奨学金返済を企業が肩代わり!そのメリットとは?「奨学金返還支援制度」の仕組みと導入方法も解説
若手人材の確保のために「奨学金返還支援制度(代理返還)」が注目
奨学金返還支援(代理返還)制度とは、企業が従業員の奨学金を代わりに返済する制度です。2021年より企業が日本学生支援機構へ直接返済できる制度が始まり、昨今は導入する企業が増えています。
従業員にとっては返済負担を軽減できる経済的メリットがあり、企業としては福利厚生の充実化により自社の魅力を高められます。その結果、人材採用や人材定着で有利になるでしょう。
今回は、奨学金返還支援(代理返還)制度の仕組みや導入するメリット、制度導入後に若手人材のモチベーションを向上させるコツなどを解説します。人手不足で悩んでいる事業主の方に役立つ内容となっているので、ぜひ参考にしてみてください。
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この記事の目次
奨学金の返済を企業が肩代わりするとは?
福利厚生の一環として、企業が従業員の奨学金返済を肩代わりする制度があります。名称は「奨学金返済支援制度」や「学資返済支援制度」などさまざまですが、いずれも企業が従業員の奨学金の全部または一部の返済を支援する仕組みです。
具体的には、給与への上乗せや別途手当として支給し、奨学金の返済を支援します。毎月の支援額や支援期間は、企業によって任意に決められます。
また、2021年4月から「奨学金返還支援(代理返還)制度」が始まりました。この制度を活用すれば、企業が直接日本学生支援機構へ返済できます。制度そのものの利便性が高まり、昨今は注目が高まっています。
企業が奨学金返還支援(代理返還)制度を導入するメリット
「企業が従業員の奨学金返済を肩代わりする」という制度は、奨学金を抱えている従業員にとって魅力的なはずです。
従業員本人だけでなく、企業側にもメリットがあるため、具体的に見ていきましょう。
若手人材の採用で有利になる
奨学金返還支援制度を導入することで、企業としての魅力が高まります。その結果、若手人材からの応募が増えて、他社よりも採用面で有利になるでしょう。
特に、奨学金の返済を抱える若手人材にとって、企業が返済の一部または全部を肩代わりしてくれる制度はありがたいはずです。一般的に、奨学金の返済額は毎月数万円となるため、経済的負担を軽減してくれる企業は魅力的に映るでしょう。
昨今は、応募先企業を選定する際に、福利厚生の充実度を重視する若手人材が増えています。奨学金返還支援制度があれば「従業員を大切にしている企業」「この企業なら長く働ける」という印象を与えられ、若手人材から選ばれやすくなるでしょう。
若手人材の職場定着を推進できる
奨学金返還支援制度の導入は、採用だけでなく職場定着にも効果的です。経済的なインセンティブはもちろんですが、従業員を大切にする企業は従業員の帰属意識が高まり、結果的に長期的な勤続につながりやすいでしょう。
奨学金の返済は、若手社員にとって大きな経済的負担です。企業が返済を支援することにより経済的不安を軽減でき、就業継続意欲が高まるでしょう。
あわせて、従業員に対してキャリア支援の計画を具体的に伝えることで、長期的に働く意欲を持ってもらえます。これにより、結婚や出産などのライフイベントが起きても、離職することなく復帰を促せるでしょう。
人材定着が促進され離職率が低下すれば、新たに人材を雇う際の採用コストや採用後のトレーニングにかかるコストを削減できるメリットも期待できます。「若い人材を採用しても、すぐに辞めてしまう」という悩みを抱えている事業主の方にとって、奨学金返還支援(代理返還)制度は有用な制度といえるでしょう。
税金と社会保険料を節約できる
企業が従業員に代わって肩代わりした返済額は、損金に算入できます。法人税の課税対象所得を軽減できるだけでなく、また「賃上げ促進税制」の対象になるため、さまざまな税制メリットを受けることが可能です。
なお、従業員にとっても、企業が支払った返済額には所得税がかかりません。つまり、支援を受けても、納税額が増えません。
