計事務所の業務だけに専念していたので、会社を大きくするという意味では、計算が好きでなかったことが好転するきっかけとなりました。
お客様を掴むコツは、とにかく分かりやすく話すこと
大久保:藤間さんは、YouTubeに動画を上げたり本を執筆したりと、積極的に情報発信され、その内容が大変分かりやすいのが特徴的ですよね。事業を拡大するという目的以外でも、専門家が情報発信していくことは大事なのでしょうか。
藤間:そうですね。弊社の経営理念が「明るく・楽しく・元気に・前向き」なので、お客様や世の中に対して、明るく・楽しく・元気に・前向きに情報を発信していきたいという思いがあります。セミナーに関しては、これまで2,000回程度実施してきました。弊社の社員も皆セミナーを行い、仕事を獲得しています。
大久保:読者の中には、弁護士や税理士など、登壇する機会は多いものの「インパクトがある話をすることができない」と悩んでいらっしゃる方も多いと思います。セミナーの達人として、聴衆を引きつけるためのアドバイスをいただけますか?
藤間:専門家は、セミナーのレジュメに「法人税○条」など、条文をズラッと記載することが多いのですが、私は絶対レジュメに条文を入れません。なぜかというと、条文はプロが見るものであって、素人が見ても理解できないですよね。だから、とにかく分かりやすく伝えることを意識しています。セミナーだけでなく、お客様との打合せ中も、条文は使わず図で説明するなど、視覚的にも聴覚的にも分かりやすく話すようにしています。問題点の詳細は、我々専門家がきちんと確認すべきことなので、セミナーや相談の段階では、まず概要を説明することに専念しています。
大久保:まず、相手に理解してもらわなければ説明の意味がないですからね。
藤間:そうなんです。事業はもちろん、セミナーや相談の段階からマーケットインで進めていくことが重要です。とにかく分かりやすく、相手の立場に立って話をして、お客様に喜んでいただける講演にすることが大切ですね。ただ、私としてはセミナーを機に個別相談を受けたいという思いもあるので、セミナーの中で個別相談に繋がるような事例を話し、問題提議をすることで、個別相談を受けられる流れにしています。
大久保:「相手に分かりやすく伝える」という点は、弁護士や税理士の方だけでなく、エンジニアなど専門領域の方々すべてに共通する話ですね。
藤間:そう思います。弊社では、常に「難しいことより、分かりやすいことを話しなさい」と社員に伝えています。難しいことを話して自分の地位を上げてみせても、それはお客様のためにならないので。情報過多の現代社会においては、分かりやすく話すことが一番重要で、分かりやすく話せない人は、講演だけでなく、商談においてもお客様を獲得することは難しいと思います。
大久保:藤間さんは、セミナーを聴講されることもあるのでしょうか。
藤間:はい。いろんなセミナーに参加しています。人の記憶は、話を聞いた翌日には2割ほどに落ち、1週間後には5%ほどしか残らないといわれているので、必ずメモを取りながら聞き、すぐに実践すべきことは会社に戻ってすぐ社員を集め「これを実践してみよう」と指示をしています。やはり、何か有益な情報を得たら、すぐに発信をしていくことで、自分の知識が固まってくるんですよ。なので、セミナーを聴講するだけでは意味がなくて、聞いたことを社員やお客様に伝えたり、原稿に書いたり、自分の知識として残す作業を行うことが大切です。そうやって実践と拡散を繰り返していくことで、会社を成長させてきました。
大久保:インプットしたものを自分だけで持っているのではなく、発信することが大事なのですね。
藤間:はい。有益な情報を聞いたら、「みんなで実践してみようよ」と周りの人や社会に伝えないともったいないと思います。インプットしても、アウトプットしなかったら頭に残らないので。ぜひセミナーを聴講する際は、ただ聞くだけでなく、メモを取り、その情報をいろんな人に発信して、自分の知識にしてもらいたいですね。
専門家を上手く活用する企業が伸びていく
大久保:会社を大きくするために、最も大切なことは何でしょうか。
藤間:会社を設立する際、司法書士の費用を削減するために自分で登記等の作業を行う方がいますが、私はいつも「そんなことをやってる暇があるなら、客を取るために動きなさい」と言っています。社長が「1+1=2」の仕事をやっていてはダメなんですよ。給料計算など、誰がやっても同じ仕事を社長自らやっていては会社を成長させることはできないと思います。社長が行うべきことは、営業や新商品開発、そして様々な人と会って情報交換をして人脈を広げ、見込み客を獲得することだと思うんです。
