スーツ 小松裕介|プロ経営者の経験をプロダクトへ。簡単に使える「タスク管理ツール」で経営を支援

創業手帳
※このインタビュー内容は2024年08月に行われた取材時点のものです。

経営は「組織作り」から。チーム業務の見える化とタスク管理の「凡事徹底」が黒字化の近道


株式会社スーツは、表計算ソフトのような操作でチームの業務を「見える化」し、タスクの抜け漏れや期限遅れを防ぐタスク管理ツール「Suit UP」を展開しています。

代表の小松さんは、ソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現:伊豆シャボテンリゾート株式会社)に新卒で入社し、10年弱で代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導いたにもかかわらず、敵対的買収によって解任されるという紆余曲折なキャリアの持ち主です。

今回はそんな小松さんに、起業までの経緯や企業を黒字化に導く方法、Suit UPの詳細などをお伺いしました。

小松 裕介(こまつ ゆうすけ)
株式会社スーツ 代表取締役社長CEO
2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、東証スタンダード上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。
2014年12月に当社の前身となる株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より、総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師登録。2019年6月より、国土交通省PPPサポーター。
2020年10月に大手YouTuberプロダクションの株式会社VAZの代表取締役社長に就任。月次黒字化を実現し、2022年1月に上場会社の子会社化を実現。
2022年12月に、株式会社スーツを新設分割し、当社設立と同時に代表取締役社長CEOに就任。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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20代で上場会社役員となり会社を黒字化するも、敵対的買収で追い出された「奇跡のキャリア」!?


大久保:新卒でリゾート会社へ入社されたんですよね。

小松:実は、新卒で入社した会社は上場会社で、元々「リング」や「らせん」といった映画の製作を手がけていました。映画の仕事がしたくて就職したんです。

ところが僕が就職した2004年ごろは、多くの映画会社が倒産しているようなタイミングで。僕が入社した会社は、事業の多角化で生き残りを図り、その一環としてシャボテン公園をM&Aして立て直しをすることとなり、リーマンショック後になりますが僕はその担当になりました。

大久保:映画業界とシャボテン公園は、かなり違う業態のイメージですが・・・。

小松:エンターテイメント事業という枠組みの中でM&Aを検討した結果、会社として「レジャーも、大きく捉えればエンタメだ」と考えたんです。

映画の製作は、映画が公開されるまで売上が立ちません。つまり、会社にとっては何年もひたすらお金が出っぱなしの状態が続くんです。

一方で、シャボテン公園のようなレジャー事業は毎日、現金収入がありますから、映画製作と違ってキャッシュ・フローが安定しますよね。そこで、シャボテンを再生案件としてM&Aしたわけです。

大久保:映画会社に入社されたのに、実際に担当された仕事は企業再生だったんですね。

小松:事業ポートフォリオの組み直しをしなければならないタイミングで入社をしまして、たまたま僕は興味の幅が広かったので、M&Aや企業再生を担当させてもらったという流れです。

大久保:その後、7年ぶりの黒字化を達成するなど、会社の立て直しに成功されています。にもかかわらず、なぜ会社を辞めて起業をしようとお考えになったのでしょうか?

小松:実は、自分から会社を辞めたわけではありません。敵対的買収で追い出されたんです。

サラリーマンとして新卒で入社したため会社の株を持っていなかったので、投資家に株を買い占められてしまって。31歳のときでした。

大久保:新卒で入った会社で、20代半ばから上場会社の役員としてシャボテン公園を再生させて、さらに黒字化まで達成したのに追い出されるなんて・・・。若いころから驚くような経験をされていますね。

小松:新卒の会社で社長になって解任されましたから転職はしていません。「奇跡のキャリアだよね」とよく言われます。

企業再生は「組織をちゃんと作ること」からスタート


大久保:企業再生について一連の流れを教えていただきたいのですが、業種・業態によって違いますか?

小松:同じです。どのような会社であっても、アプローチは決まっています。組織をちゃんと作る、マネジメントシステムをしっかり作る、これだけです。

組織作りさえできれば、赤字の会社であれば黒字にすることや、利益が出ている会社であれば1億円ぐらいまで利益を伸ばすことは、そう難しくありません。

大久保:各業種・業態は会社によって千差万別ですが、経営自体はそれほど変わらないということでしょうか?