さらに、返還金は社会保険料の算定基礎となる報酬には含まれません。社会保険料は労使折半であるため、「手当として支給する場合」と比較すると、労使ともに社会保険料の負担を抑えられるメリットがあります。
企業の知名度・イメージがアップする
奨学金返還支援(代理返還)制度を導入すると、日本学生支援機構のホームページに掲載されたり、日本学生支援機構から専門学校や大学などへ紹介を支援してもらえたりする可能性があります。
多くの人の目に留まることで、応募につながりやすくなり、優れた人材を採用できる可能性が高まるでしょう。
これにより、「奨学金の返済を肩代わりしてくれる企業」として、徐々に企業の知名度やイメージがアップする期待が持てます。企業価値を高めるのはもちろん、社会的なプロモーションとしての効果も期待でき、信用の獲得につながります。
企業が奨学金返還支援(代理返還)制度を導入するときの留意点
奨学金返還支援(代理返還)制度の導入にあたって、いくつか留意すべき点があります。制度導入後に混乱しないために、知っておくべき点を解説します。
求償権の行使はできない
奨学金の「代理返還」は、福利厚生制度の一つです。民法上の代位弁済とは異なり、企業が従業員に代わって奨学金を返還しても、求償権の行使はできません。
つまり、従業員に対して「代わりに弁済したのだから、当該金額を返してほしい」という返還を求めることは、原則としてできません。
役員給与や使用人兼務役員は損金不算入となる
国税庁によると、役員の学資に充てるために支給する費用は非課税対象になりません。そのため、奨学金返還の対象者が役員である場合は、返済額が所得税の課税対象となる可能性があります。
また、返還額は原則として報酬に含まないものの、給与規程により「給与に代えて奨学金返還を行う」旨が規定されている場合は報酬に含みます。
返還期限猶予中・減額返還中は返還支援ができない
奨学金の返済について、返還期限猶予中または減額返還中は、事業主による返還支援ができません。
返還期限猶予中の従業員の返還支援を希望する場合は、従業員が「奨学金返還期限猶予短縮願」を提出する必要があります。減額返還中の場合は、「返還期限猶予・減額返還短縮願」を提出する必要があります。
なお、いずれも提出先は日本学生支援機構です。
制度導入後に若手人材のモチベーションを向上させるコツ
奨学金返還支援(代理返還)制度を導入することにより、自社の魅力を向上させ、従業員の帰属意識を高められます。
「できるだけ長く働いて自社に貢献してほしい」「従業員を大切にしていることを深く理解してほしい」という事業主の思いを伝えるために、意識すべきことを解説します。
定期的な面談で制度を導入した思いを伝える
経済的支援を行うだけでなく、定期的な面談を行い、事業主として「なぜ奨学金返還支援(代理返還)制度を導入したのか」という思いを伝えるとよいでしょう。
例えば、「返済負担が軽くなった分、自己投資に振り向けてほしい」という成長期待を伝えれば、自発的な能力開発を促進できます。
このように、丁寧なコミュニケーションを取ることで「返済を肩代わりしてもらっている」という事実に加えて、「会社からの期待に応えたい」という感情を喚起できるかもしれません。責任感とモチベーションを向上させることにより、従業員の成長を加速させるメリットも期待できます。
将来のキャリア形成について話し合う
奨学金返還支援には、人材採用や人材定着といった「人材への投資」という面があります。事業主の思いを若手社員に正しく伝えることで、金銭的価値を超えた心理的効果を期待できるでしょう。
将来のキャリア形成について話し合うことで、「経済的な支援を受けられるだけでなく、長期的に安心して働ける」「自分の成長につながる仕事ができる」というモチベーションを与えられます。
特に、社会人経験がほとんどない若手社員の中には、今後のキャリア形成について漠然としたイメージしか持てていないケースがあります。奨学金の返済という経済的な援助に加えて、日々の業務と将来のキャリア形成のイメージを持つことにより、長期的な就労につながるでしょう。
