bajji 小林 慎和|Web社会において安心できる居場所をつくるサービス”Feelyou”を開発
コロナの影響で、大きな方向転換を強いられた。経営者として困難に直面した時に意識したこととは
国内外で数多くの会社を起業してきた連続起業家である小林慎和氏。
2020年にウェルビーイングアプリである”Feelyou”をリリース。株式会社bajjiを創業した当初は、リアルでの出会いを大事にしようというコンセプトのもと、”bajji”というサービスを展開していたという。しかし、新型コロナウイルスの影響で当時展開していた事業を大きくピボットする必要があった。
経営者として困難に直面した時にどのようなマインドセットでいるべきなのかということについて、創業手帳の大久保が聞きました。
大阪大学大学院卒。野村総合研究所で9年間経営コンサルタントとして従事、その間に海外進出支援を数多く経験。2011年グリー株式会社に入社。同社にて2年間、海外展開やM&Aを担当。海外拠点4つの立ち上げに関わり、シンガポールへの赴任も経験。その後、シンガポールにて起業。インド、タイ、香港などでChaos Asiaというイベントを開催。2016年に日本に帰国し、株式会社LastRootsを創業。2019年4月に上場企業を子会社化し、同社代表取締役を退任。2019年に株式会社bajjiを創業。著書に『人類2.0アフターコロナの生き方』など。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
新型コロナウイルスの影響で、大きな方向転換をすることに
大久保:株式会社bajjiではウェルビーイングアプリであるFeelyouをリリースされたとお伺いしていますが、どのような背景でサービスをリリースされたのでしょうか?
小林:Feelyouの開発を決めたのは2020年3月末でした。
当初は“リアルの出会いを大事にしていこう”とbajjiというサービスを展開していました。コワーキングスペースに導入しイベントを多く開催していました。資金調達をして公式にローンチをプレスリリースしたタイミングで、日本に新型コロナウイルスが上陸したのです。コロナでイベントが半年先までキャンセルとなってしまい、色々と試行錯誤して行き着いたのがFeelyouという新しいサービスでした。
その当時、ウェルビーイングやマインドフルネスが海外で流行しCalmなどといったユニコーンが出てきていました。デンマークでムードトラッキングをしているReflectlyという会社などもあり、日本にないからやってみようと思って始めたのがFeelyouです。
Web社会で安心できる居場所を提供したい
大久保:なぜ、Feelyouというサービスを始めようと思ったんですか?
小林:自分も含め、大なり小なり会社を経営していると大変なことも多くあります。自分のFacebookに投稿するのはみんなプレスリリースなどのいい面だけという人が多いと思います。
経営者として事業を進めていると苦しい場面に何度も遭遇します。そういう時に一人で抱え込んでなんとかしようとするので、経営者は非常に苦しいことも多いんですよね。
そのような背景から「自分のネガティブな部分も素直に吐き出せる場所が欲しい」、「Web社会で安心できる居場所が欲しい」という想いでFeelyouというサービスを作りました。
実際に事業をピボットするときには、Zoomで従業員に伝えました。その後、サービスを新たに開発して2020年7月にiphone版をリリース、8月にはAndroid版をリリースしました。嬉しいことに、2020年12月にはGoogleベストアプリに選出されました。
その後、FUNDINNOで4,000万円を調達し、ユーザーは170カ国に広がるまでに成長しました。
世界に求められるサービスをつくりたいという想い
大久保:Feelyouは小林さん自身が欲しいと思って始めたサービスということですか?
小林:もちろん私自身が欲しかったということもありますが、私は起業してからずっと「世界に求められるサービスをつくりたい」という想いを持っています。しかし、世界共通の課題ってなかなか見つけられなかったんですよね。日本のなかの課題だけを抽出しても、そのまま世界に持っていけないものが多いと感じていました。
その一方で、新型コロナウイルスが大流行し、今までできていたようなコミュニケーションが取れずに寂しさを感じるというのは世界共通の課題だと思ったんです。私の人生のなかでも、これほどまでに世界共通の課題が見えたことがなかったので、直感的に「これはビジネスにしたら面白そうだ」と感じましたね。
大久保:ブロックチェーンを活用されていると伺っているのですが、サービスのどの部分にブロックチェーンを活用しているのですか?
