社会保険労務士 榊 裕葵|まだエクセルで管理していませんか。クラウド勤怠管理ツールの選択基準を教えます!【榊氏連載その1】

創業手帳

社会保険労務士の榊 裕葵氏が徹底解説!スタートアップ/リモートワークのための人事労務×テクノロジー超活用術

近年、人事労務に関連したテクノロジーは目まぐるしく発展を遂げています。特に、コロナの影響でリモートワークが進んだ結果、新たなテクノロジー(クラウドのシステム)が企業に導入されつつあります。

人事労務の業務も、こうしたテクノロジーの進化に伴い、今まで以上に効率化が進んでいます。特に、「勤怠管理」に関するテクノロジー導入は、多くの企業で活用されるようになってきました。しかし、業種や勤務形態により向いているツールとそうでないものなどもあり、どのようなツールを導入したらよいのか、判断に迷う場合もあるでしょう。

そこで、“HRテクノロジー(クラウドのシステム)”に詳しい社会保険労務士の榊 裕葵氏に、勤怠管理に関するテクノロジーとは、どのようなもので、人事担当者の負担をどのように軽減するのか、また、数あるシステムの中から選ぶ時の基準、導入にあたり気をつけたいことについてお話を聞きました。勤怠管理のクラウドシステムを選ぶ時は、自社の特性に合わせつつサポートが整っているところがよい、ルールや規則をシステムに合わせて変形させるなど、クラウドシステムを最大限に活用するための知識をうかがいました。

なお、今後6回のシリーズに分けて勤怠管理以外の人事労務業務についても、どんなクラウドシステムがよいか活用のポイントをうかがっていきます。

榊 裕葵(さかき ゆうき)
ポライト社会保険労務士法人 代表
東京都立大学法学部卒業。2011年、社会保険労務士登録。上場企業経営企画室出身の社会保険労務士として、労働トラブルの発生を予防できる労務管理体制の構築や、従業員のモチベーションアップの支援に力を入れている。また、ベンチャー企業に対しては、忙しい経営者様が安心して本業に集中できるよう、提案型の顧問社労士としてバックオフィスの包括的なサポートを行っている。創業手帳ほか大手ウェブメディアに人気コラムの寄稿多数。「日本一わかりやすい HRテクノロジー活用の教科書」(日本法令)を2019年上梓。

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勤怠管理のクラウドシステムにより効率化がさらに向上

勤怠管理のクラウドシステムとは、いわゆる始業・終業の「打刻」を自動集計するためのシステムです。これまでもソフトウエアを担当者のパソコンにインストールし、運用するシステムはありました。それらは各従業員がタイムカードへ打刻したものを、「人力」でエクセル表やデスクトップのソフトウエアツールの専用画面などへ入力・集計していたかと思います。

この打刻→転記→集計という一連の作業が、クラウドの勤怠管理システムでは、自動的に記録・集計されることになります。従業員が入力や打刻した情報がクラウド上に保存されるので「転記」の必要はありません。人事担当者は、集計結果をチェックして給与計算システムへの連携をするだけとなり、打ち込みの作業はほとんど発生しません。集計時の記入漏れや業務負担が軽減され、効率化が図れます。

クラウドでの打刻方法の具体例は以下の通りです。

  • 従業員が交通系ICカードを専用のリーダーにかざす
  • 従業員のスマートフォンやアプリ上で出勤・退勤のボタンを押す
  • 執務室のドアの開閉に連動 など

どの打刻方法がよいかは、自社の業態や従業員の使いやすさなどを考慮して選択するとよいでしょう。

クラウドの勤怠管理システムの選択基準

クラウドの勤怠管理のシステムは、たくさんの種類があるので選ぶのに迷ってしまうという声をよく耳にします。たしかに、勤怠管理は、主に「出退勤の管理」なので、基本的なサービスや機能は似ています。選ぶ時の基準がないと決めるのに時間がかかるかもしれません。自社にとってフィットする選定基準を明確にするのがよいでしょう。

以下に、システムごとの特徴や操作方法など選定基準の例をご紹介します。

サポート体制が充実しているかどうか

初めてこうしたテクノロジーを導入するときは、設定やイレギュラー事項の発生などで戸惑うことが多々あるかと思います。こうしたときこそ、「電話」による対応があるかどうかが重要になるでしょう。また、システム上の不明点をメールやチャットなどの文章で伝えるのは、慣れるまでは難しいという方もいるかもしれません。口頭で相談をできる窓口があるのは心強いでしょう。

電話対応以外にも、各社サポート体制を充実させています。わかりやすいインターフェースを作っていたり、ヘルプページを充実させたりと工夫をすることで、ユーザーの問題を解決しようとしています。システムは導入後の運用が大切ですので、サポート体制の比較をするとよいかもしれません。

電話対応のあるサービス例:KING OF TIME、ジョブカン

業界シェア率の高いところかどうか

クラウド勤怠管理のシェア率の高い企業だと、「フレックスタイム制」「変形労働時間制」などの勤務体系に合わせたシステムを導入できるほか、打刻方法も複数選ぶことができます。開発の歴史があるので、これまでの積み重ねから、多様な会社で導入できるようになっている場合があります。これまでの導入実績やシェア率を比べてみるのはいかがでしょうか。

シェア率が高いサービス例:KING OF TIME、ネオレックス社

導入コストを抑えられるか

サービスによっては、無料で始められるものもあります。コストを優先したい場合は、こうした無料のサービスを活用することもできますが、実際、無料サービスを提供しているところはあまり多くありません。また、基本的な機能に限定して無料なところもありますが、有給休暇の付与などの応用機能は有料オプションである場合がほとんどです。

