CHIBAビジコン2020『「日本一の、最高級の芋。」を生み出す技術が新たな市場を作る』で創業手帳賞を受賞!さつまいも農家の若き才能・石田湧大氏にインタビュー
「CHIBAビジコン2020」で優秀賞をダブル受賞。農家がビジネスコンテストに挑戦する理由とは
株式会社さつまいもの石田農園は、千葉県香取市で江戸時代から300年以上続く歴史のある農家です。30枚以上の畑で、「べにあずま」「べにはるか」「シルクスイート」という3種類のさつまいもを生産しています。
専務取締役を務める石田湧大氏は、千葉県最大級の起業フェスである「CHIBAビジコン2020」に挑戦し、見事に「ちば起業家優秀賞(千葉県知事賞)」を受賞。サポーターを務める創業手帳からは、独自性のある魅力的な事業展開に感銘し、創業手帳賞を贈らせていただきました。
高糖度のさつまいもを生み出す独自の熟成技術で、他の農家との差別化を図り、戦略的に石田農園を発展させる石田氏に、ビジコン参加の理由や農業への想いを伺いました。
1993年千葉県香取市生まれ。大学卒業後、新卒入社した大手人材系企業での優秀な営業成績により世界で活躍するPR会社にヘッドハンティング。PRコンサルタントとして、食品系企業のメディアリレーション、SNSなどコミュニケーション施策全般を担当。2018年3月に家業のさつまいも農家を法人化し、同年9月より株式会社さつまいもの石田農園に就農。現在は、マーケティング分野を担当し、日本トップクラスの高品質なさつまいもを全国に供給している。
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この記事の目次
会社の知名度を上げるためのコンテスト。参加するなら1位を狙え!
石田:ありがとうございます。
石田:そうですね。率直にいって悔しかったです。1位を取りたかったのには理由があります。今回のコンテストで入賞しました。その内容はこうでしたと世の中に発信がしたいわけですが、これは1位にならないと新聞社の取材が入りません。優秀賞では弱いんですね。実際には会社名と名前が連名で出ただけでした。それでは、今回の「CHIBAビジコン2020」で優秀賞を取ったことを、県内在住の方はもちろん、地元の人たちはほとんど知らないわけです。僕の中では1位以外あまり意味がないんですね。
石田:それは「CHIBAビジコン2020」に比べると市内の生産者等が対象となり大きな大会ではありませんでしたが、石田農園を世の中に知ってもらうための戦略ではとても大切なんです。マスコミに記事を書いてもらうためのネタ作りになりますから。今回のコンテストを振り返ると、農作業後にクタクタになっている体にムチを打ちながら夜の時間を使ってプレゼン用の資料を作ったりしていたので、狙っていた1位が取れないと、優秀賞でも悔しさの方が大きいですね。
石田:いえ。これはぜひ知っておいて欲しいのですが、知名度を上げるために、「CHIBAビジコン」のような大会やコンテストを積極的に活用することは有効です。ただ、大会やコンテストの大きさは関係なくて、本当に重要なのは1位になるか、ならないかです。つまり、1位が取れると思う大会やコンテストを狙うべきだと思っています。
1位になった結果、得られた取材では、取材する方と相談しながら、どんなことが記事として取り上げられるのか、記者の方が興味を持ってくださるポイントをヒヤリングしながら、それを商品に落とし込んでいくことも大切です。これは前職のPR会社での考え方なんですが、これを知らないと、せっかくマスコミから情報が世の中に向けて発信されても、日々の業務で忙しいから、どうやって生かすのかわからないと、チャンスを逃すことになってしまいます。知名度を上げるチャンスがあれば、活用すること、それを商品づくりにも生かすことをお勧めしますね。
18歳で家業を継ぐ決意。大学時代と会社員時代で農業に役立つ経験と知識を得る
石田:18歳のときですね。300年以上続く石田農園の歴史を続けなくてはいけないという気持ちも多少ありましたが、決して長男としての義務感で農業の道を選んだわけではないです。農業の分野、そして経営の分野に興味を持っていたことが大きかったと思います。
