起業したら社会保険の手続きが必要!いまさら聞けない概要と加入義務
「医療保険」「年金」「労働保険」3つの社会保険を理解できていますか?個人事業主と法人で変わる社会保険や必要な手続きなど
会社員であれば会社が代行してくれていた社会保険。
起業したら、医療保険や年金などの公的な社会保険の手続きを自分で行わなければなりません。
事業規模により加入する社会保険が違ったり、申請時期が決まっていたりするので加入漏れのないように注意が必要です。
ご自身の状況に応じた手続きができるよう、社会保険の種類や起業の際に必要な社会保険について紹介します。
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この記事の目次
1人で起業した場合でも社会保険の加入は必須
会社設立時に在籍する人が社長ひとりであっても、社会保険への加入義務があります。
健康保険法第3条と厚生年金保険法第9条に定められており、法人の代表者を含むと明記はありませんが、過去の判例で法人の代表者も含むとしたものがあるからです。
従業員がいなければ加入しなくて良いと思うかもしれませんが、加入しないでいると経営上の不利益を被る可能性があるため、忘れずに加入しましょう。
起業者が知るべき社会保険の種類と概要
社会保険制度を正しく理解している人は意外と少ないのではないでしょうか。
会社員の場合、加入・保険料の支払いなどは会社が代行しており、給与から天引きで負担分を支払っているため実感しにくいのが現状です。
しかし、保障を活用するためにもその種類や内容を知っておくことはとても大切です。
- 大きく3つに分類される社会保険
-
- 医療保険(医療保険・介護保険)
- 年金
- 労働保険(雇用保険・労災保険)
各制度の概要は次の通りです。
医療保険(医療保険・介護保険)制度
公的医療保険は、保険料を支払うことで病院の自己負担額を実際の医療費の1~3割に抑えることができる制度です。市区町村が運営母体の「国民健康保険」と、主に会社員や公務員が加入する「健康保険」に大別できます。
医療保険では、運営母体を「保険者」、その保険に加入する人を「被保険者」と呼びます。
・国民健康保険
市区町村が保険者であり、個人事業主や無職の場合でも、住んでいる自治体に届け出することで加入できます。
・健康保険
会社で加入、もしくは同業種の人が集まって加入する医療保険です。
中小企業を対象にし、都道府県ごとに支部が設けられている「協会けんぽ」、同じ職業や就業形態についている人の団体、もしくは大企業が単独で設立する「国保組合」などがあります。
健康保険は保険者によって詳細が異なるため、本記事では代表的な健康保険である「協会けんぽ」を基準に記載しています。
なお、介護保険とは健康保険の制度の一部となるため、加入している公的医療保険に応じた保険に自動加入します。
年金制度
公的な年金制度は主に次の3種類があり、それぞれ加入要件が異なります。
【加入者概要】
・国民年金
日本国内に住む20歳以上60歳未満の人すべて
・厚生年金
厚生年金保険の適用を受ける会社に勤務する人すべて
・共済年金
国家公務員、地方公務員や私立学校の教員などとして常時勤務する人
共済年金は主に公務員の年金制度のため、起業を考えている人であれば選択肢は国民年金か厚生年金のどちらかです。
また、年金制度は1階部分が国民年金、2階部分が厚生年金(共済年金含む)となるため、厚生年金に加入すれば自動的に国民年金にも加入することになります。
労働保険(雇用保険・労災保険)制度
労働保険には、「雇用保険」と「労災保険」があります。給付はそれぞれの保険制度で別個に行いますが、保険料の徴収については「労働保険」として一体的に取り扱うのが原則です。
・雇用保険
雇用を守る、もしくは促進するための保険です。失業した場合の「基本手当(失業手当)」や、やむを得ない事情で休業した場合に雇用が守られる「育児休業給付」「介護休業給付」などの制度があります。
・労災保険
勤務中の事故やケガを担保する公的保険です。時間・日数・期間を問わずすべての労働者が対象となります。
会社員であれば会社が保険料を半額負担してくれますが、個人事業主の場合は起業したら社会保障に関する費用は全額自己負担になります。
法人の場合は会社負担分の経費が生じることを認識しておきましょう。
なお、本記事での個人事業主とは、従業員を持たずに単独で業務を行うケースとします。
【法人と個人事業主別】社会保険の手続き方法や必要書類
社会保険の種類や概要がわかったところで、申請方法や状況に応じて加入できる社会保険について詳しく見ていきます。
従業員がいる場合といない場合で加入内容が異なるため注意が必要です。
申請時期や必要書類:医療保険編(医療保険と介護保険)