奨学金返還支援(代理返還)制度を導入する流れ
奨学金返還支援(代理返還)制度を導入するときの流れについて、順を追って解説します。
- 企業の規程において返還支援対象者を決定する
- 日本学生支援機構に返還支援を申請する(電話またはFAX)
- 日本学生支援機構より、返還支援制度を利用するためのID・パスワードを発行してもらう
- 従業員が日本学生支援機構に「奨学金返還証明書」の発行を申請する
- 日本学生支援機構が、返還支援の従業員に対して「奨学金返還証明書」を発行する
- 「奨学金返還証明書」で返還残額を確認し、支援額を決定する
規程の内容は、企業ごとに決定して問題ありません。制度の対象従業員(雇用形態や勤続年数など)、支援金額や支援期間などを詳細に定めましょう。
なお、返済の方法は「口座振替」または「払込取扱票」より選択できます。
口座振替 |
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払込取扱票 |
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なお、返還支援対象者は「スカラネット・パーソナル」で、企業からの入金を確認できます。返済状況を確認してもらうことで、支援を受けられている実感を得られるでしょう。
よくある質問
最後に、奨学金返還支援(代理返還)制度の導入にあたって、よくある質問を紹介します。
実際に雇用している企業等ではなく、提携している企業や親会社が返還支援することはできる?
原則として返還支援する企業が直接雇用している従業員を対象としているものの、直接雇用でない従業員を対象にしても問題ありません。
アルバイトの従業員を対象にできる?
雇用形態に関する特段の定めはなく、正社員以外にもアルバイトの従業員を支援の対象とすることも可能です。
従業員が休職・退職等した場合に支援を中断・再開することはできる?
従業員の休職や退職などに伴って、支援を中断(再開)することは可能です。払込方法ごとに、対応は以下のように異なります。
- 口座振替による支援の場合:スカラKI(企業が社員の奨学金返還を支援するシステム)の「口座振替登録・訂正」より支援期間等を修正する
- 払込取扱票による支援の場合:払込取扱票の発行依頼を中断(再開)する
企業からの入金がない場合は自動的に従業員の口座からの振替が再開されるため、企業側が特段の届出や申請などをする必要はありません。
返還残額を一括で支援することはできる?
返還残額の一括支援は可能です。
ただし、支援予定月の前月の振替日等に従業員の口座から引き落とされた額が、一括返還支援額に含まれている場合があります。過剰金が生じた場合は、原則として従業員に返金される点に注意しましょう。
返還支援を希望する場合、どこに連絡すればよい?
日本学生支援機構の奨学事業総務課(03-6743-6029)に連絡し、導入手続きについて確認しましょう。
制度の導入を申し込んだ場合、後日「利用企業等専用ページ(会員ページ)のID・パスワード」「企業等補助番号(補助コード)」「認識番号(ID・パスワード)」が届きます。
まとめ:若手人材の確保を目指す場合は奨学金返還支援制度(代理返還)を導入しよう
奨学金返還支援(代理返還)制度は、企業が従業員の奨学金返済を直接肩代わりして、従業員の長期勤続を促す仕組みです。従業員にとっても企業にとってもメリットがある仕組みとして、今後ますます注目されるでしょう。
さらに、企業にとっては若手人材の採用や職場定着だけでなく、税制面でも優遇を受けられます。興味がある方は、日本学生支援機構に問い合わせをしてみてください。
経済的支援だけでなく、定期的な面談を通じて制度導入の思いを伝えたり、将来のキャリア形成について話し合ったりすることも大切です。従業員に対して事業主が思いを伝えることで、責任感やモチベーションが向上するでしょう。
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(編集:創業手帳編集部)