石田:そうですね。これは高校生の時点で、石田農園の社長である父の左腕以上の存在になるという目標を明確にしていたこともあって、そのためには……そのためには……と考えながら前に進んできた結果です。大学では多くの人たちと出会って、いろいろな話を聞きたいと思っていました。特にビジネスの分野では勉強に力を入れていました。日中のほとんどの時間を勉強かアルバイトに費やしていました。図書館でビジネスや農業に関する文献を読み漁っていましたし、カナダに短期で留学した経験もあります。海外のビジネスを肌で感じたかったこともありますし、将来的に外国の方を労働力として活用することもあると考え、異文化の人たちと接してみて、どれだけ価値観が違うものなのかを確認したかった気持ちもあります。
アルバイトはユニクロとスターバックス。知名度と好感度の高いこの2つの企業が、多くのスタッフを使って店舗を運営し、お客さまにリピートしてもらうためにどんな工夫をしているのか知りたかったんです。そして、そうした店舗でアルバイトとして結果を出して、認められたいという気持ちがありました。
僕が働いていた池袋のスターバックスは、1店舗で他の3店舗分くらいの売上がある人気店でした。どうやったら、限られた人数、限られた席数でそんな売り上げが作れるんだろうと興味があったのです。サービス論的なものは大学では学べないと思っていたので、積極的にアルバイトへ時間を費やしました。
石田:いま振り返っても、貴重な経験を積めたと思っています。どうして、農家をするのにこうした経験が必要だと思ったかというと、農家の人たちは、売ることが下手だからなんですね。それなら自分は、多くの農家が苦手なことを得意にしたいと考えました。農家だけど、接客もできるし、営業、コンサルもできる。そんな風になりたかったんですね。
石田:人材系の企業では、新規営業を学びたいと思いました。まだなにも分からない新卒の社員でしたが、100人以上いる同期の中で、新規のアポイント獲得は負けたことがなかった。大学時代のアルバイト経験がとても活きたと思います。自分の性分なんですが、営業に関してもあれをやってみたい、これをやってみたいと、どんどん考えが浮かんできます。PDCAを一人でどんどん回していました。
石田:社会人1年目なのに、営業成績が評価されて、有名企業2社からヘッドハンティングが来たんです。実はPR会社についてはよく知らなかったんですが、調べたらPR会社として日本で1番、当時世界的にも20番目くらいの存在だと知って驚きました。このPR会社で3年半ほど働きましたが、甘くはなかったですね。1年目などコテンパンに自信を砕かれました。ただ、先輩たちは厳しさの中に、後輩を育てようとする優しい気持ちがある方ばかりで、メールの出し方、電話の受け方、儲けの作り方など本当に基本的なことから学ばせてもらいました。
商品を宣伝するために、なにをしなければいけないのかを学ぶだけではなく、ビジネスの基本を教えられました。人になにかを頼むとき、ただ、「これをお願い」と伝えるのではなく、この仕事がどう役立つのか意図を伝えることが大切なんだと学んだのもこの会社です。この考え方は、いまでも大切に守っていますね。
日本一早くさつまいもを甘くする。それは差別化を突き詰めて考え出したストーリー
石田:普通の人は知らないですよ。さつまいもが味ではなく、見た目や重さで評価されることも知らないでしょう。味ではなく、見た目が綺麗なら高く売れてしまうんです。
石田:土壁の貯蔵設備には、温度差があるんです。ところが、人工的な貯蔵設備では温度管理ができるので、逆に温度変化がありません。この温度差がさつまいもを短時間で甘くする決め手ではあるのですが、温度差がありすぎてもさつまいもが弱ってしまいます。石田農園と同じことをしようと思っても、これはなかなか真似できることではありません。
条件をあれこれ変えながら、そのたびにすごい数のさつまいもを食べて確認しました。熟成の過程で悪くなってくるとさつまいもが黒ずんでくるのですが、黒ずんだ商品のすべてが悪いわけではないんですよ。確認するには、やはり食べてみるしかない。腐ってしまったものを食べて嘔吐することもありましたし、そうした苦労を経て、ようやく石田農園の熟成技術が確立されました。