会社の設立費用を削減するのは、未来費用ではないんです。10万円ほどで専門家に任せられるのだから作業は専門家に任せて、その時間を社長本来の仕事に充てるべきです。そうしないと、結果的に会社を大きくすることはできないと思います。
大久保:設立費用を多少削減できたところで、変更や修整があれば結局プロの力を借りることになると思うので、せっかくなら最初から専門家の力を借りた方がいいですよね。
藤間:会社を成長させていきたいなら、専門家を上手く使うことが大切ですね。多少お金はかかっても、専門家に任せた方がいろんな意味で楽だと思います。様々なリスクにも事前に気づけますから。例えば、私は「4種の神器」と言っているのですが、
1.会社を作ったら、たとえ社員数がゼロでも理念を作りましょう
2. 5年後、10年後にどうなりたいのかビジョンを作りましょう
3.経営計画を作りましょう
4.社員がいたら、人事制度をちゃんと作りましょう
これらをすべて一人で作ることは困難なので、専門家にきちんとフォローしてもらいながら、会社をスタートさせることが重要だと思います。仮に社員がいなくても、経営理念を作り、5年後、10年後どうなりたいのか毎年計画を見直さなければ会社を大きくできないですし、自分が将来どうなりたいのか、会社をどうしていきたいのかをきちんと明確化し、文章にすることが大事です。「今のままでいいや」と思ってしまったら、本当にそこから成長することはできないので、会社を成長させるために、必要なところにはお金かけるべきだと思います。
大久保:専門家はいろんな会社を見ているので、データをもとに助言してくれますからね。
藤間:そうなんです。専門家はいろんなデータを持っているから、それを上手く使わない手はないですよね。実際、業績が伸びている会社は、専門家や周りの企業を上手く使っているんですよ。顧問料を払っているのに相談するのを遠慮する方もいますが、それは本当にもったいないことなんです。どんなことでも相談して、いろんな情報を集めていかないと。会社で独自に調べたら10年かかる情報収集も、専門家に問い合わせれば数十分でデータを提供してもらえるわけですから、専門家を上手く使わない手はないです。
大久保:貴社のようなワンストップサービスを提供している会社なら、さらに有益な情報や助言を得られるでしょうね。
藤間:そうですね。例えば、税務しかやっていない税理士は、アドバイスが全部「税務」ですから。本来、一番重要なのは経営で、その中の一つに税務があるので、様々な分野を担当している専門家に相談することが大切だと思います。先日相談に来られた方は、「税理士からアドバイスされ、節税の観点から4人の子どもに4分の1ずつ株を分けた」とおっしゃっていました。たしかに節税としてはいいけれど、4分の1ずつ分けてしまうと、親が亡くなった場合相当揉めることになりますよね。実際、そういったアドバイスをする税理士もいるので、一時的な節税対策などではなく、お客様の未来を考えてアドバイスできる専門家の意見を取り入れなければ、会社を残していくことは難しいと思います。だからこそ我々は、お客様が経営をきちんと維持でき、永続企業となるようアドバイスをしています。
成功も失敗も全社員で共有する
大久保:貴社は専門家集団だからこそ、人材育成を大事にされていると思います。先ほどの節税対策としては正しくても、経営的には間違っているなどの判断は、トレーニングを行わなければ難しいと思いますが、どのように人材を育成されているのでしょうか。
藤間:弊社では、月に1回、社員全員で理念と経営の勉強会を行っています。様々な経営の成功事例や失敗事例を共有し、常に「経営を最も重視し、永続企業という観点からアドバイスしなさい」と伝えています。また、「有用な情報を常に提供する」など15箇条のクレドカードを作成しています。その中には、お客様の立場に立った回答をし、お客様の見本となる経営をすることも明記しているので、弊社の経営について社員全員がお客様に伝えられるようになっています。
大久保:信条や行動指針も文章にして明確化されているのですね。
藤間:はい。また、クレドカードに加え、お客様からのご批判の声を明記する「成長カード」や、お客様から褒められたことを明記する「ニコニコカード」を導入し、毎週朝礼で情報を共有しています。本人の反省を促したり、称えるという意味もありますが、「どうすればお客様に喜んでもらえるのか」、「どういったことがミスに繋がるのか」が分かれば仕事がしやすくなるので、情報を共有するという意味で取り入れています。
中小企業が生き残っていくために
大久保:今後、中小企業が生き残っていくために大切なことは何だと思われますか?