個人事業主の医療保険
個人事業主が加入できる医療保険は主に3つです
*国民健康保険
住所のある自治体の国民健康保険に加入。
通常、会社員でない場合は国民健康保険に加入します。
手続き先は住所のある市区町村の国民健康保険担当課です。
退職日および健康保険の資格を喪失したことが分かる書類を持参します。
退職が分かる書類
・勤務先が発行した「退職証明書」
・年金事務所で受け取り可能な「資格喪失証明書」
・ハローワークで受け取り可能な「離職票」など
*任意継続被保険者制度
従前に加入してた会社の健康保険に継続加入する方法です。保険料は退職時の給与を基準とした「標準報酬月額」をもとに算出されますが、給与水準が高かった人は任意継続被保険を活用したほうが保険料は低くなる場合があります。それは、退職時の標準報酬月額が30万円を超えていた場合でも、標準報酬月額を30万円目安で保険料を算出するためです。
要件やご自身のケースを考慮して継続加入するかどうか判断しましょう。
任意継続被保険者制度を利用する場合は次の要件と制限があります。
・資格喪失日の前日までに「継続して2ヶ月以上の被保険者期間」があること
・退職(被保険者の資格喪失日)から20日以内に申請すること
・申請先は住所のある地域を管轄する全国健康保険協会(協会けんぽ)の都道府県支部
・任意継続被保険者となれるのは2年間のみ
*国保組合
国保組合は業種ごとに組織された保険組合のため、起業した事業によって加入可能な国保組合が決まります。
例えば主に開業医で組織される「医師国保組合」、建築関連で、かつ小規模な事業所で組織される「全国土木建築健康保険組合」などがあります。
加入の際は組合に直接届け出ます。
法人の医療保険
「法人、もしくは常時5人以上の従業員を雇用している個人事業所」については、健康保険・厚生年金へ加入義務があります。つまり、法人であれば従業員の有無にかかわらず、健康保険・厚生年金に加入するのが原則です。
法人事業所を管轄する年金事務所に「健康保険・厚生年金保険新規適用届」を提出して加入します。事業所が健康保険、厚生年金保険に適用されることになった場合、事実発生から5日以内の申請が必要です。
個人事業主と同様に、健康保険に加入すれば介護保険にも同時加入となります。しかし、加入後に被保険者やその扶養家族が40歳に達したときは、法人は遅滞なく「介護保険適用除外等該当・非該当届」を管轄の年金事務所に届け出ます。
例外として、役員報酬がゼロであったり、保険料以下の金額であったりする場合は、健康保険には加入できません。この場合は個人事業主と同じ取り扱いとなります。
個人事業主 | |||
---|---|---|---|
名称 | 国民健康保険 | 任意継続被保険者制度 | 国保組合 |
加入期限 | 原則14日以内 | 20日以内 | 国保組合による |
相談窓口 | 住所のある市区町村の国民健康保険担当課 | 住所のある市区町村を管轄する全国健康保険協会 | 国保組合 |
法人 | |
---|---|
名称 | 健康保険 |
加入時期 | 5日以内 |
相談窓口 | 日本年金機構 |
従業員がいない場合 | 0人でも加入 |
申請時期や必要書類:年金編
個人事業主の年金
国民年金保険に加入します。
住所のある市区町村で加入手続きはできます。持参書類は、国民健康保険と同じく退職日が分かる書類、および「年金手帳か基礎年金番号通知書」を持参します。
法人の年金
法人の年金制度は健康保険とほぼ同じで、原則として「厚生年金保険」に加入します。申請は健康保険と合わせて行います。
個人事業主 | 法人 | |
---|---|---|
名称 | 国民健康保険 | 厚生年金保険 |
加入時期 | 退職から14日以内 | 5日以内 |
相談窓口 | 住所のある市区町村 | 日本年金機構 |
従業員がいない場合 | – | 0人でも厚生年金に加入 |
補足ですが、起業者の世帯主が厚生年金・健康保険加入者であれば、世帯主の扶養家族になることも可能です。扶養要件として年収130万円未満であることがもとめられますが、起業初年度の収入があまり多くない場合は検討の余地があるでしょう。扶養家族となる場合は世帯主の勤務先を通じて手続きを行います。
申請時期や必要書類:労働保険編(雇用保険と労災保険)
従業員の雇用保険と労災保険
法人、個人事業主に関わらず、従業員を1人でも雇ったら労働保険加入の可能性が生じます。雇用保険と労災保険で加入要件が変わってくるので注意します。
*雇用保険の保険者
一定の条件を満たした労働者が加入対象となります。パートタイマーを含む一般の労働者であれば、加入要件は次の通りです。
【加入要件1】 雇用期間
・期間の定めがなく雇用される場合
・雇用期間が31日以上である場合など