手応えを感じたのは6年くらい前でしょうか。甘いさつまいもが出回らない11月の終わりくらいに、しっかりと蜜が出て、中がねっとりしたさつまいもができた。これでいけるんじゃないかと感じたことを覚えていますね。
石田:うーん、正直にいえば、そうした確信はなかったです。ただ、差別化はできるだろうと思いました。さつまいもの差別化ってなんだろうと考えたときに、ほかの野菜もそうですが、単純に味での差別化って難しいんですよ。人によって感じ方も違いますし、味プラス、ストーリーがないと差別化は難しい。
そこで、分かりやすく日本一早くさつまいもを甘くできれば、差別化になるんじゃないかと。さつまいもの差別化をとことん突き詰めて考えたときに、このストーリーを思いつきました。この時点では売れるかどうかなんて分かりませんが、石田農園としての差別化は間違いなくできる。そこが大事だと思ったんですね。
石田:そうですね。それはあります。規格外のさつまいもを短期間に甘くして、最高に美味しい焼きいもにして、今までなかったような商品として売り出したいと考えました。そのために、日持ちのする焼きいものパックを作り出しました。
さつまいもを早く甘くする差別化に加えて、規格外のさつまいもを美味しいスイーツに生まれ変わらせるという差別化があり、この2つの成功があったからこそ、石田農園の評判が高まり、商品が売れる流れになっているんだと思います。
千葉県産のさつまいもをブランド化させたい
石田:そうなんです。テレビなどで取り上げられることも多くて、人気がありますよね。すると、俺も少し作ってみるかなと、さつまいも作りを始める農家さんも多くなってきています。農家ごとの収穫量はたいしたことがなくても、これが日本全体になるとかなりの量になりますから、知名度の低いところなどはいずれ値が下がってしまうでしょう。
それを避けるためにも、僕としては地元をしっかりブランド化して差別化したい。今治のタオルのように、甘いさつまいもといえば”千葉県香取市”というブランドを作りたいわけです。そのために、「CHIBAビジコン2020」にも挑戦しました。
石田:一部の品種で例外はありますが、日本で一番値段の高いさつまいもって千葉県産なんですよ。ところが、これまで三越や伊勢丹といった一流百貨店で、千葉県のさつまいもが、〇〇農園産のブランドで販売されることはなかった。石田農園でも、百貨店と道の駅に関しては、石田農園の名前で売ることにこだわりを持っているのですが、こうした一流の百貨店に関しては「甘いですよ」「美味しいですよ」と売り込みをかけても、簡単にはいかないんです。
石田:そうなんです。そして、自分でも本当にすごいことだと思っているのですが、実は、2021年2月より石田農園産の商品である「甘熟べにはるか」が、伊勢丹本店で販売されます(注:取材は2021年1月)。これはまさに千載一遇のチャンスととらえていまして、高くても美味しいものに関心のあるお客さまを増やしたいと思っています。そうした環境で勝負できるのは大きいですね。
この伊勢丹に関しては、自分の中でまだリアリティがないんですよ(笑)。こんな一流の百貨店で石田農園の商品を扱ってもらえるなんて、いまだに信じられない気持ちなんです。ここまでがむしゃらにやってきましたが、頑張っていると、よいお話がいただけます。せっかくいただいたご縁ですから、お客さまのために精一杯頑張りたいです。
石田:僕は日本の会社のプロダクトアウト的な考え方はしません。作ったものをどうやって売るかではなく、売れるものをどうやって作るか、どうやってマスコミに取り上げてもらうのかを常に考えています。商品を作るときに、上手くいっているものを参考にするのはよいことですが、独自のものを生み出して、差別化することが大事だと思います。お客さまに感動体験を提供することができるか。そこにしっかりと頭を使う必要があると思います。
必要なことはすべて学びたいという意欲が伝わってくるインタビューでした。石田さんのお話には、これからの農業に必要なことが、ぎっしり詰まっているように思います。これからもどんどんチャレンジして、ぜひ千葉のさつまいもをブランド化していただきたいですね。
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