なお、無料であっても、サービス機能には全く問題はありません。使用する打刻画面に広告が表示され、その広告収入でサービスが運営されていたり、有料サービスへのアップグレードを前提として戦略的に無料化されていたりするからです。

起業したてだったり、社内経費の見直しだったり、コスト面が気になるものの、勤怠管理の労力を削減したいという人にはちょうど良いかもしれません。

基本機能が無料なサービス例:IEYASU、スマレジ・タイムカード(30名まで)

業種の特徴に応じたものかどうか

多くの勤怠管理システムは、従業員の端末にアプリなどをインストールし、ICカードとシステムが連動しているものがほとんどです。これは、各従業員が会社から支給されたカードや端末を持っていることが前提となります。ただ、業種によっては既存の設備にシステムを追加することもできます。例えば、飲食業であれば店舗内での出退勤管理となるので、レジに顔認証による出退勤管理を付帯できるシステムがあります。この顔認証は「笑顔」に反応するので、飲食業など接客を伴う業種では活用することができるでしょう。

特徴に応じたサービス例:スマレジ・タイムカード

勤怠管理システムを導入する際の注意点

勤怠管理のクラウドシステムの導入は、人事業務の効率化を進めるほか、正確な情報を管理することができるようになります。一方、従業員による打刻が重要になるため、制度やルールの整備、会計システムとの連携には注意が必要です。

出退勤の時刻の管理ルールを決めよう

出退勤のタイミング(始業・終業)について明確なルールを設定する必要があります。システムを導入しても「分単位」での記録となります。こうした出勤・退勤のずれを残業代とするかどうか、判断に迷うという声をよくうかがいます。

例えば、定時が9時から17時の会社の従業員が、8時50分に来て17時5分のシステム上の打刻をした場合、記録上では合計15分の労働(タイムラグ)が発生しているように見えます。しかし、「打刻」=「始業・終業」のタイミングではありませんので、業務自体が定時に開始・終了したのであれば、時間外労働とする必要はありません。

遅刻をしないように早めに出社をしたり、打刻機から業務場所が離れているためタイムラグが生じたりすることは社会通念上もありうることです。ただし、このタイムラグが自社の状況に照らし合わせて説明がつかないほど大きい場合(特に退社時)は、当人への聞き取りを行い、万一残業であることが発覚した場合は、打刻修正をする必要があるでしょう。

この出社・退社のタイミングがかならずしも「始業・終業」と同期するとは限らないので、時間で決めるのか、始業・終業時の打刻を徹底するのか、各社の実情に合わせ、明確なルールを定めるとよいでしょう。なお、厚生労働省のガイドラインでも、客観的記録に基づいて勤怠管理をすることが推奨されています。さらに、働き方改革法により、労働時間状況の把握は法的義務に引き上げられましたので、適切に時間を把握するように気をつけたいですね。

既存の規則・ルールを見直そう

新しい仕組みを導入するときは、ルールや規則との整合が必要になります。クラウドの勤怠管理システムを導入する場合も同様です。ただ、ルールや規則にピッタリと合致するシステムを見つけるのは至難の業なので、必要に応じ、システムに合わせてルールを変えるほうがよいでしょう。先ほどの始業・終業の考え方のように、柔軟に対応できるとよいですね。

これまで、ルールや規則は細部にこだわり整備するも、運用されないという課題が多く見られました。クラウドの勤怠管理システムも今後進化をするでしょうし、その都度ルールを見直せるような柔軟性がこれからは重要です。

給与計算ソフトと連携を確認しよう

そもそも、勤怠管理は、適切な給与計算を行うための1次情報を集計するためでもあります。クラウドの勤怠管理であっても、給与計算システムとの連携ができなければ意味がありません。一般的には、CSV(※1)やAPI連携(※2)経由で自動的にデータを受け渡すことができます。エクセルなどでまとめたデータを手入力で給与計算システムに入力する必要はありません。

ただし、給与計算のシステムにデータを移行する際に「正確性」は確認しなければなりません。特に、打刻漏れなどにより労働時間が記録されていなかったり、打刻ミスにより想定以上の時間外労働が発生したり、ミスや漏れのリスクには気を付けたいですね。機械的に集計されたデータそのままを自動的に連携するのではなく、修正が必ず必要になるとの視点でしっかりチェックすることが大切です。

※1:Comma Separated Valuesの略。カンマで区切られたデータファイルで、異なるソフトウエア間でデータファイルを読み込むことでデータ連携する仕組みのこと。
※2:Application Programming Interfaceの略。異なるシステム間でデータをクリックだけで連携する仕組みのこと。

現役社労士からのメッセージ

勤怠管理のクラウドシステムの導入(初期設定)は、主に人事部門での対応となりますが、運用となると、全社的な協力が必要となります。打刻をきちんと行ってもらうなど、従業員を巻き込みながら進めなくてはなりません。頭ごなしに「ルール」だからといって守らせるのではなく、従業員にとってプラスの効果をもたらすことを説明するとよいでしょう。

また、クラウドシステムを導入すると、自動集計を元に個人別の勤務時間管理ができるので、有給休暇の取得もれなどのリスクを防ぐことができます。労務管理の業務の質があがり、従業員へもよい影響をもたらすことになるでしょう。コストパフォーマンスや業態にもよりますが、クラウドシステムの労務管理は、今後主流となっていくでしょう。

まとめ

勤怠管理のシステムをうまく活用することで、大幅に人事労務の業務を効率化するだけでなく、労務管理の質をあげることにもつながることがわかりました。一方で、全社的な取り組みとして従業員を巻き込むことが重要です。

次回は、打刻漏れなどの対策や初期設定のハードルを超える方法など、スムーズな導入・運用に向けたヒントを説明したいと思います。

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(取材協力: ポライト社会保険労務士法人代表 榊 裕葵
(編集: 創業手帳編集部)

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