【加入要件2】 労働時間
・1週間の所定労働時間が20時間以上
双方の要件を満たした労働者が対象となります。該当する労働者を雇用する際は、ハローワークへ続きを行います。初回の時は事業所を管轄するハローワークに「事業所設置届」、「雇用保険被保険者資格取得届」を届け出ます。
*労災保険の保険者
短時間労働者を含む全ての労働者が対象となります、労災保険は「「労働保険保険関係成立届」を事業開始日から10日以内に働基準監督署へ届け出ます。
雇用保険 | 労災保険 | |
---|---|---|
起業者本人 | 個人事業主・法人ともに加入不可 | 特別加入あり |
従業員がいない場合 | 手続き不要 | 手続き不要 |
加入時期 | 事業開始の翌日から10日以内 | 事業開始から10日以内 |
雇用者の加入要件 | 要件を満たした労働者 | すべての労働者 |
相談窓口 | 事業所を管轄するハローワーク | 事業所を管轄する労働基準監督署 |
起業者と労働保険
労働者の社会保険ですので、原則として個人事業主・法人代表者は加入できません。ただし、労災に関しては例外的に加入できることがあります。これを特別加入といいます。業種や法人規模によって加入の可否が分かれますので、事業所を管轄する労働基準監督へ確認しましょう。
起業後に社会保険へ加入しないと起こるリスク
法人の義務である社会保険への加入ですが、起業後に加入しないと次の3つのリスクがあります。
起業後すぐは慌ただしいこともありますが、どれも経営する上で大きなリスクになるため、忘れずに社会保険へ加入しましょう。
強制加入で最大2年間分の保険料が徴収される
社会保険加入は法人の義務のため、未加入のまま放置すると強制加入になり、最大2年間分の保険料を納めることになります。
強制加入になるまでの段階を紹介するので、早めに社会保険へ加入しておきましょう。
会社を設立してからしばらく経っても社会保険に加入していないと、年金事務所から加入要請が届きます。
それでも加入要請に応じないでいると、警告文書が届き、訪問指導によって保険への加入が求められます。
ここまでは加入を求めるに留まりますが、最終的には職員が立入検査を行い被保険者の資格の有無を確かめたのち、強制的に社会保険へ加入させられます。
立入検査では、健康保険・厚生年金・労働保険に関するすべての領収証、賃金台帳、労働者名簿などが確認されるでしょう。
立入検査を事業主が妨げてはならず、質問には必ず答えなくてはならないという受忍義務があります。
そのため、もし立入検査の時間に重要な仕事があったとしても、拒否はできません。
立入検査の結果により、過去最大2年間にさかのぼって社会保険料を納めます。
助成金・補助金が受給できない
助成金や補助金のほとんどは、雇用保険適用事業者であることが受給条件です。
そのため、社会保険未加入の状態では、利用できる助成金や補助金が限られることになります。
助成金や補助金は原則返済不要のものが多く、起業して間もない経営が安定しない時期には申請できると経営の支えになります。
公的な支援である助成金や補助金が起業したばかりの頃に利用できないことは、大きなリスクです。
悪質なケースは罰則・罰金が科せられる
社会保険へ加入せず放置したり立入検査の拒否や妨げたりした場合、悪質とみなされると罰則が適用になることがあります。
被保険者の資格の取得や喪失があったとき虚偽の報告をした、社会保険料に関することで故意に嘘の報告をした、といった場合も悪質なケースとみなされます。
6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金を科せられることがあるので、社会保険の加入を忘れていた場合は、気づいたときすぐに加入手続きをとりましょう。
社会保険について知ることも起業準備の一環と考えよう
起業すると、各種の社会保険手続きを所定の期日までに行わなくてはなりません。
「個人事業主か法人」か、「自身の加入なのか従業員なのか」など、事業所の立場や加入者によって要件が異なるので注意が必要です。
疑問があれば申請窓口に相談するのが一番ですが、手続き期限などがあるため起業前から社会保険について知っておくことが大切です。
しっかり準備し、起業したら適切に手続きをすすめていきましょう。
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また、起業前後のスケジュールが確認できる創業カレンダーでは、今すべきことが確認できます。日付を記入できるようになっていますので、ぜひ自分だけの創業カレンダーを作ってみてください。
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(編集:創業手帳編集部)