藤間:中小企業はもっと商品の単価を高く設定しなくてはいけないと思います。我々のお客様でも、安売りをしている会社は成長が厳しい傾向にあります。特に、大企業の下請けとして安く買い叩かれている会社は、それを脱皮する方法を考えないと働く社員もしんどいですよね。安い商品は努力しなくても売れるんです。でも、高い値段で売っていく努力をしていかなくてはいけないと思います。その根底として、「社員にもっと給料を出したい」という思いを社長が持つ必要があります。商品やサービスの価格が安いと人件費も安くなってしまうので、強みの商品を作り、高く売って、賃金を上げる努力をすることが大切だと思います。
大久保:一昔前の企業努力は値段を下げることでしたが、今は値段や付加価値を上げることが重要なのですね。
藤間:はい。付加価値を上げて、それでも売れるものを作ることが重要だと思います。商品を大量に売れば、値段を上げずに利益を出せるかもしれないけれど、中小企業はそういう訳にいかないので、我々中小企業は理念を高くし、お客様に対して単価を高く設定することが大切なのだと考えます。やはり、理念が低く、諦めムードの会社では、社員の働く意欲も下がってくるので、社員にとって魅力的な会社で居続けるためにも、理念も単価も高い会社を目指す必要があると思います。
大久保:仮に、経営理念や経営計画がなく、赤字で低迷した状態の会社を再建する場合、藤間さんなら、まずどこから手をつけますか?
藤間:やはり、きちんとした理念やビジョン、経営計画を策定することからですね。それがないと社員も取引先も銀行も、誰も説得できないので。社員がいる場合は、みんなで一丸となって経営計画やビジョンを作ってもいいと思います。そうやって社員を巻き込んだ経営ができないと活気ある組織を作っていくことは難しいですね。
大久保:それでは最後に、これから起業される方や事業承継を考えられている方など、読者に向けてメッセージをお願いします。
藤間:ぜひ、覚悟を決めてください。社員やお客様、社会を幸せにすることで、結果として自分自身も幸せになると思うので、そのためにはまず、理念やビジョン、経営計画をきちんと立て、どうすれば夢を実現させられるのかを明確化し、それらを社員全員に共有してください。そして、「今年は何人従業員を増やそう」、「来年は何人増やそう」と、毎年見直し、更新していくことが会社を大きくしていく秘訣だと思っています。
また、社長が一人で活動できる時間は限られているので、専門家や社員に任せるべき仕事は任せ、社長自身は業種交流会などで様々な人と会い、情報交換をしていかないと会社は発展していかないので、ぜひ決断力を持って理念に向かって突き進んでいってください。
(取材協力:
TOMAコンサルタンツグループ 代表取締役会長 藤間秋男)
(編集: 創業手帳編集部)