小林:弊社がこれまでブロックチェーンを使う用途は、主にデータの透明性を担保するためでした。
Feelyouでは、素直な気持ちでお互いが出して、助け合うことがウェルビーイングにつながります。今の自分の気持ちをシェアしたり、お互いに相手を気遣うコメントをしたりすると「Act of kindness(優しい行動)」の値が1つずつ蓄積されていきます。その数値の千分の一の数の木を植樹するという活動を行っています。
お互いが素直な気持ちを吐き出すことが地球環境を気遣う植樹につながるというサイクルを作っているのです。本当にやっているのかということを第三者にもわかってもらうために、ブロックチェーンを使うことが適していると思います。現在は、データの透明性以外の新たな仕組みでブロックチェーンを使おうと考えており、それを設計中です。
Feelyouの課題と今後の展望
大久保:Feelyouを展開していくにあたって、今後の課題はありますか?
小林:自分の素直な感情を吐露するサービスなのであまり友達に見せびらかさないし、友達に紹介しません。自分たちの安心の空間を確保したいという気持ちが働くので、あまり大きく拡散されないのです。最近、課題に感じていることとしては、他のSNSのように周りの人につぶやいたり、広げていったりするのがなかなか難しいという点ですね。
大久保:どのようなサービスを目指していますか?
小林:似たようなところで目指しているのはナイキのサービスです。ナイキはスニーカーと運動のアプリを連動させて、走った距離をカウントしています。そのようなログを集めて、スニーカーの販売につなげています。
Feelyouではアプリで自分のマインドの日記をつけて、気分のコントロールにつなげてもらっています。最近ではFeelyouのセルフケア商品を扱うECサイトをつくり、ルームディフューザーやCBDオイルの販売につなげるようなことを行っています。
大久保:Feelyouはいいね!ボタンではないのですね。
小林:それもFeelyouの特徴の一つかもしれません。Feelyouは感情を吐き出すのが目的のサービスです。シェアできないような辛い気持ちを吐き出すことで、たとえ数人であっても見せることで気持ちがほっこりすることがあります。新型コロナウイルスの影響で閉じこもっている人にぜひ使って欲しいと考えています。長文の日記を書く人もいれば、ひとこと日記のような形で気軽に使っているユーザーもいますね。
大久保:Feelyouの今後の展望を教えてください。
小林:最終的にはリラックス系商品の物販につなげたいと思っています。また、どんどんユーザーを増やしていきたいという気持ちがあります。その一方で、爆発的に拡散するとサービスが荒れたりするということも危惧しています。どうやって荒らされることなく、安心安全な空間を維持したままサービスを拡大させていくのかということが今後の課題になってくると感じています。
株式会社bajjiを創業するまでの経歴
大久保:今までに色々なご経験を積んでいらっしゃると思いますが、改めて小林さんのご経歴を教えてもらってもいいでしょうか?
小林:大学では分散処理というテーマでコンピュータを専攻していました。野村総研にて9年ほど経営コンサルをしており、海外進出支援を数多く経験しました。NYでの留学を経て、起業しようと思っていた時にグリー株式会社から声がかかり、海外展開やM&Aを担当しました。海外拠点4つの立ち上げに関わり、シンガポールへの赴任も経験しました。
9年前にグリー株式会社を辞め、シンガポールで起業しました。最初はDiixiという会社でChaos Asiaというイベントを開催しました。インドや香港、シンガポール、タイ、東京など多くの場所でイベントを開催しました。その後、飲食店をシンガポールでやったりコワーキングスペースをバリ島でやったりと、さまざまな事業を展開していました。
シンガポールでは事業のゼロイチを経験しましたが、シンガポールに永住するつもりはありませんでした。海外での経験を積んで日本から世界に出て行くビジネスをしたいと思い、5年ほど前に日本へ帰国しました。
経営者としての気持ちの変化
大久保:色んな場所で多くチャレンジをしているが、ご自身の気持ちはどのように変わっていきましたか?
