「後継者問題のイメージを変える!」”社団法人ベンチャー型事業承継”が発足 山野千枝代表理事が設立背景を語る:創業手帳独占取材

創業手帳
※このインタビュー内容は2018年06月に行われた取材時点のものです。

新しい「アトツギ支援」のあり方

実は今、日本では「企業の後継者不足」が問題となっています。
安藤久佳 中小企業庁長官が、平成30年度の年頭所感において、「現状を放置すると、中小企業・小規模事業者廃業の急増により、2025年頃までの10年間累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性がある」と述べています。つまり、中小企業の後継者不足が解消されないと、日本の経済が大ダメージを受けるということです。

一方で「中小企業の後継者」というと、スタートアップのような若者を惹きつける魅力にどうしても乏しい面があります。そんな深刻化する中小企業の後継ぎの在り方を一新するべく、「一般社団法人ベンチャー型事業承継」が、2018年6月25日に発足しました。官民さまざまな組織と連携し、中小企業の後継ぎになる若者を支援することを目的とする組織です。

発起人で代表理事を務めるのは、千年治商店の代表取締役で、大阪イノベーションハブや、経済産業省 近畿経済産業局 Next Innovation、大阪産業創造館などで多くの中小企業、起業家支援をしてきた山野 千枝さん。

今回は、そんな山野さんに、「一般社団法人ベンチャー型事業承継」が設立された経緯についてお伺いました。

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山野 千枝(やまの ちえ)
公財)大阪市都市型産業振興センター 広報担当フェロー
大阪産業創造館・大阪イノベーションハブ チーフプロデューサー/元Bplatz 編集長

1969年生まれ、岡山県出身。専門はファミリービジネスの事業承継、広報ブランディング。1991年関西学院大学卒。ベンチャー企業、コンサルティング会社を経て、大阪市経済戦略局の中小企業支援拠点「大阪産業創造館 」の創業メンバーとして2000年より参画。広報主幹、事業部長などを歴任。また2001年の創刊以来、ビジネス情報紙「Bplatz」の編集長として、多くの経営者取材に携わる。関西圏の大学で、親が商売を営む学生を対象に「ガチンコ後継者ゼミ」を主宰し、教鞭をとる。

2016年には、会社の歴史を活用した採用ブランディングや社史制作を手掛ける株式会社千年治商店を設立。また、近畿経済産業局のベンチャーエコシステム構築事業「Next Innovation」では、全国で初めてベンチャー政策の対象に中小企業の若手後継者を定めたアクションプランを提言。「ベンチャー型事業承継」の伝道師として国や自治体と協力し、言葉と定義を日本に定着させるために奮闘中。

「存続力は競争力」をテーマに講演実績も多数。アセアンの経営者を対象に日本の長寿企業文化についての研修などを通して、永続経営の価値を広く伝えている。

後継ぎのイメージを変えたかった

ー「一般社団法人ベンチャー型事業承継」を設立した経緯について教えてください。

山野:私は今まで、中小企業の支援をしてきました。後継者不在の問題はありますが、そういう中で感じたのが、今までの「事業承継」・「第2創業」・「経営革新」という用語で語られるイメージがどうしても古く、昭和な感じがするということです。

起業のように、20代の若い世代が、主体性をもって希望をもってチャレンジするというイメージが無いのです。
むしろ、継ぐ方も「家業を仕方がないから継ぐ」、継がせる方も「あまり無理強いできない」という受け身、後ろ向きなイメージがありました。

そんなイメージを変えたくて、「一般社団法人ベンチャー型事業承継」を設立しました。

「アトツギ」が家業をトランスフォームする

ーユニクロも、山口の小さな洋品店を受け継いだ柳井 正氏が大きくしたわけですよね。創業手帳でも、家業をベースに、新事業を起こすような方の事例の取材も増えています。

山野:「アトツギ」という立場は可能性があると思います。どんなに斜陽産業でも、経営資源がすでにあるんですから。

でも、アトツギ自身も、「ベンチャー型事業承継」ときいて、自分の未来がそこに開けているのか、そもそも自分が対象になりうるのか分からない。ですが、彼らは世間からベンチャーの卵としてみられてこなかっただけで、商売人の家に育ったというポテンシャルがすでにあります。ちょっとスイッチを入れてあげるだけで家業との向き合い方を変えることができるのです。