小松:そうですね。経営に業種や業態はほとんど関係ありません。僕はさまざまな業種や業態の企業再生に20年間にわたって取り組みましたが、やってきたことはすべて同じなんです。

どんな会社も抽象度を高めて見てみると、ビジネスモデルをどう作るか、その場にいる人にどう効率よく協力して働いてもらうかが重要ですから。

大久保:組織をちゃんと作るには、何から始めたらいいのでしょうか?

小松:最初に着手するのは、組織を整備して、コミュニケーションができるような環境を整えて、みんなが何をやってるのかをわかるようにすることです。

会社の透明性が高くなれば、社内政治などでどんなにぐちゃぐちゃになっている会社であっても、物事が流れ始めます。

プロ経営者の友達ともよく話すのですが、経営はとにかく「凡事徹底」です。当たり前のことを当たり前にできれば黒字になります。

大久保:ですが、企業風土ってなかなか変わりませんよね。

小松:時間はかかりますね。企業風土を変えるには3年から5年ぐらいかかります。

大久保:それでも企業風土の改善が再生の近道なのでしょうか?

小松:近道ですね。企業再生の世界は、経営再建をする会社のビジネスモデル自体は使い古されたもので、既に確立しています。

だからベンチャーやスタートアップとは違って、売る商品・サービスやビジネスモデルの差別化よりは、どう効率よく今いる人たちに働いてもらうかの戦いになります。

プロ経営者として「10年以上してきたこと」をそのままプロダクトへ


大久保:起業されるまでの経緯をお伺いできますか?

小松:新卒で入った会社で僕がやっていた仕事は、中小や中堅会社のバリューアップでした。

M&Aもそうですが、その後の会社成長にも携わったので、それを仕事にしようと考えて2014年に立ち上げたのが株式会社スーツです。

大久保:会社立ち上げ後は順調でしたか?

小松:幸いなことに、10年前は中小や中堅会社のバリューアップを仕事にしている人はあまり多くなかったんですよ。今でこそ黒字の会社を事業継承するM&Aも活況ですが、10年前の中小や中堅会社の世界では赤字の会社をバリューアップする案件も数多くありました。

そのため競合する会社も少なく、知り合いからクライアントを紹介してもらって、経営者と近い距離でどっぷり入り込んで企業価値を上げる仕事をしていました。

大久保:今は企業再生だけでなく、プロダクトを作る方向にも進まれていますよね。

小松:プロダクトを作ろうと思ったのは、ヒカルやスカイピースなどが所属していたYouTuberプロダクションの株式会社VAZの経営再建後ですね。

スーツの立ち上げ後しばらくして高校の友達から、「投資先の学生起業家を助けてほしい」と紹介されたのが創業直後のVAZでした。VAZが創業した2015年当時はインフルエンサーマーケティングの黎明期でした。

私は顧問としてファイナンス等を主導したのですが、ソニーミュージックエンタテインメントさん、ホリプロさんなど名だたるエンターテイメント企業にご出資いただき、著名なYouTuberに所属してもらって大きく事業規模を拡大することができました。

そこで「スタートアップって面白いな」と思い、成功報酬でスタートアップの支援も始めました。

大久保:VAZの代表取締役社長にも就任されていますよね。

小松:VAZの経営に携わり始めてしばらくすると、コロナ禍に入ってしまったんです。この頃には、YouTuberプロダクションというビジネスモデル自体が傾いているような状態でした。そのタイミングで創業者から「先行きが不透明で自分では経営再建できません」というお話があり、僕が代表として立て直しをすることになりました。

その後は、先ほどの通り、当たり前のことを当たり前にできるように組織を作り直し、おかげさまでVAZは黒字化し、上場会社の子会社となりました。

大久保:ビジネスモデルに問題があるとまで言われていても、組織作りさえしっかりすれば黒字になるんですね。

小松:どんなビジネスでも、組織作りが土台にありますからね。

そしてVAZの立て直しが完了をしたころに、ふと「僕はひたすら同じことをやっているな」と思いました。だから、同じことをしているならばシステム化すればより多くの会社を助けることができる、企業再生でいつも自分がしていることをプロダクトにしようと決心したんです。