小林:海外ではゼロイチをやりたいと考えていました。海外で生き抜く力をつけるということを目標に色んなチャンスを狙っていましたね。海外では本当に多くの会社を立ち上げて、さまざまなことにチャレンジしていました。
日本ではブロックチェーンスタートアップとして腰を据えてやるつもりでしたが、コインチェック事件があってからは事業をイグジットしなければいけない状態になってしまいました。今はスタートアップをじっくりやってみたいという気持ちで日々取り組んでいますね。
次のターゲットは”脱二酸化炭素”
大久保:海外含めいろんな業界を見てきていると思いますが、日本にはどんなチャンスがあるとお考えですか?
小林:私は次の明確なターゲットを持っていて、それは”脱二酸化炭素”です。業界も問わず、世界共通の課題だと思っています。どうやって二酸化炭素を出さなくするか、もしくは出したものをどう吸収し利活用していくのかという部分です。
日本では、ここ10年でVCマネーが10倍ほどに増え、スタートアップも増えました。世界ではそのサイクルはすでに終わっていて、現在はESG投資が伸びています。日本も必ずそうなるだろうと考えています。現状では日本ではまだまだ少ないですが、2030年にかけて大きく成長すると考えています。
大久保:スタートアップについてはどうお考えですか?
小林:今まではスタートアップはひとつの課題について取り組んで行くのが美しいとされていましたが、新型コロナウイルスの影響でそこも大きく変わったと思っています。コロナ以降は、複数ポートフォリオを組んでうまくやっていく方向にシフトしました。
Feelyouでのイグジットは上場を狙っていて、次の10年を見るとCO2削減が課題だと思っています。複数のことを同時に進めながらやっていきたいと考えていますね。
問題は出番を待っている
大久保:難しい局面になった時に経営者が心がけるべきことは何だと思いますか?
小林:私も何度も苦しい場面を経験しましたが、会社を経営していると絶対に問題が起きます。会社を経営するということは、問題が出てきては解決するという繰り返しです。「なんでこんな問題ばかりが起きるんだ…」、「自分はなんてダメな経営者なんだ…」と思うかもしれませんが、そうじゃないと声を大きくして言いたいと思っています。
私の本にも書いてあることなのですが“問題は出番を待っている”と考えています。
問題は解決するごとにまたやってくるものです。自分が経営者として無能だから問題がくるのではありません。問題が次々と起こるというのはそれだけ自分が経営者として頼られていると考えるようにしてください。
すべてのことには必ず終わりがくる
大久保:複数の会社を起業してこられたと思いますが、その経験から得られたことはありますか?
小林:会社にとって良いことも悪いことも、必ず終わりが来るということです。人間って欲深くて、良いことがくるとそれが永遠に続くと思ってしまうんですよね。その一方で、悪いことが起こるとその問題が永遠に終わらないように感じてしまうものです。しかし、良いことも悪いことも全てに始まりがあって終わりがあると考えるようになりました。
悪いこともどうにか凌いでいけば波は引いていくものです。精神論にはなってしまいますが、”諦めない心”が一番大切です。絶対に諦めずに「どうにかなる」、「どうにかする」と考えてみてください。
大久保:経営者として行き詰まってしまった時にやることはありますか?
小林:立ち止まっていてもしょうがないので、人に会いに行くということをしています。その時に会うのはいつもの仲間ではなく、1〜2年くらい会わなかったような友人と会うようにしています。普段あまり会わない人に声をかけてZoomで話を聞くことで、何かしらのヒントをもらえることがあります。行き詰まってしまっている時は新しい情報が入ってこない状態になっているので、久しぶりの友人と会うなどして脳に刺激を与えることが重要だと思います。
(取材協力:
株式会社bajji(バッジ)/ 代表取締役 小林 慎和)
(編集: 創業手帳編集部)