「ベンチャー型事業承継」とは、アトツギ自身が培ったスキルや得意なことを、家業の経営資源に掛け算して新規事業や業態転換を実現していくことです。アトツギ自身がやりたいことに家業を寄せていくといった考え方です。家業のリソース、基盤を使って新事業にチャレンジすれば、ゼロから起業するよりはるかに実現する可能性が高いわけです。

もちろん、先代との衝突、古参の社員との軋轢、負債など、アトツギならではの課題はたくさんあります。それでも、家業の経営資源を何とか価値にしたいと誰よりも思えるのは、家業が生み出した利益で大きくなったという自覚があるアトツギだと思います。

社会に必要とされる会社であり続けるために、事業をトランスフォームしていく。そんな彼らの使命感も含めて、カッコいいと思われる文化はあってもいい。
いま起業を考えている人の中には、親が商売をしているという人もいると思います。自分がやりたいビジネスに家業の経営資源で使えるものはないか考えてみてほしいんです。ベンチャー型事業承継は新しいアトツギの形であり、新しい起業の形でもありますから。

ー具体的にはどうやって実現していくのですか?

山野「一般社団法人ベンチャー型事業承継」は、健全な野心と健全な危機感をもって新しい挑戦をしようと考えているアトツギのためのプラットフォームになろうとしています。
団体が持つネットワークやノウハウを生かして、引き継ぎをされる経営者の方、後継ぎの方のためのサポートや支援を行っていきますが、特に教育には力を入れたいと思います。

例えば、ハッカソンのように家業の経営資源で新しいビジネスを考え倒す3日間耐久レース「アトツギソン」や、スタートアップのプレゼン大会のピッチのような「アトツギピッチ」という取り組みも行います。アトツギに「あなたたちはベンチャーの卵なんだよ」という発信をすることで、彼らの意識改革をするところからのスタートです。そこから本当にベンチャー企業として事業化を進めていく人には、資金調達、ブランディング、採用戦略など、アトツギベンチャーならではの課題を解決するメニューを提供していきます。

若い人を引き付けるベンチャーや起業のような新しいスタイル、ノウハウを取り入れ、従来の事業承継の枠を超えた、新しいアトツギ育成の在り方を作っていきたいと思います。

組織概要

組織名 一般社団法人 ベンチャー型事業承継
設立日 2018年6月
発起人 
山野 千枝

代表理事
山野 千枝(株式会社千年治商店 代表取締役)
堀尾 司(株式会社AllDeal 代表取締役)

理事
中山 亮太郎(株式会社マクアケ 代表取締役社長)
山田 岳人(株式会社大都 代表取締役社長)
顧問
山根 太郎(株式会社サンワカンパニー 代表取締役社長)
佐々木 大輔(freee株式会社 代表取締役CEO)
財前 英司(関西大学 梅田キャンパス スタートアップ支援マネージャー)
杉浦 佳浩(代表世話人株式会社 代表取締役)
前田 徹也(株式会社AllDeal  取締役会長)
古野 俊幸(株式会社ヒューマンロジック研究所 代表取締役)
松林 大輔(株式会社ストリートスマート 代表取締役)
稲田 将人(株式会社RE-Engineering Partners 代表取締役)
澁谷 剛(マルタスインベストメント株式会社 代表取締役)

事業内容
●若手後継者対象の研修事業
●若手後継者対象の新規事業開発支援
●若手後継者対象の事業化サポート
●ベンチャー型事業承継事例の発信
●ベンチャー型事業承継政策への提言

事務局
東京都千代田区神田錦町1-17-1 神田髙木ビル7F
TEL 03-5577-3234

(取材協力:一般社団法人 ベンチャー型事業承継 代表理事 山野 千枝)
(編集:創業手帳編集部)



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