大久保:プロ経営者として実践されてきたことをプロダクト化しようと。

小松:もちろん、プロ経営者としてしていることすべてではなくて、「チームとしてどう働くか」という部分に特化した簡単なタスク管理ツールを作ろうと考えました。

僕はこれまで、ビジネスモデルも素晴らしくて資金調達もできているのに、「チームや組織をうまく作れなくて経営不振に陥る会社」をたくさん見てきました。

スタートアップでも中堅企業でも、うまくいかない会社は、とにかくチームなのに仕事の効率がとても悪いんです。

そこで、「組織やコミュニケーションの設定ができてチームのタスク管理を簡単にできるようにしよう」と作ったのが「Suit UP」です。

目指したのは「とにかく簡単に使える」タスク管理ツール


大久保:Suit UPについて詳しく教えてください。

小松Suit UPは「Excelのインターフェースを持ったタスク管理ツール」です。

大久保:表計算ソフトのExcelですか?

小松:はい。実はタスク管理ツールとして圧倒的なマーケットシェアを占めるのは、Excelなんですよ。

でも、例えばExcelにはタスクの期限の抜け漏れを防ぐのに必要な「期限が近づくとリマインドを送る機能」などはありませんよね。だから、リマインド通知を自動で飛ばせるExcelのようなインターフェースを持ったタスク管理ツールにしようと考えました。

こだわったのは、とにかく簡単に使えること。Suit UPを縦スクロールだけにしたのも、使いやすさを追求した結果です。

大久保:Excelのような見た目なので、初めて触る人も使うハードルを感じませんね。

小松:そうなんです。独自のインターフェースだと、まず「使い方を覚える」のが大変ですからね。Suit UPは、オンボーディングに時間をかけない、かからないようにしています。

大久保:Suit UPは、期限通知を飛ばす以外にも独自の機能はありますか?

小松:組織図やスタッフを設定して簡単にチームを作れます。タスクの担当者や期限をチーム全員で確認できるので、タスクそのものや期限の抜け漏れが発生しにくくなります。

また、「タスク雛型」が約3,000種類入っている点も特徴です。例えばタスク設定時に「SEO」と入力するだけで、画面の右側にSEO業務で必要となるタスクの一覧が表示されるんです。

大久保:初めての業務で何をすればいいかわからないとき、タスク雛型があれば助かりますね。

小松:そうなんです。中小企業だとタスクの設定自体に時間がかかったり、タスクの設定に抜け漏れが発生したりしますよね。

僕は中小・中堅企業の「業務の標準化」をしたいと考えていて、Suit UPにタスク雛型機能を加えました。

大久保:タスク雛型はどのように作成されたのでしょうか?

小松:AIで作成したものと、経営コンサルタント、弁護士や会計士といった専門家に作っていただいたものがあります。

例えば、上場準備やIPO準備に必要なタスク雛型も全部で500ほど入っていますが、その雛型を作成してくれたのはIPOコンサルで日本トップクラスの実績を持つ株式会社タスクさんです。

IPOのタスク雛型を使っていて何か困ったことや相談したいことがあれば、そのままタスクさんに外注できる仕組みにしています。

大久保:タスクさんだけでなく、さまざまな専門家に相談できるのでしょうか?

