前向きな廃業の仕方とは?経営者保証ガイドラインを活用して個人破産を防ぐ方法

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経営者保証ガイドラインによる債務整理で、個人破産せずに廃業する方法を弁護士が解説

(2020/05/03更新)

事業をしているといつも順調というわけにはいきません。経営者は会社の存続と発展をつねに目指すものですが、残念ながら途中で廃業を選ばざるを得ないこともあります。廃業と聞くと、言葉についてまわる負のイメージが強いでしょう。しかし、廃業を上手にソフトランディングできれば、再起へのステップと捉えることもできるのです。
そこで、経営者が個人破産せずに廃業のソフトランディングを実現する方法を、専門家である大西雄太弁護士が解説します。

大西雄太(おおにし ゆうた)大西綜合法律事務所弁護士
慶應義塾大学法学部法律学科(2004年3月卒)
慶應義塾大学法科大学院(2006年3月卒)
2008年1月~2011年12月西村あさひ法律事務所
2011年4月~東京弁護士会法曹養成センター副委員長
2012年4月~慶應義塾大学法科大学院助教
2014年度日本弁護士連合会代議員・東京弁護士会常議員
2014年4月~品川区法律相談員
2016年4月~慶應義塾大学法科大学院 非常勤講師
2019年4月~東京弁護士会法曹養成センター委員長代行
2019年6月~日弁連中小企業法律支援センター委員(事業再生PT副座長)

個人版私的整理ガイドライン運営委員会 幹事・嘱託弁護士
中小企業基盤整備機構関東本部 事業承継コーディネーター
ヒューリックプライベートリート投資法人 監督役員
一般民事、事業承継、倒産・事業再生を主な取扱分野とし、近時では、経営者保証ガイドラインを活用した企業支援に力を入れている。東京弁護士会所属。

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「廃業」を再チャレンジにつなぐために

「廃業」と言うと、あまりイメージが良くないと思われる人もいるかもしれません。ただ、「廃業」は「創業の契機」とも言え、再チャレンジのチャンスと考えることができます。

事業が上手くいくことが何よりも望ましいですが、上手くいかない場合もあります。とくに最近は新型コロナウイルスなど社会の環境変動が激しく、資金繰りに厳しくなっている会社が増えてきています。

もちろん、様々な施策や金融機関等との話し合いにより、事業が今までどおりに継続できるのであれば、それに越したことはありません。

しかし、色々な対応策を練っても、どうしても乗り越えられない壁がある場合に、無理をして事業を継続することによって、再チャレンジする際に悪影響が出てしまう場合もあります。

したがって、廃業は、次の創業につながるアクションとして、前向きに捉えるべき場合もあるのです。そして、前向きな廃業に有用な制度が「経営者保証ガイドライン」(平成25年12月公表)です。

経営者保証ガイドラインを使って前向きな廃業を

通常、多くの中小企業の経営者は、会社の借入金について、連帯保証をつけています。連帯保証していることから、個人破産によって「自宅を失ってしまうのではないか」「信用情報(ブラックリスト)に載ってしまい、再チャレンジが難しいのではないか」と悩んでいる人も多いでしょう。

たしかに、会社が破産するときに、連帯保証人である社長も破産してしまったら、自宅を含め、財産の多くを失ってしまうことになり、信用情報(ブラックリスト)にも載ってしまいます。

ところが、平成26年2月施行の「経営者保証ガイドライン」を活用すれば、会社が破産しても、社長が個人破産せずに、しかも自宅を含め個人破産よりも多くの財産を残して個人保証の問題を解決することが可能な場合があります。

経営者保証ガイドラインとは?

経営者保証ガイドラインとは、正式には「経営者保証に関するガイドライン」といいます。平成26年2月から施行されているもので、まだまだご存じでない人も多いと思います。法律ではありませんが、中小企業団体及び金融機関団体共通の自主的自律的な準則として、遵守が求められています。

経営者保証ガイドラインを用いて、経営者の個人保証債務を整理する際の3つのメリット

①個人破産しないで済む

経営者保証ガイドラインでは、経営者の保証債務について、破産以外の方法で整理することを認めています。個人破産しないで済むということは、大きなメリットですよね。

②ブラックリスト・官報に載らない

経営者保証ガイドラインは、経営者の再チャレンジを後押しするためにできた制度なので、保証債務を整理した際に、信用情報(ブラックリスト)に載らないようになっています。官報にも載りません。

破産してしまうと、当然、ブラックリストや官報に載ってしまって、クレジットカードが使えなくなるなどの不都合がありますが、経営者保証ガイドラインを使えば、その不都合が解消されます。

③自宅を残せたり、個人破産よりも多くの財産を残せる場合がある

会社と一緒に、経営者も破産するとなると、経営者が所有している自宅不動産等も破産管財人によって売却されることが一般的です。ところが、経営者保証ガイドラインを利用して債務整理では、一定の条件を満たせば、自宅を残せたり、破産よりも多くの財産を残すことが可能な場合があります。

例えば、住宅ローンが残っていて、オーバーローンつまり住宅ローン債務額より不動産価格が低い場合には、そのまま住宅ローンを払い続けることも可能です。また、住宅ローンがない場合には、不動産価格を長期分割して弁済することによって、自宅を残すという計画を立てることも可能です。

自宅以外でも、破産では原則として99万円までしか残せませんが、経営者保証ガイドラインを利用した場合、ケースによりますが、数百万円単位で残すことができる場合があります。

実際に個人保証債務の整理を行った事例

では、実際にどのような事例があるのでしょうか。
私が扱った事例は複数ありますが、例えば、以下のような事例を扱いました。

  • 住宅ローン付きの自宅をそのまま残して居住を継続できた案件
  • 預貯金を450万円程度残した案件
  • 債権者に全く弁済せずに成立した案件(ゼロ弁済)
  • 保証債務以外の経営者の個人ローンを含めて債務整理した案件

まとめ

今回は、前向きな廃業のひとつの手法として、経営者保証ガイドラインによる保証債務の整理について、説明いたしました。

もし、会社をやむなく廃業(破産)させることを考えていて、経営者の個人保証がネックになっている場合には、経営者保証ガイドラインによる保証債務の整理を検討してほしいと思います。

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