小松:おっしゃる通りです。IPOならタスクさん、ストックオプションならプルータス・コンサルティングさん、というように分野によって相談先は代わりますよ。

起業・開業のタスク雛形でスタートアップをスムーズに


大久保:起業・開業のタスク雛型も追加されたんですよね。

小松:今年の7月に追加しました。開業前のビジネスモデルの立案だけでなく、オフィスの選定を含めた開業までに必要な手続きや、アクセラレータープログラムなどの開業支援の活用方法など、必要なタスク雛型を用意しています。

雛型の数としては、届出関係含めて300ぐらいになりますね。

大久保:経営に慣れている人なら開業手続きも抜け漏れなくできるかもしれませんが、初めての人には難しいですからね。

小松:そうなんです。さらに、初めて起業する方もそうですが、中小企業の方はその業務そのもの・概念を知らないため、そもそもネットで検索できないという問題もあります。

大久保:中小企業コンサルの方々が、その点をフォローしているわけですよね。

小松:おっしゃる通りです。僕たちのツールでもタスク雛型を通じて経営者に選択肢を提示できるようにすれば、中小企業の可能性を広げられるのではないかと考えて、たくさんのタスク雛型をご用意しています。

月額500円!スタートアップや中小企業に使ってもらえる価格帯


大久保:Suit UPの価格を教えていただけますか?

小松1人あたり10人以下の利用だと月額500円、11人以上の利用だと月額1,080円です。

大久保:かなり安いですね。

小松:特にスタートアップや中小企業の方々に使ってもらいたいと思っているので、安い価格帯で提供しています。

大久保:先ほど中小企業コンサルのお話もありましたが、Suit UPが広がるとそういった中小企業コンサルの仕事がなくなるわけではないんですよね。

小松:そうですね。タスク雛型機能を通じて経営者にやるべき業務の提示をすることになりますが、タスクそのものがなくなるわけではなく、むしろその先にプロフェッショナルとしての仕事があるイメージです。

日本を代表するタスクさんやプルータスコンサルティングさんなどがタスク雛型を作ってくださっていることにもつながるのですが、タスクの項目1つ1つの実行こそがプロの仕事になるんです。

大久保:タスク雛型のその先は、専門領域なんですね。

小松:Suit UPがしているのは、業務でいうとプロジェクトマネジメントの「工程管理の見える化」です。その先、つまりタスクの実行において、もし社内でそのタスクが実行できないようならば、専門家の力を借りる必要が出てきますね。

大久保:Suit UPを利用している企業はどれくらいいますか?

小松:4月にβ版になって今までで100社程度です。中小企業が中心ですが、上場会社や50名くらいの会計事務所さんでも使ってもらっています。特に会計事務所は業務が定型化されているので、タスク雛型によって業務の効率化ができると評判も上々です。

Suit UPをオペレーション改善の基礎ツールにしたい


大久保:Suit UPで目指す将来をお伺いできますか?

小松:大きく2つあります。1つ目は「タスクの見える化」をすることで、Suit UPをオペレーション改善の基礎ツールにしたいと考えています。

タスクの見える化ができて、誰が何をやってるのかがわかると、「この仕事に時間をかけすぎているんじゃないか」「2つの部署で同じことをやっているから、1つにまとめた方がいいんじゃないか」など、オペレーションの課題も見えるようになります。

中小企業は大企業の3分の1ほどしか生産性がないと言われていますから、Suit UPでオペレーションを改善することで、生産性の向上にもつなげたいですね。

2つ目は、Suit UPを職務経歴として活用できるようにすることです。

Suit UPでは、ユーザー個人が「どのようなタスク」を「どれくらいこなしているのか」がわかります。

すでに機能として実装していますが、タスク量だけでなく、タスク設定のし直し率や、期限に間に合ったかどうかなども、個人単位・部署単位で統計データが取れるんです。

Suit UPのユーザーを増やしていくことで、それらのデータを「より精度の高い職務経歴書」として活用してもらいたいと考えています。

大久保:最後に、読者へ伝えたいことを教えてください。

小松:会社経営においては、「一緒に働く仲間を効率よくマネジメントすること」「組織を作ること」が大切だということを知っていただきたいですね。

もちろんスタートアップであれば、革新的なビジネスモデルかどうかといったところが最も重要になるかもしれません。

一方で、一般的な起業や開業であれば、従来のビジネスモデルを踏襲する方も少なくないですよね。もしそうであれば、一緒に働く人に「どう効率よく働いてもらうか」も考えていただければと思います。確実に良い会社にすることができると思います。

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(取材協力: 株式会社スーツ 代表取締役社長CEO 小松裕介
(編集: 創業手帳編集部)



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